時代は Deployed AI へ : お客様事例にみる AI 活用とビジネス改革
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2019 年 8 月 9 日に Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
AI は世界中の産業を変革し続けており、ビジネスの意思決定に関わる人々は皆これに注目しています。ただし、問題が 1 つあります。80 % の企業が自社の将来に AI が不可欠だと認識しているにもかかわらず、実際に活用できているのは 14 % にすぎません(こちらを参照)。つまり、AI の可能性と実用化の間にギャップが存在しているのです。
Google Cloud AI においておそらく最も重要な私の仕事は、このギャップを埋めることです。AI は、数年にわたる飛躍的進歩を経たのち、洗練されたツールやベスト プラクティス、AI 構築に携わる人々が集うコミュニティの急成長によって安定期に入りました。そしてついに、私たちは AI とは何かという問いに答えを出しました。今こそ、AI があなたとあなたのビジネスのために何ができるのかを問うときです。これを私たちは「Deployed AI の時代」と呼んでいます。
Deployed AI (AI の実用化)の中心にあるのはビジネス変革に向けたビジョンです。ビジネス変革は明確な目標であり、それ故に組織全体を横断してチームをまとめ上げ、ステークホルダーを引き込むことができます。こうした横断的かつ多様な視点を持つことは、変化に伴うリスクや恩恵、コストに対する深い理解を得ることを意味します。AI をデプロイする際には、その成否が明確かつ客観的な成功指標を以て計測できることが必要です。この成功指標により、改良のサイクルが促進され、ユーザからの信頼性を積み上げながら、その結果を継続的に最適化することができるようになります。
それでは、世界的に有名なブランドを抱える企業が、 Deployed AI を活用した目標達成をどのように成し遂げているのかをみてみましょう。
ユニリーバ : グローバル規模でのパーソナル マーケティング
ユニリーバを例にとってみましょう。同社は Dove(パーソナル ケア製品)から Ben & Jerry's(アイスクリーム)まで 400 のブランドを擁する世界最大級の一般消費財企業です。そして、その特筆すべきリーチの広さにもかかわらず、社会的意識と信頼を支えとする会社でもあります。それゆえ、同社は Deployed AI 戦略を全社的に採用することに決めたとき、大胆とも言える問いに答えることにしました。その問いとは、一人ひとりの顧客と本物の一対一の関係を保てないかというものです。
...全 10 億人の顧客とです。
他の時代だったら、そんなことは不可能だったでしょう。しかし、Deployed AI の時代では、かつて二者択一だったものを両取りできます。グローバル リーチと個人との接触という古くからの課題もその例外ではありません。幅広い層の顧客から集めた意見を、翻訳、画像分析、自然言語処理などの Google Cloud AI ツールで処理することで、ユニリーバは今までにないほど迅速に知見を生み出し、顧客の関心事についてまったく新しい理解を得られるようになりました。
たとえば、南アジア全体で展開したキャンペーンでは、歯磨き粉のブランドである Closeup のユーザーが送ってきた写真の内容を、Cloud Vision API を使って解釈できるようにしました。ソーシャル メディアに掲載されたキャンペーンへのコメントについても Natural Language API で分析し、人々の感情を理解するために活用しています。また、こうして得られた知見をキャンペーンに絶えず反映させ、数百万もの人々が、キャンペーンに参加しているとの意識を持てるようにしました。
ユニリーバのビジョンが効果を生んだことは数字が物語っています。キャンペーンは複数の大陸にわたって 5 億人近くの人々に届き、その過程でブランドの認知度やブランドとの関わりは計測可能なレベルで上昇しました。しかも、ユニリーバが一人ひとりの顧客の気持ちに応えようとしていることをグローバルな規模で実証できました。
ユニリーバの事例は、Cloud AI の力を最大限に引き出せるテクノロジーに精通した企業のパワーを示しています。しかし、機械学習などのテクノロジーを使い始めたばかりの企業の場合はどうでしょうか。Deployed AI は専門的な能力の差を埋めることにつながるため、私たちはテクノロジー スタックに継続的に投資し、AI 戦略からリスクを取り除くことに努めています。実装の複雑さに悩まされることなく、お客様にとって最も重要な問題を、最先端のツールを使って解決することに集中していただきたいのです。
Meredith Corporation : 個別化キュレーションを短期間で可能に
Meredith Corporation は、PEOPLE、InStyle、Martha Stewart Living などのブランドを擁し、米国で 1 億 7,500 万人以上の読者を抱える業界最大手のメディア企業です。同社は AllRecipes という料理のレシピ サイトも運営しており、読者の好みに応じてコンテンツを分類およびターゲティングするレビュー プロセスを手作業で完成させていました。このシステムは非常に効果的でしたが、遅いうえにコストがかかり、実装に何年も要したため、40 以上ある他のブランドで同じようなシステムを構築することはほとんど不可能でした。
このような悩みを抱えていた Meredith の Deployed AI 戦略は明確でした。手作業のキュレーション システム構築で得た知見を利用して自動化ソリューションを構築することです。ただし、自力でシステムを構築できるだけの専門能力が社内にはなかったので、Google Cloud の AutoML Natural Language に着目しました。これを使えば、すでに持っているデータを基に、すぐに使用できるカスタム コンテンツ分類器を簡単に生成できます。その結果、単に早く作ることができただけでなく、画期的なシステムを構築できました。機械学習モデルは、最初の日から、元のコンテンツ レビュー チームの最良の仕事と同等か、ときにはそれ以上の仕事をやってのけたのです。
Cloud AutoML は、Meredith が手作業で何年もかけて構築したものを再現し、同社の他サイトにも同様の機能を数か月で追加できるようにしました。その結果、コンテンツは個々の読者に応じてカスタマイズされ、エクスペリエンスは一貫して向上しています。AI なしでは到底不可能な短い時間で数千万の読者にインパクトを与えられるのです。
信頼を築くことがあらゆる AI デプロイの基本に
最後に信頼に関する懸念があります。ユーザーの社会的な意識は今までになく高まっており、より公正でアクセス性が高く、セキュアなテクノロジーの開発が求められています。しかし、AI については、偏見の排除、プライバシー保護、透明性の確保といった点で特に多大な努力を必要とします。
これらは複雑な問題であり、技術的かつ社会的、さらには制度的な面からの解決策が必要です。解決までの道のりは長くなると思われますが、皆さんと共有しておきたいことが 1 つあります。それは、昨年私たちはこの分野での研究および製品開発の基本方針を発表し、解決のための第一歩を踏み出したということです。それ以来、私たちはこの問題の解決に向け、学んだことを Responsible AI Practices(責任ある AI の実践)という形でシェアする取り組みを進めてきました。
私たち Google Cloud は、テクノロジー以上のものを皆さんに提供することを心がけています。責任ある形で AI をデプロイするのに必要なツール、知見、プラクティスを含め、学んだすべてのことを皆さんとシェアしていきます。
まとめ
Deployed AI は、ビジネス変革のための力を提供します。これはすなわち、従来の方法では歯が立たなかったビジネス課題を特定し、これまでに実現できなかったような革新的な方法でその問題を解決する専用の AI を Cloud AI コンポーネントから作成し、会社全体の新しい基準になるような成果を築くということです。そして、明確で客観的な指標を採用するということは、進行中の改善サイクルにおいて、その成否が継続的に計測・最適化できることを意味します。このことは、継続的な価値改善、ユーザからの信頼構築、そしてビジネスインパクトにつながります。
Deployed AI は、機械学習のようなテクノロジーが成熟したときに初めて可能になることです。AI の飛躍的進歩から AI の適用へのシフトが、AI の歴史において最も刺激的な章になると私たちは考えています。Google Cloud は、業種や専門的な能力の有無にかかわらず、誰もが AI システムを作れる基盤を作ろうとしています。さあ、私たちと一緒に素晴らしいものを作りましょう。
- By Andrew Moore, Head of Google Cloud AI