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顧客事例

Gaudiy: AI を活用したガンプラのデジラマ画像生成サービスで、IP とファンをつなぐ新たなコミュニティを開拓

2025年9月18日
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Google Cloud Japan Team

いま日本のマンガやアニメ、キャラクター商品などの IP(知的財産)が、世界から熱い注目を浴びています。株式会社Gaudiy では、そうした IP の権利を持つパブリッシャー企業とコラボレーションを展開し、新しいファンコミュニティの創出に取り組んでいます。そのひとつがガンプラ公式ファンコミュニティ、「ビルダーズノート」です。なかでも AI でデジラマ画像を生成する「ガンプラデジラマメーカー」は、高い人気と注目を集めています。その開発の舞台裏を、同社の AI と画像生成のスペシャリスト 3 名に伺いました。

利用しているサービス:
Google Kubernetes Engine (GKE), Vertex AI, Gemini など

利用しているソリューション:
生成 AI

日本の新たな輸出産業になりつつある、IP ビジネスを支援するために

株式会社Gaudiy は「ファン国家」の実現というビジョンを掲げ、「Gaudiy Fanlink」というプラットフォームを開発。それをベースに、バンダイナムコグループや集英社をはじめとする IP 企業に対して、コミュニティを提供してきました。そもそも同社は、どうしてファンコミュニティ作りに熱心に取り組んでいるのでしょうか。画像生成チーム PdM の橘 政宏氏は、こう説明します。

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「いま日本の IP は世界的にも有名で、自動車の次の輸出産業になるとも言われています。しかし、新たな IP を創造してヒットさせるのはかなり難しく、リスクの高いビジネスです。また、仮に当たったとしても、絶えずコンテンツを供給し続けないとファンが離れてしまいます。そこで重要になるのが、ファンコミュニティです。ファンが交流し、IP と接触し続けることで、パブリッシャー企業は息の長い、安定したビジネスを展開できます。その手助けをするのが、我々の存在意義だと考えています。」

株式会社BANDAI SPIRITS と協同で運営するガンプラコミュニティ「ビルダーズノート」も、そうした取り組みのひとつです。2023 年の立ち上げ以来、同コミュニティでは多くのファンが製作過程や完成品の写真を投稿し、交流を楽しんでいます。そこに 2025 年から加わった新機能が「ガンプラデジラマメーカー」。ガンプラの写真をアップロードし、宇宙や砂漠など好きなシーンを選ぶだけで、AI がデジラマ画像を生成してくれるという画期的なサービスです。

「ビルダーズノートはファンがお互いの作品を愛で合う、平和なコミュニティとして成長してきました。とはいえ、投稿してくれるユーザーは特別な塗装やデカール貼りなどを行う上級者が中心で、初心者は投稿を遠慮してしまう傾向がありました。コミュニティを盛り上げるには、裾野の広さも必要です。そこで初心者でも簡単にかっこいい画像を投稿できるサービスとして、『ガンプラデジラマメーカー』を作ろうということになったんです。」(橘氏)

「ガンプラデジラマメーカー」の開発を支えた Google Cloud、GKE、Vertex AI

「ガンプラデジラマメーカー」を実現するには、高性能で低コストの GPU と、優れた生成 AI が不可欠でした。そのために Gaudiy の開発チームが選んだのが、Google Cloud、Google Kubernetes Engine (GKE)、Vertex AI の組み合わせです。Gaudiy の AI Team Director / ML Engineer の北川 和貴氏は、Google Cloud の選択には明確な理由があったと語ります。

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「我々は Fanlink の開発時から Google Cloud を利用しています。コストとスケーラビリティの調整が自由にできることに加え、実験段階からプロダクションのリリースまでをシームレスに進められるのが、非常に便利だからです。実験でいくつかの方法を試した場合でも、選んだ方法をそのまま製品に実装できましたし、細かいチューニング、アジャストは Vertex AI Model Builder がすべて行ってくれます。エンジニアにとっての Google Cloud は、品揃えが充実したスーパーマーケットみたいなもので、最新のツールがすべて揃った最高の開発環境と言えます。」

GPU の選択にあたっては、実験段階で他社サービスも使用し、それぞれのパフォーマンスとコストを評価。その結果、リソース割り当ての信頼性が高く、自動スケーリングによって安定した運用が可能な Google Cloud が選ばれています。AI SRE / AI Engineer のサハ シュバム氏によれば、他社では 5 秒かかった画像生成が 2.5 秒でできるなど、圧倒的なスピードの差も決め手になりました。

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「Google Cloud では GPU の確保と起動が圧倒的に速く、ユーザーのリクエストを滞留させずに処理できます。GKE の自己修復機能や、GPU ノードを自動スケールする機能も利用し、きわめて堅牢でスケーラブルなシステムを構築できました。しかも監視系の作業を任せることができる一方で、ノードの選択、特定のワークロードに適した GPU の選択など、重要な部分は自分たちでコントロールすることもできます。それによって、パフォーマンスとコストのバランスを最適に調整することができました。ここまで深いレベルのオーケストレーションと相乗効果は、Google Cloud でしか得られないと思います。」

もうひとつ、Google Cloud の優位性として 3 氏が口を揃えるのが、アカウント チームの手厚いサポートです。

「何よりありがたいのは、今後 Google Cloud がリリースする製品やサービスのロードマップを、いち早く共有してもらえることです。イベントへの招待や、アメリカ本社のプロダクト マネージャーとミーティングをする機会、サービスへの早期アクセスなども提供してもらえるため、絶えず新しい技術にキャッチアップできます。私たち自身のインフラ戦略、R&D 計画を立てるうえでも、貴重な洞察を与えてもらっています。」(サハ氏)

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ファンとパブリッシャー双方を満足させる「ラスト ワンマイル」の精度

基盤の構築が順調に進む一方で、開発チームが最後まで苦労したのが、アップロードされた写真の検出と、生成した画像の調整作業でした。写真に写り込んだアクション ベース(プラモデルを支える台)を消したり、光源と影の方向を背景と合わせたりするなど、きめ細かなチューニングが重ねられました。ファンコミュニティの運営が成功するかどうかは、そうした細部へのこだわりにかかっていると、北川氏は考えています。

「ユーザーの中には、IP への愛が強いがゆえに二次創作や生成 AI を厳しい目で見る方もいます。だから『ガンプラデジラマメーカー』でも、オリジナルの世界観とズレたアウトプットが出ないように注意を払っています。最新の生成 AI を使えば、普通にやっても 8〜9 割の精度は出せると思います。でも、それ以上の品質を追求すると、技術的なハードルが一気に上がります。我々はその "ラスト ワンマイル" にこだわり、限りなく 100% まで精度を高めることにコミットしています。」

公式のコミュニティである以上、IP の保護も重要なポイントです。投稿されたアイテムの種類を的確に検出し、IP の価値を毀損するような画像が表示されないようにする仕組みにも、同社独自の工夫が凝らされています。橘氏は、そのような小さな努力の積み重ねが、信頼感の醸成につながったと振り返ります。

「AutoML Vision と Gemini を使用し、十分な学習データがない中でもそれぞれに異なる判定を任せることにより、IP の検出精度はオープン ベータ テスト開始からの 1 週間で、 50% から 90% まで改善することができました(※)。ただしガンプラには大量の種類があり、すべてのモデルを把握して、特徴を定義するのは容易ではありませんでした。そこで活躍してくれたのが、社内のガンダムファンのメンバーです。彼らと協力し、細かいバリエーションや派生機体まで含めたデータを収集し、検出システムを改良してきました。AI はすばらしいテクノロジーですが、すべてができるわけではありませんし、人間による手作業も重要です。その点、Gaudiy には本当にエンタメが好きで、IP を守りたい、育てたいという熱い思いを抱いている人間がたくさんいます。その熱量も、パブリッシャーの方々に安心感を持っていただける理由のひとつかもしれません。」

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ユーザーは自分のガンプラの写真をアップロードし、生成 AI が出力した背景と自由に組み合わせて公開できる

「ガンプラデジラマメーカー」は 2025 年 4 月に正式リリースされると、ファンから大きな支持を受けました。SNS には「これ無料でできるの?」「ガンプラビルダーにとって革新的だ」という好意的なコメントが数多く寄せられ、MAU(マンスリー アクティブ ユーザー)は 5 倍に増加。新規登録者も日々、増え続けています。大阪・関西万博に株式会社バンダイナムコホールディングスが出展しているパビリオンでも、実物大ガンダム像と来場者の記念撮影にデジラマ生成の技術が使われ、好評を博しています。評価と注目が高まるなか、北川氏は未来に向けたビジョンを力強く語ってくれました。

「今後はリアルなモノ・コトと絡めて新しい価値を創造していきたいと考えています。また、ファンの方に運営面に関わっていただき、ポイントやトークンを発生させるといったアイデアも出ています。これが成立すれば、ファンの方もうれしいでしょうし、パブリッシャーも喜び、我々も助かる。まさに Win-Win-Win の関係です。そういう "ファン国家" の実現こそが、Gaudiy の最終目標です。」

※ Gemini の画像認識能力の向上により、現在は Gemini のみで判定することが可能


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株式会社Gaudiy
2018 年設立。「ファンと共に、時代を進める。」をミッションに掲げるスタートアップ企業。ブロックチェーンや生成 AI など Web3 時代の先端技術を活用して、IP のファンが国境を越えて自分の「好き」や「夢中」でつながる経済圏「ファン国家」の実現を目指している。エンタメ企業向けファンコミュニティ プラットフォーム「Gaudiy Fanlink」の開発・提供や、”新しい経済のインフラをつくる”「Gaudiy Financial Labs」を展開。

インタビュイー (写真左から)
・画像生成チーム PdM 橘 政宏 氏
・AI Team Director / ML Engineer 北川 和貴 氏
・AI SRE / AI Engineer サハ シュバム 氏


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