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AI & 機械学習

サーキットにおける AI 活用:マクラーレン レーシングがテラバイト単位のデータで勝利への優位性を確立する

2024年6月10日
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Dan Rowinski

Senior Writer, Transform

Matt A.V. Chaban

Senior Editor, Transform

マクラーレン レーシングは、1000 分の 1 秒が勝負を分けるレーシングの世界で AI を活用することにより、ドライバー、レーシングカー、ピット、さらには無線機の会話まで追跡し、考えられるあらゆる面でライバルより優位に立っています。

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※この投稿は米国時間 2024 年 5 月 17 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

あらゆる面で最適化されたレーシングカー、卓越した戦略、そして、ほんの少しの大胆さ。

2024 年の F1 マイアミ グランプリではマクラーレンが若きスターである Lando Norris のセンセーショナルな走りで優勝しました。なぜ優勝できたのでしょう?

この勝利は単なる偶然の産物ではありません。マクラーレン レーシングは、素晴らしいチームでありながら、優れたエンジニアリングを誇り、数々のイノベーションに挑み、そして、膨大なデータを基盤とした長年にわたる分析結果を蓄積してきたのです。

「フォーミュラ 1(F1)ではデータがすべてです。F1 の順位はわずかな差で決まります」とマクラーレン レーシングのコマーシャル テクノロジー責任者 Edward Green 氏は話します。「数レース前のことですが、 1 秒の差でグリッドの順位が 10 も変わるレースもありました。勝敗を決めるのは本当にわずかな差なのです。イノベーションや改善を進めて常にライバルよりも優位に立たないと、すぐにグリッドの順位を落としてしまいます。」

わずか 1 ミリ秒のタイム、1 MB のデータが大きな差を生むのです。

「イノベーションを推進しなければ、立ち止まるどころか後戻りしてしまうと思って間違いありません」と Green 氏は言います。

マクラーレンがレース中に生成するデータの量は驚異的です。レーシングカーやドライバーの体に取り付けられたセンサーから、音声文字変換や感情分析を使用してライバルの無線通信から分析情報を手に入れるという高度な手法に至るまで、レース中に 1 テラバイトを超えるデータが生成されることがあります。

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ライバルよりも優位に立ち、可能な限り最速のラップタイムをたたき出すため、マクラーレンではそうしたすべてのデータをクラウドと AI を使用してほぼリアルタイムで分析します。これらのデータすべてを管理するとともに、IT において足かせとなるあらゆる要素を取り除くため、マクラーレン レーシングがパートナーとして選んだのが Google Cloud でした。このパートナーシップを通して、スピードを極めたレーシングカーをトラックに送り出し、ファンの体験をより素晴らしいものにして、組織全体ではイノベーションを推進しているのです。

「レーシングカーからは、とてつもないスピードでデータが生み出されます」と Green 氏は述べます。「そして、そのデータを空気力学チームや信頼性エンジニアリング チームなど、数多くのチームに提供する必要があります。データは、信頼性確保、戦略、レーシングカー設計の改善、そしてライバルの状況の把握に役立てています。1 秒、あるいはコンマ 1 秒の差が、F1 にとっては非常に重要となるのです。」

データをめぐる激しい戦いを AI で勝ち抜く

マクラーレン レーシングのマイアミ グランプリでの優勝は、緻密な計画と優れた実行の重要性を示す証となりました。マイアミのトラックは高温になるため、タイヤ選びとピットストップの戦略が重要となります。

最新のアップグレードを多数搭載したレーシングカーでレースに参戦したノリスは、1 セット目のタイヤで長い距離を走り、最初の 20 ラップ程は 5 位から 6 位あたりに付けていました。その後セーフティカーが導入されてレースの差が一時的に縮まった隙をついてリードを奪い、後でもう一度セーフティカーが導入されたタイミングでこのレースで唯一のピットストップを行って、新しいタイヤに交換しました。その後はレース全体を通してリードを保ち、初のグランプリ優勝を手にしました。この結果は、Max Verstappen とチーム レッドブルが優位とみられていた中、大きな番狂わせとなりました。

もちろんマクラーレン チームには運も少し味方しましたが、幸運の機会を逃さない者だけが運をつかむことができます。マクラーレンがチャンスを手にすることができたのは、偶然ではありませんでした。

マクラーレン では、レースで発生するあらゆる事態を想定したシミュレーションを行うため、膨大なコンピューティングおよび AI リソースを投入しており、レース前に、あらゆるシナリオとデータポイントについて文字通り数億回にのぼるシミュレーションを実施しています。シミュレーションにはデータが欠かせません。マクラーレンは、大量のデータを BigQuery を使用してホストし、Looker で可視化しています。

「マクラーレン チームでは、長期にわたり、さまざまな種類の AI を使用してきました」と Green 氏は話します。「週末のレースに向け、3 億回近いレースのシミュレーションを実施して、最適な戦略を探っています。また、レース中に起こる事態の予測をするため、さまざまな状況においてその場で的確な意思決定を行うためのツールに AI を活用しています。さらには、AI を使用した自動化により高速化できるタスクについても AI を活用し、チームの強化につなげています。」

大きくもてはやされている AI ですが、このテクノロジーを使いこなすためには人の力が必要であるほか、AI を使って実現したい合理的な目標を定める必要もあります。そこでマクラーレンでは、AI ツールを活用するだけでなく、モバイル データセンターの現場にエキスパートを配置することにより、人間だけでも AI だけでも実現できない成果を目指しています。

「マクラーレンでは人間参加型の AI 活用が重要だと考えています」と Green 氏は話します。「AI は、人間のスタッフを置き換えるものではありません。データ サイエンティストやエンジニアをサポートし、意思決定に必要な情報を与える役割を果たすのが AI です。F1 では、非常に短時間で意思決定を行わなければならない場合があります。わずか 3 秒での意思決定を求められることもありますが、そのような短い時間でデータを確認して取り込み、正しい判断を行って、チーム全体にその判断を共有するのは AI の力を借りなければ難しいはずです。」

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マクラーレンは、車載センサー、ドライバーに取り付けられたセンサー、トラックの周囲に配置されたセンサーを活用して、データの面でライバルに優位に立ち、2024 年 5 月 5 日開催のマイアミ グランプリで優勝しました。

マクラーレンでは、設計、エンジニアリング、シミュレーション、戦略などのさまざまな領域において優位性を確保するために、レース前およびレース中に AI を活用していますが、組織全体における優位性確保のためにも AI を利用しています。1 億 4,000 万ドルという運営予算の上限が厳格に定められているため、F1 チームのリソースには余裕がなく、あらゆる角度から優位性を追求する必要があります。

「F1 競技では、全体として使用できる予算の上限が定められているため、活用できるリソースは予算の制限を受けます」と Green 氏は述べています。「AI により、限られたリソースをさまざまな活動に有効に活用するとともに、スタッフが効率的に働ける環境を作ることができるので、チームがより大きな成果を上げることに繋がります。それが AI を利用する理由と言えますが、結局のところレーシング チームが目指すのはトラックでラップタイムを少しでも縮めることにあります。」

活用の場をレーシングカーからファンへと拡大

マクラーレンでは、レーシングカーのタイムを縮めるために AI を使用しているだけでなく、レーシングカーで得た AI 活用のノウハウを組織全体にも適用しようとしています。

「エンジニアリング チーム、レーシング チーム、戦略チームでレースの戦略推進やトラック上でのパフォーマンス向上に AI を活用していますが、バックオフィス部門にも AI の活用を拡大して、より良いコンテンツを提供し、ファンとの効果的なコミュニケーション方法についてのインサイトを手に入れる試みを始めています」と Green 氏は話しています。

マクラーレン レーシングがレース以外の部分で AI を活用しているのは、ファンのエクスペリエンスを強化する領域です。マクラーレンは世界でも最も人気のあるレーシング チームの一つで、現 CEO である Zak Brown 氏が 2016 年にエグゼクティブ ディレクターとして加わって以降、ファンの数を大きく増やしてきました。マクラーレンには数十年にわたり蓄積された動画アーカイブがあります。このアーカイブから、AI を活用することで、それぞれのファンに最適な動画をおすすめできるのです(MLB で過去映像を表示しているのと似た仕組みです)。また、レース開催中にもファンにより多くの統計情報や映像体験を提供できます。現在、チームは、生成 AI を使用してファンによりパーソナライズされた体験をもたらす方法を模索しています。

「マクラーレン チームのファンは非常に多様であり、それぞれのファンに応じたコミュニケーション方法が求められます」と Green 氏は述べています。「そのため、ファンの体験をパーソナライズすることが必要です。また、マクラーレンには多種多様なデータソースがありますが、BigQuery などを使用してこれらのデータソースを統合し、ファンとのコミュニケーションで使用しているその他のツールに表示できます。パーソナライズの取り組みはまだ始まったばかりです。マクラーレンには豊富なデータの蓄積があるので、ファンに魅力的なエクスペリエンスを届けるため、まだまだ改善できることがあると考えています。」

マクラーレン チームでは、長期にわたり、さまざまな種類の AI を使用してきました。週末のレースに向け、3 億回近いレースのシミュレーションを実施して、最適な戦略を探っています。

マクラーレン レーシング、商用テクノロジー責任者, Edward Green 氏

マクラーレン レーシングの事例で興味を引くのは、彼らの行うすべてのことがパフォーマンスを高めることを目的としている点です。マクラーレン チームは、意見を出し合いながら、利用可能なあらゆるツールをどのように駆使して、レーシングカーのスピードをアップさせ、レースの戦略を磨き、車両の優位性を高めるとともにビジネス全体のメリットにつなげることができるかを追求しているのです。マクラーレンは、クラウドと AI を活用することにより、ラップタイムの短縮からファンのエンゲージメント強化に至るまで、これまでは実現できなかったさまざまなことに取り組んでいます。

「AI は、新たな地平を切り開くテクノロジーと言えます」と Green 氏は話します。「スタッフは多くの作業を AI に任せることができるようになるでしょう。AI は、人間が思いもよらない課題の解決策をもたらすだけでなく、新しいクリエイティブなアイデアをも出してくれます。私たちのチームにとって、このような AI のメリットは本当に魅力的です。こうしてスタッフは、AI に任せて空いた時間を、また別の新たな課題の検討に費やすことができるわけです。」

-Transform 上級執筆者 Dan Rowinski

-Transform 上級編集者 Matt A.V. Chaban

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