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金融サービス

金融サービスをデジタル エクスペリエンスに組み込むことで新たな収益が生まれる理由

2021年6月3日
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Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2021 年 5 月 15 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

顧客行動やニーズの変化、利幅の縮小、デジタル競合他社からの脅威の増大に直面している今、金融サービス機関(FSI)は、顧客の現状に対応し、サービスをオープンにして、商品を収益化する新しい方法を確立していく必要があります。そうすることで、顧客のより良いプロファイルを構築し、さらにパーソナライズされたユーザー エクスペリエンスや、迅速で利便性の高い金融決済サービスを提供できます。このようなデジタル FSI への移行には、クラウド技術が大きな役割を果たします。

McKinsey & Company によると、アジア地域では、銀行の実店舗が毎月の取引に占める割合は 12% から 21% に過ぎず、顧客はピアツーピアの送金や請求書の支払いなどの日常的な取引にはデジタル チャネルを利用するようになっています。全体的な顧客エンゲージメントは、アジアの先進国市場では月平均 12.7 件の取引数から 14.9 件に、新興国市場では 6 件から 8.1 件に上昇しました。1

スマートフォンの普及を背景に、顧客行動が変化し、デジタル プラットフォームへの移行が進んだことで、バンキング業務におけるデジタル ファーストのプレーヤーの占める割合が大きくなっています。

McKinsey の推計によると、デジタル バンキングの普及率はアジアの先進国市場では平均 97%、新興国市場では平均 52% となっており、まだ利用していない人々も今後その 30% から 50% がデジタル バンキングを利用する可能性があります。

消費者も、ネオバンク(デジタルバンク)への切り替えにこれまで以上に意欲的です。Visa の調査によると、シンガポールでは、63% の人がデジタル オンリーでのバンキングに前向きな姿勢を示しています。利用分野については、63% が請求書の支払い、56% が小売店での支払いにネオバンクのサービスを利用すると回答しています。さらに、デジタルバンクを好む理由として、54% がその利便性を、52% がサービスの迅速性を挙げています。

デジタルバンクに前向きな消費者のうち 60% は、現在利用している銀行から新しいデジタル バンキング プレーヤーにサービスの一部を移行しようと考えています。たとえそれがバンキング業務の経験のない新参プレーヤーだったとしてもです。回答者の 5 人に 1 人が、すべてのサービスをネオバンクに切り替えてもよいと答えています。

シンガポールの中小企業(SMB)でも状況は同じです。Visa が行った別の調査によると、シンガポールの中小企業の 88% が、一部のサービスをデジタルバンクに移行することを検討しています。

その原因として、中小企業の 55% は、質の高い企業向け商品がないことへの不満や、バンキング業務の管理不足を挙げています。彼らはネオバンクがバンキング全体のコスト削減につながると考えているのです。また、54% が「デジタルバンクは利便性が高い」と回答し、53% が「オンラインでの支払いが簡単」と回答しています。

これは、すでに定評のある大手 FSI にとっても心配の種となりえる統計結果です。特に、サービス エコシステムのオープン化や API を通じたイノベーションの推進が十分に行われていない FSI は注意が必要です。

新たな収益につながる API

ほとんどの銀行にはアクティブな API がありますが、現在提供されているサービスは機能的なものにすぎず、パートナーが目的とする商品やサービスを得るためだけの手段となっています。消費者は、毎日お気に入りのアプリケーションを使用することで、意識せず間接的にこの種の API を利用しています。たとえば決済処理 API を使ってランチの支払いをしたり、ローン申請 API で夢のマイホームを手に入れたりするようなことです。

銀行はこういったカスタマージャーニーを常に把握しているわけではありませんが、パートナーを通じて自社製品を販売する機会を見出すことができます。大手銀行の多くは、API 管理、人工知能(AI)、データ分析などのキー テクノロジーを活用して、食料品、旅行、エンターテイメント、ヘルスケア、フード デリバリーといった顧客の日常生活にデジタル バンキングを組み込んでいます。

従来の銀行が、より広範なサービスを提供するサードパーティに API を開放し、独自のサービスを自社のアプリに取り込むことで、より広範なカスタマー ジャーニーに接続されるようになります。これにより、サービスの利用率が高まり、全体的なカスタマー エクスペリエンスとして定着させることができます。また、集計データも取得できるため、銀行がより豊かな消費者プロファイルを構築し、パーソナライズされた商品やサービスを提案できるようになります。

さらに、API により、小規模な事業者にも金融サービスのエコシステムに参加する機会が均等に与えられ、以前は存在しなかったマイクロ セグメントが生まれる可能性があります。クローズド システムの中では、こうしたサービスをプロビジョニングするだけの需要がないため、従来はこうしたマイクロ セグメントの顧客はサービスを受けられずにいました。API は、異なるマイクロ セグメント間のコラボレーションを促進して商業的に成り立つようにするもので、こういった問題を解決するのに役立ちます。

また、一部の銀行は API を公開することで、企業のデータセットへのアクセスを可能にしています。これにより、自動化されたワークフローをトリガーして業務効率を高めることができます。また、Bank Rakyat Indonesia(Bank BRI)のように、Google Cloud の Apigee を活用して API のライフサイクルを管理し、収益機会を見出すことで、新たな収益を生み出しているところもあります。

Apigee のマネタイズ機能により、Bank BRI は 5,000 万ドルの収益を実現し、API 呼び出しに基づいて価格を定義したり、使用量に応じて自動的に請求したりできるようになりました。

さらに同行は、このデータ分析を Google Maps Platform と併用することで、7,550 万人の顧客基盤をスコアリングし、銀行サービスが行き届いていない地域の BRILink エージェントとして採用できる人材を見つけています。これらのエージェントは、800 米ドルの最低残高を維持し、高い信用評価を得ている顧客です。

Agent BRILink アプリによるブランチレス エージェントの起用により、2018 年の同行のブランチレス事業による融資額は、前年の 150 億ドルから 260 億ドルに増加しました。

銀行は API をどう活用すべきか

銀行がすでに持っているデータを活用することで、新たな収益機会が生まれることは明らかです。FSI が API の活用を開始するためのヒントをご紹介します。

  • 社内リーダーシップ育成のためのイニシアチブと連携する。健全な金融サービス エコシステムの構築に向けて、成長性やコスト削減といったエグゼクティブの重要業績評価指標を活用し、マイクロ セグメント市場で API を提供する文化を醸成します。

  • 強力な価値提案で API を製品化する。API ファーストのアプローチで、API ショップでは新しいサービスや API の強力な在庫を用意しておくことで、サードパーティ(小売店や通信事業者など)を惹きつけ、API 製品を利用してもらえるようにします。このような顧客第一主義 / お客様目線のアプローチは、採用が拡大するにつれて、さらに多くの API を構築し、追加できるようにするための強力な基盤となります。

  • デベロッパー コミュニティを積極的に育成する。適切にトレーニングを受けた API マネージャーは、デベロッパー コミュニティと常に連絡を取り合い、パートナーが API の実行可能なユースケースを特定するのに役立つケーススタディを提供します。

  • セキュリティを戦略的な手段として活用する。セキュリティは API エコノミーを実現するための重要な要素ですが、API セキュリティのほとんどは防御的なものです。高度なセキュリティ ツールを活用し、デベロッパーをしっかりと識別することで、銀行は情報やデータの使用状況をより正確に、また積極的に把握できます。

また、FSI は、API の定期的な改善の必要性を見落とすなどといった、よくある落とし穴にも気を付けなければいけません。誰も使っていないということは、その API がサードパーティのデベロッパーに真の価値を提供できていないということです。

さらに、API のマーケティングを行い、デベロッパーに何が利用できるのかを知らせることも重要です。FSI が犯しがちな過ちは、API が公開された時点で自分たちの仕事が終わったと思い込み、API の認知度を高めるためのコミュニティへの働きかけやマーケティングを行う必要性を軽視してしまうことです。

このトピックについてもっと詳しく知りたい方は、Google Cloud 金融サービス サミットの組込型金融のセッション「The Future of Banking」をぜひご覧ください。


1. McKinsey & Company、「Asia’s digital banking race: Giving customers what they want.」、Global Banking Practice、2018 年 4 月。

-Google Cloud Apigee 事業戦略財務責任者 Paul Rohan

-Google Cloud APAC 担当金融サービス業界リード Thurain Tun

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