The Prompt: 生成 AI がナレッジワークに与える影響

Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 6 月 25 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
このところ、ビジネス リーダーたちの間では、ジェネレーティブ AI が話題の中心となっています。急速に進化を続け、変革をもたらすこの分野の話題をフォローできるよう、「The Prompt」と題したシリーズを通じ、Google がお客様やパートナーと接するなかでの気づきや、Google の AI の最新動向を紹介していきます。今回は、Google Cloud の AI & ビジネス ソリューション担当グローバル VP の Philip Moyer が、生成 AI によってナレッジワークにどのような影響が生じ得るかについて説明します。
生成 AI に関する解説で繰り返し取り上げられるテーマは、このテクノロジーによる破壊的革新に対して、特にナレッジ ワーカーが深刻な脅威を感じている可能性が高いということです。
たとえば、最近のマッキンゼーのレポートによると、他の職種と比較して「生成 AI による影響は、高い賃金と教育要件が求められる職種のナレッジワークであるほど大きい」とされています。この評価は、多くの類似する議論のうちの一つにすぎず、オブザーバーらは、生成 AI がライター、エンジニア、コーポレート ストラテジスト、弁護士、さらには医師の仕事にどのような変化をもたらすのかを絶えず問いかけています。
もちろん、こうした解説は容易に誇張に傾いてしまいがちです。生成 AI は素晴らしいテクノロジーですが、生まれて間もないテクノロジーであるため、今は大げさに取り上げられがちです。前述のリンク先の解説をご覧いただいたり、ソーシャル メディアで AI のトレンドをフォローしたりしたことがある方ならば、「すべてを自動化する」ことに対するさまざまなニュアンスの不安を目にされたことがあるはずです。
しかし、AI を使用して仕事のさまざまな側面を自動化または強化することは、仕事全体を自動化することとは大きく異なります。
たとえば、以前このシリーズで、汎用 AI アシスタントを経験豊富なパラリーガルのように扱うという誤りを犯したニューヨーク州の弁護士を取り上げました。生成 AI のナレッジワーク分野での利用が増え続けることで、人間の専門知識やスキルの価値が消えることはありませんが、スキルや専門知識を適用する方法は確実に進化するでしょう。
人間のワークフローの強化を重視
私たちは、こうした進化がどのような効果をもたらすかについて、すでに初期の兆候を目にしています。ある調査では、コールセンターで AI アシスタントを使用している人間のエージェントを評価したところ、経験の浅い従業員が経験豊富な従業員よりも多くの恩恵を受けており、スキルの低い従業員と熟練した従業員との間の生産性の差が縮まっていました。この傾向が、たとえば、繰り返しの多いライティング作業やコーディング演習にも現れることは想像に難くありません。同じように、業界に合わせた生成モデルがより一般的になり、AI アシスタントがより洗練されるにつれて、専門的なトレーニングや認定資格がなくても各分野固有の作業を遂行できる人の数が増える可能性があります。
同時に、すべてを任せきりにしないことが重要です。生成 AI は、経験の浅いライターがアイデアのリストを理路整然とした記事に変換するうえで役立つとともに、熟練した人間によるプロンプトと修正があれば、これまでと変わらず個性的でスタイリッシュな記事が出来上がります。しかし、近い将来、AI アシスタントが熟練したライターに取って代わることはありません。AI アシスタントにより、多くのライターが以前よりも効率的かつ楽しく仕事をしているかもしれません。熟練した開発者や他のほとんどのナレッジワーク領域にも同じことが言えます。
生成 AI をソーシャル メディア コンテンツの生成に使うという潜在的な用途について考えてみましょう。AI アシスタントは、投稿できそうなコンテンツを大量に生成できます。その多くはおそらく「使用に耐えうる」基本的な基準を満たしているでしょう。非常に巧みで、洞察に満ちた投稿もあれば、そうでない投稿もあるでしょう。特に、専門家のプロンプトや修正がなければ、AI が生成したテキストのほとんどのアウトプットが、定型的で重複のあるものになる可能性があります。そのため、大規模であるほど熟練したライターが書く方が効果的である可能性があります。
目標は、ソーシャル メディアの制作を自動化することではなく、むしろ人間のブレインストーミングと反復を助け、さまざまな分析を統合して人間が理解しやすいものにし、研究のスピードを上げるなどして、従業員の生産性を向上させることです。私はこれまでも、人間参加型であることの重要性について何度か話してきました。そして、このよく使われるフレーズは、この問題をあまり的確に言い表せていません。このようなユースケースでは、人間を AI 対応のワークフローに「参加」させるのではなく、AI で人間のワークフローを強化することが重要になります。
ナレッジワークでは多くの場合、人間を AI 対応のワークフローに参加させるのではなく、AI で人間のワークフローを強化することが重要になります。
Google Cloud、AI & ビジネス ソリューション担当グローバル VP、, Philip Moyer
実践にもとづく考察
前述の考察は私だけのものではなく、多くのお客様にも共通しています。6 月初めに開催した、Vertex AI での生成 AI のサポートが一般提供となることを発表するイベントでは、ナレッジワークの将来に関するセッションなど、数十の企業や組織の幹部とパネル ディスカッションをいくつか行いました。
参加者の意見は、ジェネラリストのサポート的な役割がスペシャリスト的な役割に変わる可能性が高いということでほぼ一致しました。また、生成 AI は多くの一般的なニーズに対応できるとし、AI アシスタントと連携することでジェネラリストの従業員がより特殊なタスクを扱えるようになり、ナレッジワーク全体の専門性が少しずつ高まっていくことになると指摘しました。この点について、知識の獲得を加速させ、オンボーディングとトレーニングをスピードアップさせるだけでなく、その後の日常業務で従業員が必要な情報を見つけるうえでも生成 AI が役立つと指摘するパネリストもいました。イベントに参加されたお客様は、ビジネス文書のドラフトや、見込み客に合わせてパーソナライズされたメールなどの生成コンテンツ アプリケーションに高い興味を示していました。多くの参加者が関心を持ったのは、生成 AI を使用してナレッジワークそのものを自動化することよりも、ナレッジ ワーカー間の情報伝達を円滑化することでした。
この対話は、エンタープライズ検索と社内ナレッジ マネジメントが生成 AI の最も明確なユースケースに位置づけられることを裏付けるものでした。これらのユースケースはパワフルなものであり、実装に向けた明確な道筋を描くことができるとともに、生成 AI を顧客体験の中心に据える前に組織が生成 AI に慣れることもできます。そして、ナレッジ マネジメントに焦点を当てていることからわかるように、パネリストは、ナレッジワークを自動化することではなく、人材を強化することに重点を置いていることも明らかにしました。
あるソフトウェア会社の幹部は、生成 AI は仕事を奪うのではなく、日常的な労働を自動化し、現状の仕事を進化させ、新しい仕事を生み出すものだと述べています。これは共通した意見で、他の数名の出席者は、生成 AI のおかげで新しい仕事が生まれると予測しており、現在の従業員のスキルを向上させ、単調な反復作業の代わりに頭を使う仕事に集中できるようサポートしてくれる、このテクノロジーが秘める可能性を賞賛しました。
チームワークの勝利
お客様と培ってきた経験から、多くのナレッジワーク タスクにおいて、AI を活用する人間が AI 単独または人間単独よりも優れたパフォーマンスを発揮する可能性が高いことが再確認されています。生成 AI が仕事に影響を与えるからといって、AI アプリがその仕事を遂行できるわけではありません。依然として中心となるのは人間であり、AI とのコラボレーションにより、より生産的でやりがいのある仕事ができるようになるケースも多くあるはずです。人間を中心とする AI コラボレーションを Google のプロダクトにどのように組み込んでいるかについて、詳しくは先月開催された Google I/O での Google Workspace に関する以下の動画と、Duet AI for Google Cloud の発表時の動画をご覧ください。


- Google Cloud、AI &ビジネス ソリューション担当グローバル VP、Philip Moyer