すかいらーくグループにおける生成 AI 活用: 店舗オペレーションの変革とデータ民主化への挑戦

Google Cloud Japan Team
「ガスト」や「ジョナサン」「バーミヤン」など 20 以上のブランド、計約 3,000 店舗を運営展開、年間約 3.5 億人の来訪客を迎える日本を代表する外食チェーンのすかいらーくグループ。その運営母体である株式会社すかいらーくホールディングス(以下、すかいらーく)ではデジタル技術を活用した店舗の業務改善や、データドリブン経営の推進に積極的に取り組んでいます。今回は、生成 AI を活用したユニークな店舗施策である「いらあり(挨拶あり)」プロジェクトと、組織全体でのデータ活用を加速させる「Gemini in BigQuery」の活用事例について、その背景や開発の裏側、そして得られた成果について、マーケティング本部の池田氏と藤本氏にお話を伺いました。
店舗業務の効率化が進む中、「挨拶」をテクノロジーで可視化
すかいらーくグループが現在推進している「いらあり」プロジェクトは、店舗における「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」という基本の挨拶をデジタル技術で計測し、サービス品質を向上させる取り組みです。昨今、店舗では配膳ロボットやセルフレジの導入が進み、業務効率が飛躍的に向上している一方で、お客様とスタッフとの物理的な接点が減少しているという課題感がありました。そこで、限られたお客様との接点の中で最大限のホスピタリティを発揮するため、基本である挨拶を気持ちよく行えているかを客観的に計測するプロジェクトが立ち上がりました。
具体的には、店舗に元々置いているデバイスを活用し、店舗スタッフの発話を Gemini などの AI で分析します。その際、24 時間分のデータを全て分析するのではなく、店舗の AI カメラとの連携などを通し、必要箇所のみ抽出する工夫が行われています。
分析結果として得られた、発話率や挨拶のクオリティは、営業チームと共有し、効果の検証を進めています。
開発にあたっては、Google Cloud が提供する「Technical Acceleration Program(TAP)」を活用しました。これは通常のワークショップとは異なり、Google Cloud のエンジニアとすかいらーくの担当者が、アーキテクチャ ディスカッションを経て、その場でプロトタイプまでを作り上げる実践的なプログラムです。当初、独自に開発を進めた場合 2〜3 か月かかると想定されていた工程が、この TAP を利用することでわずか 2 日間で構成のディスカッションからプロトタイプ作成まで完了し、圧倒的なスピードでプロジェクトを加速させることができました。「ここまでのスピード感で進められた事は圧倒的なメリットでしたが、技術的な観点でも非常に大きな転換になりました。例えば、従来のやり方を踏襲するならば、一度音声データを Cloud Storage などに置いて、プログラムから処理するというやり方を採用していたかと思います。しかし、今回のディスカッションを通して、最終的には BigQuery から直接 Storage のデータを書き起こし処理まで行うなど、最新の機能を踏まえたよりシンプルな構成で実現できるという結論に至ることができました」と池田氏は話します。
現在、検証段階のこのプロジェクトには、まだ発話の見逃しやスコア生成の精度に課題が残っています。今後は、蓄積されたデータをもとにさらなるプロンプト調整を行い、低コストかつ高精度な店舗オペレーション分析基盤として完成度を高めていきたいと考えています。


業務部門が自らデータに触れる。「データの民主化」がもたらす意識変革
もう 1 つの大きな柱が、Gemini in BigQuery を活用したデータ活用のプロジェクトです。この取り組みは、これまで一部の専門部署に閉じていたデータを組織全体で活用 / 分析できるようにし、「デー タの民主化」と「業務効率の抜本的改善」を実現することを目的としています。2025 年 8 月から 11 月にかけて実施された PoC(概念実証)では、3 つのユースケースを対象に、生成 AI とデータ分析 基盤を融合させた新たな業務フローの検証が行われました。
BigQuery の AI 関数(Gemini)を活用し、自社の1st Party データに加え、Web 上のリアルタイム情報(自社や 他社のキャンペーン、トレンド、気象実績や予報など)を掛け合わせた高度な分析が可能になりました。
これを受け、マーケティング本部では売上分析の高度化に着手しました。 従来、「売上が 5% 下がった理由」 を特定するには、天候、販促影響、メニュー改定、前年実績といった多岐にわたる要因を個別に調査する必 要があり、多大な労力を要していました。 現在は Gemini in BigQuery を活用することで、こうした複合的な 要因について Gemini の膨大な知識を活用して、自然言語で多角的に分析をすることができるようになりました。
また営業本部では、約 3,000 店舗におよぶ PL(損益計算書)分析において Gemini in BigQuery を活用 しています。
取り組みの第一歩として、従来 表計算ソフト で個別管理され、閲覧範囲も限定的だった店舗別 PL データを BigQuery へ集約しました。これにより、顧客対応やマーケティング部門が収益と各費用項目の相関関係を 直接分析できるようになり、サービス向上や業務改善につながる新たな価値創出が期待されています。
藤本氏は次のように語ります。 「データの民主化により、ビジネスの現場担当者が直接データに触れ、試行錯誤(トライ アンド エラー)を繰り返せるようになりました。これは非常に意義深いことです。例えば『ここの数字に違和感がある』といった現場ならではの肌感覚や知見を、即座に分析へ反映できるからです。また、担当者自身が手を動かして改善まで繋げられる点は、分析業務を『自分事』として捉える意識変革にも寄与していると感じています。」
店舗開発の分野では、これまで現場のプロフェッショナルが、表計算ソフトと長年の「暗黙知」を頼りに、新規出店候補の売上予測を行ってきました。
今回のプロジェクトでは、Gemini in BigQuery の「Data Science Agent」を導入しました。これにより、データ サイエンティストではない現場のビジネス ユーザー自らが、トライ アンド エラーを繰り返しながら予測精度を高めていくプロセスが実現しました。
プロジェクトの中では、「街路樹が視認性を遮る」「駐車場の配置が重要」といったベテラン社員ならではの 経験則を用いて、AI の予測結果を人間が補正する場面もありました。 現在はさらなる精度向上に向け、こうした経験則(暗黙知)自体を可能な限り「数値」として取り込み、分析モデルに組み込むことで、より高度なデータドリブン経営の実現に取り組んでいます。
技術と業務の垣根がなくなったことで、社員が主体的にデータに向き合う土壌が育まれ、まさに「データの民主化」が形になりつつあります。今後は社内での成功事例を積み重ね、この新しい文化を組織全体へ浸透させることで、すかいらーくの変革をさらに加速させていきます。


インタビュイー(写真右から)
株式会社すかいらーくホールディングス
マーケティング本部
池田 裕
藤本 祥恵
株式会社すかいらーくホールディングス
『価値ある豊かさの創造』という経営理念と「ひとりでも多くのお客様に 安くておいしい料理を 気持ちのよいサービスで 快適な空間で味わっていただく」というミッションのもと、ガスト、バーミヤン、ジョナサンなど、約 3,000 店舗を展開し、年間約 3.5 億人のお客様が来店。
株式会社システムサポート
Google Cloud の認定パートナーとして数多くの生成 AI 案件の実績を持ち、「いらあり」プロジェクトでは Gemini 2.5 Flash を利用し「文字起こし・検出」の精度をさらに向上させるための有効なアプローチと「スコア生成」の評価を実施。
株式会社データフォーシーズ
データ サイエンスのスペシャリスト集団として、高度な解析技術を用いたビジネス課題の解決や DX 推進を支援する企業。今回の事例ではデータマート構築の支援を実施。



