コンテンツに移動
AI & 機械学習

Google Cloud を活用して手術用器具のグローバルな追跡を変革する SAVI システム

2023年1月13日
https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/healthcare_2022_N9JWanV.max-2500x2500.jpg
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2023 年 1 月 6 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

Vertex AI(機械学習モデルの開発と本番環境へのデプロイを促進する Google Cloud プラットフォーム)を活用した SAVI(Semi Automated Vision Inspection)1 システムが、手術用器具の確認や分類の作業を大きく変え、手術のキャンセル件数の減少、手術の順番待ちの圧力緩和に貢献しています。

機械学習を専門とする分析とソフトウェアの会社である Max Kelsen が、Google Cloud および Johnson & Johnson MedTech と緊密に連携し、数万に及ぶ器具やその特性、外科医が使うそれぞれのセットやトレーとの対応付けを管理できるシステムを開発しました。その SAVI システムは、医療業界全体で現在使われている手作業のプロセスよりも大幅に迅速かつ正確であり、実稼働時のエラー率は 1 万分の 1 です。SAVI を導入すると、手術用器具セットのサプライ チェーンを包括的に把握、追跡し、詳細な分析結果や知見を得ることもできます。

時間のかかる手作業のプロセスを自動化

外科医は、複雑で繊細な処置を施すために数多くの特殊な器具や機器を必要とします。こうした器具の費用は一般に 1 トレーあたり 35 万ドル以上になり、すべての手術施設に全種類のセットを揃えることは現実的ではありません。そのため通常は、たとえば膝に人工関節を埋め込む手術ならば、それに合ったセットがメーカーから病院に貸し出されます。手術が完了したら、病院は器具トレーをメーカーに返却します。メーカーはそれを保管し、必要に応じて他の病院に貸し出します。

メーカーは、病院からトレーが返却されるたびに、器具がすべて揃っており、正しく配置および洗浄され、次の手術の目的に適合していることをチェックする必要があります。各セットには 400 を超える器具が含まれる場合もあり、このチェックを手作業で行うのは複雑で時間がかかります。各トレーは病院側で手術前と手術後にチェックされ、さらにメーカー側の施設の到着時と発送時に再びチェックされますが、Max Kelsen は 5% の手術で器具の不足、破損、変形の影響を受ける可能性があることを特定しました。これは最終的に、特に民間病院にとって深刻な打撃となり、患者の安全や治療結果に直接的な影響を及ぼすことになります。たとえばオーストラリアでは手術の約 60% が民間病院で行われています。

Johnson & Johnson MedTech はアジア太平洋地域全体で 6 万枚の手術用トレーを保有し、それを月に約 10 万回貸し出しています。Johnson & Johnson MedTech は、このサプライ チェーンの効率を高め、アセットの動きを把握しやすくするソリューションの設計と開発について Max Kelsen に相談しました。Max Kelsen は医療分野での機械学習の大規模活用を専門とする Google Cloud パートナーであり、Johnson & Johnson MedTech が求めるような、品質とパフォーマンスを重視した、グローバルにスケーラブルなソリューションを実現するための経験と実績がありました。

最初のステップはプロジェクトのベースラインを確立することでした。メーカー側で各トレーを処理するのにかかる時間を確認し、効率性の目標値を設定しました。その後 6 か月かけて、手間と時間のかかる当初の方法よりも効率よくグローバルに器具やトレーを処理できる、安定性と正確性に優れたソリューションを実現する方法を検討、評価しました。その際には、整形外科、脊椎外傷、顎顔面の各グループを含め、異なる種類の手術に必要なセット、トレー、器具の多様性と複雑性を考慮に入れた代表サンプルを使い、技術的な実現性を徹底的に調査しました。 

Google Cloud との連携によるプロジェクトの促進とリスク低減

この問題は業界全体でよく見られます。数年にわたり広く研究され、数々の技術で解決が試みられてきましたが、適切かつ現実的なソリューションに求められるスケーラビリティとパフォーマンスの成果は得られていませんでした。Google Cloud は Max Kelsen と連携し、両社共通のお客様のために、この大規模な戦略的プロジェクトの促進とリスク低減を支えました。

4 か月かけて技術的実現性が検証された後、100 を超える病院にサービスを提供するクイーンズランドの配送センターで 1 年かけて SAVI の試験運用が実施されました。ソリューションのスケーラビリティと正確性が必要な水準に達していることを実証する十分な実働データと経験を得た後、システムのアジア太平洋地域への展開が始動しました。SAVI は現在、オーストラリア、ニュージーランド、日本における Johnson & Johnson MedTech の支社で運用され、日本自動認識システム協会(JAISA)の優秀賞を受賞するなど高い評価を受けています。

Google Cloud の機械学習は SAVI になくてはならないものです。Max Kelsen の技術チームが、Johnson & Johnson MedTech のニーズを満たすために必要なブレークスルーを広範囲の本番環境で実現するうえで、Google Cloud のテクノロジーが大きな差別化要因となりました。

チェックと記録にかかる時間の短縮

SAVI を Google Cloud で運用することで、Johnson & Johnson MedTech が手術用器具セットをチェックし、検査記録を作成する時間は 40% 以上短縮されました。アプリケーションは一定の測定可能な品質も維持しています。手作業のプロセスでは通常は広範囲での測定が難しいものです。パンデミック中、Johnson & Johnson MedTech は同じ数量を少ない人数で処理し、順番待ち状態の手術に迅速に対応できました。

また、SAVI によって実現した自動化により、技術者が品質管理プロセスを習得するのにかかる時間も、8~12 か月からわずか 3 か月まで短縮できました。その結果、生産性とパフォーマンスが向上し、従業員のスキルが強化されました。

それでは、SAVI は実際の環境でどのように機能するのでしょうか。SAVI はタブレットを使ってデプロイされ、医療機器のトレーを撮影する API がウェブベースのアプリケーションに組み込まれています(下記を参照)。Max Kelsen が写真を取り込み、Google Cloud でホストされている API エンドポイントを介して、さまざまなサービスに送信します。

  1. 画像情報は Cloud Storage に保存

  2. トレーに関するデータは Cloud SQL for PostgreSQL に保存

  3. API とウェブ UI コンポーネントは CloudRun で実行

  4. 分析データは BigQuery 内に保存

トレーと機器のオンボーディング段階が完了したら、次のステップとして画像やデータから推論を行います。GKE 上の Kubeflow モデル サービングを使用してオンライン モデルをホストすることで、モデルがトレー内のすべての器具を低レイテンシで特定できるようにします。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/1_SAVI_10523.max-1900x1900.jpg

データの探索とモデリングには Vertex AI Workbench のノートブックが使用されます。GKE でホストされている Kubeflow のトレーニング パイプラインが実行され、特定の手術用器具セットの機械学習モデルが作成されます。その後、数百個の機械学習モデルが、GKE 上の Kubeflow モデル サービングを使用してホストされ、状態と分析結果が Firebase を使用して管理されます。機械学習を使用して、機器の入れ間違いや汚れがないか、それ以外の理由で目的に合っていない機器がないかなどが画像から推論され、データがタブレットに返されるので、ユーザーは内容に応じて適切に対処できます。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/2_SAVI_10523.max-1300x1300.jpg

これまでの成果を踏まえ、SAVI は現在、Google Cloud Marketplace で公開されています。これを導入することで、他の医療機関も、機械学習を活用した効率の向上を幅広いユースケースに取り入れ、最終的に患者の安全や治療を改善できます。


1. Vertex AI Vision の外観検査モデル(組み立て)の使用と混同しないようご注意ください。

- Max Kelsen エンジニアリングおよびアーキテクチャ担当 VP Michael Blake 氏
- FAIDH グローバル ヘルスケアおよびライフサイエンス担当責任者 Cameron Bean 氏
投稿先