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顧客事例

大阪ガス株式会社:PSO と ASL での学びを経て IoT 分析基盤を構築。最先端のクラウド・AI 技術で都市ガスインフラを支える

2020年7月8日
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Google Cloud Japan Team

国内 4 大都市ガス事業者の一角として知られる大阪ガスは、ここ数年、劇的に規模を拡大させている IoT 分析基盤の構築などに Google Cloud を活用しはじめました。そしてその導入に際して、正しい知見を身につけるため、Professional Services Organization のコンサルティングサービスと Advanced Solutions lab (ASL) を活用。その狙いと効果について聞いてきました。

利用している Google Cloud サービス:BigQueryAutoML Tables(ベータ版)FirebaseCloud Pub/SubCloud Dataflow など

BigQuery や AutoML Tables を駆使して新時代の IoT 分析基盤を構築

関西圏へのガス供給を担う大阪ガスは、新しい技術を積極的に導入していく先進性の高さでも知られています。もちろんサービスのクラウド活用にも積極的で、2016 年 4 月には IoT 対応の家庭用ガス発電・給湯暖房システムを提供開始。さらに近年は一般家庭や企業のビル・工場などに点在する小規模な発電設備で生み出した電力を集約・操作して、あたかも 1 つの発電設備のように機能させる VPP(バーチャル・パワー・プラント / 仮想発電所システム)事業も推進しており、そのためにもハイ パフォーマンスで安定性の高い IoT 分析基盤が求められていました。今回、そこに Google Cloud の導入を検討した背景について、同社情報通信部ビジネスアナリシスセンターの國政さんは次のように当時をふり返ります。

「大阪ガスで管理している IoT 機器の増加に伴うデータ量の急増により、これまでオンプレミスや他社クラウド プラットフォームで構築していた既存環境での業務遂行が困難になってきたというのが第一の理由です。その解決法を模索する中で BigQuery に出会い、社内テストの結果、これまでよりも大量・高速・リーズナブルにデータの蓄積及び分析が可能となることが分かり、BigQuery を中心にした IoT データ分析基盤の設計及び開発を始めました。」(國政さん)

ここで言う IoT 機器とは、家庭用のガス発電・給湯暖房システムのほか、業務用の発電設備、ガス空調などのこと。大阪ガスではこれらをクラウドに接続させることで、遠隔メンテナンスや操作をできるようにしているのですが、家庭向けのシステムだけで接続台数が約 7 万件を超えるなど、2016 年の導入開始からわずか数年で驚異的な利用拡大が進んでいたのです。

「IoT 分析基盤では、将来のサービスに向けた家庭のガス需要の予測や、発電機の最適な制御などを Google Cloud で機械学習を駆使して実施しています。なお、機械学習には AutoML Tables を使っているのですが、私が現在進めている機械学習のプロジェクトにおいては、他社サービスと比べて最も精度が高く、パラメーターのチューニングやデータの成型の手間が抑えられる使い勝手の良さも気に入っています。従量課金型のため、費用面が抑えられるのもありがたいですね。」(國政さん)

「そのほか、IoT 分析基盤とは全く異なる新規事業を開発する部隊でも Google Cloud を導入しています。具体的には 2020 年 2 月からサービス開始したユーザー投稿型 SNS『ラムネ』など、スマートフォン向けのサービス開発に Firebase などを活用中。ガス事業と全く関係ないのですが(笑)、そうしたものも今後どんどんやっていこうとしています。」(富田さん)

そうして 2019 年 6 月、大阪ガスは IoT 分析基盤の Google Cloud 上での構築検討を開始し、2020 年 5 月現在、移行を進めています。現在は従来環境も残しながらの運用(将来的には Google Cloud に全面移行予定)となっているそうですが、その成果は早くも明確に現れていると言います。

「IoT 分析基盤に流れ込む大量のデータをハンドリング、分析するという当初の課題は Google Cloud 導入により滞りなく解決しました。良い意味で拍子抜けするくらいで、今のところほとんどトラブルらしいトラブルは起きていません。その上で、VPP 事業の方では、計画段階では厳しいと考えていたニア リアルタイム処理が可能となったため、安定性・即応性の高い仮想発電所が実現できるのではないかと期待しています。」(國政さん)

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開発サイド・管理サイドの両面からクラウド利用の基礎を PSO から学ぶ

IoT 分析基盤から、新規事業としてのアプリサービスなどまで、Google Cloud を活用してめざましい成果を上げている大阪ガスですが、これまで Google Cloud を使ったことがなかったため、社内に知見・実績のないことが大きな不安に。そこで、Google Cloud の本格導入に先駆けて、Google Cloud Professional Services Organization(PSO)のコンサルティングサービスの利用を決意。2019 年 11 月半ばに PSO のエキスパートを招いた全 2.5 日のワークショップを実施することになりました。

「この際、意図したのが開発側・管理側の両サイドの人員を巻き込んだこと。開発側は新サービス開発におけるセキュリティ面を中心とした要検討ポイントや推奨事項の把握を、管理側は Google Cloud の全社展開に向けたルール・体制作りの知見獲得を、それぞれ関係する社外のエンジニアやコンサルタントにも参加してもらいつつ、全 16 名で学ばせてもらいました。」(富田さん)

現在は、PSO から得た学びを踏まえて、実際のサービス開発・運用を始めている大阪ガスの皆さんですが、機会があればまた PSO を利用したいと考えているそうです。

「今後、全社的にどんどん新しいサービスを作って行くことになるのですが、次のプロジェクトの新しい担当者が入ってきた時にこういう機会があると、よりスムーズに良いものを作っていけるのかなと思っています。もちろん、私としても、もっと教えてもらいたいことがたくさんでてきています。」(富田さん)

Advanced Solutions Lab(ASL)の受講で機械学習技術活用を現実的に考えられるようになった

近年、多くの企業で活用が進んでいる AI 技術。もちろん大阪ガスも例外ではなく、マーケティング支援から故障予知、電力需要予測などまで、さまざまなシーンで AI 技術を利用した取り組みを行っていました。そしてそうした流れの中で、大きな課題となっていたのが社内 AI 人材の育成です。

「社内における機械学習のエッセンスや、大規模に機械学習を行うシステムの設計および開発のノウハウ・知見が不足しており、大阪ガスが IT の領域で大きく劣後するのではと危惧しておりました。そこで、当社の中で IT リテラシーの高いメンバーをデータ サイエンスにおいてもレベルアップさせるべく、2019 年 11 月に Advanced Solutions Lab(ASL)を受講しています。」(國政さん)

ASL を受講したのは、かねてより AI 技術を業務効率改善に役立てたいと考えていたさまざまな部署の若手メンバーたち。それぞれが機械学習の高度な使いこなしに向けた課題を抱えており、高いモチベーションを持って ASL への参加を希望したそうです。当時のモチベーションについて、ガス製造・発電・エンジニアリング事業部の山下さん、エネルギー技術研究所の河村さん、情報通信部の田邉さん、そして先に紹介した IoT 分析基盤を共同開発しているパートナー企業(大阪ガス完全子会社)、株式会社オージス総研 技術部 アドバンストテクノロジセンターの矢野さんは次のように語ります。

「これまで私は主に電力ビジネス関連の他社技術評価というミッションの元で AI 技術を利用していたのですが、当時の私が実行できる機械学習のアルゴリズムが限られており、また、データの分析も我流でやっているという状況でした。そこで、ASL で多様なアルゴリズムについて学ぶことにより機械学習の活用の幅を広げ、クラウドへの実装・システム運用について学ぶことによってシステム全体を見ることのできるスキルを獲得したいと考えました。」(山下さん)

「研究所も故障予兆検知や状態予測、画像処理による性状診断などの開発で AI を利用しているのですが、物理現象を扱うことを得意とする研究所に対し、AI の視点から独自でソリューションを提供し、シナジーを生んでいかなければならないという自覚がありました。ASL では機械学習の理論・実験・実装面を、高いレベルで学ぶことができ、社内業務にも実効性をもって還元できると考えました。」(河村さん)


「情報通信部では、主に既存のアプリケーションを利用した AI 活用を行ってきました。具体的にはログを分析して怪しい振る舞いを見つけだす EDR(Endpoint Detection and Response)や、RPA(Robotic Process Automation)による業務効率化などです。このように、社内外で AI やクラウドの利用が加速度的に広がっていく中、我々のように社内の情報システムを管理する立場としても深い知見があった方がよいと常々考えていました。そこで、今後の大阪ガスの情報インフラのあるべき姿を見据える意味で参加させていただくとにしました。」(田邉さん)

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(ASL 終了時の一コマ)

「オージス総研では、大阪ガスも含めた他社のクラウド導入支援や共同開発という活動をしています。私自身はその中でいくつかの機械学習モデルの実証実験に携わってきたのですが、その性質上、実際のシステムとして継続的に運用することについてはほとんど知識がありませんでした。そんな中、大阪ガスからお声がけいただき、実際の運用まで想定した機械学習プロジェクトについて学ぶことができると考え、ASL に参加させていただくことになりました。」(矢野さん)

ASL にはこの若手メンバー 4 名に加え、國政さん、青木さんの計 6 名で参加。2019 年 11 月から 12 月にかけて、約 1 か月みっちりと AI の基礎と応用について学ぶことができ、それぞれの課題についても大きく解決に向かったと言います。

「実践的な実装テクニックを学べたのも良かったですが、印象的だったのは学習フェーズ最初の方の機械学習プロジェクトの取り組み方でした。最初に、何を解決したくて、システムがどう使われるのか、そのためにはどんなデータを用意しなければいけないのか、を明確にする。それによってトレーニング期間中、最終ゴールを見据えて取り組むことができました。」(矢野さん)

「ASL を受講したことで、機械学習技術の活用を現実的に考えられるようになったのは大きな成果でした。“AI” というものを、どこか抽象的な万能なものという捉え方でなく、具体的にどんなことが、どの程度の労力でできるかが理解できたので、ビジネスの企画をやりやすくなりました。何より、それを自社内で開発をしてみようという考えを持てるようになったのは大きな変化だと思います。」(青木さん)

IoT 分析基盤から新規サービス(アプリ)の開発などまで、Google Cloud の導入検討からわずか 1 年で、すでに多くの成果をあげつつある大阪ガス。今後のさらなる Google Cloud の活用拡大について國政さんは次のように語ってくださいました。

「PSO や ASL の利用も含め、Google Cloud を活用したことで、当社はこれまでできなかった大規模データを扱うサービスの開発が可能となりました。今後は、引き続きこれらのサービスのビジネス実装や、さらなるサービスの創出を実施していきたいと考えています。」(國政さん)

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(写真は Google Meet によるインタビュー時の様子から)

大阪ガス株式会社
・情報通信部 ビジネスアナリシスセンター 國政秀太郎 氏(①)
・イノベーション推進部ビジネスインキュベーションチーム 富田翔 氏(②)
・エネルギー技術研究所 計算科学・材料ソリューションチーム 河村洋佑 氏(③)
・ガス製造・発電・エンジニアリング事業部 山下尚也 氏(④)
・情報通信部 インフラ技術チーム 田邉航介 氏(⑤)
大阪ガスマーケティング株式会社
・商品技術開発部 リビング電力ソリューションチーム 青木拓也 氏(⑥)
株式会社オージス総研
・技術部 アドバンストテクノロジセンター 矢野隆弘 氏(⑦)

大阪ガス株式会社
関西 2 府 5 県の家庭および企業に都市ガスを供給する国内 2 位のガス会社(1897 年創業)。主力となる国内エネルギー事業では都市ガスに加え、1995 年には電力事業にも進出。2016 年 4 月からの全面自由化を受け、電力小売事業にも参入している。その他、不動産開発や情報サービスなど、ライフ&ビジネスソリューション事業も展開。従業員数はグループ連結で 2 万 543 名(2020 年 3 月末時点)。


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