小売業者が BigQuery ML で柔軟な需要予測モデルを獲得
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2021 年 1 月 28 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
小売業者は、需要予測の価値を理解しています。直感、商品や市場にまつわる経験、季節のパターンやサイクルを参考にして将来の需要に備えています。可能な限り正確な予測が必要なだけでなく、最近の小売業者は大規模な需要計画を行ううえでの課題にも直面しています。何百もの個々の販売拠点や指定マーケット エリアにおいて何万点もの商品の品揃えがある状況では、ビッグデータ プラットフォームと、それに応じてスケールアップする時系列モデル作成ソリューションの助けなしでは多くの時系列データが管理できなくなります。
これまでのところ、この課題に対して以下の 2 つの方法で対処されています。
導入と保守に多大な時間とリソースを要する、完全エンドツーエンド型需要予測ソリューションの購入。
モデル作成とデータ エンジニアリングの両方において深い経験が求められる、汎用機械学習プラットフォームを活用した独自の時系列モデルの運用。
需要計画のためのより簡単で柔軟なソリューションを小売業者に提供するため、Google は、自己回帰和分移動平均(ARIMA)を基に BigQuery ML で時系列予測を実行するためのスマート アナリティクスのリファレンス パターンを公開しました。この ARIMA モデルは BigQuery ML のローコード設計の原則に沿ったもので、時系列モデルの高度な知識がなくても正確な予測を行えます。さらに、BigQuery ML ARIMA モデルは、多くの人に親しまれている元の ARIMA モデルを通じて、いくつかのイノベーションをもたらします。複数の季節パターンを捕捉する機能、モデルの自動選択、手間のかからない前処理パイプライン、そして何よりも、数行の SQL だけで数千件の予測を容易かつ大規模に生成できる機能などがあります。
このブログでは、最も一般的な 2 種類の需要予測チーム組織方法と、BigQuery ML がどのようにこの 2 種類の方法のギャップを埋めるのかを見ていきます。さらに BigQuery ML が COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のような不測の事態から需要計画を取り出すうえでどのように役立つかについて説明します。
需要予測デザイン パターンを実装するためのエンドツーエンドのプロセスについては、こちらの動画をご覧ください。
2 種類の需要予測チーム
従来、大規模な組織には 2 種類の需要予測チームがあります。ここでは、ビジネス型予測チームと科学型予測チームと呼ぶことにします。
ビジネス型予測チームは通常、データ サイエンスの高度なスキルを必要としない本格的なエンタープライズ リソース プランニング(ERP)または Software as a Service(SaaS)予測ソリューション(場合によっては自社開発のソリューション)を使用します。これらの ERP は、全自動で予測を作成します。チームメンバーは、多くの場合、組織のビジネス部門から選抜され、深い専門技術ではなく広範な専門領域とビジネス知識を持ったメンバーが集まって予測業務を担います。多くの大規模な従来型組織では、この手法を採用しています。この種のソリューションは、スケーラビリティは高いかもしれませんが、実装とサポートの両方に多大な時間とリソースを要します。たとえば、大規模な実装チームと DevOps チーム、コンピューティングとデータ ストレージの複数の専用インスタンス、予測を更新するために固定スケジュールで長時間にわたるバッチサイクルなどが通常は必要とされます。
科学型予測チームは通常、データ サイエンスや技術系の組織で働く Python や R に詳しい博士号または理学修士号を持つ実務家で構成されます。Cloud AI Platform と連携し、モデルの選択、構築、トレーニング、評価といったエンドツーエンドの予測をすべて自分たちで行います。その後、モデルを本番環境にデプロイし、結果をビジネス上の関係者や上層部に伝えます。この種のチームは、デジタル世代の人が集まる組織に多く見られます。
新しい種類の予測チーム
最近では、新たな混合型の予測チームが登場しています。多くの場合、この種のチームは、よりデータとモデルを積極的に駆使しようとしている企業内に存在しますが、高価な ERP に投資したり、博士号を持つデータ サイエンティストを雇ったりするだけのリソースを持っていません。予測や需要計画に関する一定水準の知識はあっても、カスタムモデルを大規模にデプロイするだけの十分な経験も組織的リソースもない場合もあります。それでも、この種のチームは、適切なツールがあれば、科学型予測チームの高度なモデル作成とビジネス型予測チームの深いビジネス分野の知識という、両方の最も良い部分を融合できる可能性を秘めています。
不測の事態への対応
ほぼすべての企業が 2020 年に実際に経験したように、COVID-19 の大流行のような特定の出来事は需要予測シグナルに大きな影響を与え、既存のモデルに疑問を投げかけます。
ERP の予測ソリューションでは、サプライ チェーンと店舗ネットワークの構成にわずかな変更を加えただけでも需要パターンの変更が発生し、需要計画ソリューションの広範な再構成や大規模なサポートチームの協力が必要になります。BigQuery ML は、予想される出来事と予想外の出来事の両方によるこのような調整の複雑さを軽減し、サーバーレスのため自動スケーリングでき、DevOps の時間と労力にかかる費用を削減できます。サプライ チェーンのネットワーク構成の変更に適応するための予測の再生成は、今や数週間ではなく数時間でできます。
BigQuery ML リファレンス パターンを使ってみる
BigQuery ML などの Google Cloud ツールをより簡単に使いこなせるようにするために、先日、一般的な分析ユースケースのサンプルコードを掲載した技術リファレンス ガイドであるスマート アナリティクス リファレンス パターンを紹介しました。分析ツールを簡単に使いこなす方法を求められていますが、これまでのリファレンス パターンでは、顧客の生涯価値の予測、購入傾向、商品推奨システムなどのユースケースを取り扱っています。
GitHub に掲載されている最新のリファレンス パターンでは、大規模な時系列予測の生成をすぐに開始できます。このパターンでは、過去の売上データを使用して BigQuery ML で需要予測モデルをトレーニングし、ダッシュボードで予測を可視化する方法を紹介します。
詳細とアイオワ州酒類販売データの過去の取引データを使用して今後 30 日間の予測を行う方法については、こちらの説明記事をご覧ください。このブログでは、以下の方法を説明します。
BigQuery ML を使用して需要予測モデルを作成するために必要な正しい形式にデータを前処理する方法
複数の BQ ARIMA 時系列モデルを BigQuery ML に適合させる方法
モデルを評価し、所定の予測期間について将来予測を作成する方法
ダッシュボードを作成し、データポータルを使用して、予測された需要を可視化する方法
クエリのスケジュールを設定して、定期的にモデルを自動で再適合させる方法
先ほど紹介したコンセプトをさらに詳しく見てみましょう。
BigQuery ML でビジネス型予測チームと科学型予測チームをつなぐ
前述の機能を考えると、BQML を使用すれば、現在の 2 つの大規模な予測手法を相互補完でき、高い専門知識を持つ時系列データ サイエンティストを必要とせずに、独自の需要予測プラットフォームを構築できることがわかります。BQML は、異種混合型予測チームにとって理想的なソリューションであり、その場で大規模な予測を生成するためのツールを備えています。
BigQuery ML では、SQL を使用して ML モデルをトレーニングしてデプロイできるため、データ モデリングの課題にでも取り組めるようにし、需要予測ツールとビジネス分析情報を組織内のより多くの人材に開放できます。
たとえば、BigQuery ML ARIMA モデルは、新鮮なデータを使用して短期間に数千もの予測を生成する機能により、小売業者が予期せぬ出来事から業績回復するうえで役立ちます。DevOps チーム全員を動員せずに、需要予測の再調整をよりコスト効率に優れた方法で行い、トレンドの変化を検出し、新たなパターンが出現したらこれを捉える反復処理を複数回実行できます。
予測エンジンとして BigQuery ML を使用することで、ビジネス型予測チームまたは異種混合型予測チームと高度データ サイエンス チームの足りない部分を相互補完できます。たとえば、予測アナリストは、BigQuery を使用して基準となる統計予測を生成し、その予測を見直す業務を担当しますが、必要に応じて上級データ サイエンティストの協力を得て、一部の需要データについてより高度な因果関係分析を実行したり、変化する需要パターンに対する COVID-19 の影響を測定したりできます。「DevOps」ではなく「DemandOps」とお考えください。
これは、予測と売上実績が更新されるたびに、または必要に応じて予測と売上実績を BigQuery にエクスポートするだけで、ERP の需要計画ツールをすでに持っている場合でも可能です。小売業者が実際に複数の時系列予測を別々の事業部門に実施させていることもあります。商品化計画チームは、戦術的な需要予測と営業上の需要予測を実施し、財務チームは営業収益予測を実施し、サプライ チェーン チームはデータセンター レベルでの容量計画ための独自の予測を実行しており、それぞれが独自のツールセットを使用することになります。これらの予測は個別に生成されていますが、予測を調整することで精度が向上し、サイロ化された予測や分析では提供できない、ビジネスに関する貴重で総合的な分析情報を小売業者に提供できます。
たとえば、商品化計画チームは、市場および商品に関するシグナルを基に、ある商品の需要の増加を予測できます。これとは別に、サプライ チェーン チームは、商品出荷量の減少を予測するさまざまな製造面および物流面の要因に気付きます。通常、この不一致は数週間発見されず、その後、メールや会議を通じて解消されます。相反する計画がすでに別々のチームによって確定されたため手遅れとなった場合は、その時点で大きな損害が出ます。BigQuery を一元管理された予測分析プラットフォームとして使用すると、小売業者が数時間から数日のうちにこのような不一致を検出し、適宜対応することが可能になり、事実の判明から数週間後に計画の決定を以前の状況に戻す必要はなくなります。
BigQuery と BigQuery ML は、BQARIMA の強力なモデル作成機能だけでなく、異なる多様な予測チーム間の共同作業に最適なプラットフォームを備えています。
Google Cloud は、需要予測機能を強化し、時代の変化の中で在庫量を最適に保つためのソリューションを複数提供しています。このブログで紹介した BigQuery ML ツールのほかにも、以下のソリューションをご利用いただけます。
Cloud AI Platform の Jupyterlab インスタンス上で、お好みのオープンソース フレームワークを使用して、独自の統計的時系列モデルまたは ML ベースの時系列モデルを構築する
AutoML Forecast を使用して、最先端のディープ ラーニング時系列モデルを自動選択し、トレーニングする
近日公開予定のフルマネージド型予測ソリューション「Demand AI」を使用する(現在試験運転中)
o9 のようなパートナーと協力して、予測機能を備えた小売業向け計画プラットフォームを Google Cloud 上に実装する
データ分析のリファレンス パターンのその他の例については、カタログの見通し予測のセクションをご覧ください。これを機に、BigQuery ML をぜひともご利用ください。詳細は、プロダクト紹介をご覧ください。
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-カスタマー エンジニア AI / ML スペシャリスト Skander Hannachi