住友重機械工業: Google Cloud で SDV 開発基盤を構築し、大型機械用ソフトウェア開発の高速化と人材育成を両立

Google Cloud Japan Team
「デジタルの力で、世界中の現場を快適に、携わる人々を幸せに」というビジョンに基づき DX を推進している住友重機械工業株式会社(以下、住友重機械工業)では、製造業 DX と SDV(Software Defined Vehicle)用のロボット開発基盤を Google Cloud で構築。製造業で深刻化している労働力不足の解消にも取り組んでいます。なぜ SDV のために Google Cloud を採用し、いかに人材育成も充実させたのか。AIロボティクスセンターの開発者と責任者に話を伺いました。
利用しているサービス:
Gemini Enterprise, Gemini CLI, Cloud Workstations, BigQuery, Cloud Build, Cloud Run, Identity-Aware Proxy など
利用しているソリューション:
生成 AI
加速する SDV の流れに対応するために、Google Cloud でプラットフォームを構築
重機械メーカーである住友重機械工業は、減速機や放射線治療装置など、多岐にわたる製品を研究開発しています。その中で、物流・建設機械を扱うロジスティックス&コンストラクション セグメントを担当しているのが、AIロボティクスセンターです。現在、同センターでは、自動フォークリフト(AGF:Automated Guided Forklift)の開発を推進。技術本部 技術研究所 AIロボティクスセンター ロボティクスプラットフォームグループの中尾 拓真氏は、その背景を次のように説明します。


「製造業は、ハードウェアの性能で製品価値 が決まる時代から、ソフトウェアのアップデートで機能が追加され、より便利になる SDV の時代への変革期にあります。自動車ではすでに、OTA と呼ばれるインターネット経由のアップデートで自動運転の性能や燃費が購入後にも向上するようになりました。この流れは物流・建設機械にも広がってきていますので、大型機械の中で動くソフトウェアの開発を、より高速化することが求められています。」
同センターでは、AGF の開発を通じて、SDV に対応したクラウドの開発環境を検証。得られた成果や知見をもとに、ソフトウェア開発を効率化し、油圧ショベルやクレーンなどの他の機種にも展開していく予定です。
「コーディングでは生成 AI を利用して、AGF の動作やアルゴリズムを短時間で実装します。こうして実装した機能は、まずシミュレーターで動作を確認してから実機実験に進みますが、実機実験は時間や場所、安全性の制約が大きいので、可能な限りシミュレーターで不具合を解決しておくことが大切になります。また、そこで得られたデータはクラウド上で分析され、不具合の原因特定や次の改善に活かされます。」(中尾氏)
デジタルツインを活用した事前検証を行い、実機実験を 1 回でクリア
住友重機械工業では基盤となるプラットフォームとして、Google Cloud を採用。決め手となったのは、開発に必要な機能はもちろん、内製化に向けた支援プログラムなどが包括的に提供されることでした。
Google Cloud 上の開発プラットフォームは、生成 AI 開発環境、CI/CD、デジタルツイン、データ分析の 4 つの役割を担っており、検証を終えた機能は Docker イメージで実機にデプロイされます。例えば AGF がパレットを検出してピックアップする自動化機能の開発では、Cloud Workstations 上のデジタルツインでシミュレーションを行った結果、1 回目の実機実験で動作テストを問題なくクリアできました。
「シミュレーターは実機とまったく同じプロトコルで通信できるので、ロボットのプログラムから見ると、接続している相手が実機なのか、シミュレーターなのかを意識する必要がなくなります。だからこそ、動作確認したプログラムが実機でもそのまま動くのです。」(中尾氏)


中尾氏によれば、Google Cloud の導入は個別の開発だけでなく、チーム全体の作業プロセスにも大きな変化をもたらしました。
「クラウドを導入する前は、開発環境や使用ツールが各自バラバラで、ソースコード管理も個々が行っていました。しかし Cloud Workstations で環境を標準化し、ソースコード管理や CI/CD も実現したことにより、シナジーを生むチーム開発へ移行できました。特に Cloud Workstations は、メンバー全員が同一環境で開発できるため、新規メンバーのオンボーディング短縮にもつながっています。新入社員として配属されたメンバーが、配属初日から作業に着手できた例もありました。」(中尾氏)
開発プラットフォームでは、コーディングやデバッグ、ドキュメント作成などの幅広い工程で、Gemini CLI や Gemini Enterprise などの生成 AI が活用されています。中尾氏は、その効果を高めるために独自の仕組みも構築してきました。
「生成 AI でエンジニアの発想をすぐにコード化し、CI/CD と組み合わせて定型作業も自動化したことで、エンジニアが創造的な作業に専念できるようになりました。ただし、AI コーディング エージェントは、同じエラーの解決方法を毎回 1 から探してしまいます。そこで、エラーログをキーにして AI が解決策を自動蓄積・検索する『KAI(Knowledge & AI)』を構築し、チーム全体へナレッジを展開できるようにしました。さらに、AI の学習データに含まれない社内の内製ライブラリの仕様を正しく理解させるため、ソースコードとドキュメントを関連付けて検索できる『GraphRAG』も実装しています。」(中尾氏)
Cloud Workstations と TAP で最適なクラウド人材の育成環境を整備
住友重機械工業は、Google Cloud 上のプラットフォームによって AGF の新機能実装を大幅に効率化しました。しかし意欲的な開発を継続していくには、クラウドに習熟した人材の確保が急務となります。ロボティクスプラットフォームグループでグループリーダを務める藤井 北斗氏は、2025 年に入社した中尾氏を例に挙げながら、短期間で優れた人材を育成するうえでも Google Cloud の導入が有用だと語りました。


「SDV をけん引する人材育成には、早い段階で数多くの失敗と成功を体験させることが重要です。しかし弊社のように歴史が古く、規模の大きな組織では、自由にロボット開発を試せるクラウド環境を提供するのは、ガバナンスやセキュリティの観点から難しいのも事実です。この課題を Google Cloud で解決しようと考えました。」
まずガバナンス・セキュリティ面では、Google Workspace の Enterprise エディションを採用し、組織管理アカウントと IAM(権限管理)を連携させることで、少人数でも安全かつ適切なアカウント管理を実現。Security Command Center(SCC)も導入し、脅威の検知から修復までをカバーするセキュアで効率的な運用環境を確保しています。
「開発の経験を積むにはセキュリティ ガードレール、自由なプレイグラウンド(実験環境)と AI サポート、失敗しても元に戻せるサンドボックスの 3 要素が必要です。Cloud Workstations はコンテナなので壊れても元に戻せますし、IAP(Identity-Aware Proxy)で防護されているので安全も確保できます。生成 AI は Gemini Enterprise で誰が何に使っているかを把握できるようにし、ネットワークやセキュリティは Google Cloud Skills Boost で基礎的なことを学んでから、実装に取り組む体制にしています。中尾も、ガードレールの中で安全に失敗を繰り返すことで、バランスが取れた実装ができるようになりました。」(藤井氏)
一方、組織開発では、外部の知見を入れながら継続的に組織をスケールさせるための取り組みがなされています。そこで利用されたのが、Google Cloud が提供するアジャイル型内製化支援ワークショップ、TAP(Tech Acceleration Program)です。
「ロボット開発基盤のプロトタイピングでは、Google Cloud のエンジニアと 3 日間の合宿を実施していただきました。TAP では、プラットフォーム エンジニアリング
やサイト信頼性エンジニアリング(SRE)だけでなく、Google のカルチャーや組織開発についても学ぶことができました。さらには生成 AI を使ったバイブ コーディング研修を実施いただき、それを軸に社内教育も実施しています。」(藤井氏)
住友重機械工業は今後、SDV のサービス化に向けた企画やビジネスモデル構築、マイクロサービス開発、デジタルツイン環境の拡張へと取り組みを広げていく計画です。藤井氏は次の目標をすでに見据えていました。
「例えばデジタルツインは、開発やデバッグだけでなく、お客さまに新しいサービスを早く検証していただくための環境も提供します。この技術を基に、すべての住友製品とクラウドでつくったサービスが、仮想空間でつながる世界を実現したいと考えています。また、Gemini Robotics-ER 1.6 が公開されたので、フィジカル AI との統合も検討しています。OTA の仕組みを欧州の規制に適合させる、あるいは Firebase で顧客の操作状況を把握して UX を向上させるなど、弊社には他にも多くの目標があります。これらの実現に向け、今後も Google Cloud を活用した開発の効率化や、労働力不足などの課題を解決できる仕組みづくりに挑戦し続けていきます。」(藤井氏)


住友重機械工業株式会社
1888 年の創業から 130 年以上の歴史がある総合機械メーカー。「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し、社会を利する事業でなければならぬ」という住友グループの経営理念に基づき、メカトロニクス、インダストリアル マシナリー、ロジスティックス&コンストラクション、エネルギー&ライフラインの 4 つのセグメントを事業領域としてカバーする。連結従業員数は 2 万 5,123 名(2025 年 12 月 31 日現在)で売上高は 1 兆 669 億円(2025 年度)。
インタビュイー(写真左から)
技術本部 技術研究所 AIロボティクスセンター
・ロボティクスプラットフォームグループ グループリーダ・主任研究員 藤井 北斗 氏
・ロボティクスプラットフォームグループ 中尾 拓真 氏
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