コンテンツに移動
顧客事例

蓄電池を中心としたエネルギー資源の利活用を最適化し、循環型社会を支えるデータ環境

2021年12月23日
https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/Looker_A4AwfUK.max-2600x2600.jpg
Google Cloud Japan Team

※この投稿は Looker のウェブサイトに掲載された、住友商事株式会社のケーススタディです。

総合商社である住友商事株式会社は、「脱炭素・循環型エネルギーシステムによるカーボンニュートラル社会の実現」を⽬指し、新中期経営計画「SHIFT 2023」におけるサステナビリティ経営の中核的な取組みの一つとして、「エネルギーイノベーション・イニシアチブ」を組織横断的に推進しています。

その中の1つの事業、新たな電力・エネルギーサービスの拡大を目指す⼤型蓄電事業・リユース蓄電池事業の基幹システムに、Google Cloud と Looker が採用されました。導入と活用を担当されている住友商事ゼロエミッション・ソリューション事業部の藤田康弘氏、黒澤仁晴氏、宝多燦太氏にお話を伺いました。

蓄電池の劣化監視データをどう扱うか? 

「2050 年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」というゼロ・エミッションの方針が日本政府から出され、10 月に閣議決定した第 6 次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを 2030 年断面で 36 ~ 38 %の比率(現状の約 2 倍)にまで拡大するという野心的な目標が設定されました。こうした社会の趨勢を背景にし、住友商事ゼロエミッション・ソリューション事業部では、再エネ型経済社会の実現に貢献する⼤型蓄電事業・リユース蓄電池事業の社会実装に取り組んでいます。

 事業のはじまりは、2010 年に遡ります。住友商事と日産自動車株式会社とのパートナーシップで設立された 4 R エナジー社は、電気自動車の使用済み蓄電池を回収し、リユース蓄電池として再利用する事業に取り組んでいます。一方で、住友商事は、4 R エナジーのリユース蓄電池を活用した蓄電池システムの大型化開発を進め、国内の複数か所で、様々なビジネスモデルを想定した大型蓄電事業の運用経験を積み重ねてきました。

蓄電池は利用の仕方によって劣化のスピードが変わります。そこで同社では、劣化の少ない最適な利用のため、蓄電池の利用状況や劣化の監視データを蓄積してきました。

「当時のシステムは、開発を担当した関連会社のデータセンターにデータを蓄積し、加工・分析していました。電池劣化状況をリアルタイムに見ることはできましたが、蓄電池の運用方法の変更に柔軟に対応し、いろいろな角度からデータを分析するというニーズには応えられていませんでした。」(藤田氏)

 発電量が予測できない再エネの比率が増えていくと、エネルギーの需給管理はますます難しくなり、電力の安定供給のために大型蓄電池の運用方法が、複雑で高度なものに変化していきます。このエネルギー業界の市場環境変化を見据えて、同社ではシステムの刷新に着手しました。

「将来的には、扱うデータの量が加速度的に増え、共にビジネスを進めていくパートナーも拡大していくことになります。データ活用をよりフレキシブルにスケールアップし、さらに、過去のトレンドから市場変化を予測し、蓄電池システムの運用を最適化する必要がありました。そのための検討を行い、Google のシステムに移行をすることにしました。」(藤田氏)

蓄電池運用及び劣化状態の監視、さらに市場変化の分析と予測については、Google Cloud へ短期間で移行し、BigQuery をデータ分析基盤とする。BI ツールとしては Looker を使うという方針が決まりました。この移行にあたっては、Google の本社を訪問し、エネルギー分野における Google の取り組みについて理解を深めたことが大きなきっかけになりました。

「出来ないと思っていたことが出来る。そのことをサンノゼで見せてもらいました。エネルギー需要家側(使う側)に数千個のセンサーを設置して膨大なデータを取得し、機械学習や AI で分析をしていく。人間がやるよりも賢く、しかも安く、最適化を進めていく Google の取り組みを見て、これまでの常識を超える新しいことができるということを確信しました。帰国してすぐ、このシステム移行に着手しました。」(藤田氏)

「データ体験」を社内外に広げていく

 2020 年 12 月、Google Cloud とLooker が導入されました。これにより、鹿児島県甑島(こしきしま)の大型蓄電池と島に点在する複数の再エネ及び送配電データが Looker 上で可視化されました。

 さらに、国内電力市場のデータ分析のため、電力のトレードマーケットである日本卸電力市場、および 2021 年 4 月からはじまった電力の需給調整市場の過去データも Looker 上で可視化。価格や電力需給の変動を Looker 上で見ながら、ビジネスの可能性を探っています。

「Looker でダッシュボードを扱いながら見たいデータを自由自在に分析できる。アイデアさえあれば本当にいろいろなことが実現できるという期待感がありますね。」(宝多氏)

 社内、そして社外とのコミュニケーションも変化してきています。例えば会議中、電力市場のデータを元にシミュレーションを行うことができるようになりました。どのタイミングで電力を売買すれば、どれだけの収益になるか、そうしたことを会議中に Looker の画面を見ながら検討できるようになったのです。

 また、お客様の電力データを Looker で共有することにより、設置すべき最適な蓄電池や太陽光発電の大きさなどを、素早く的確に提案できる環境も整ってきました。

「エネルギー分野に弊社が取り組むときには、ここまで真剣にデータ分析をやっているというアドバンテージを示せます。これは、社外にパートナーシップを広げていく際の強みにもなるでしょう。」(宝多氏)

 最も大きな変化として藤田氏が指摘したのは、「データ体験」です。

「基本的に、商社のデジタルトランスフォーメーション( DX )はまだまだこれからでしょう。しかし Looker が導入されたことで、我々のチームはいろいろなシステム、センサーから集めたデータを合わせて 1 つのダッシュボードから見ることができるようになりました。」(藤田氏)

「入社して数年の従業員が Looker のダッシュボードを通して、いろいろな角度から、自分のアイデアを反映してデータを見られる。こうした『データ体験』をチームメンバー、そして社内のメンバーに持ってもらいたい。まだはじまったばかりですが、データへの意識は確実に変わってきています。」(藤田氏)

外と繋がり、ビジネスを広げるデータプラットフォーム


黒澤氏はビジネスのスケーラビリティを評価します。

「Google Cloud と Looker によって、ビジネスが確実にスケールアップしやすくなったと感じています。これまでは社内だけでデータ管理を行っていたために外に開いていけませんでしたが、外と繋がりやすくなって可能性の扉が開けたと感じています。」(黒澤氏)

 今後の展開として見据えるのは、より大きなビジョンの実現です。

 CO₂ の排出元は、自動車などのモビリティと火力発電などの発電部門という 2 大要因が全体の ¾ を占めています。これをゼロにするためにサーキュラー・エコノミーをつくる。それが、住友商事の掲げる「エネルギーイノベーション・イニシアチブ」のひとつのビジョンです。

 サーキュラー・エコノミーは日本語で「循環経済」と訳されます。大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としていたこれまでの経済から、3 R(削減:Reduce、再利用:Reuse、再生:Recycle)を基本にし、資源を循環しながら新たな価値を生みだしていく経済のありかたを指します。

 蓄電池のリユース事業で、安価な電池を社会に提供し、再生可能エネルギーの活用を増やす。再生可能エネルギーで発電した電気で EV が動く。それにより、ゼロエミッションエネルギーの大きな循環が生まれます。

「この循環における全てのポイントをトラッキングしてデータを集め、最適な活用を実現する仕組みを Google のプラットフォームと Looker で実現しようと、一歩一歩進めているところです。この大きなゴールに向かって、仲間を増やしていきたいですね。社内では、Looker を使ったデータ体験を増やして事業を広げていく。社外では、国内の電力メジャープレーヤーとパートナーシップを結べる可能性が見えてきていますし、海外とも関係を拡大してサーキュラー・エコノミーを実現したいと思います。」(藤田氏)

 データ分析と意思決定が最適化され、地球上の資源とその利活用が循環する未来の社会。その実現に向けて、住友商事が手がけるビジネスは、大きな希望になりそうです。

投稿先