Deployed AI: AI を活用して医療のスマート化を目指す Lumiata の取り組み
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2019 年 9 月 23 日に Cloud Blog に 投稿されたものの抄訳です。
編集者注: Lumiata の CTO である Miguel Alvarado 氏によると、同社は現在 Google Cloud AI を利用してインテリジェントな医療分析を行うことにより、医療業界におけるリスク認識とコスト管理の改善を図っているそうです。
Lumiata はよりスマートで経済的な医療を提供することを理念として設立されました。それを実現するうえで中心的な役割を果たしているのが AI です。当社が医療機関向けに提供している高度な機械学習アプリケーションは、医療費予測の管理や損失の防止、疾病予測などの多様な機能を備えながら、導入後に複雑な設定をすることなくすぐに使い始めることができます。
最近リリースした Lumiata AI Platform は、AI を活用して医療サービスの低価格化や品質向上を図りたいと考えている医療機関を対象としており、2 つの側面からその要件に対応しています。まず、データの合理化が促進されることで包括的な長期個人記録(LPR)の作成が可能になります。それにより、請求データ、適格性データ、臨床データ、調剤データ、EHR / EMR データ、非構造化データなどのさまざまな情報を基に、患者個人一人ひとりに合わせた分析が行えるようになります。また、各種のツールや Lumiata AI Studio でトレーニングされたモデルにアクセスできるようになります。医療分野のデータ サイエンティストは、これらを利用して医療費や医療事象の予測のようなユースケースに特化された機械学習モデルの構築とデプロイが可能になります。
お客様にとって使いやすく、わかりやすいソリューションを実現するには、強力なインフラストラクチャが必要になります。当社は慎重に検討を重ねた結果、医療機関の変革を支える有意義な AI 機能を提供するためのインフラストラクチャとして、Google Cloud を選びました。この選択の決め手になったのは、Google Cloud ならではのセキュリティ インフラストラクチャ、広範に及ぶ直感的な AI ツール、マルチクラウド環境をシンプルにする Anthos などのテクノロジーでした。
Google Cloud への移行とプラットフォームの構築を進める中で、ビジネスへの AI 導入で中心的役割を担う者に共通で役立ちそうな教訓を得ました。
教訓その 1: AI は「そのままで使える」ものではない
AI に関して多くの人々が最初に抱く誤解で、おそらく特によく誤解されるのは、AI が「そのままで使えて」問題を解決してくれる特効薬のようなものだということです。しかし現実は、AI を活用してデータから最大限の価値と分析情報を引き出すには、特定の目的を念頭に置いて構築された AI を使用する必要があります。そのためには、目下の問題と、その問題に伴ってクリアすべき特有の課題を深く理解しなくてはなりません。医療サービスの低価格化と品質向上を目標に掲げる当社では、医療機関が AI を活用して患者一人ひとりの理解を深め、パーソナライズされたエクスペリエンスを提供できるようにすることを最重要課題として取り組んでいます。この課題に対応してくれるのが Google の Deployed AI です。他に類を見ない実用的なアプローチで、AI は信じられないほど強力で時に劇的な変革の牽引役になるものの、決して魔法ではない、という当社の捉え方にも相通じるものがあります。
イテレーション、テスト、誤りからの学習というプロセスは、組織のあらゆるレベルのステークホルダーに忍耐を求めます。機械学習インフラストラクチャと本番環境用モデルの運用は一筋縄では行きません。
そこで、従来のソフトウェアに応用されている CI / CD の思想は機械学習モデルにも応用できます。「MLOps」とも呼ばれるこの手法は AI では魅力のない部分かもしれませんが、AI の導入を成功に導くうえでは欠かせない要素となります。当社は、きわめて手間のかかる MLOps をお客様に代わって行っています。Lumiata の MLOps フレームワークでは、モデルのモニタリング、検証、テストを自動化できるため、モデルのパフォーマンスが継続的に最適化されます。
教訓その 2: モデルが AI のすべてではない
世間では機械学習モデルそのものに多大な関心が寄せられ、機械学習を支え、適切に機能させるためのコンポーネントについては軽視されがちのように思われます。たとえば、モデルのトレーニングに使用するデータだけでなく、すべての要素を結び付けるインフラストラクチャも必要です。これら 2 つの領域においては、Google に匹敵する機械学習プロバイダーはありません。医療機関は膨大な量のデータを保有していますが、データ サイエンス チームやアナリティクス チームはその全貌を把握できておらず、一部のデータにしかアクセスできないのが現状です。そのため、有意義に AI を活用して、関連する問題を解決することが困難になっています。Google のサーバーレス データ ウェアハウスである BigQuery を利用すれば、難しい操作を行わなくても膨大な量のデータにアクセスできるため、ユーザーが抱えるこのような問題を解消できます。
機械学習モデルの構築、デプロイ、保守には、データだけでなく、強力なコンピューティング パワーも必要になります。機械学習に必要なインフラストラクチャのスケーリングを、テクノロジー責任者に認めさせることに苦労されているお客様も少なくありませんが、Google Kubernetes Engine に支えられた当社のプラットフォームを使えば、機械学習に必要なコンピューティング リソースの要件に簡単かつ柔軟に対応できます。
教訓その 3: AI はチーム競技である
最も洗練されたものであっても、機械学習モデルは所詮、大規模なシステムの一部にすぎません。現実世界に影響を与える AI 環境のシステムを構築するには、ソフトウェア エンジニアリングの能力や DevOps の文化が必要です。また、ツール デベロッパーは自動化、テスト、デプロイ、結果測定を迅速に行わなければなりません。
小規模な企業は 1 人でさまざまな仕事をこなすゼネラリストに頼ることが多いのに対して、大規模な企業は複数のスペシャリストを雇うことができます。いずれにしても、部門間の密接な連携が鍵となります。たとえば、機械学習のエキスパートをテストや自動化などの開発活動にも参加させることはきわめて重要です。また、人材の配分の問題もあります。エンジニアリングに携わる人材と AI のビジョンを打ち出す人材はどちらも不可欠ですが、一般に、エンジニアリングの方が多くの人数を必要とします。複数の変数に基づいて最適化され、判断根拠の透明性(「説明可能性」とも呼ばれます)も備えている高度なモデルを構築してこれまでの限界に挑もうとする人材がわずかでも、組織にとっては代えがたい存在でしょう。しかし、そのようなビジョンを確実かつ効率的な方法で実用化するには、はるかに多くのエンジニアが必要になります。
医療業界での AI の導入があまり進んでいないのは、人材不足が一因です。AI アーキテクチャを構築できる優秀な人材を採用して維持するのは難しい課題と言えるでしょう。当社は Lumiata AI Platform を通じて機械学習パイプラインのさまざまな側面を自動化し、AI を迅速にデプロイできるようにすることによって、お客様が抱えるこのような課題を軽減できるよう努めています。
最後に、AI の運用が本稼働に入ったら、AI 環境を継続的にテストできるように準備を整える必要があります。リアルタイム モニタリング機能を使用すれば、モデルが期待どおりに実行され、整合性が維持されているかどうかを確認できます。
まとめ
AI は複雑かもしれませんが、当社はビジネスの変革につながる AI の素晴らしい可能性を大いに信じています。これこそが Lumiata を設立した理由であり、お客様に代わってこれらの課題を解決することで、医療機関が医療サービスの低価格化と品質向上に結び付くイノベーションに専念できるようにすることを目指しています。
Google Cloud のおかげで、医療のスマート化を支援するという目標にかつてないほどの早さで近づきつつあるのです。
- By Miguel Alvarado, CTO, Lumiata