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顧客事例

VoC( Voice of Customer )起点のバーチャルリサーチで顧客理解を高速化 - Google Cloud 活用

2026年1月23日
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Google Cloud Japan Team

日本国内におけるパナソニック家電製品のマーケティングを一手に担う、パナソニック株式会社(以下、パナソニック) コンシューマーマーケティング ジャパン本部。同本部は、製造事業部と販売現場をつなぐ結節点として、販売戦略の策定やDX推進を通じ、お客様へ継続的な価値を届ける仕組みづくりを主導しています。

その中核となるのが、「顧客理解」の深化です。今回は同本部の若松氏をお迎えし、コンタクトセンターに寄せられる膨大な VoC ( 顧客の声 )を、生成 AI とナレッジグラフを用いて「価値ある洞察」へと変える先駆的な取り組みと、その成果について詳しくお話を伺いました。

※本記事は、パナソニック株式会社による生成 AI 活用事例の第 2 弾(応用編)です。VoC 分析基盤の構築と要約への活用について解説した第 1 弾(導入編)はこちら*をご覧ください。

利用している Google Cloud サービス : Vertex AI、Cloud Storage、AlloyDB、Spanner、Cloud Run
利用しているソリューション: Gemini を活用した VoC 分析 

眠るVoCを価値へ:パナソニックが挑む顧客理解のアップデート

パナソニックの コンシューマー マーケティング ジャパン本部では、「購入後」の体験価値を高め、お客様との長期的な関係を築くための取り組みを継続しています。その中で、コールセンターには日々、膨大な VoC (Voice of Customer:お客様の声)が寄せられます。そこには、生活者の困りごとや使用実態、価値観が最も率直な形で表れており、本来はお客様理解を深めるための貴重な情報源です。

一方で、週あたり十数万件規模で蓄積される VoC の多くは自由記述であるため、必要な情報を探し出し、背景を読み解き、仮説をまとめるには大きな負荷がかかります。実際に、ログの探索・読み込み、初期仮説の形成、さらにそれを起点とした追加調査の企画・実施までを一気通貫で進めると、2 〜 3 ヵ月を要するケースもありました。価値ある VoC が存在するにもかかわらず、日々の業務の中で十分に活用し切れていない - これが私たちが直面していた大きな課題です。

こうした背景から、「膨大な VoC の中に眠る生活者の真意を、より早く、より深く捉える方法はないか」という問題意識が生まれました。前回のブログで紹介したとおり、生成 AI を活用したアプローチは有効性が確認されつつあり、 VoC を文脈ごとに理解し、洞察を引き出すための取り組みが進み始めています。

本記事では、取り組みの中心となる「AI ペルソナを用いたバーチャルリサーチ」と、その品質を支える基盤について紹介します。

VoCの新たな可能性: AI ペルソナを用いたバーチャルリサーチ

大量の VoC を読み解く従来のプロセスでは、必要な記録を探し出し、背景を推測しながら仮説を構築するという長い工程が不可避で、企画・調査全体では 2 〜 3 ヵ月を要することもありました。膨大なログの中に確かに「答えの種」は存在するものの、それを引き出すには相応の時間と専門性が必要であり、この非効率が VoC 活用の大きな壁となっていました。

こうした課題に対し私たちが着目したのが、「VoC に表れた生活者像を AI が再構成し、その視点で対話できるようにする」というアプローチです。膨大なテキストからキーワードを抜き出すだけではなく、生活者が置かれた状況や価値観を含めた「背景のストーリー」を短時間で立ち上げられないか - これが AI ペルソナの発想です。

VoC から抽出した行動傾向や価値観をもとに、生成 AI が代表的な顧客像 (AI ペルソナ)を再構成し、そのペルソナと対話することで、従来は時間をかけて読み込まなければ見えてこなかった文脈を短時間で把握できるようになりました。初期仮説に到達するまでに数か月を要していた工程が、数時間〜数日で立ち上がるケースも生まれています。

実際の対話では、従来の分析では気づきにくい「生活者の真因」が自然に浮かび上がることがあります。例えば「洗濯機の音がうるさい」という一見単純な不満の背後に、「子どもの睡眠リズムを乱したくない」という切実な生活文脈が潜んでいることが、 AI との対話で明らかになるなど、表層のテキストだけでは見えにくい背景を素早く捉えられる点が大きな価値となっています。

AI ペルソナは、 VoC を単なる記録として扱うのではなく、生活者の視点・意図・価値観まで含めて立ち上げる「洞察生成のエンジン」として機能しはじめています。

AI ペルソナの精度を支える土台: Knowledge Graph の活用

AI ペルソナを使ったバーチャルリサーチを進めていく中で、もう一つ大きな課題が見えてきました。それは、 AI が VoC を解釈する際に、文脈のつながりを十分に捉えきれないケースがあるという点です。表層的なキーワードに引きずられたり、 VoC の裏にある意図や背景が分断されたまま扱われてしまったりすることがありました。

生活者の行動には必ず背景があります。その背景を踏まえた形で情報を整理できなければ、対話を重ねても洞察の質は安定しません。そこで導入したのが Knowledge Graph (ナレッジグラフ) です。

Knowledge Graph は 、 VoC に含まれる「出来事」「感情」「背景」「意図」といった要素を単なるテキストの断片として扱うのではなく、意味の単位で整理し、それぞれの関係性として結び直す仕組みです。これにより、 VoC をより細かな意味単位で参照できるようになり、特定の背景や条件に紐づいた発言を文脈ごとに引用しやすくなりました。

また、この Knowledge Graph は、 VoC を整理して終わるものではありません。 VoC を起点として構築された知識構造を参照しながらバーチャルインタビューを行い、その過程で得られた新たな視点や気づきが、再び Knowledge Graph の拡張に活かされていきます。

VoC に加え、バーチャルインタビューから得られる示唆も学習データとして取り込まれることで、知識グラフ自体が徐々に厚みを増していくーそのような形で、顧客理解の土台が少しずつ更新されていく構造になっています。

バーチャルリサーチを実現する Google Cloud アーキテクチャ

Knowledge Graph を活用したバーチャルリサーチを実現するために、いままで Cloud Storage に保持していた VoC を起点に作成していた要約情報を Gemini によって「家電種類」「商品型式」「家電機能」「ステータス」「顧客背景」「考え方」に構造化を実施します。

これらのデータではまだ個別の Node (点)となっているのですが、VoC のデータと CRM によってこれらの Node を同一の VoC および CRM のユーザー属性を保持した Edge (線)によって繋ぎます。こうした構築手法によりどのような人がどのような家電にどのような意見をもっているのかという Knowledge Graph として VoC のデータを再構築することができました。

こうした Knowledge Graph は Spanner というサービス上にサーブされグラフ DB としての取り扱いが可能となります。 Spanner を採用した理由は、現行グラフ DB 型のデータ構造へのクエリに対応しているのが Spanner しかなかったためです。

これをバーチャルリサーチにおいて活用するために、

  1. テーマによって構成されたインタビュアーのペルソナに渡されるシナリオ
  2. インタビュイーの属性

を元に Knowledge Graph を検索、その代表的なパスを Gemini によって文章化することで、インタビュイーに特定の家電等に持っている意見等をセットすることができます。

こうしてインタビューのテーマ設定・ペルソナ設定に Knowledge Graph を加味することで、そのパナソニックの顧客ならではの意見がより色濃く反映させることができることになります。

こうして作成されたインタビュー情報は Alloy DB に保存され、 Web アプリケーションから利用されることになります、 Alloy DB を採用した理由は OLTP 型のデータベースとしてアプリケーションからレイテンシが少ない形でデータ読み込みがしたいのが理由となります。

こうしたバーチャルリサーチ自体は Cloud Run 上で Web サービスとして実装されパナソニック社内のユーザーがお手軽に利用できるようになっています。

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アーキテクチャ

VoC が“7合目”まで連れていく:高速で深く到達できる新しい顧客理解

バーチャルリサーチの導入により、これまで専門知識や時間をかけて少しずつ進めていた顧客理解のプロセスが大きく効率化されました。従来は、必要な VoC の探索・読み込みから初期仮説の形成、さらに実調査の設計に至る一連の流れに、数百万円の費用と 2 〜 3 ヵ月を要することもありました。

これに対しバーチャルリサーチは、 VoC をもとに生活者像を短時間で立ち上げ、仮説の方向性をその場で確認できることが大きな特長です。 1 回あたり数分・数十円程度で実行できるため、従来は頻繁に行うことが難しかった「初期仮説の探索」を、日常業務の延長として自然に試せるようになりました。

この変化により、 VoC は「眠る資産」ではなく、誰もが短期間で“顧客理解の 7 合目”に到達し、次のアクションを後押しするための実践的な資源へと変わりつつあります。

さらに今後は、サードパーティーデータ(3rd party data)の取り込みによる生活者像の立体化や、バーチャルリサーチと実調査をつなぐシームレスな仕組みなど、仮説検証の質とスピードを高める取り組みも視野に入れています。

こうした挑戦を積み重ねることで、「お客様に寄り添う視点から、くらしの質を豊かに」というビジョンの実現に、一歩ずつ近づいていきたいと考えています。


パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティング ジャパン本部は、日本国内における家電製品のマーケティング部門です。ものづくりを担う事業部と、販売を担う販売会社、販売店をつなぎ、商品の販売戦略・プロモーション戦略の策定、 DX 推進を通して、お客様に継続的な価値を提供するための仕組みづくりを担っています。
 
インタビュイー
パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティング ジャパン本部 若松氏
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