検索から「ささげ」業務まで。オンワードが Google Cloud の生成 AI で実現する EC サイトの全方位改革

Google Cloud Japan Team
アパレル大手「オンワードホールディングス」のデジタル戦略を担う中核企業として公式通販サイト「ONWARD CROSSET」の運営・開発やデジタルマーケティングを一手に引き受けている株式会社オンワードデジタルラボ(以下、オンワードデジタルラボ)。
実店舗と EC を融合させる「OMO」戦略や DX を推進し、新しい購買体験を創出しています。
今回は、オンワードデジタルラボ イノベーショングループの森田氏と久村氏にお話を伺い、同社が推進する Google Cloud を活用した EC サイトの変革について詳しくご紹介いたします。
Vertex AI Search for commerce で実現する、言葉の意味を理解した検索体験とパーソナライゼーション
オンワードデジタルラボの運営するECサイト(ONWARD CROSSET)では、月間約 10 万回以上に及ぶ商品検索が行われています。この検索機能を改善することで、顧客の購買体験を向上し、更にビジネスを加速することできると考え、Google Cloud の Vertex AI Search for commerce の導入を決定しました。
導入の決め手は、”ユーザの意図を汲み取った検索機能” だと森田氏は話します。「従来の検索エンジンでは、商品名や商品説明に記載されたキーワードのみに依存していたため、表記のゆらぎなどがあった際に、顧客が求める商品にたどり着けないという課題がありました。Vertex AI Search for commerce は、Google 検索のように意味を理解したセマンティックな検索が導入されているので、キーワードでマッチしなかったとしても、意図どおりの商品にたどり着けることが増えました。」
顧客が自然な言葉で商品を検索できるようになった結果、AB テストでは検索あたりの購入金額が 14.2% 向上するという具体的な数値も確認できました。更にデータが溜まることで、個々の検索履歴や購買履歴に基づいたパーソナライゼーションが可能になり、更に欲しい商品にたどり着ける検索体験が実現できていると話します。


今後、Vertex AI Search for commerce の機能を使って、更に検索体験を向上していく見込みだと話します。例えば、アパレル分野では、トップスやパンツなどのカテゴリ単位での検索が多く見られますが、現状の表示結果は一律の絞り込みが適用されており、個々のユーザーに完全に最適化されているとは言えません。今後は、過去の購買履歴や閲覧履歴に基づき、ユーザーにとって最適な商品やカテゴリが優先的に表示されるよう改善を進める予定です。また、Vertex AI Search for commerce の機能を活用することで、Google 検索のように、検索ワードに応じてトレンド感のある絞り込みキーワード(ファセット)を動的に表示する機能の実装も検討しています。これにより、ユーザーはより直感的かつ快適に商品を探すことができ、コンバージョン レートのさらなる向上が期待されます。
Gemini や Veo、Nano Banana を活用し、EC 運営の要である「ささげ」業務を劇的に効率化
EC サイト運営において非常に重要かつ負荷の高い業務に「ささげ(撮影・採寸・原稿)」があります。オンワードデジタルラボでは、この業務プロセス全体に生成 AI を組み込むことで、劇的な効率化と品質向上に取り組んでいます。
AI 導入にあたり、社内認知及びユーザー獲得のために、GoogleCloud オフィスでのワークショップ(50 人弱)を実施し、実務で影響があるブランド側の EC 担当者にも体験してもらい、直接レビューをもらいました。そこで、有効性が確認できたので生成 AI に AIme(アイミー)という独自のサービス名をつけ、機能もオンワード用にカスタマイズしながら、社内リリースを実施しました。まず、「原稿(商品説明文)」の作成においては Gemini を活用しました。従来はブランド担当者によって文章の品質にばらつきがありましたが、Gemini の導入により、商品説明文の作成時間が最大 5 割程度短縮されただけでなく、表記ゆれや事実誤認の修正も自動化され、コンテンツのクオリティとコンプライアンス遵守の両面で向上が見られました。
「撮影(画像・動画)」の領域では、Imagen や Gemini 2.5 Flash Image(Nano Banana)といった最新技術が活用されています。
商品画像を 1 枚撮影するだけでも小物の用意などで多大なコストがかかります。AI を活用して画像の背景を変更することで、今まで表現したくてもしきれなかったようなブランドの世界観を容易に再現できるようになりました。
更に画像の編集にも AI を活用します。他社から提供される商品画像の画質やアスペクト比の調整を Nano Banana を活用して行うことで、再撮影の手間を減らし、これにより年間 200 万円程度のコスト インパクトが出ると試算されています。


また、動画活用に関しては、スーツ主力のメンズブランド「五大陸」において、モデル着用画像や商品単体画像から動画を生成する Veo の検証を行っています。スーツのような単価の高い商品は、購入の意思決定に多くの情報を必要とするため、動画によるアプローチは非常に有効です。一方で、ユーザに誤解を与えてしまわないよう、ハルシネーションによる誤情報を防止するなど、越えるべきハードルも存在します。オンワードデジタルラボでは引き続き、社内の関係各所と連携しながら、リスク管理を徹底しつつ、活用方法の模索を続けています。


インタビュイー(写真左から)
株式会社オンワードデジタルラボ
イノベーショングループカスタマーサクセスDiv. 森田 潤 氏
イノベーショングループカスタマーサクセスDiv. 久村 直雄 氏
株式会社オンワードデジタルラボ
オンワードグループのデジタル戦略を担う中核企業として、グループ全体の DX 推進および EC 事業を統括。 公式通販サイト「ONWARD CROSSET」の運営に加え、実店舗とデジタルを融合させる OMO 施策を主導しています。 ファッションの知見と高度な技術力を掛け合わせ、顧客体験の革新とビジネスの成長を支えています。
株式会社システムサポート
Google Cloud の認定パートナーとして数多くの生成 AI 案件の実績を持ち、今回の事例では Vertex AI Search for commerce の導入、 Gemini 2.5 Flash Image(Nano Banana)、動画生成 AI Veo の実装を行いました。



