経産省 / NEDO: Google Cloud を 生成 AI 基盤開発のリソースに採用、GENIAC 参加企業の開発力を強化しグローバルな競争力も向上

Google Cloud Japan Team
経済産業省(経産省)と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2024 年 2 月より国内企業の生成 AI の開発力強化を目的とした新たなプロジェクト、「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」を推進。参加を希望する企業から技術開発計画を募り、生成 AI の基盤モデル開発に不可欠な GPU などの計算資源の確保や、ノウハウと人脈のネットワーキングなどさまざまな支援を行いながら、日本発の新たな AI 技術開発をサポートしています。初回となる 1 サイクル目(2024 年 2 月〜 8 月)の技術開発には 10 社が参画。Google Cloud が提供した GPU を活用して、大きな成果を上げました。GENIAC の取り組みについて経産省と NEDO の担当者、参加企業の開発責任者に話を伺いました。
利用しているサービス:
Cloud GPU, Compute Engine, Google Kubernetes Engine, Filestore, Cloud Storage, Virtual Private Cloud(VPC)
利用しているソリューション:
インフラストラクチャのモダナイゼーション
GENIAC が推進する AI 開発支援施策と、Google Cloud が協力企業として選ばれた理由
近年、非常に高い注目を集めている技術の 1 つに生成 AI があります。GENIAC は、国内企業の生成 AI の開発力強化を目的としたプロジェクトとして、経産省と NEDO によって発足。NEDO が実施している「ポスト 5G 情報通信システム基盤強化研究開発事業」を活用して、開発計画を広く募ったうえで参加企業を公募・選定し、精力的な支援を行っています。具体的には、生成 AI 開発の中核である、基盤モデル構築に必要なリソースの提供(高性能な GPU の確保と利用料金負担)、参加企業間のナレッジ共有、データ利活用の促進という 3 つの施策を軸に、技術開発を多角的にサポート。実施期間を約 6 か月単位のサイクルで段階的に分け、参加企業の陣容や支援体制、開発内容を充実させていく試みです。
経産省 商務情報政策局 情報産業課 情報処理基盤産業室長(現 AI産業戦略室長)の渡辺 琢也氏は、生成 AI に注目した理由、そして GENIAC 設立の狙いを次のように語ります。


「2023 年 5 月に登場した生成 AI は、内燃機関が人類に移動の自由を与えたり、インターネットが情報の自由を与えたりしたのと同じように、大きなインパクトを我々に与える可能性を秘めています。新たな技術の登場は、新たな社会の豊かさを創出するチャンスでもあります。日本企業は、創造的で、切磋琢磨しあう文化を背景に生産性を向上し続けてきました。この伝統的な強みをさらに生かし、生成 AI においてもグローバルな競争力を育むべく GENIAC をスタートさせました。」
渡辺氏によれば、GENIAC の開始にあたり課題となったのは AI 基盤モデルの開発で鍵を握る GPU などをいかに確保するかでした。
「最近では生成 AI の普及により、高性能な GPU の確保が世界的に困難になってきています。日本国内においても、個々の企業がクラウド事業者にアプローチしても、計算資源を確保するのが難しいのが実情です。GENIAC ではこの問題を解決すべく、まず 2023 年 11 月から複数のクラウド事業者に打診を行い、利用できる計算資源を比較検討をしました。その結果、Google Cloud から最も多くの GPU を提供いただけることがわかりましたので、主軸として支援いただくことにしました。協力企業を選定する際には、確保可能な GPU の台数だけでなく、通信速度の速さや UI などのわかりやすさ、開発のしやすさといった要因ももちろん加味したうえで、総合的に判断しました。」
ほぼ時を同じくして参加企業の公募もスタート。経産省と共に GENIAC を統括した NEDO で AI・ロボット部 部長を務める高田 和幸氏は、選考プロセスをこう振り返ります。


「参加企業を選ぶ際には、開発する技術の先進性、技術を社会に実装する事業化計画の具体性を重視し、外部の識者とも相談しながら 10 社を選びました。中には Google Cloud のサービスや製品を本格的に使うのが初めてだという企業もあったので、アイレット株式会社にサポートをしていただきました。アイレットは、 Google Cloud プレミア パートナーとして多くの事例に関わってきた経験と豊富な知見を持っています。Google Cloud のサポートチームと連携しながら、具体的な使い方やデータ収集方法などを参加企業にトランスファーしてもらえたので、本当に助かりました。」
各社独自のアイデアと技術力を生かし、競争力ある生成 AI 基盤モデルの開発に成功
GENIAC の 1 サイクル目に参加した10 社は、「自然言語処理 AI」や「マルチモーダル基盤モデル」「生成 AI による完全自動運転車の実現」などに取り組み、顕著な成果を収めました。
たとえばストックマーク株式会社は、自然言語処理 AI を活用した企業向けの情報収集、資料作成支援サービスを提供する企業です。GENIAC では、ハルシネーション(もっともらしい嘘)を抑止できるビジネス用途のテキスト生成 AI「Stockmark LLM」をゼロから開発。取締役 CTO の有馬 幸介氏は、強い手応えを感じていました。
「参考事例がほとんどないにもかかわらず、GENIAC では 1,000 億パラメータに及ぶ大規模言語モデル(LLM)の事前学習を完了させ、『Stockmark LLM』を公開できました。特定ベンチマークでは、すでに目標スコアを達成していますが、ハイパーパラメータの最適化や指示追従性向上などを通して事前学習の速度を上げていくなど、技術的な伸びしろがまだまだあると感じています。」
マルチモーダル基盤モデルの開発と提供に取り組む株式会社Preferred Elements(2025 年 7 月 1 日付で株式会社Preferred Networks に吸収合併)は、データ構築学習手法の確立や高効率な大規模学習の実現、マルチモーダル化を見据えた国際的競争力のある LLM を構築できる技術基盤を確立。日本語性能の高い生成 AI 基盤モデル「PLaMo」 のトライアル API を公開しました。代表取締役社長の岡野原 大輔氏は、新たな事業計画や開発計画をすでに練り始めています。
「世界最高クラスの日本語性能を持つ PLaMo は、2024 年秋には商用ライセンスを展開する計画で、製造業、素材産業、医療、金融などの専門領域での応用を目指します。その技術を応用して SLM(Small Language Model)や画像モーダル、音声モーダルなどにも対応していく計画です。」
さらに、生成 AI による完全自動運転車の実現を目指すTuring株式会社では、GENIAC で自動運転視覚-言語モデルの「Heron」を開発。今後は現在の交通状況と経路情報を基盤に、未来の予測結果を出力できる生成モデルの開発に注力していく予定です。CTO の山口 祐氏は Heron の性能の高さを解説してくれました。
「GENIAC では高速な並列分散学習ライブラリを開発することにより、最大 730 億パラメータの視覚-言語マルチモーダルモデルを構築し、日本語総合スコア 0.799(JGLUE スコア)、視覚-言語の総合スコア 88.1(Japanese LLaVA-Bench COCO)、運転免許試験正答率 81.1%(普通自動車免許学科試験)という国内最高水準の性能を達成することができました。」


(GENIAC 1 サイクル目で Google Cloud を利用した参加企業)
参加企業への支援強化、開発成果を生成 AI 技術のさらなる高度化につなげるために
2024 年 4 月には、GENIAC が主催する有識者イベントがオンラインで開催。Google DeepMind から招かれたエンジニアが LLM に関する講演を行い、参加企業の関係者ほか 60 名近くが AI に関する知見を深めました。また、開発者とユーザー企業のマッチングイベントも行われ、 40 件弱の商談が行われています。渡辺氏は GENIAC がもたらした効果、ならびに Google Cloud を採用したメリットを高く評価していました。
「今回、すべての参加企業が開発目標を達成できたことは、大きな収穫となりました。このような成果は、Google Cloud に計算資源を提供いただいた効果も物語っていると思います。GENIAC の 1 サイクル目は生成 AI 開発の『基礎体力作り』を進めるフェーズでした。次のフェーズでは参加企業への支援強化、ならびにユニークなデータに基づく開発と利活用を通じて得た成果を、生成 AI 技術のさらなる高度化につなげる好循環の実現に取り組む予定です。」
2024 年 10 月からは、GENIAC の 2 サイクル目がスタート。基盤モデル開発の新たなテーマ 20 件と、データ利活用に向けて実証を行うテーマ 3 件が採択されています。Google Cloud は技術開発から利活用、さらなる進化までのライフサイクルで、各種リソースをより簡単でスムーズに活用できる環境や、参加企業に一層寄り添ったきめ細かなサポートを提供していく予定です。
生成 AI 技術では自動車や物流、ヘルスケア、観光など、幅広い分野で利用するためのマルチモーダル化を進めていくことも重要になってきています。最後に高田氏は、このような技術的な傾向を見据えたうえで、意欲的な取り組みを支える基本方針を改めて強調しました。
「生成 AI 開発の競争力を高めていくことは、1 社でできる取り組みではありません。むしろ参加企業全社でデータを集め、学習を重ね、導き出された答えを管理・活用していくことが重要です。GENIAC は参加企業が 1 人勝ちを目指すプロジェクトではなく、密にコミュニケーションを取りあいながら、日本の生成 AI 技術全体を共創していくプロジェクトです。この目標を実現するために参加企業や Google Cloud をはじめとする支援企業と、一層連携を深めていきたいと考えています。」


経済産業省
日本国政府の行政事務を担当する機関の 1 つ。1949 年 5 月、日本経済の再生を担う新たな省庁として、前身となる通商産業省が設置され、2001年1月より経済産業省に改称。「未来に誇れる日本をつくる。」というミッションに基づき、経済、産業の発展、および鉱物資源、エネルギー資源の供給に関する行政を所管。産業の力を活用することで世界と日本の課題を解決し、経済的豊かさ・経済力の獲得を通じて、国富の拡大に取り組んでいる。
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
1980 年、新エネルギー・省エネルギー技術開発の先導役として創設。持続可能な社会の実現に必要な研究開発の推進を通じて、イノベーションを創出する国立研究開発法人。「エネルギー・地球環境問題の解決」「産業技術力の強化」をミッションに掲げ、リスクが高い革新的な技術の開発や実証を行い、成果の社会実装を促進する「イノベーション・アクセラレーター」として社会課題の解決を目指している。
インタビュイー(写真右から)
・経済産業省
商務情報政策局 情報産業課 AI産業戦略室長 渡辺 琢也 氏
・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
AI・ロボット部 部長 高田 和幸 氏
アイレット株式会社
(Google Cloud パートナー)
2003 年に創業。2010 年からクラウド事業を開始し、先進性の高い IT ソリューションを提供するパートナーとして日本のクラウド ビジネスを牽引。ウェブシステム開発、スマホアプリ開発・運用、クラウドを活用したインフラ設計・構築・運用のフルマネージド サービス「cloudpack」を提供するなど、高い技術力とホスピタリティを特徴としており、2023 年 8 月時点で導入社数 2,500 社以上、年間プロジェクト数 4,300 件超の実績を誇る。
※本記事中の情報、人物の所属や役職は、2025 年 3 月末時点のものです
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