Google Cloud を使用してパーソナライズしたショッピング体験によるお客様への奉仕に取り組む The Home Depot
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2022 年 6 月 15 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
The Home Depot, Inc., は世界最大の住宅リフォーム資材小売チェーンであり、年商は 1,510 億ドルを超えます。家屋修繕を手がける一般消費者や専門業者のお客様に、その作業に必要な製品、サービス、機器レンタルをいつでも提供できることでお客様に奉仕すること、これが当社の成功に向けた要点です。
当社は、米国、カナダ、メキシコに 2,300 を越える店舗を展開しています。また、オンライン ショップの HomeDepot.com も大きなオンライン プレゼンスを示し、収益の面で最大の e コマース プラットフォームのひとつになっています。このサイトは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック以来、トラフィックと収益の両面で著しい成長を遂げています。
当社には、実店舗とオンラインの両方で商品を購入されるお客様が多数おいでです。その点に鑑み、当社は、実市場とデジタル市場をシームレスにつなぐショッピング体験の提供を目的として、複数年戦略に取り組んできました。オンラインで購入するお客様の増加に最大限の価値を実現するために、当社はイベント マーケティングからパーソナライズド マーケティングに軸足を移しています。セールス ジャーニーを通じたカスタマー エクスペリエンスの向上には、このようなマーケティングがきわめて効果的であることがわかったからです。この動きによって、マーケティング コンテンツ、メールによるコミュニケーション、おすすめする製品、総合的なウェブサイト エクスペリエンスに対する当社のアプローチが変化しています。
課題: レガシー IT を使用して最新のマーケティング戦略を立ち上げる試み
パーソナライズド マーケティングで成果を上げるために、当社はトランザクションの現場でお客様を知る能力を増強する必要がありました。そこで、何よりもまず不適切な広告や不要な広告を中止することを考えました。すでに購入した商品の広告を受け取ると煩わしく思うことは誰でも経験しています。このような経験をすると、その商品のブランド自体に対する評価が低くなります。多くのオンライン小売店では、購入手続きを通じて入手した豊富な情報があることから、お客様のトランザクションをすべて特定できます。一方、当社の大半のトランザクションは実店舗を通じているので、そのようにお客様を把握することは困難な課題となります。
当社の旧来の IT システムは、オンプレミスのデータセンターで稼働していた Hadoop ベースのものですが、こちらにも、ハードウェアとソフトウェア スタックの維持に多大のリソースを必要とするという課題がありました。このシステムを構築した当時、パーソナライズド マーケティングは優先課題ではありませんでした。したがって、お客様のトランザクション データの処理に数日を要し、あらゆるシステム変更のロールアウトに数週間を要していました。さらに、大規模な Hadoop クラスタベースの管理と維持が、品質と信頼度の面で独自の問題を抱えていました。また、データ処理レイヤごとのオープンソース コミュニティの更新の速さに対応するうえでも同様の問題がありました。
混合型アプローチの採用
当社のレガシー システムでの課題に対応するなかで、今後のシステムのあり方について検討を開始しました。多くの企業と同様に、「自前構築と購入」の比較分析から着手しました。市場にあるいくつかの製品の検討を経て、既成製品にはそれぞれ強味があるものの、当社が必要とする機能をすべて実現できる製品は存在しないと判断するに至りました。
当社のプロジェクト チームの考えは、まったくの白紙からソリューションを構築することには意味がなく、その場合に当社が必要とするサードパーティのデータにアクセスすることもできないというものでした。熟慮の結果、お客様のトランザクション照合処理についてはパートナーの支援を受けながら、レガシー システムの全面的な刷新を組み合わせたソリューションを採用することにしました。
Google Cloud 上での基盤の構築
当社が選択したのは Google Cloud のデータ プラットフォームです。具体的には、BigQuery、Dataflow、DataProc、Cloud Storage、Cloud Composerです。Google Cloud プラットフォームは、データサイロを打破し、データの取り込みからストレージ、処理、分析、分析情報に至るデータ ライフサイクル各段階の統合に威力を発揮しました。Google Cloud は、オープンソース標準を使用して優れた統合を実現し、適切に機能する混合型ソリューションとするうえで必要なポータビリティと拡張性を提供しました。BigQuery の BQ Storage API が採用しているオープン標準を使用することで、高速な BQ ストレージ レイヤを DataProc などの他のコンピューティング プラットフォームで利用できます。
Dataflow と BigQuery を組み合わせて使用し、当社作成のデータとサードパーティのデータをエンタープライズ データと分析データレイクのアーキテクチャに統合しました。つづいて、それまでサイロ化していたデータをこのシステムで結び付け、BigQuery ML を使用して、実店舗とオンライン店舗双方でのショッピング体験全体をまとめた包括的なお客様プロファイルを作成しました。
Dataflow と BigQuery を利用したカスタマー ジャーニーの把握
お客様プロファイルの作成過程では、自社作成のデータとサードパーティのデータのソースを多数集約し、お客様の購入履歴と購入意図の両方に基づいてお客様の全方位ビューを作成します。この過程は、データの集約、重複除去、拡充を通じて単一のお客様履歴プロファイルを作成する作業から始まります。お客様の解決と NCOA(アドレスの変更)の更新で数社のベンダーによる支援を利用しました。これにより、プロファイルを世帯単位として、個人と世帯の両方に対してトランザクションを適切に照合できます。この出力をお客様のさまざまな示唆情報と照合して、お客様がそのジャーニーのどこにいて、当社がどのように支援できるかを把握します。
当初の実装では、Google のストリーミング分析ソリューションである Google Dataflow を使用して、Google Cloud Strage から BigQuery にデータを読み込み、必要な変換をすべて実行していました。Dataflow のプロセスは BQML(BigQuery の機械学習)に変換しました。そうすることでコストを大幅に削減でき、データジョブに対する可視性が向上するからです。フルマネージドのワークフロー オーケストレーション サービスである Google Cloud Composer を使用して、すべてのデータ オペレーションのオーケストレーションを容易にし、DataProc と Google Kubernetes Engine を使用して特例的なデータ統合を実現しました。これにより、新たな販促キャンペーンを短期間で始動してテストできるようになっています。以下のアーキテクチャの図は、当社ソリューションの全体的な構造を示しています。
クラウドネイティブ テクノロジーが提供する利点の活用
Google Cloud への当初の移行では、以前のプロセスの大半をその元の形式のまま移行しました。しかし、Google Cloud は向上が著しいクラウドネイティブな特長を提供しており、それを活用するうえでこのアプローチは不利であることがすぐにわかりました。そのような特長として、リソースの自動スケーリング、コンピューティング レイヤからストレージを切り離す際の柔軟性、ジョブに最適なツールを選択するための充実した各種オプションなどがあります。Java ベースの MapReduce で記述された Hadoop ベースのデータ パイプラインと当社独特のわかりにくいジョブを、Dataflow と BigQuery のジョブにリファクタリングしました。これにより、処理時間が劇的に短くなり、データ パイプラインのコードが簡潔で効率的なものになりました。
これまでは、レガシー システム由来の処理が想定以上の時間を要し、データも効率的に利用されていませんでした。クラウドネイティブになるようにコードを最適化し、Google Cloud サービスのすべての機能を活用することで、実行時間を短縮できました。データ処理に要する時間が 3 日から 24 時間と大幅に短くなり、このデータを保有するために使用していたコンピューティング量が大幅に減少したことでリソースの利用率が向上しました。このように、これまで以上に合理的なシステムとなっています。その結果、クラウドのコストが減少し、優れた分析情報が得られています。たとえば、DataFlow は、データ パイプラインをモニタリングする高度な機能を備えているので、アジャイルな対応が実現します。
クラウドの柔軟性とスピードを活用した成果の改善
現在は、継続的インテグレーション / 継続的デリバリー(CI / CD)のアプローチを使用して、複数のシステム変更を毎週デプロイできます。これにより、店内トランザクションを認識する機能のさらなる改善を進めています。BigQuery、DataFlow、Cloud Composer、Dataproc、Cloud Storage といったさまざまな Google Cloud システムの機能を結び付けて活用することで、トランザクションを認識する機能が大きく向上し、すべてのトランザクションの 75% 以上を既存の世帯に関連付けることができています。また、当社のクラウドネイティブなアプリケーションを柔軟な Google Cloud 環境に結び付けることで、突発的な問題や新たな機会に当社の担当部署が迅速に対応し、的確に処理できるようになりました。
業務の処理スピードが向上したことで、すべての販売チャネルにわたってお客様とトランザクションを照合する機能から優れた成果が得られ、お客様に優れたエクスペリエンスを提供しています。Google Cloud へ移行する前は、お客様とそのトランザクションとの照合に 48~72 時間を要していましたが、現在では 24 時間以内で完了しています。
マーケティングのパーソナル化と効率化の加速
お客様とトランザクションを迅速に照合できる機能は、コストと効果の両面で、ダウンストリームにおける当社のマーケティング活動に大きな効果を実現しています。お客様がどの商品を購入したかを知ることにより、すでに購入している商品の広告を取りやめることや、購入した商品をサポートする商品の広告を提示することなどができます。これにより、広告経費をはるかに効率的に運用でき、カスタマー エクスペリエンスも向上します。
また、BQML と Vertex AI を使用して開発された分析モデルを適用して、お客様をオーディエンスに分類できるようになっています。この処理により、お客様が現在進めているプロジェクトがキッチンのリフォームであるか地階の仕上げであるかなどを容易に特定できます。当社のさまざまなマーケティング チャネルを通じ、そのようなプロジェクトの所定の時点で最も重要な製品とサービスに関する情報をお客様に提供することで、お客様のジャーニーをパーソナライズできます。このように、お客様個々のニーズを反映して、お客様との関連性が深いカスタマイズしたショッピング ジャーニーを提供します。
お客様のプライバシーの保護
このようにお客様をよりよく理解する機能を持つことで、当社には、適切な監督措置でお客様データのプライバシーを確実に保つ責任も発生します。Google のクラウド ソリューションは、お客様のデータを保護するうえで効果的なセキュリティを提供すると同時に、カリフォルニア州消費者プライバシー法をはじめとする州と国の法規制に対応できる柔軟性も備えています。これにより、お客様のデータがどのように使用されているかについての懸念をお客様に与えることなく、お客様が望むパーソナライズしたエクスペリエンスを提供できます。
Google Cloud テクノロジーを配備した The Home Depot は、お客様の選択肢が多彩なこの業界で十分に競争できる立ち位置を確保しています。当社は、お客様のニーズを最優先とすることで、お客様がどのようなプロジェクトに着手しても、真っ先に選択される店であり続けることができます。
- Google Cloud、プリンシパル アーキテクト、Vivek Yadav
- The Home Depot、マーケティング テクノロジー、シニア ディレクター、Jason Rice