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顧客事例

製薬業界の開発を変革する中外製薬の挑戦:Gemini Code Assist 活用で開発速度は最大 5 倍に

2025年10月22日
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Google Cloud Japan Team

日本の製薬業界をリードする中外製薬株式会社(以下、中外製薬)は、Google の AI、Gemini を活用したコーディング エージェント「Gemini Code Assist」を導入し、開発プロセスに大きな変革をもたらしています。臨床開発からアジャイルなソフトウェア開発、データサイエンスまで、多様な分野で Gemini Code Assist がどのように活用され、どのような成果を上げているのか、具体的な事例を交えてご紹介します。

今回お話を伺ったのは、多様な立場で Gemini Code Assist の活用を推進する 3 名のキーパーソンです。バイオメトリクス部で AI を活用した臨床開発を推進する高野様。デジタルソリューション部 アジャイル開発グループで、全社向け生成 AI アプリ「Chugai AI Assistant」などを開発する尾形様。そして、デジタルソリューション部 データサイエンスグループで、データサイエンスの観点から AI モデルの精度改善や創薬研究支援まで幅広く手がける水谷様。それぞれの視点から、具体的な取り組みについて語っていただきました。


属人化と心理的ハードル、AI 導入前の開発課題

Gemini Code Assist 導入以前、中外製薬の開発現場ではいくつかの課題に直面していました。

臨床開発部門の高野様は、「ビジネスサイドである臨床部門では、アプリケーション開発ができる人材が限られており、新しいアプリケーション開発に対する心理的なハードルが高かった」と語ります。「従来は 1 つのアプリケーションを開発するだけでも相当な工数がかかり、じっくりと要件をヒアリングして、効果があるものなのかを精査した上で企画書にまとめてから作り始めるというプロセスを踏んでいました。特に外部へ委託する案件では、効果の定量化やマネジメント承認といったハードルがさらに高くなるため、気軽に『作ってみよう』とは言えない状況でした。」

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また、アジャイルなアプリ内製開発と全社展開を推進するアジャイル開発グループの尾形様は、「一度決めた仕様はなかなか変更できず、フィードバックを受けて改善するサイクルを迅速に回すことが困難でした」と振り返ります。

データサイエンスグループの水谷様も同様に、従来の開発スタイルに課題を感じていました。「LLM が登場した当初は、生成されたコードが自身の環境で動作しないことや、意図と異なるコードが出力されることがありました。また、ライブラリのバージョンの問題で、自身の環境では動作しないといったこともありました。」

プロトタイピングを加速し、開発文化を変革する Gemini Code Assist

Gemini Code Assist の導入は、これらの課題を解決し、開発文化そのものを変革するきっかけとなりました。選定の決め手となったのは、主に「コンテキスト性能」「ライセンス体系」「Google Cloud との親和性」の 3 点でした。

尾形様が特に評価したのは、Gemini Code Assist の基盤となる Gemini モデルが持つ、膨大な情報から開発者の意図を正確に汲み取る広いコンテキストウィンドウです。これにより、他製品と比較してエラーが少なく、精度の高いコード生成が可能になります。加えて、高野様は、多くの他製品が従量課金制である中で、開発時間や予算を気にせず利用できるサブスクリプション体系を魅力に感じています。データサイエンスを担う水谷様にとっては、BigQuery の SQL を容易に作成できるなど、既存の Google Cloud 環境とシームレスに連携できる点も大きな利点でした。

これらの特長が、中外製薬の開発プロセスに具体的な変化をもたらします。高野様は、まず開発着手までのプロセスが劇的に変化したと話します。「以前は数週間かかっていたプロトタイプの作成が、今では数十分で可能になりました。ビジネスユーザーからの『こんなアプリはできないか』というフランクな相談に対し、その場ですぐにモックアップを作ってイメージをすり合わせることができます。アプリ開発について詳しくない臨床開発のメンバーに対しても完成イメージをすぐに共有することができるため、実現可能性を迅速に検証できるようになりました。」

この変化は、開発の進め方にも影響を与えています。「以前は要件を固めてから開発していましたが、今は『まず作って、見てもらう』というサイクルを高速で回すスタイルに変わりました。完成度が高くなくても、早い段階でフィードバックをもらい、改善を重ねていく。このアジャイルなアプローチが、ビジネス部門主導の開発を可能にしています。」

臨床開発、アジャイル開発、データサイエンス ―― 多様な現場での活用事例

Gemini Code Assist は、部門の垣根を越えて、それぞれの専門領域で効果を発揮しています。

高野様(臨床開発) 臨床試験では、規制当局へ提出するための文書など、膨大な量のドキュメント作成が求められます。高野様は Gemini Code Assist を活用し、これらのドキュメント作成を効率化するための AI エージェント開発に取り組んでいます。特に、最近追加されたエージェントモードGemini CLI と連携し、目標を複数のステップに分解し、必要なツールを使いながら自律的に計画を実行・修正)は、開発の幅を広げる上で大きな役割を果たしていると語ります。「エージェントモードのおかげで、これまで自身の得意な Python や Streamlit に限定されがちだった開発の幅が広がり、React のような自分にとって未知の言語やフレームワークにも気軽に挑戦できるようになりました。最適な技術を選択して、より良いアプリケーションを迅速に開発できるようになったのは大きな進歩です。」

尾形様(アジャイル開発) 全社向けの生成 AI アプリケーション「Chugai AI Assistant」をはじめ、様々なアプリケーション開発に Gemini Code Assist を活用しています。特に エージェントモードの登場は、働き方を大きく変えたと語ります。「要件を伝えるだけで、エージェントが既存のコードベースを理解し、変更箇所を提案、そして実装まで一気通貫で行ってくれます。エラーが発生した際も、エラーメッセージを貼り付けるだけで原因分析と解決策を提示してくれる。現在は、AI に適切な指示を出して効率的に開発を進めることが、業務の中心になっています。」

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水谷様(データサイエンス) データサイエンスの領域でも Gemini Code Assist は不可欠なツールです。水谷様は、論文の再現実装、コードのリファクタリング、データ分析など、幅広い業務で活用しています。「論文のテキストを渡すだけで、その内容を実装してくれます。また、自身で書いた雑多なコードを、ベストプラクティスに沿ったリーダブルなコードに整理してくれるので、コードの品質が格段に向上しました。」 さらに、データ分析のプロセス自体も変化しています。「Jupyter Notebook 上でデータを可視化すると、Gemini Code Assist がその結果を解釈し、インサイトまで提供してくれます。単なるコーディング支援に留まらず、データサイエンティストの思考を拡張してくれるパートナーです。」

開発速度は最大 5 倍に ―― Gemini Code Assist がもたらした定量的・定性的効果

Gemini Code Assist の導入効果は、定量的にも定性的にも表れています。

尾形様は、「体感的な開発速度は 5 倍になりました。会議の合間にエージェントに指示を出して開発を進めることができるため、時間を非常に有効活用できます。実質的に、1 時間の作業時間で 5 時間分の開発成果を得られる感覚です」と、その効果を語ります。水谷様も「3〜4 倍の効率化」を実感しており、複数のプロジェクトを並行して担当できるようになったと語ります。

高野様も、「以前は 1 年に 1、2 個のアプリケーションを開発するのがやっとでしたが、今では 3、4 個は普通に作れる感覚です」と、生産性の向上を実感しています。

これらの効果は、単に仕事が速くなっただけでなく、新しい挑戦への心理的ハードルを下げ、より多くのプロジェクトに取り組む余裕を生み出しています。

今回 Gemini Code Assist を選定された理由について、尾形様は「コンテキスト ウィンドウの広さ」を挙げられました。膨大な情報から開発者の意図を正確に汲み取るため、他製品と比較してエラーが少なく、コード生成の精度が高い点を評価いただいています。

加えて、高野様は「サブスクリプションのライセンス体系」を評価されています。多くの他製品が従量課金制であるのに対し、Gemini Code Assist はサブスクリプションで利用できるため、開発時間や予算超過を気にすることなく、安心して開発に集中できる点も魅力だと語ります。

水谷様は、Google Cloud 環境との親和性の高さを挙げられました。データ分析で利用する BigQuery の SQL 文を容易に作成できることや、開発環境である Cloud Workstations から手軽に利用できる点を評価されています。

AI との協業時代における、人と組織の在り方

AI の活用が広がる一方で、新たな課題も生まれています。AI を使いこなす人材とそうでない人材の生産性の差や、ジュニア層の育成、AI が生成したコードのレビュー体制などです。

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尾形様は、「AI は先生としても振る舞える」と考えています。「ジュニア層は、AI が生成したコードの意図を質問し、対話することで、自身の理解を深めることができます。良いコードに触れることで、スキルアップの機会にもなります。」

中外製薬では、AI を活用した開発のベストプラクティスをドキュメント化し、社内での浸透を図っています。AI が生成したコードは 100% 正しいわけではないことを前提に、必ず人間がレビューする「ヒューマンインザループ」のプロセスを徹底しています。

未来への展望:AI と共に創る新しい開発スタイル

最後に、今後の展望について伺いました。

高野様は、「ビジネス部門が主体となって高速にアプリケーションを開発できる文化と体制を、さらに推進していきたい」と語ります。将来的には、業務ごとに特化したエージェントを複数開発し、それらをプラットフォーム上から誰もが簡単に利用できる世界を目指しています。

尾形様も、LangGraph や Dify といったツールを活用し、より高度な特化型エージェントの開発を構想しています。「個別のプロジェクト要件に合わせて、エージェントの振る舞いをノーコードで定義できるような仕組みを導入し、さらなる開発の高速化を目指します。」

水谷様は、Gemini のさらなる進化に期待を寄せています。「最新のライブラリやリファレンスをより正確に参照できるようになること、そして、より多くのファイル コンテキストを一度に扱えるようになることで、私たちの生産性はさらに向上するでしょう。」

中外製薬の挑戦は、AI が単なるツールではなく、開発者の能力を拡張し、組織全体の創造性を高めるための強力なパートナーであることを示しています。Gemini と共に歩む彼らの取り組みは、製薬業界のみならず、多くの企業の開発現場に新たな可能性を示唆していると言えるでしょう。


中外製薬株式会社は「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献します」をミッションとして掲げ、独自の技術とサイエンスを強みとして、ヘルスケア産業のトップイノベーターを目指しています。

インタビュイー

バイオメトリクス部 臨床システム・インフォマティクスグループ 高野 達人様
デジタルトランスフォーメーションユニット デジタルソリューション部 アジャイル開発グループ 尾形 遥介様
デジタルトランスフォーメーションユニット デジタルソリューション部 データサイエンスグループ 水谷 圭佑様

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