BuySell Technologies: Cloud Run や Spanner を駆使した業務基盤「Cosmos」で買取業務の効率化・最適化に成功

Google Cloud Japan Team
ブランド品から骨董品、貴金属、酒類など、幅広いジャンルを対象としたリユース ビジネスを展開する、株式会社BuySell Technologies(以下、バイセル)。同社は、査定員が顧客の自宅を訪問する出張買取において国内トップクラスのシェアを誇っており、右肩上がりの成長を遂げてきました。また、社内のデータ基盤や業務システムの開発に Google Cloud を採用、生成 AI も積極的に活用しようとしています。開発を主導してきた 2 人のキーマンに、ここまでの歩みと将来を見据えたビジョンを伺いました。
利用しているサービス:
Cloud Run, BigQuery, Spanner など
膨大かつ多種多様なデータをすべて BigQuery に集約して最大限に活用
2015 年のリユース事業開始以降、バイセルは出張買取を中心にビジネス スケールを急ピッチで拡大。近年は M&A も意欲的に展開し、古物オークション企業をグループに迎えるなど、買取・販売チャネルの多角化に力を入れてきました。このような状況のなか、2021 年 4 月に同社取締役 CTO に就任した今村 雅幸氏が着手したのは、急激な成長やビジネスの変革に対応すべく、社内システムを一新することでした。


「最初に取り組んだのは、社内データ基盤の BigQuery への移行でした。BigQuery を選んだのは、膨大なデータを瞬時に分析できるパフォーマンスを高く評価していたからです。バイセルでは月間 2 万件以上の出張買取を行っていますが、一度の買取で 20~30 のアイテムを引き取るため、毎月数百万件の商品データが蓄積されていきます。しかも取り扱うジャンルが極めて幅広く、アイテムの状態を詳細に記録しなければならないなど、リユース業界ならではの難しい要件がありますので、ハイ パフォーマンスな分析環境が何よりも必要でした。」
同社は、いわゆる「セールス イネーブルメント(営業組織強化・最適化)」にもデータを活用。査定員の実績を的確に評価しつつ、接客手法をパラメータ化・フォーマット化し、誰もが適切な出張買取を実施できるようにすることも目指してきました。この実現においても、今村氏が選択したのは BigQuery でした。
「バイセルでは、さまざまな情報をとにかくデータベース化して活用していく方針を採っていますが、BigQuery はこういう使い方でもベストな選択肢でした。現在は Looker Studio とも連携させて、簡単な集計業務であればビジネスサイドだけで完了できるようにしています。」
リユース プラットフォーム「Cosmos」を Google Cloud 上に構築
今村氏が社内データ基盤の刷新と並行して進めたのは、買取業務をサポートするための業務システム刷新でした。CTO に就任した当時、社内には出張買取のための仕組みしか存在しなかったため、事業のさらなる拡大と多角化にも耐えられるリユース プラットフォーム「Cosmos(コスモス)」の開発を決断します。「Cosmos」は事業に必要となるアプリケーションを Google Cloud 上で統合するプラットフォームで、顧客管理システムである CRM や商品マスタ「Promas(プロマス)」、店舗買取システム「Store(ストア)」など、約 10 種類のシステムで構成。データ分析基盤も「Pocket(ポケット)」として内蔵されています。
「『Cosmos』を Google Cloud 上に構築したのは、BigQuery との親和性が高かったことに加え、昨今のウェブ アプリケーションのほとんどがコンテナ化されていることも理由でした。Google Cloud には多彩なコンテナ ソリューションがあり、処理能力ではやはり他社より秀でています。メンテナンス性の高さや、用途的にそこまでスケーラビリティを求めていなかったこともあり、開発作業では Cloud Run を選択しました。同じタイミングで、弊社では開発に使用する社内のメイン言語を Go に変更しています。これは Google Cloud の活用だけでなく、高いモチベーションとスキルを持った、若いエンジニアを獲得するという点でも効果がありました。」


Google Cloud を基盤に構築された「Cosmos」の全体像
バイセルは「Cosmos」の整備を着々と進める一方、2023 年 4 月に最も重要な事業分野である出張買取のためのシステム「Visit(ビジット)」の開発に着手しました。このプロジェクトについて、同社テクノロジー戦略本部 開発 1 部 部長 宮山 純氏は、次のように語ります。


「『Visit』は『Cosmos』の中で 1 番ユーザー数が多くなる最重要システムですから、アーキテクチャをしっかり吟味し、万全なものにしたいと考えていました。ちょうどその頃、Google Cloud から TAP(Tech Acceleration Program)の利用をお声がけいただき、一緒に最適なソリューションを模索するところからプロジェクトをスタートさせています。2023 年 5 月後半に 3 日間かけて行われた TAP では、ビジネス ドメインの整理からドメインモデルの設計、そこにどの Google Cloud サービスがフィットするかなどを提案いただきながら、アーキテクチャを煮詰めていきました。最終日には、Google Cloud のエンジニアからハンズオンも受けています。」
宮山氏は、TAP を利用した「Visit」の開発で特に有用だったのが、Spanner の採用提案だったと振り返ります。
「Spanner は、それまで使っていた Cloud SQL などと比べてオーバー スペックすぎると考えており、当初は想定にありませんでした。しかし実際には、私たちが求める可用性の高さとメンテナンス コストの低減を実現するうえで、最適な選択肢だったのです。懸念していた運用コストについても、ちょうどそのタイミングで 100 処理ユニットから利用できるようになり、スモール スタートしやすくなったことも大きな追い風となりました。正直、個人的にちょっと使ってみたい気持ちもあったので、採用を決意しました。」


その後、バイセルは「Visit」を段階的に導入・機能強化していく予定を変更し、最初からフル機能でのスタートを目指すようになりました。この過程では、複数の買取チャネルの共通基盤となる「Deal(ディール)」も構築されています。「Visit」は 2024 年 6 月に実装が完了したばかりですが、宮山氏によれば、早くも導入効果が表れ始めています。
「まず、システム操作に費やす時間が減ったことが計測できました。その結果、お客さまとのコミュニケーションに集中できるようになったのではないかと想定しています。これは将来的に、買取実績の向上につながっていくはずです。『Visit』は最初からフルシステムで導入できましたので、新卒社員は新旧 2 つのシステムを覚える必要から免れ、より早く業務に習熟できるようになりました。」
生成 AI も積極的に活用し、業務効率化と顧客満足度の向上をさらに追求
バイセルは Google Cloud のマネージド サービスを利用しながら、開発リソースを最大限に有効活用し、数多くのアプリケーションを管理できる新たな業務基盤や買取査定システムの構築に成功しました。さまざまなタスクや業務アプリがシームレスに統合された合理的な運用体制は、同社ならではのアドバンテージになっています。今村氏と宮山氏は、基盤として導入された Google Cloud に全面的な信頼を寄せつつ、生成 AI の活用にも強い意欲を見せました。
「AI にはかなり早い時期から可能性を感じていました。現に弊社では、商品写真の画像認識に Vertex AI を用いた機械学習を用いているほか、生成 AI についても『BuySell Buddy』と名付けた、社内向け LLM 活用基盤を提供中です。今はまだ既存の生成 AI サービスをラップして Slack で使えるようにしただけですが、膨大な社内文書で RAG(Retrieval-Augmented Generation)を構築し、『古銭の扱いで気をつけることは?』といった会話形式で、誰もが必要な情報を引き出せるようにしていく予定です。この使い方では、最大 200 万トークンもの入力が可能な Gemini 1.5 Pro が最も有望ではないかと考えています。今後はあらゆる業務でますますデータ活用が重要になっていきますので、Google Cloud にはデータ ガバナンスやデータ マネジメントの分野で、魅力的なプロダクトをさらに充実させていただきたいですね。」(今村氏)
「『Visit』に関しては、買取現場の査定員が、お客さまとより円滑なコミュニケーションを進めていくための機能強化を検討中です。査定時には大量の商品写真を撮影し、『Promas』の商材データベースと照合して製品名や買取価格などを算出します。そこで Gemini をうまく活用できれば、より正確なプライシングや、会話の種となる情報を提供することも可能になっていきます。お客さまに『この人だったら自分の大切な持ち物を託すことができる』と思っていただくことは信頼を高め、売り上げを伸ばしていくことにもつながります。これらの目標を実現するためにも、積極的に Google Cloud や Gemini を活用し続けていく予定です。」(宮山氏)


株式会社BuySell Technologies
「人を超え、時を超え、たいせつなものをつなぐ架け橋となる。」を企業ミッションとして、ブランド品、着物等を中心に幅広く買取・販売業務を行う総合リユース企業。2019 年、東証グロース上場。日本全国に出張買取網を持つ。近年は積極的な M&A によって事業規模・事業内容を拡大している。従業員数はグループ連結で 1,414 名、単体で 1,127 名(2023 年 12 月 31 日時点)。
インタビュイー(写真右から)
・取締役 CTO 今村 雅幸 氏
・テクノロジー戦略本部 開発 1 部 部長 宮山 純 氏
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