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データベース

Spanner の永続的な影響: 2025 ACM SIGMOD Systems Award の受賞

2025年7月8日
Christopher Taylor

Founding engineer, Spanner & Google Fellow

Jagan R. Athreya

Group Product Manager

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※この投稿は米国時間 2025 年 6 月 18 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

今年に入り、Association for Computing Machinery's Special Interest Group on Management of Data(ACM SIGMOD)は、Google のグローバル分散型データベースである Spanner が 2025 SIGMOD Systems Award を受賞したと発表しました。SIGMOD Systems Award は、大規模なデータ マネジメントの理論や実践に技術的な貢献を通じて大きな影響を与えたシステムを特に称えるものです。Spanner チーム全体、特に Spanner の開発初期から携わってきたエンジニアを代表して、このような名誉あるコミュニティから評価をいただいたことを、心から光栄に思います。Google は、6 月 22~27 日にドイツのベルリンで開催される 2025 SIGMOD カンファレンスにプラチナ スポンサーとして参加します。

2022 SIGOPS Hall of Fame Award に続いてこの賞を受賞したことを鑑みると、この光栄がさらに意義のあるものに感じられます。SIGOPS Hall of Fame Award では、TrueTime や Google のネットワーク インフラストラクチャなどのテクノロジーの重要な役割が強調され、最初の Spanner 論文で示された当初のビジョンの永続的な重要性が再確認されました。

Spanner の中核的なイノベーション: TrueTime と外部整合性

Spanner がこのように評価されたことは、Google が数年前に掲げたビジョンと、Spanner が実現する新しいアプリケーション構築方法の強力な裏付けとなります。アワードの授与理由によると、Spanner は「リレーショナル データ マネジメントを再考し、グローバル規模で外部整合性のある直列化可能性を実現した」ことが評価されました。

なぜ「再考」と言われているのでしょうか。Spanner 以前のデータベースでは、ACID トランザクションと SQL か、またはスケーリングとマルチデータセンターの信頼性か、どちらかを選ぶ必要がありました。スケールと可用性を確保するには分散システムが必要であり、それは結果整合性や他の形式のベスト エフォート型同期を意味していました。Spanner は、この選択が絶対的なものではないことを示しました。つまり、分散システムの水平スケーラビリティに加えて、トランザクションと SQL のパワーおよび使いやすさを兼ね備えたデータベースを構築できることを示しました。スケールが最優先事項となっている企業は、Spanner によりデベロッパーの速度とアジリティを取り戻すことができました。Spanner は、分散アプリケーションに必要なロジックを大幅に簡素化します。デベロッパーは、データベースが世界中にまたがっている場合でも、単一の一貫したエンティティであるかのようにデータベースの状態を推論できます。

Spanner が外部整合性を実現できる主な要因は TrueTime です。TrueTime は、単なる同期グローバル クロックを超えて、クロックの不確実性を区切られた間隔として公開するスマートな API です。これにより、より高度なアルゴリズムでイベントの順序を推論することが可能になります。Google の TrueTime 実装では、GPS 受信機や原子時計などの特殊なハードウェア参照を使用して、信頼性が高く、非常に厳密な時間制限を実現しています。Spanner は、この区切られた不確実性を利用して外部整合性を実現します。トランザクションが commit されると、Spanner は TrueTime から派生した commit タイムスタンプを割り当てます。その後、Spanner は「commit wait」を強制します(これは、トランザクションの永続化と同時に行われることがあります)。その結果、トランザクションの効果を可視化する前に、commit タイムスタンプが確実に過去のものになります。これにより、割り当てられた commit タイムスタンプには、データセンターをまたいでも、トランザクションの真のグローバル シリアル化順序が決定的に反映されます。結果は驚くべきもので、パフォーマンスを犠牲にせずに外部整合性を実現できます。

 整合性とスケールのジレンマに対処する

この道のりについて本当の意味で理解するには、2000 年代初頭から半ばまでの Google を振り返ってみるのがよいでしょう。インターネットが爆発的に普及したため、最大の課題は、それに遅れないようソフトウェア インフラストラクチャをスケールすることでした。インターネットのコピーを、大量の汎用サーバーを使用して保存および処理できるデータベースが必要でした。これにより、驚異的なパフォーマンスとスケーラビリティを実現する内部システムが開発されましたが、トレードオフも伴いました。

これらのシステムに慣れ、Gmail のような大規模なインタラクティブ アプリケーションの構築に使用し始めると、結果整合性やクロスシャード同期の処理の難しさ、あらゆる問題(複雑さにかかわらず)を Key-Value ペアとしてモデル化する際の摩擦について、社内の開発者から絶えず聞くようになりました。すぐに明らかになったのは、従来のリレーショナル データベースの使いやすさと保証(ACID トランザクション、直列化可能性、外部整合性など)を備えた、グローバルに分散したデータベースを構築する必要があるということでした。これを、より多くのユーザーにサービスを提供できるより大きなデータベースという、Google の増大するニーズをあきらめることなく行う必要がありました。加えて、お客様との緊密な連携を通じて、これは実際には Google が構築できるものであることが明らかになりました。その後のことは周知のとおりです。

クラウド サービスとしての Spanner

Google のインフラストラクチャの要である Spanner は、Google 広告、Google 検索インデックス、Gmail、YouTube、Google フォト、Cloud Storage 用メタデータ、BigQuery など、Google の最も重要な地球規模のサービスに使用されており、極端な負荷下でもその堅牢性とスケーラビリティが実証されています。

論理的な次のステップは、Google Cloud を通じて社外のお客様がこれらの機能を利用できるようにすることでした。Spanner のリリースとそれに続く進化は、このテクノロジーを民主化することを目的としており、グローバルに整合性がありスケーラブルなデータベースの機能を、スタートアップからグローバル企業まであらゆる規模の組織にもたらし、アプリケーションの開発と運用を簡素化しました。

Spanner がお客様に提供する主要な価値は、その独自のアーキテクチャから直接生じたものです。

  • 強整合性を伴うグローバル スケール: Spanner は、当初の約束を果たしています。つまり、リージョンや大陸をまたいで水平方向にスケール可能なデータベース全体にわたる外部整合性を備えた ACID トランザクション、そして必要に応じて自動的にデータ分散(シャーディング)を管理する機能です。これは、SIGMOD アワードで評価された機能に直接対応するものです。

  • 比類のない可用性: 複数のゾーンまたはリージョンにわたる Paxos ベースの同期レプリケーションを活用することで、Spanner はマルチリージョン構成において業界トップクラスの 99.999% の可用性サービスレベル契約(SLA)を提供しています。これにより、極めて高いフォールト トレランスが実現し、ミッション クリティカルなアプリケーションのダウンタイム リスクが最小化されます。

  • 運用の簡素化: Spanner はフルマネージド サービスであるため、シャーディング、レプリケーション管理、バックアップ、メンテナンスなどの複雑な運用タスクを自動化できます。これにより、開発チームは運用上の大きな負担から解放され、データベース インフラストラクチャの管理ではなく、アプリケーションの構築に集中できるようになります。これは、従来のシャーディングされたデータベースで必要となる手作業の量や、NoSQL システムのアプリケーション レイヤに整合性ロジックを実装する際の複雑さとは対照的です。

  • デベロッパーの生産性: Spanner には、Google SQL と PostgreSQL の両方の言語をサポートする、使い慣れた SQL クエリ インターフェースが備わっています。これにより、デベロッパーの学習曲線が大幅に平坦化されます。さらに、強整合性により、結果整合性システム上に構築されたアプリケーションでよく発生する、データの同期と調整に関連する一連の複雑な問題がすべて解消されます。

お客様と業界を支援する

もちろん、2012 年に Spanner に関する最初の論文が公開されてから、現在のデータ環境は変化しています。AI ファーストとなった現代のデータ環境では、お客様はこれまで以上に、データの価値を最大限に引き出すことに注力しています。データは多くの場合、データモデル、スケーラビリティ、信頼性が異なる多数のシステムに分散しています。Google は、Spanner GraphAI アプリケーション向けベクトル検索、統合された全文検索を導入することで、これらの新たな課題に正面から取り組んでいます。これにより、幅広いデータを統合し、整合性のある、スケーラブルな単一のプラットフォーム内で迅速に反復処理できるようになります。さらに、コンピューティングおよびストレージ密度の向上エディションを通じた階層的料金設定階層型ストレージなどの費用最適化機能により、データが増加しても費用対効果の高い運用を実現できるようお客様を支援してきました。最後の点として、Cassandra 互換 API など、各種ツールや機能との相互運用性を強化することにより、スケールアウト ワークロードを Spanner に取り込みやすくしてきました。

SIGMOD アワードのような学術的評価は嬉しいことである一方、システムの影響を真に測る尺度は、ユーザーが現実の問題を解決し、革新的なアプリケーションを構築するうえでどの程度役立つかにあると、Google は常に感じてきました。Spanner における機能の独自の組み合わせは、さまざまな業界で変革をもたらすことが実証されています。

金融サービスでは、整合性、可用性、セキュリティが最重要事項ですが、Spanner は多くの重要なシステムの基盤となっています。Goldman Sachs などの企業は取引台帳の統合に、arigatobank などの企業はピーク時の負荷下でも完全な整合性を維持して大量の金融トランザクションを処理するために、このソリューションを利用しています。みんなの銀行などのデジタル ネイティブの銀行は、インフラストラクチャ全体を Spanner 上に構築し、その可用性と整合性を活用して、厳格な規制要件と顧客の期待に応えています。

ゲーム業界は、スケールとリアルタイム インタラクションの限界を常に押し広げています。Spanner は、ゲーム デベロッパーが、コロプラの「ドラゴン クエスト ウォーク」のような世界的に成功を収めているタイトルをリリースできるよう支援し、初日から数百万人の同時プレーヤーに対応しています。世界中のプレーヤー ベース全体にわたってプレーヤー プロフィール、ゲーム内のインベントリ、リーダーボードを整合性のある方法で管理し、予測不可能なトラフィックの急増に弾力的に対応する機能は、シームレスなプレーヤー エクスペリエンスを提供するうえで極めて重要な役割を担ってきました。

小売業と e コマースでは、Spanner は企業が現代の商取引の複雑さを管理できるよう支援しています。Walmart は、Spanner を使用して在庫と支払いの管理をモダナイズし、オンライン店舗と実店舗の間でリアルタイムかつ一貫したビューを提供しています。グローバルなオンライン ショッピングモールおよび e コマース プロバイダである MercadoLibre は、Spanner を活用して、主要な商品の発売時に発生する需要の急増など、世界中の顧客のニーズに対応しています。

Uber などの運輸業界のリーダーは、Spanner を利用して、10,000 を超える都市で毎月数百万人の同時ユーザーと数十億回の移動を処理し、1 日あたり数十億件のデータベース トランザクションを処理しています。

これらの例は、多くの最新のアプリケーションにとって、グローバルな整合性、大規模なスケーラビリティ、高可用性、相互運用可能なマルチモデルという Spanner の独自の組み合わせが、単なる技術的なメリットではなく、ビジネスを可能にする基盤であることを示しています。リアルタイムのグローバル在庫、瞬時に整合性が保たれる財務記録、世界規模のシームレスなマルチプレーヤー エクスペリエンスを基盤とするビジネスモデルは、Spanner を使用することで大幅に簡素化され、リスクが軽減されて、実装が容易になります。

Spanner が形作る未来

SIGMOD アワードは、Spanner の開発と進化の過程に携わった 30 人以上の個人と、無数の現職および元職の Google 社員の貢献を称えるものです。当初の野心的なコンセプトから、現在では世界に影響を与えるシステムに至るまでの道のりを目の当たりにできたことは光栄に思います。公開された OSDI 原著論文から今回の 2025 SIGMOD Systems Award に至るまでの道のりは、Google による 10 年以上にわたる継続的な研究、エンジニアリング、投資に光を当てるものです。このような長期的な取り組みは珍しく、Spanner の継続的な成功と影響力の背後にある重要な要素となっています。

お客様のおかげで、Spanner は進化し続ける生きたシステムとなっており、社内での使用とクラウドを利用しているお客様のニーズの両方によって推進される継続的な改善の恩恵を受けています。今後も、分散データベースの可能性の限界を押し広げていくことに尽力してまいります。Google は、AI を活用したアプリケーションなど、新しい種類のアプリケーションの実現を Spanner が支援することに期待を寄せています。また、世界を変える次世代のアプリケーションを構築するデベロッパーのために、データ マネジメントを簡素化するというミッションを継続していきます。

Spanner の違いを体験する

2025 ACM SIGMOD Systems Award は大きな名誉であり、数年前に Google が歩み始めた道の正しさを証明するものです。2025 SIGMOD カンファレンスに参加される方は、6 月 24 日(火)午後 4 時 30 分に直接お会いして、Google チームの講演をお聞きいただけます。

整合性、スケーラビリティ、可用性に関する Spanner の機能が、直面している課題のお役に立てそうであれば、ぜひ以下の方法で詳細をご確認ください。

  • Spanner を実際に使用し、サポートされている機能とユースケースをご確認いただけます。90 日間の Spanner 無料トライアル インスタンスをご利用ください。

  • ドキュメントで詳細をご確認いただけます。

  • 学術的な内容に関心をお持ちの場合、Spanner に関する原著論文後続論文をお読みください。

最後に、Spanner は信頼性、スケーラビリティ、グローバルな整合性を備えたアプリケーションを構築するための新たな可能性を切り開くものであり、お客様が Spanner を使用してどのようなアプリケーションを構築されるのか、楽しみにしています。

-Spanner 創設者エンジニア、Google Fellow、Christopher Taylor 

-Spanner、グループ プロダクト マネージャー、Jagan R. Athreya

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