GROWTH VERSE: マーケティング AI SaaS「AIMSTAR」に Vertex AI を導入し、営業支援施策の精度と速度、処理能力を向上

Google Cloud Japan Team
株式会社 GROWTH VERSE(以下、GROWTH VERSE)では、マーケティング AI SaaS「AIMSTAR」を開発・運営しています。同社は AIMSTAR に Google Cloud の Vertex AI を採用し、データ分析とクリエイティブ制作業務の双方をスケールアップ。提供サービスの価値向上と顧客のビジネス成長を実現しています。今回は同社の AI 活用戦略と Vertex AI の導入経緯、そして今後のビジョンについて、このプロジェクトを主導した 2 名に話を伺いました。
利用しているサービス:
Vertex AI, Gemini, BigQuery など
利用しているソリューション:
生成 AI
Vertex AI の採用でマーケティング オートメーションの刷新に成功
「BUILDING AI to maximize Business Growth」(ビジネス成長を最大化する AI の構築)というミッションのもと、GROWTH VERSE は「AIMSTAR」「ミセシル」「Zero」「電話放送局」など、AI を活用した各種のソリューションを企業に提供しています。代表取締役会長 兼 CTO の南野 充則氏は、その中でも中核をなす AIMSTAR の機能を、次のように説明します。
「AIMSTAR はマーケティング オートメーションを実現させるサービスです。まず散在する顧客データを統合・分析し、シナリオを構築します。次に、そのデータとシナリオに基づき、個々の顧客に最適なチャネルやタイミング、クリエイティブできめ細かく配信していきます。このデータ収集から配信までを一気通貫で実行できるのが強みです。」


もともと同社はデータ マーケティング分野で機械学習技術を駆使するとともに、B2C における深い知見を武器に、確かな成果を上げてきました。この実績を踏まえ、2023 年夏には AIMSTAR に生成 AI を導入する方針を決定。翌年には南野氏が経営参画し、選定を行っています。
「AIMSTAR は CDP(顧客データ基盤)と従来型のマーケティング オートメーションが軸になっていますので、生成 AI を組み合わせて、さまざまな作業をより自動化した『真のマーケティング オートメーション』を実現させるという構想がありました。そこで私が経営に加わり、業務変革の基盤として Vertex AI を選びました。Vertex AI は機械学習の基盤が強く、Gemini を経由したマルチモーダルにも対応しています。また、ターゲティング AI やレコメンド エンジンを構築する際の機能改善がしやすいという特長もあります。開発業務では BigQuery など他の GCP サービスも使うことになりますので、事実上の一択でした。」
Technology部 VP of AI の石井 健資氏も、Vertex AI の技術的なアドバンテージを高く評価しています。


「画像・音声・動画を扱えるのは、Vertex AI の最大の魅力です。他社製品の場合は、別々のツールで処理する形になってしまいますが、Vertex AI ならシームレスに作業できます。また、開発におけるデータの学習量、資本投資、サービス構築力のすべてにおいて他を圧倒していると判断しました。一方、我々は実際的なサービス開発に時間を注ぎたいので、インフラの管理・運用にはあまり手をかけたくありません。Google Cloud は、マネージド サービスを利用できるという点でも最適でした。」
ラスト ワンマイルへのこだわりと、3 か月ごとの機能アップデート
Vertex AI の採用で南野氏が目指したのは、マーケティングの現場において長年常識となっていたワークフローを根底から覆すことでした。
「データの収集・整理は人間が担当していましたが、生成 AI を使うと、膨大なデータを即座にラベリングしながらデータベースまで構築できる。クリエイティブのサンプル作成も、生成 AI が得意とする分野です。A/B テスト用のランディング ページを 3 点制作するような場合、デザイナーに発注すれば、2〜3 週間の期間と数十万円の費用がかかります。従来はこの制約があったため、サンプル制作の段階からマーケターのセンスに頼らざるを得ませんでした。しかし生成 AI なら、一度に 100 パターンものサンプルを短時間で生成できる。効率化に加えて、精度も指数関数的に向上しますので、マーケティングを再現性のある『サイエンス』に近づけていくことができます。」
石井氏は、効率化と精緻化、「脱属人化」が組織にもたらす恩恵の大きさを強調します。
「どのような顧客に向けて、いかなるメッセージを送るかというペルソナ設定やターゲティングも、これまではマーケター個人が判断していました。しかし生成 AI ならデータを基盤にクラスターを定義したうえで、ペルソナに応じたコンテンツを設定し、その検証方法まで体系的に構築できます。これまではデータやノウハウが特定の個人に蓄積してきましたが、生成 AI で手法を合理化することにより、貴重なマーケティングのナレッジを組織に還元していけるようになるのです。」


Vertex AI を AIMSTAR に搭載するアプローチは、実装直後から効果を発揮し始めました。南野氏は、最初の成功事例を挙げます。
「1 冊 1,000 円のカタログでも、10 万人に送ると費用は 1 億円になりますので、費用対効果を高めることは重要です。とあるお客様はカタログを送る際、数個の要素だけに基づきスタッフの方の判断で送付先を決めていたため、生成 AI に 200 もの特徴量を与え、送付先を選ぶ方法を提案しました。これは AIMSTAR に Vertex AI を搭載して対応した最初の案件となりましたが、売り上げが急激に増え、お客様も大変喜ばれていました。」
石井氏は、似たような成功例が他の案件でも続々と生まれていると語ります。
「ある老舗企業様では、AI による DM 最適化で、従来比 115% の売上増が達成されました。メール マーケティングの最適化によって、CVR(コンバージョン率)が 20% 向上したケースもあります。大手金融機関様の事案では、『3 か月後に休眠する可能性のあるお客様』を 97% の高い精度で予測でき、効果的な離脱防止策を提案させていただきました。」
目覚ましい成果を牽引するのは、南野氏が統括し石井氏が現場を束ねる開発体制です。同社は約 3 か月に 1 度という驚異的なペースで、新たな機能を発表。根底に流れるのは「ラスト ワンマイル」へのこだわりと、実務に基づく目的意識です。
「AI の基礎技術の開発で、シリコンバレーの企業に対抗するのはさすがに難しい。しかし彼らは、顧客の具体的な課題解決までは手が回りません。ならば AI の基盤開発にはあえて注力せず、きめ細かなソリューションの開発やラスト ワンマイルのサポートに力を入れたほうが、ユーザーに直接価値を提供できます。このアプローチは弊社の差別化要素であり、強みにもなっていると思います。」(南野氏)
「弊社ではテキスト、音声、動画、画像といったカテゴリーごとに『この技術が実現すればイノベーションにつながる』という課題リストを持っています。それを指針に、生成 AI のモデルがアップデートされるたびに、変更点を集中的にチェックします。こういう情報収集に関しては、Google Cloud にいつもサポートいただいています。『Google for Startups クラウド プログラム』に参加できたのも、開発作業全般にとって大きかったですね。」(石井氏)
AI エージェントの適用と M&A を通して、さらなる成長とシナジーを
GROWTH VERSE は「M&A」の実施と「AI エージェント」の開発をバネに、事業領域をマーケティングの枠外へと拡大しつつあります。最近はクラウド型 IVR(自動音声応答)企業の買収を通じて、コールセンター事業へも参入しました。南野氏はその狙いを明かしています。
「生成 AI の進化により、滑らかで低レイテンシーな音声対応が実現できるようになったことが、M&A の大きな決め手でした。同分野で 50 年近くもの実績を持つ企業に、当社の AI 技術を掛け合わせれば、より高度なサービスが提供できると考えています。音声応答は、どの企業も対応していかなければならない分野ですから、海外展開できる見込みも高い。マーケティング用のツールとしても極めて有用です。」
石井氏によれば、この成長モデルの核心は、「ドメイン知識」と自社の「AI 開発力」を融合させる点にあります。
「各分野で AI エージェントを開発していけば、『業界』と『業務』という 2 つの軸を掛け合わせたマトリクスをすべて埋めていくことができます。これによって技術開発と営業の両面でシナジーが生まれますので、弊社のサービスと業務をさらに発展させていくことが可能になります。」
GROWTH VERSE は Vertex AI の採用をきっかけに、業務をスケールアップさせることに成功。マーケティングの手法自体を刷新し続けています。南野氏は Google Cloud へ期待を寄せながら、新たな目標を見据えていました。
「生成 AI は、日本が AI 分野で再スタートを切る転機ですし、非常に大きな可能性を秘めています。そのためにも Vertex AI を基盤とした『AI エージェントのプラットフォーム』を構築して、多くの分野で適用していきたいですね。このプロセスを繰り返して、さまざまな企業の事業価値を最速で高め、日本経済全体の活性化に貢献できればと考えています。」


株式会社 GROWTH VERSE
2021 年 6 月創業。「BUILDING AI to maximize Business Growth」(ビジネス成長を最大化する AI の構築)というミッションのもと、マーケティング AI SaaS「AIMSTAR」をはじめ、人流分析 AI SaaS「ミセシル」や売上管理 AI SaaS「Zero」、コール AI SaaS「電話放送局」などの開発・提供を行う。 B2C を中心に、大手企業の LTV(顧客生涯価値)の最大化と業務効率向上に貢献している。
インタビュイー(写真右から)
・代表取締役会長 兼 CTO 南野 充則 氏
・Technology部 VP of AI 石井 健資 氏
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