イオンリテール:年間のべ数億人のお客さまが生み出す膨大な購買データを BigQuery によって高速に分析・活用
Google Cloud Japan Team
大手総合スーパー「イオン」を運営するイオンリテール株式会社(以下、イオンリテール)は、近年、さらなる成長を実現するため、より一層、データを活用した経営にシフト。総店舗数 396 店舗、年間のべ数億人というレジ通過客数から取得される膨大な購買データ、顧客データを分析、活用するためのアプリ、データ分析プラットフォームを Google Cloud 上に構築しています。その成果と今後について、この取り組みをリードした 2 人のキーパーソンに話を伺いました。
利用しているサービス:
Google App Engine で 730 万ユーザーが利用するアプリを安定運用
「我々の強みは、衣料品、食料品、住居、余暇、それに医薬品、化粧品も含めた生活必需品の全てを 1 万平米を越える規模の大型店舗でワンストップで揃えられること。加えて商圏や立地に適したサイズの店舗が 396 店舗、年間のべ数億人という圧倒的に多くのお客さまにご利用いただいているところにあると考えています。しかし、一方で昨今の多様化するお客さまの購買動向などの変化に対応しきれておらず、せっかくの強みを生かし切れていないという課題もありました。」
そう語るのはイオンリテール取締役 常務執行役員 デジタル・営業推進担当の西垣 幸則 氏。同社では、お客さまとの接点である、『イオンお買物アプリ』の進化と会員拡大により、来店客数の増加を図り、同時にイオンリテールの e コマースの成長につなげる取り組みを推進してきたと言います。そんな中、まず手がけたのが同社が保有する膨大な購買データ、行動データの収集・分析のための環境作りでした。
「具体的には 2017 年夏に顧客接点となるスマートフォン向けアプリ『イオンお買物アプリ』をリリースしました。ただし当時はまだ Google Cloud を利用しておらず、予算の都合などからアプリケーション サービスプロバイダ(以下、ASP)を使う形でアプリを開発。データ分析基盤もそこと連携しやすい別の大手プラットフォームを採用しました。ところが運用開始からわずか数か月で 、20 万人、30 万人と急激に増加していく会員数を ASP がさばききれなくなってしまったんです。」(営業企画本部 デジタル企画部長 松本 裕 氏)
そこでイオンリテールでは急遽、アプリ運用基盤を将来的な拡張がしやすいクラウド プラットフォームに移転することを決定。その頃には ASP だけでなく、データ分析基盤の方も限界が見え始めていたため、BigQuery の導入も視野に Google Cloud の導入を決定しました。
「まず、2018 年春にアプリ実行環境を Compute Engine 上に移行し、その後、データ分析基盤を BigQuery にリプレイスしました。さらに 2019 年にはより安定した動作を実現すべく、アプリ実行環境を Compute Engine から App Engine に再移転しています。App Engine への移転は正解で、夕方の混雑時間などにトラフィックが急増してもこれまで以上にスムーズにオートスケールしてくれるようになったほか、利用者数が激減する深夜には逆にスケールインして費用を抑えることができるようになりました。アプリ登録者数が 700 万人を越えた現在もこの構成でアプリとデータ分析基盤を運用しています。」(松本氏)
BigQuery の導入によって、本来やるべき意志決定に集中できるように
イオンリテールが『イオンお買物アプリ』を開始したのは、アプリを使ってユーザーデータと POS の購買データを紐付け、それを分析する環境を構築するためでしたが、2017 年当初のデータ分析基盤では、1 つの分析に 30~40 秒もかかってしまい、複数の施策の分析に時間がかかり過ぎていました。そしてそのことが迅速な施策の振り返りや新たな施策実行の意志決定を妨げていたそうです。
「それが BigQuery に移行した後はわずか 5 秒程度で終わるようになりました。これによってやっと当初やりたかったこと、正確な分析に基づく施策の振り返りや次の実施立案が行えるようになったと考えています。トライ&エラーがしやすくなったことで、さまざまな角度でいろいろな分析をクイックに行えるようになりました。さらにデータ分析基盤では毎晩、日次データ集計を行い、条件を満たしたお客さまへキャンペーン施策の集計、スタンプ特典を発行するなどの複数のワークフローを回しているのですが、かつての環境ではこれが大変な負担になっており、日々、ユーザー数が増えていく中、いずれは朝までに終わらなくなることが明白でした。ところが BigQuery なら、複数のワークフローをパラレルで回してもわずか 20〜30 分程度で処理が完了。現在は集計の対象ユーザー数が 400 万人以上、レコードも 2,000 万にまで増加しており、さらに当時の数倍となる 20〜30 のワークフローを毎晩回しているのですが、全てを合わせても 1 時間半くらいで終わっています。しかも費用的にはむしろ当時より抑えられているのだから驚きです。」(松本氏)
BigQuery の導入によって、課題となっていた安定性や拡張性、コストの問題が解決したと語る松本氏。現在はそこから新たな価値を生み出すべく、さらなる挑戦に取り組んでいます。
今後はオフラインとオンラインの融合を進めていきたい
「今後の取り組みとしては、BigQuery にネットスーパーや EC サイトでの購買データも入れていき、これらを掛け合わせることで、実店舗のヘビーユーザーでネットスーパーは使ったことがないお客さまに利用を促すメールや通知を送るような使い方を考えています。BigQuery ではこうした複雑な条件での分析を本当に一瞬で行えるので、施策を考えてから実行するまでの時間が大幅に短縮できました。また、施策を行った後の振り返りも同様に一瞬です。例えば 10 万人のターゲット ユーザーにプッシュ通知をした結果、どれくらいの人がコンバージョンして、どれくらいの人が会員になったのかもすぐに分かるようになりました。」(松本氏)
なお、オフライン(実店舗)とオンライン(ネットスーパー、EC サイト)の融合については、2022 年度中を目標に Google アナリティクス 360 と連携させ、EC サイトの閲覧履歴を元に実店舗で使えるクーポンをアプリからプッシュしたり、ネットスーパーのサイトを閲覧しているが会員登録していない方に特典を提示して入会を促すといったアクションを行っていくとしています。
「さらにその先にはマシン ラーニングの活用も視野に入れています。これまでのクーポンは配信タイミングやクーポン画面に並ぶ順番を我々が決めていたのですが、個々のユーザーそれぞれに適した配信タイミングや表示順があるのは間違いなく、蓄積されたデータからある程度類推することができます。ただしそれを人間がやるのは現実的ではありませんから、マシン ラーニングを使ってやっていこうということです。なお、マシン ラーニングについては、アプリでの活用以外にも店舗内の顧客の行動予測や在庫の適正化、惣菜値引きのタイミングなどさまざまな用途に利用していけるのではないかと期待しています。」(松本氏)
「こうした施策を行う際、何よりも大切なのは、我々が何をやろうとしているのかを現場に周知することです。世の中が大きく動き、何か新しいことをやろうとするときに、現場が一体になっていないと結果的にお客さまの満足度が高まることはありません。現場の声を経営にどのように生かしていくかは私たちの大きなテーマの 1 つ。好調企業はどこも従業員の声を吸い上げて経営に生かしています。そしてその上で、Google Cloud の持つクラウドの技術やサービス、お客さまとの接点を、我々の持つ膨大なデータと連係させてさらなる顧客満足度に繋げていきたいと思っています。」(西垣氏)
イオングループの中核事業として GMS(総合スーパー)事業を担い、「イオン」「イオンスタイル」396 店舗を展開。従業員数は 77,754 人(2021 年 2 月末現在)。
インタビュイー(写真右から)
・イオンリテール取締役 常務執行役員 デジタル・営業推進担当 西垣 幸則 氏
・営業企画本部 デジタル企画部長 松本 裕 氏
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