HLTH 2023: 生成 AI が医療業界をどのように変革しているかについて、Google Cloud と大手ヘルスケア企業が情報共有
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 10 月 10 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
AI は、今日の医療分野で開発されているテクノロジーの中で最も注目を集めているものです。この画期的なテクノロジーは、医療従事者によるドキュメント作成の手助け、オペレーションの効率化、医療研究に要する期間の短縮、医師による疾病の早期発見の支援など、世界に変革をもたらし、より健康的で充実した生活の実現を促してくれる可能性を秘めています。
医療業界において近い将来実現することが最も有望視されている生成 AI の用途は、人々が適切な情報を見つけ出し、そこから分析情報を得られるようにするための支援です。この支援は最終的に、医療機関による運営の力を高めるとともに、医療従事者の業務効率を向上させ、患者のケアを改善します。ライフ サイエンス企業の場合、生成 AI は短期的な業務の効率化を促進すると同時にプロダクトの開発力を強化しており、最終的には精密医療の発展を支える存在となりつつあります。
Google Cloud と大手ヘルスケア企業は、クラウドとデータを基盤に構築された AI の昨今における発展がヘルスケアとライフ サイエンス分野に携わる組織にどう役立つのかについて、HLTH 2023 において情報共有を行いました。
ヘルスケアとライフ サイエンス分野での検索機能を大幅強化: Vertex AI Search
医療従事者は多くの場合、複数の構造化データストアと非構造化データストアにまたがって存在する臨床データの中から知見を得るのに苦労しています。患者に関するメモやスキャンされた書類といった非構造化データはとりわけ検索が難しく、重要な情報を見落としやすくしています。さらには、関連性のあるデータがどのようなものか判別するだけでも専門的な臨床知識を必要とします。このような課題が、点と点をつなげて患者ケアの質を高めるために必要な情報を得ることを難しくしています。
もし仮に、最も関連性の高い情報と分析情報のすべてを迅速に医療従事者に届けてくれるテクノロジーがあったらどうでしょうか。それこそが、ヘルスケアをすぐにでも変革できる生成 AI ユースケースの一例です。Google Cloud をお使いのお客様は、ヘルスケアとライフ サイエンス企業向け Vertex AI Search 機能への早期アクセスに今すぐお申込みいただけます。
医療機関は今回の新機能によって、Google 品質の生成 AI 検索機能を利用できるようになります。この検索機能は医療向けにチューニングされており、正確な臨床情報をより効率的に見つけ出し、FHIR データ、臨床メモ、電子健康記録(EHR)に保存された医療データなどの臨床に関する情報源から広範囲のデータを検索できます。ライフ サイエンス組織はこれらの機能を学術的なコミュニケーションの強化やプロセスの効率化に利用できます。これは、ドキュメント、外部ウェブサイト、各種データソースの検索を行う Vertex AI Search の現行機能を発展させたものです。ヘルスケアとライフ サイエンス向け Vertex AI Search は Google Cloud の Healthcare API および Healthcare Data Engine と連携しています。また、Google Health の試験運用プロダクトである Care Studio が搭載する検索機能やインテリジェントな要約作成機能を備えています。
Google Cloud をお使いのお客様とパートナー様は、ヘルスケアとライフ サイエンス向け Vertex AI Search 機能への早期アクセスに今すぐお申込みいただけます。今回ご紹介している新機能について、Hackensack Meridian Health と Highmark Health が検証予定です。また、これらの機能が自社ソリューションにどのような前向きな変化をもたらすのか、Google Cloud パートナーである Mayo Clinic と MEDITECH が調査中です。すべての Google Cloud プロダクトと同様に、データはお客様によって制御されます。医療現場において、患者データへのアクセスとデータの利用は信頼性の高い Google Cloud のインフラストラクチャと安全なデータ ストレージの実装により保護されます。このインフラストラクチャとストレージは HIPAA コンプライアンスに対応しており、お客様ごとに異なるセキュリティ、プライバシー管理、プロセスの要件にも対応できます。さらに、Vertex AI Search、Healthcare Data Engine、Healthcare API も HIPAA コンプライアンスに対応しています。ヘルスケアとライフ サイエンス企業向けの Vertex AI Search 新機能も同様に HIPAA コンプライアンスに対応しています。
エクスペリエンスを最優先: Highmark Health
心から満足できる医療体験を実現できたら、と思いませんか。Highmark Health は、同社の Living Health モデルを用いて、医療分野における顧客と医療従事者のエンゲージメント向上に取り組んでいます。同社は医療体験について、利用者が小売業者に対して期待するような、オンライン、モバイル、対面における体験のすべてでスムーズかつシームレスなカスタマー ジャーニーとなる未来を見据えています。
Highmark Health は同社の初期の生成 AI ユースケースを通じ、組織内の生産性とスキルを向上し、ユーザーが情報にアクセスしやすくするとともに、医療従事者と関係者の体験を改善する生成 AI の導入方法を探っています。この取り組みでは、Vertex AI、大規模言語モデル(LLM)、各種生成 AI ツールを利用して関係者の資料や一般公開されている情報を大規模にパーソナライズしています。同生成 AI 開発の次のフェーズでは、より多くの時間を患者とのやり取りに費やせるようにする医療従事者向けソリューションが加えられるかもしれません。
クラウドとデータの基盤の構築: Hackensack Meridian Health
Hackensack Meridian Health は、自社のデータ、アプリケーション、各種 IT リソースをオンプレミスから Google Cloud に移し、IT のモダナイゼーションにおいて大きな進歩が得られたことを伝えています。現在は最初の EHR ワークロードを無事に Google Cloud へ移行し終え、IT モダナイゼーションの最終フェーズに着手したところです。同組織は残りの EHR 環境の移行を今後 3 年間で行う予定であると発表しました。
Hackensack Meridian Health はこのモダナイゼーションの取り組みから、アジリティ、信頼性、セキュリティの向上という恩恵をすでに得ています。Hackensack Meridian Health は EHR ワークロードを始めとした主要なワークロードをすべて Google Cloud に配置することで、さまざまなデータソースからより多くの分析情報を見つけ出して、新たな発見とイノベーションに要する期間を短縮できるようになります。
今回発表したニュースは、Google Cloud と Hackensack Meridian Health との間で交わされた、AI、データ分析、生産性向上ソフトウェアの利用などを含む広範なパートナーシップ(2021 年発表)を基礎としています。8 月には、Hackensack Meridian Health が医療従事者と患者の体験を改善するために Google Cloud の生成 AI ツールをどのように利用しているのかについてお伝えしました。
管理面の負担を減らす: care.ai
全国的な燃え尽き症候群や看護師と医療従事者の不足を背景として、管理面の負担を減らして医療施設の管理を改善することが生成 AI の短期的な最優先目標の一つとなっています。この目標を達成できるソリューションを自ら構築できる専門知識やリソースがすべての医療施設に備わっているとは限りません。care.ai は今回、同社の Smart Care Facility Platform がどのように AI テクノロジーへのアクセスを向上するかについて伝えました。
care.ai の Smart Care Facility Platform は Vertex AI 上で動作する PaLM 2 を始めとしたさまざまな Google の大規模言語モデル(LLM)、および BigQuery や Looker などのデータ分析プロダクトを活用することで、同プラットフォームをデプロイ済みの、急性期治療あるいは急性期後治療を提供する施設 1,500 か所で管理面の負担を減らし、人員不足を軽減して、医療従事者がより多くの時間を患者のために費やせるようにします。
これらの施設は、care.ai が提供する常時認識型のインテリジェント周辺環境センサーを活用した継続学習環境となります。このような環境では、臨床チームと運用チームがリアルタイムの周辺環境データをシームレスに受け取れるため、常に適切な情報を得て患者ニーズを満たせるようになります。また、退院サマリー、ナースコール サマリー、推奨テンプレートなど、看護師や入退院スタッフ向けのコンテンツ作成においても、Smart Care Facility Platform が役立ちます。
同プラットフォームの目標は、発生前の問題の特定、リアルタイム認識の実現、予測的なプロセス準拠性とリソース割り当ての改善を通じて、より適切なタイミングで対応できるようにすることです。care.ai は、最終的にワークフローとプロセスの自律最適化を行いながら患者の安全と体験を強化できるようになることを同プラットフォームに期待しています。
医療向けにチューニングされた LLM の構築: Med-PaLM 2
医療向けにチューニングされた Google の大規模言語モデルであり HIPAA コンプライアンスに対応している Med-PaLM 2 などの業界特化型 LLM は、拡大を続ける生成 AI テクノロジーの一つとして医療体験を大幅に強化できる可能性を秘めています。Med-PaLM 2 は、有益で充実したディスカッションの促進、医療に関する複雑な質問への回答、構造化されていない複雑な医療関連テキストでの分析情報の発見に活用できます。また、短い回答と長い回答の作成、内部のデータセットや科学知識体系から得たドキュメントや分析情報の要約に役立てることもできます。
9 月には、Med-PaLM 2 のプレビュー版をより多くのお客様にご利用いただけるよう公開しました。Bayer Pharmaceuticals、HCA Healthcare、MEDITECH は、それぞれが Med-PaLM 2 の用途をどのように探り、フィードバックを共有したのかを話しました。また、care.ai、Hackensack Meridian Health、Highmark Health は、それぞれが独自の生成 AI ソリューションを開発するために Med-PaLM 2 を検証中であると今回話しました。
Google Cloud をお使いのお客様は、Med-PaLM 2 に加えてヘルスケアとライフ サイエンス向け Vertex AI Search を使用することからも恩恵を得られます。一方は臨床情報の要約を作成や世界中で集まった知識をわかりやすくまとめるといった複雑な自然言語タスクに秀でており、もう一方は患者記録など公開または非公開のデータソースから情報を探すことに秀でています。医療機関はこれらを合わせることで、複雑な医療情報にアクセスして理解するための高度なツールを手に入れることになります。結果として、十分な情報に基づいた意思決定をより素早く効率的に行う力を得られるでしょう。
ヘルスケアとライフ サイエンス組織と協力して新しい生成 AI ソリューションのテストとデプロイを行うことは、安全で役に立つ AI テクノロジーを構築するにあたって重要なステップです。Google はこの取り組みの初期段階にありますが、データと生成 AI を駆使した医療体験の改善やライフ サイエンス分野の開発促進を実現する可能性をすでに目にしています。
詳細については、HLTH 2023 の Google Health ブース 5626 番にお立ち寄りいただくか、Keyword ブログをご覧ください。
-医療戦略およびソリューション担当グローバル ディレクター Aashima Gupta
-Cloud AI、プロダクト管理担当シニア ディレクター Lisa O'Malley