AI のビジネス価値: 企業の成功事例から得られた知見
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Dr. Ursula Löbbert-Passing
Google Cloud, Germany
生産性の向上から収益の拡大まで、AI は実際的な価値をもたらす
※この投稿は米国時間 2025 年 1 月 14 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
NewtonX との提携のもと、Google Cloud で AI を利用している 400 社のお客様を対象とし、企業のビジネス価値実現につながったユースケースを特定すべく調査を行いました。以下は、同様の成果を得るために他の企業でも活用できる重要な分析情報です。
この 1 年半で、あらゆる形態と規模の企業が、生成 AI の幅広いユースケースの試験運用を驚異的なスピードで進めてきました。始まりは、質問への応答や予測を行う単純なパイロットの試験運用でした。それがわずか数か月の間に、旅行の予約や、商品在庫と店舗の品出しの管理、臨床文書の草案作成などまでを行うことができるようになり、さらには世界に影響力のあるバーチャル インフルエンサーともなりうる強力な生成 AI エージェントが構築されるまでに至りました。
AI を利用できる機会は非常に多く、日々新たな機能が次々と登場するなかで、AI がすでにビジネス価値を生み出している領域に的確に焦点を合わせるのは簡単なことではありません。しかし、AI の試験運用を本番環境へと移行させる企業が増加するなか、短期間で得られる成果を積み重ねつつ将来を見据えた投資を行うために、着実に価値を生み出しているユースケースを特定することがこれまで以上に重要になります。
NewtonX と共同で実施した最新のグローバル調査では、現在企業に具体的な利益をもたらしている AI の活用事例を分析しました。Google Cloud を利用している 400 社以上の企業から寄せられた 1,000 を超えるユースケースに関する回答に基づき、AI の活用を推進している企業への調査からわかった 5 つの主要な分析情報をご紹介します。
1. 短期間で創出価値の高いユースケースが、費用対効果を生み出す
AI の導入を始める際には、リスクが低く、すぐに成果が出やすいユースケースから取り組むことをおすすめします。これにより、勢いをつけ、長期的な投資への後押しを得ることができます。本調査で報告されたユースケースを詳細に調べ、収益への影響が大きく、かつ短期間で成果を出せるユースケースを特定しました。このユースケースを「ベストベット(最善策)」と呼びます。
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収益向上と価値創出までの時間: 「ベストベット(最善策)」のユースケースは、収益に大きく、かつ迅速に影響を与えます。
調査結果によると、最も効果的な「ベストベット(最善策)」は、バックオフィスのビジネス プロセスの改善に AI を活用することです。たとえば、自動化タスクにおける次に取るべきアクションの提示、優先順位の提案、業務効率の分析、人事や IT の領域におけるワークフローの合理化などのプロセスです。その他の「ベストベット(最善策)」には、開発者の生産性向上、デジタル コマースとエクスペリエンスの強化、個人の生産性向上が挙げられます。調査によれば、これらのユースケースでは平均して 6 か月以内に 10% 以上の収益増加が見られました。
2. 変革的な AI ユースケースが最大の価値を生み出す鍵である
AI 活用を検討する際、企業は、カスタマー エクスペリエンスを向上させ、収益を拡大するユースケース(ビジネスの成長を重視)か、生産性、セキュリティ、コスト効率、サステナビリティを向上させるユースケース(社内効率を重視)を追求しています。調査から、ビジネスの成長と社内業務の効率化の両面で大きな価値を生み出すために AI を活用することが、最大の価値創出につながる成功パターンであることがわかりました。
現時点では、AI ユースケースの大半が顧客ベネフィットの提供と社内業務の効率化のどちらかに焦点を当てています。しかし、今後はその両方のニーズを同時に満たすユースケースが増えていくことが予想されます。現在報告されているユースケースのうち、両方の側面で大きな効果を生み出しているものは 5% 未満にとどまりますが、その理想的なバランスを実現する価値は大きいと言えます。この少数の「変革的な」ユースケースは、他のユースケースと比べて平均で 5 倍以上の価値を生み出しています。
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ビジネスの成長と社内業務の効率化: 変革的な AI ユースケースは、ビジネスの成長(ユーザー エクスペリエンスを含む)と社内業務の効率化(コスト、サステナビリティ、セキュリティ、生産性)に大きな影響を与えます。
これらのユースケースは、具体的にはどのようなものでしょうか?調査結果によると、変革的なユースケースが影響を与えた領域として最も多く挙げられたのは、開発者の生産性(コーディング支援など)でした。次に多かったのは、新しい製品やサービス(外部に提供される顧客向けの製品やサービスなど)の創出に関するユースケースです。
言い換えれば、最も価値を生み出す AI ユースケースとは、企業に外部と内部の両方で利益をもたらすことができるユースケースです。したがって、目に見える成果を求めるリーダーは、単一の領域に焦点を当てた AI ユースケースではなく、ビジネス価値の全領域にわたって改善をもたらし、業務を効率化する AI ユースケースの導入を目指すべきです。
3. AI は次世代の生産性向上の原動力である
ワークフローの効率化や反復作業の補強といった生成 AI の能力が注目される中、AI によって得られる第一の価値が「生産性の向上」であることは当然の結果と言えます。回答者から収集した価値指標のうち、30% 以上が「生産性」に関連しており、次いで「ビジネスの成長」(20%)、「コスト効率」(19%)となっています。
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実現した価値として最も多く挙げられたのは、生産性の向上であり、次いでビジネスの成長でした。
調査結果によると、企業はすでに AI を活用して大幅な生産性向上を実現しています。分析情報取得までの時間を平均 40% 加速させ、IT の生産性を 38%、ビジネスの生産性を 37% 向上させて、さらに製品やサービスの市場投入までの時間を 36% 短縮することに成功しています。さらに、生産性の向上に関するユースケースは通常測定がより容易となります。精度の向上、タスクの完了や処理にかかる時間の短縮、従業員の生産性向上などの価値指標を企業が追跡できるためです。
全体として調査結果は、AI によってもたらされる価値のうち最も即時性が高いのは、生産性の向上であることを示しています。そして、その生産性の向上がパフォーマンスの改善や、より満足度の高いカスタマー エクスペリエンスといった付随的な利益をもたらしているのです。たとえば、風の流れをより正確に予測できるようになれば、フライトの予期せぬ欠航や遅延を減らし、旅行者がスムーズに目的地へ到着できるようになります。
4. 開発者向け AI は企業全体に大規模な価値を生み出す可能性を秘めている
興味深いことに、生産性を向上させる可能性が最も高い AI ユースケースは、予想とは異なるものでした。
調査結果によると、開発者の生産性向上は、報告されたユースケースの数として最多だっただけでなく、変革的なユースケースの中でも最大の割合を占めていました。コーディング支援、根本原因分析、テスト、エラー検出など、AI が活用されているタスクの多くが企業の間で共通していることもわかりました。
「これらのユースケースは、開発者の負担を軽減するだけで、企業全体にとってはあまり関係ないのでは?」と思われるかもしれません。しかし実際には、開発者の生産性向上は、企業全体に大きな影響を与えます。開発者が高品質なコードをより速く作成できるようになることで、より迅速に製品やサービスを市場に投入できるのです。開発者は希少なリソースであるため、この点は非常に重要です。
特に、AI を活用したコーディングを使用して、より堅牢なコードをより迅速に作成することで、関連するユースケースのビジネスと IT のコストを平均 63% 削減できるだけでなく、脅威を特定する能力が 88% 向上し、生産性の向上により収益が 18% 増加することが示されました。また、開発者の生産性を向上させる AI のユースケースは、最も短期間で導入できるユースケースのひとつであり、価値創出までの期間は平均で 5 か月でした。
5. セキュリティは AI が秘める優れた価値
AI とセキュリティの関係には 2 つの側面があります。AI システムの安全性を確保するための対策を講じることと、セキュリティ保護を強化するために AI を適用することです。調査結果によると、AI 技術を導入している企業は、ビジネスのセキュリティを確保する能力において重要な進歩を遂げています。
具体的には、AI を取り入れることで、脅威を特定する能力が 55% 向上しています。これは、あらゆる領域のビジネス価値指標の中で最も高い改善率です。また、脅威検出能力の向上により、解決までの時間が 37% 短縮され、セキュリティ チケットの件数も 36% 削減されるなど、さらなる改善がもたらされています。
最も高いセキュリティ価値を生み出したユースケースを見てみると、興味深いことに、技術的なものではありません。これらのユースケースは、セキュリティを確保しつつ、ビジネス プロセスやカスタマー エクスペリエンスの向上を目指すものでした。この効果は、開発者の生産性向上に関するユースケースの効果と似ています。つまり、AI を活用して「技術的な」課題を解決することが、組織全体のビジネス価値の向上につながるということになるわけです。
今後の展望: AI の価値は実証されつつある
本調査の結果は、最近実施された生成 AI の費用対効果の調査で得られた知見を裏付けるものとなりました。両調査はそれぞれ独立して実施され、回答者や質問内容が異なりますが、共通して示しているのは、戦略的なユースケースを優先し、それを支える技術チーム、セキュリティ、データイネーブルメントへの投資を行うなど、AI 導入を包括的に進めている企業がすでに大きな成果を挙げているという点です。
調査手法
本レポートは、Google Cloud で AI を利用している 400 社のお客様を対象とした調査に基づいています。回答者は、北米、中南米、欧州、中東、アフリカ、アジア太平洋地域に拠点を置く企業のディレクター以上のシニアリーダーです。これらの企業が従事する業界には、公共部門、金融サービス、製造および自動車、小売および消費財、通信、ヘルスケアおよびライフ サイエンス、メディアおよびエンターテインメントなどの主要業界が含まれます。本調査は、NewtonX との提携によりオンラインで実施されました。
-Google Cloud(ドイツ)、Ursula Löbbert-Passing 博士