Arab Bank: Anthos と Apigee を使ってアプリケーションのイノベーションを促進
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2021 年 6 月 15 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
1930 年に創業し、ヨルダンに本部を置く Arab Bank は、中東で最も古くからある銀行の一つです。世界の 28 か国に支店をもち、その堅実な運営方針と、各地域の文化および習慣を尊重する姿勢によって、お客様の信頼を獲得しています。
中東および北アフリカ諸国では、クラウド プロバイダがデータセンターを設置済みの一部地域を除き、銀行業界におけるクラウド技術の導入が全体的に遅れています。その背景には、クラウド サービス(PaaS および SaaS)のデータ セキュリティ、成熟度、セキュリティ管理に対する懸念があること、さらに、規制の存在があります。こうした状況の中でも、当行はこれまでいくつかの好機に恵まれ、クラウドを活用して開発やテストの期間を短縮させたり、フィンテック コミュニティやデジタル サービス プロバイダと連携して各社のソリューションをバンキング エコシステムに組み込んだりするなどの成果をあげてきました。このようにフィンテック業界の力を借り、社内のイノベーションを促進、スピードアップするためには、外の世界と柔軟につながることができるオープンなアーキテクチャが必要となります。当行は、Google Cloud と連携することでこの目標を達成し、Apigee や Anthos などのプラットフォームを活用してアプリの開発、テストのプロセスをスピードアップすることができました。その結果、顧客や従業員に対して最新技術を用いた革新的アプリやサービスを提供できるようになり、アジリティおよび柔軟性の促進や、ワークロードの最適化につながっています。
規制の厳しい業界にクラウドを取り入れる
まずは、社内のリーダーやスタッフに、クラウド技術や、API レイヤ、コンテナといった概念およびそれらがもたらすメリットについて理解してもらう必要がありました。Google の力を借りて、オープン テクノロジーに関するデモセッションや討論会を催すなどして社内教育を進め、主な関係部門の賛同を得られるよう努めました。クラウド プロバイダの候補選びで重視した点は 4 つあります。それは、セキュリティ管理の成熟度、使いやすさ、コスト、さらに、新しい環境への導入や技術の進化に対応できるスケーラビリティやアジリティを備えているかどうか、という点です。特にこのスケーラビリティを重視していた私たちにとって、Google Cloud のイノベーション ロードマップは非常に魅力的でした。Google の担当者との直々の打ち合わせはもちろん、Google Cloud Next のカンファレンスで、技術やイノベーション、新しいものづくりに情熱を傾ける人々と出会えたことも、私たちの判断に大きく影響しました。
当行でのクラウド導入の道のりに話を戻しましょう。前述のように、地域特有の制限があるという理由から、私たちはハイブリッド クラウド方式を採用し、これを発展させていくことにしました。この方法なら、本番環境で提供中の多数のサービス、中でも個人情報(PII)やその他の機密データを扱うようなサービスの運用をオンプレミスで継続する一方で、開発およびテストや、本番環境の一部のワークロード(顧客データを含まないもの)には、クラウドを活用することが可能となります。
当地域の適用法令が近いうちに大幅改定され、他国へのデータ転送が許可されるようになる見込みは低そうです。今の状況が続いても、クラウドツールがあれば、顧客データをトークン化および匿名化して利用しながら、データの保守はオンプレミスで行えます。このような運用方法は、オンラインで提供している各種サービス(顧客のオンボーディングや、クレジット機能のオンライン申請、マーケットプレイスでの操作など)にも適用されます。今後、パートナー各社と API 統合を進めることにより、当行の価値提案をデジタル化という観点から総合的に充実、促進させて、主な顧客であるコンシューマー バンキングの利用者はもとより、中小規模ビジネス、大企業、その他法人のお客様に対してアピールできると考えています。
クラウドでつながりと基盤をつくる
デジタル トランスフォーメーションにおいて最初に着手したのは、Google Cloud の API 管理プラットフォームである Apigee を導入し、世界中のデジタル バンキング エコシステムとつながることでした。Apigee では、セキュリティ、共有、メディエーションに関するポリシーのほか、デベロッパー ポータル機能も提供されているため、オープン バンキングの標準を満たしつつ、イノベーションに専念できました。
Apigee の導入を進める一方で、フィンテックの新しいアイデアを促進する場としてアクセラレータ プログラムを始動し、当行のデジタル プラットフォームにこれらのアイデアを取り入れて顧客に提供できるようにしました。さらに、各種バンキング API も開発しました。これらはすべて、PSD2 およびオープン バンキングの規制に従って設計、文書化され、パートナー各社に提供されています。フィンテック企業のクリエイティブなソリューションの設計に活用していただけるよう、これらの API はコード構造の要件とともに当行の API 開発ポータルで公開されています。
次に着手したのは、Google Cloud のマネージド アプリケーション プラットフォームである Anthos の導入です。Anthos はハイブリッド クラウドに対応しているので、これを運用の基盤として、マイクロサービス コンテナの統合や外部機関との連携を進めました。現在、Anthos のインフラストラクチャ上には数百のマイクロサービスが展開され、これらが Google Kubernetes Engine(GKE)のコンテナやオンプレミスで実行されています。コラボレーションや、開発、テストにはクラウドを、本番環境にはオンプレミスをという使い分けをしています。
クラウドのセットアップ プロセス全体や、Anthos の導入にあたっては、Google Cloud の Professional Services Organization(PSO)の力を借りました。最初は、クラウドツールを利用し、試行錯誤を繰り返しながら学んでいきました。Anthos の仕組みについて理解を深めた今では、Arab Bank の目指すデジタルファースト化およびそれに伴うスケーリングのしやすさを重視しながら、健全性、安定性、復元力を兼ね備えた基盤の上に、新たなインフラストラクチャを構築しています。
現在、Anthos で実行しているサービスは、顧客獲得およびオンボーディング用のモバイルアプリのほか、お客様が WhatsApp などのメッセージング プラットフォームを使って瞬時に金銭をやり取りできるようにする Arabi-Pay アプリがあります。さらに、Arab Bank の従業員を対象に、Anthos を活用した即日融資サービスも提供しており、7 分未満で最大 $7,000 の貸し付けが可能です。
中小企業(SME)のお客様向けにも、SME クライアント向けデジタル オンボーディング プロセスや、ペーパーレスの SME 融資プラットフォームを整備するなど、各種デジタル サービスを構築しました。
当地域ではお客様との直接の関わりを重視する習慣があることから、デジタル化が遅れていると思われがちです。しかし、最近の COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックによって、デジタル バンキング サービスや電子決済の導入が進み、オンラインでの購入や支払いに対して前向きな気風が広がっています。Apigee や Anthos を基盤とした当行のバンキング アプリは、お客様の主要な手続きを想定し、幅広い機能を備えているうえに非常に使いやすいのが特長で、新規のお客様の 90% 以上がこれらのモバイルアプリを活用してくださっています。今後 18 か月で利用率はさらに上昇し、100% に近付くと予想しています。
もちろん、こうした利用率の上昇は、サービス障害のリスクと表裏一体です。ほんの一瞬ダウンタイムが発生しただけでも、多くのユーザーがその問題に遭遇する可能性があります。Google Cloud の Anthos および Apigee の場合、プロセスを迅速に再開できるので、たとえ障害が発生したとしても、ユーザーにほとんど気付かれずに済みます。COVID-19 のパンデミックが始まった当初は、各支店の営業時間短縮を余儀なくされましたが、それをきっかけに一般のお客様を中心にデジタル サービスの活用が進み、各種手続きを自己完結していただくことができました。さらに、Google Cloud のおかげで、社内チームおよび外部パートナーが常につながりながら生産性を維持できるといったメリットも生まれています。Google Cloud なしでは、デジタル トランスフォーメーションを理想的なペースで続けることは困難だったでしょう。
国境やタイムゾーンを超えた連携
Google Cloud のおかげで、社内での共同作業やパートナーとの連携のあり方が大きく変わりました。デベロッパーが世界中の地域やタイムゾーンに散らばっていることを活かし、24 時間年中無休の運営体制を確立しています。テストや開発作業を週末も含めて絶え間なく継続できるので、現在、新しいデジタル サービスを数週間というかつてない速さでデプロイすることができています。これにより、イノベーション優先という高い意識が社内に生まれ、運営モデルのレベルアップにつながりました。
Google Cloud のツールを取り入れるにあたってもう一つ重視したのは、ソフトウェア開発ライフサイクルで発生しがちな非効率なプロセスを排除することです。現在では、設計担当の小規模チームから、本番環境での導入作業に至るまで、完全にアジャイルな方法でソフトウェアを構築しています。2 年前は、本番環境にリリースできるシステムの数が 1 年間で多くても 2 つまでだったのに対し、現在は、デジタル パッケージをほぼ 1 か月に 1 つのペースでリリースしています。さらに、こうした毎月のリリースの合間に、臨時や修正のリリースも行っています。各部門がバラバラに機能していた状態から脱却し、製品、営業、運用、IT Dev Factory、インフラストラクチャ、サポートに至るまでの各部門間の連携が大幅に向上しました。
API によってアジャイルなプロセスを促進するのと並行して、デザイン思考のワークショップを開催して早い段階で外部のお客様や見込み客に参加してもらうようにしています。それにより、お客様の真の悩みや、既存の方式に対する考え方について理解を深め、新しいデジタル方式にできるだけスムーズに移行する方法を探るのが狙いです。こうした取り組みの結果、以前に比べて格段に的確性の増した製品やサービスをそれぞれのお客様に提供できるようになっています。
バンキングにとどまらないサービス
Google Cloud のおかげで、バンキングにとどまらず、お客様の生活に密着した幅広いオンライン サービスを展開できるようになっています。たとえば、最近リリースした住宅ローンアプリでは、家選びから、ローンの交渉および締結、さらには家のデコレーションの手配にまで対応するサービスを提供しています。このような総合的サービスを成功させる決め手となったのが、地域の主要企業との API を通じた連携です。
その他のデジタル サービスについても、顧客層や年齢に応じて生活に密着したソリューションを提供できるよう、詳細なロードマップを用意しています。サービスのデジタル化への取り組みはまだまだ始まったばかりですが、今後もクラウドを使って、あらゆる目標を実現していく所存です。
詳細については、Google Cloud のオープン バンキング ソリューションをご覧ください。PSD2 の要件に従いながら、オープン バンキングの提供プロセスを簡易化、促進する方法を解説しています。Open banking, powered by Apigee API management(オープン バンキング: Apigee API 管理を活用)と題した動画も合わせてご覧ください。
-Arab Bank 最高執行責任者 Eric Modave