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コスト管理

現場からの FinOps: クラウド費用の予測

2024年1月19日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2024 年 1 月 3 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

クラウド コンピューティングは多くの企業にとって欠かせないものとなっています。私はテクニカル アカウント マネージャーとして、クラウド コンピューティングがいかに企業の費用削減とアジリティの向上に役立つかを目の当たりにしてきました。クラウドへの移行に際して企業が直面する課題の一つとなるのが、クラウド費用の予測です。注意を怠っていると、あっという間にクラウド費用がかさんで手に負えない状況になってしまう可能性があります。そのため、クラウド費用の予測が必要となります。

クラウド費用の予測とは基本的に、クラウドの今後の使用量を予測するプロセスです。クラウドで新しいプロジェクトを開始するための資金や予算、サポートを確保するうえで予測は重要です。また、クラウド費用を予測しておけば、FinOps 戦略が順調に進んでいるかどうかの判断にも役立ちます。

とはいえ、多くの企業にとって、クラウドの使用量を正確に予測することは難題です。State of FinOps 調査では、経験豊富な実務担当者の予測の差異が 5% 前後であるのに対し、経験の少ない実務担当者の予測の差異は 20% 前後であると報告されています。

現場からの視点

「予測」という言葉を耳にして私がすぐに思い浮かべるのは、気象予測、ここでは特に季節性です。たとえば、春は冬よりも穏やかな天候で、吹雪や猛暑に見舞われる可能性が非常に低いことがわかっています。春は通常、1 年で最も雨の多い季節であることから、起こり得ることを予測できます。

この考え方をクラウド ワークロードに適用すれば、クラウドの使用量に大きな影響を与える季節やイベントも発見できるでしょう。たとえば、セール期間中や年末年始の休暇期間中に需要が大幅に急増する企業の場合、それが消費に直接影響を与え、追加費用の発生につながります。そのため、使用量を予測するには過去のデータのみならず、今後の使用量に影響を与える可能性がある主な要因も把握する必要があります。

検討が必要な事項:

  1. ビジネスに季節的なピークはあるか
  2. 製品のユーザー数や使用の増加につながる可能性のある、予定されている新規プロジェクトや、マーケティング イベント、移行の計画はあるか
  3. 今後の予測サイクルで考慮するためにこれらのデータを照合する頻度はどのくらいか

過去の使用量

正確な予測において重要となるもう一つの要素は、過去のデータです。過去の使用量を分析することで、ワークロードが今後どのように変化する可能性があるかを把握できます。今後の費用を決定する鍵となる過去のデータを見ることで、状況に応じた計画を立て、予期しない費用の発生を回避することができます。たとえば、アプリケーションの移行に伴い、使用量が過去数か月にわたって着実に増えていることがわかれば、今後も増加し続けることが予想できます。また、使用量が大きく変動している場合は、よりしっかりとした費用管理戦略を導入する必要があるかもしれません。

検討が必要な事項:

  1. 過去の使用量は、定義した季節的なピークと一致しているか(該当する場合)
  2. 過去の使用量は、予想されるビジネス イベントと一致しているか
  3. 予測と実際値の差異を適切に調査したか。バリアンス分析はどのような結果だったか。得られた知見は予測モデルに適用できるか
  4. 長期的なトレンドラインはどのようになっているか

過去のデータを理解することで、十分な情報に基づいて今後の費用に関する意思決定ができます。ヒント: Google Cloud では、Cloud Billing データを BigQuery にエクスポートして、使用量を追跡できます。

クラウド費用を予測するためのツール

過去のデータと、将来起こり得るイベントを把握できたら、次は今後のクラウド費用を予測しましょう。上記 2 つの要素を組み合わせて検討するため、実務担当者は以下のようなさまざまなツールを使用しています。

  • ネイティブのクラウド費用管理ツール(GCP では、GCP Billing コンソール
  • Cost Estimation API
  • スプレッドシート
  • BQML または Vertex AI を使用した ML モデル
  • サードパーティの予測ツール

適切な予測方法は、固有のニーズや予算によって異なります。予算が少なく、スプレッドシートの使用に慣れている場合は、その方法もよいでしょう。しかし、多くの予算があり、より正確な予測を行う必要がある場合は、クラウド費用管理ツールまたはサードパーティの予測ツールの使用を検討することをおすすめします。

大きな変動がない条件であれば、Google Cloud Billing コンソールのすぐに使える予測機能をおすすめします。このコンソールには、使用量に基づいた当月の推定費用が表示されます。この予測は、現在までの実際の費用と予測される費用の傾向の合計であり、その請求先アカウントに属するすべてのプロジェクトの過去の使用量に基づいた概算値を示します。また、組織内のプロジェクト、サービス、SKU、フォルダごとにレポートをフィルタして、この予測を調整することもできます。

クラウドの予測は、組織全体よりも単一のプロジェクトの方が行いやすいものです。そのため、各プロジェクトで個別に予測を行ったうえで、それらを組み合わせて精度を高めることをおすすめします。分割統治戦略は、小さく始めて非常に包括的な予測まで行うことができる優れたアプローチです。

現場での経験

先日私は、ある小売業のお客様の翌年の費用を予測するという仕事に携わりました。そのお客様は、Google Cloud の年間契約を予測するための具体的な情報を何も持っていなかったので、Google Cloud のアカウント担当者である私たちは、今後のクラウド費用の大まかな見積もりを作成しました。

このお客様は GCP の利用実績があったことから、費用を予測するうえでいくつか有利な点がありました。

  • 過去のデータから情報を得ることができた
  • クラウドへの取り組みと現在の成熟度レベルを把握していた
  • 主要なワークロードについても熟知していた
  • 翌年の全体的な計画を共有してもらえた

これらは有利だった点のほんの一例にすぎません。その一方で、各プロジェクトについての詳細はわからなかったため、各プロジェクトを個別に予測して、後ですべての予測を組み合わせる手法は使えませんでした。その代わり、私たちは Compute Engine、GKE、分析、ネットワーキングなど、サービスの種類ごとに費用を分割して集計しました。見積もりを完了するために行った手順は以下のとおりです。

  1. すべての費用をサービス カテゴリ(分析、コンピューティング、ネットワーキングなど)ごとにグループ化する
  2. 各サービス カテゴリについて、現在および過去 2 か月の費用の平均を計算する
  3. 1 年前の同期間の平均を計算する
  4. 2 つの平均を比較して傾向を特定し、各カテゴリに成長率を割り当てる
  5. 今後の計画すべてを考慮に入れて、安定している、新しい、または断続的なワークロードに修正を適用する
  6. 見積もりをお客様と共有し、お客様からのフィードバックに基づいて調整する

予測の正確さは、時間の経過によってのみ判断できます。イベントの結果に影響し得る不測の要因は常に存在するものです。私たちの予測の正確さは、時間が証明してくれるでしょう。

最後のアドバイス

クラウド費用の予測にあたっては、現実的であることが重要です。費用が変わらないとは限りません。クラウドの使用量の変化、費用発生源の変化、クラウド市場や価格の変化などを考慮に入れるようにしましょう。お客様にクラウド費用について理解してもらえるよう支援するなかで私が学んだことは、一貫して使用されるプロダクトもあれば、散発的に使用されるプロダクトもあるということです。たとえば、あるプロダクトが 1 か月間頻繁に使用され、その後 3 か月間まったく使用されない場合があります。

最後に、クラウド費用の予測は継続的なプロセスであり、定期的な見直しと再計算が必要であることを申し上げておきます。年末まで待ってから変更するよりも、年間を通して小さな変更を加えていくほうが、良い結果をもたらします。

今後のクラウド費用を予測する方法について理解できたら、追跡とモニタリングを開始して予測と実績を比較し、バリアンス分析を行ってみましょう。

-テクニカル アカウント マネージャー Alvaro Torroba

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