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AI & 機械学習

次世代の保険金請求: AI で自動車事故対応を変える

2021年3月5日
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Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2021 年 3 月 20 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

編集者注: この記事では、リスク管理ソフトウェア プロバイダの Solera Holdings 様による、Google Cloud の機械学習を使用して自動車保険の請求処理のあり方を変革した取り組みをご紹介します。

自動車保険請求部門とのやり取りに手間取っていませんか?接触事故だけならなんとか我慢できても、保険金請求担当者との費用や自己負担額の交渉の段階ではストレスが溜まり、我慢の限界を超えそうになる人が多いでしょう。

Solera Holdings のビジネスは、自動車損害査定です。全世界の保険会社、運転者、自動車業界間の保険請求のうち約 60% を取り扱っています。今の時代、車を修理してほしいと思ったら、できるだけ早く修理してほしいと思うものです。ただし、ライドシェアや食品配送のような他の最新サービスとは異なり、保険会社の請求部門はたいてい、あまり迅速に対応してくれません。そこで Solera Holdings は、請求対応のワークフロー プラットフォームである Qapter を人手を介しないインテリジェントな請求処理ソリューションへと作り変えることにしました。

安全第一 - でも誰もが早く対応してほしい

私は、2020 年に Solera に入社したときすでに、どれほど革新的で画期的な技術であっても、特定の人工知能(AI)技術または機械学習(ML)技術だけでビジネス上の課題すべてを解決することはできないと理解していました。私の経験上、問題解決には、常に複数の自社技術とクラウド技術を採用する必要があります。私は、AI 技術を適切な問題に対し効果的に使用することで、Solera に競争上の優位性をもたらし、これを維持したいと考えていました。そのため、私のチームがすでに私の考えよりはるか先に行っていることを知ったときには、うれしく思いました。チームは、AI と ML の力を借りて最も大きな問題の解決に向けて取り組んでいたのです。

Solera のプロダクト チームは、長年にわたり保険会社から聞いていた情報から、お客様が AI を活用して請求処理を行いたいと思っていることを知っていました。修理見積技術が見積スプレッドシートから 3 次元モデルに進化している現代では、急速に進化する顧客の期待に、過去に考案されたソリューションとプロセスでは対応しきれなくなっています。残念ながら、多くの保険会社は、既存システムに対し「安全第一」の姿勢を取っています。この結果、顧客は遅々として進まない処理にイライラさせられることになっています。この部分から改善に着手するべきであることは明らかでした。そして、保険業界と自動車業界の変革に長年携わってきた私たちがこの問題を解決したいと考えました。

AI プロジェクトで課題となるのは、目の前の問題に対し適切な技術を適用することです。技術を効果的に使用できるよう、使用する場所と使用範囲を把握することが重要です。そうしなければ不十分な結果に終わるおそれがあります。そのときすでに、複数の保険会社がコンピュータ ビジョンを使用して、衝突事故による損傷の修理プロセスの自動化を試みていました(ただし、これは失敗しました)。こうした会社は、必要な機能を持った自社製ソリューションを構築することには何とか成功しました。しかし、これらの AI プロジェクトはすべて、最終的に規模拡大の段階で問題に直面しました。

そこで、「AI プロジェクトの失敗を避けられる、別のアプローチはないだろうか」と考えました。まず私たちは、焦点を絞ることにしました。修理プロセス全体ではなく、衝突事故の保険金請求ワークフローだけに的を絞って、AI を活用して車両の損傷を特定する方法を探しました。次に、ML 機能で既存のバックエンド システムを補強しました。そして、自社所有の自動車画像と部品カタログが保存された既存のデータベース内の豊富な情報を活用して、修理の方法、費用、予測時間を正確に提示するプロセスの効率化を図りました。

また、私が Solera に入社する前に、チームは自動請求処理システムの初期のバージョンをすでに構築していました。このため、成功の見込みの低いいくつかの手法を最初から除外できました。この元のバージョンのおかげで、詳細な計画を立てることができ、取り組むべきことがはっきりしました。また、最新のクラウド技術と AI 技術を取り入れた場合に Qapter がどの程度の能力を発揮できるのか、新しい目線で考え直すことができました。これで方向性が定まりました。初期の損傷査定を AI を活用したプロセスに変換するためにほかに必要なものは、適切な AI ソリューションと最新のクラウド技術だけでした。

Google Cloud: 必要な各要素がそろった AI 技術ツールボックス

私たちのチームは、高度なクラウド技術一式と統合できる AI と ML のソリューションを探し始めた段階で、すでにクラウド技術の経験を積んでいました。私たちは、お客様との契約上の理由で自社のデータレイクをホストしていますが、交通事故保険金請求のワークフローはすでにクラウドに移行していました。次世代プラットフォームを導入して成果を上げるためには、正しい技術ベンダーを選定することが何よりも重要であることはわかっていました。

技術を徹底的に比較検討したところ、Google Cloud の AI ソリューションと ML ソリューションが他社のものより高度、堅牢、かつスケーラブルであることが判明しました。Google Kubernetes Engine や Cloud Run など、AI アプリケーションを構築およびデプロイするためのクラス最高のテクノロジーが搭載されており、それが Google Cloud のエコシステム全体と統合されていることが、決断の決め手となりました。つまり、Google Cloud には、全自動での請求処理に AI ソリューションと ML ソリューションを最大限に活用するために必要な要素がすべて備わっていました。同時に、高度な追加機能とツールも使用できるため、インフラストラクチャの維持管理に気を取られることなく、開発やデプロイを迅速に進められると思いました。

Qapter の本質的価値は、3D 車両モデルを使用して車両の部品構成を把握できることにあります。このデータは別の目的にも使うことができ、車両点検や衝突推定など、さまざまなワークフローに使用されています。私たちは、Vision API と TensorFlow を使用して、衝突画像を基に、車のメーカーとモデル、損傷情報、修理に必要な部品などの請求情報をすべて収集および認識できるシステムを構築しました。

まず着手したのは Vision API を使ったシンプルな画像処理です。Vision API の光学式文字認識(OCR)機能を使用して、ナンバー プレート情報と VIN を収集しました。次に、TensorFlow を使用して、画像認識と車両データ抽出のためのカスタム アルゴリズムと機械学習モデルを構築しました。これにより、車のメーカーとモデル、損傷情報、修理用部品などの他の重要情報を収集できるようになりました。また、Google Cloud の GPU(グラフィック プロセッシング ユニット)と TPU(Tensor Processing Unit)のおかげで、データモデル処理が速くなり、大規模で複雑なモデルを高速で処理する能力が高まりました。

今では請求処理に必要なのは、損傷した車の写真だけです。それさえあれば、あとは Qapter が自動的に処理してくれます。Qapter は、画像を取得したら、Solera が確保している膨大な保険金請求用画像リポジトリと比較して損傷の程度を評価し、車のメーカーとモデルを認識し、どの部品が必要かを特定して、最終的な修理費用を見積もります。

難局から変革へ

私たちは 2020 年にフランスとオランダで新しい Qapter のリリースを開始しましたが、これにより保険金請求の処理全体が劇的に変わったことは間違いありません。お客様は、AI を活用した新しい手法に非常に満足しています。保険金請求担当者を派遣して車を物理的に調査させる必要はなくなりました。運転者は、車の写真を撮ってアップロードし、処理を開始するだけでいいのです。

これにより、従来の方式が一変しました。Qapter は、発売後数か月のうちに損害賠償請求の 50% を自動承認し、見積費用を半分近くにまで削減できました。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する中で、損害賠償請求のバリュー チェーン全体にも予期せぬ効果がもたらされています。Qapter を使用すると、運転者、保険会社、自動車修理業者の時間とコストが削減される一方で、最終的には人間同士のやり取りも必要なくなります。

何をするにも社会的距離を取らなければならない状況下でも、必要なサービスは受けられなければなりません。Qapter が自動車の修理サイクルをスムーズに回し続けているおかげで、運転者が運転を再開でき、修理工場が仕事を続けられています。また、保険会社は社員を派遣して保険金請求を現場で査定させなくて済んでいます。

Solera は、自社で作成した新しい Google Cloud フレームワークを基礎にして、新しい商品とサービスの開発と構築を続けていきたいと考えています。コンピュータ ビジョンは、ウィンドウやフロントガラスの損傷、保険適用範囲の査定、レンタカーまたはリース車の返却、不正行為の検出など、損害査定分野で幅広く応用されています。Google Cloud は、単なる当座の問題を解決するためのソリューションではありません。私たちにとっては、全社で活用できる中核技術なのです。

-Solera Holdings 最高技術責任者 Evan Davies

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