一休: Google Cloud 移行でレガシーな開発環境から脱却し、作業効率化とサービス品質の向上、ビジネスの成長を実現

Google Cloud Japan Team
高級ホテル・旅館を中心とした宿泊予約サイト「一休.com」をはじめ、さまざまなサービスを展開する株式会社一休(以下、一休)の創業は 1998 年。IT 企業として長い歴史を持つがゆえに、基幹システムに旧来のテクノロジーが残るという課題を抱えていました。この問題を解消するため、同社ではクラウド サービスを使った最新テクノロジーへのアップデートを進めています。その推進役であるプラットフォーム開発チームの徳武 聡氏に、Google Cloud を活用した解決策を語っていただきました。
利用しているサービス:
Cloud Run, Cross-Cloud Interconnect, Google Kubernetes Engine(GKE), Cloud Tasks, Workflows, Memorystore など
IT 草創期に創業した老舗企業であるが故の「技術負債」という課題
一休は、オンライン宿泊予約サービスの草分け的存在として、厳選された宿泊施設やレストランを紹介し続けることで、長年にわたって多くの支持を集めてきました。しかし、同社の成長期はソフトウェア開発のテクノロジーが急速に進展した時期でもあり、その過程でシステム基盤に古い技術が残ってしまう、いわゆる「技術負債」の問題を抱えるようになりました。その解消をめざすプロジェクトが本格的に始まったのが 2015 年。以来、プロジェクトの中心メンバーとして、インフラやアプリケーション開発環境の更新作業を担ってきたのが、同社の CTO室 プラットフォーム開発チームの徳武 聡氏です。


「私が関わる以前から改善は進んでいたものの、インフラもアプリケーションの開発体制も十分に最適化されているとは言えない状況でした。主力サービスはレガシーな言語や技術で構築されており、同じ機能が複数実装されるといった混乱も見られました。そこで、モノリシックなアーキテクチャをサービス単位で分割し、整理・集約する取り組みを進めました。そのうえで、切り出した機能を新しい技術へ置き換えることで、段階的にプロダクトを新しくしていくという方針を採りました。」
当時、同社ではオンプレミス環境でインフラを構築し、保守も自社エンジニアが担っていました。しかし、ハードウェアの調達からシステムの構築まで 2 か月近くの時間を要し、製品のライフサイクルによっては同じ機器が手に入らなくなるといった問題も起きていました。
「エンジニアが本来注力すべき業務に時間を割きたくても、メンテナンス作業に多くの時間を取られてしまう状況でした。それを改善するため、アプリケーションの刷新と並行して、クラウド サービスへの移行を進めることにしたのです。導入にあたっては、物理環境をそのままクラウドに移すのではなく、アプリケーションやビルド・デプロイのパイプラインを、クラウド向けに最適化するように工夫しました。クラウド導入の真のメリットは、それを機にシステム全体をより効率的に運用できるようにした点にあったと言えるでしょう。」
最先端の世界にキャッチアップするため Google Cloud へ移行
クラウド環境への最初の移行は、2016 年から 18 年にかけて実施。その後もインフラ更新は継続的に進められました。しかし、クラウド サービスやアプリケーション基盤は急速に進化しており、導入直後からすでに基盤が古くなりつつあるという危機感も生まれていたといいます。
「当時は仮想マシンにそのままアプリケーションをデプロイして動かしていました。しかし、2019 年頃には当社のアプリケーションにとってコンテナベースの実行基盤を採用することに明確な利点があることがわかりました。そこで、Kubernetes への移行を実施しました。」
徳武氏はまた、クラウド各社の最新動向も調査していました。すると、コンテナ実行基盤は一層の抽象化やマネージド サービス化が進み、下層レイヤを意識しない運用が主流になりつつあることがわかってきました。
「この流れをキャッチアップしようと各社のサービスや導入事例を調べてみたところ、Google Cloud の Cloud Run に一日の長があることが見えてきました。
Cloud Run と Cloud Run Jobs を活用すれば、ウェブ アプリケーションのワークロードとバッチ処理のワークロードを同じ枠組みで扱える、という点に魅力を感じ、さっそく使ってみることにしました」


試しに新規プロダクトで Cloud Run を利用してみたところ、順調に立ち上げることに成功。この成功を踏まえ、プロダクト単位で、Google Cloud への移行を行いました。すでに Kubernetes での運用実績があったため、Cloud Run への移行は順調に進みました。ただし、懸念点もあったといいます。それが、マルチクラウド環境におけるクラウド間通信でした。
「従来のクラウドも当面は併用する必要があり、その間の通信速度がアプリケーション性能に直結する点を慎重に見極める必要がありました。移行当初は、あるベンダーのクラウド間接続サービスを使っていたのですが、高トラフィックな処理で思ったより性能が出ない、という状況で頭を抱えていました。すると、ちょうどそのとき、Cross-Cloud Interconnect が正式リリースされたのです。さっそく試してみたところ、性能が大きく改善しましたので、すぐに採用を決めました。Google Cloud の導入にあたっては、他にも Cloud Run 特有のパラメータなど、気をつけなければならない点がいくつかありましたが、その都度 Google Cloud のアカウント チームとミーティングを行うことで、解決することができました。我々エンジニアが必要としていることを的確に理解してくれて、対応も迅速なので、とても助かっています。」


プロダクト開発チームの作業効率を高め、さらに良質なサービスの提供に貢献
Google Cloud への移行によって得られた効果のうち、徳武氏が特に大きいと感じているのが、エンジニアの負担軽減です。プラットフォーム開発チームはインフラの保守管理から解放され、プロダクト開発チームの作業効率も改善されました。
「最大の成果は、プロダクトを開発するエンジニアがアプリケーションの運用環境をより理解しやすくなったことです。Google Cloud は管理画面も非常にわかりやすく、どこにどんなツールがあって、どう使えばいいか、直感的に把握できます。これによって、サービス運用に関する認知負荷が下がり、エンジニアの頭の中に、思考の余裕が生まれます。それがより良いプロダクトの開発やオペレーションの効率化につながり、ひいてはビジネスの発展にも結びつくと考えています。」
一休はテレビ番組などマスメディアで紹介される機会も多く、突発的なアクセスの増加が時折発生します。そういった場面でも、優れたオート スケーリング機能を持つ Google Cloud の強みを実感しているといいます。最後に徳武氏は、Google Cloud の今後への期待感を次のように語ってくれました。
「よりシンプルかつ安全で信頼性の高いクラウド インフラを構築したいです。そうすることで、エンジニアはさらに安心して開発に集中できます。今後も最新技術の動向を追いながら、Google Cloud をより活用していきたいと考えています。現在はマルチクラウド運用ですが、将来的には可能な限り Google Cloud に集約する方向で検討を進めています。」


1998 年の創業以来、「こころに贅沢させよう。」をコンセプトに掲げ、宿泊予約サービスの「一休.com」をはじめ、「一休.com レストラン」「一休.com スパ」などさまざまなウェブサービスを提供してきた IT 企業の老舗。「一休.com」では、すべてのホテルや旅館に対して審査を行い、掲載施設を厳選。高級・上質な体験を求める会員から高い支持を得ている。現在はLINEヤフー株式会社の傘下に入り、「Yahoo! トラベル」の運営も行うなど、グループ会社間の相乗効果を活かして事業を展開する。
インタビュイー
CTO室 プラットフォーム開発チーム 徳武 聡 氏
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