FibroGen: 請求書の処理を自動化することで 40 倍の ROI を達成できた理由
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2024 年 3 月 14 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
生命を脅かす慢性的な症状の治療法開発に重点を置くバイオテクノロジー企業 FibroGen の少額買掛金(AP)チームには、ベンダーからの請求書が殺到しています。最近の SAP の実装により多くの業務が合理化されたにもかかわらず、請求書の処理は依然として手動で行われており、時間がかかります。
FibroGen は毎月約 1,000 件の請求書を受け取っています。AP チームが 2 人体制で、1 通の請求書を処理するのに平均 5 分かかる場合、1 人あたり年間約 500 時間(総労働時間の約 25%)が請求書の処理に費やされることになります。
ところが、請求書の処理の中心となるのは、重要であるものの単純ないくつかのビジネスルール(請求書とクレジットメモの区別など)に則って行われる単なるデータ入力です。請求書はメール(通常は PDF の添付ファイル)で受け取り、共有フォルダにダウンロードしてから SAP に手動で入力します。
言うまでもなく、このプロセスでは自動化の機が熟しており、これにより、生産性、ミス防止、従業員の満足度が大きく改善される可能性があります。
Document AI の発見
FibroGen の IT 担当バイス プレジデントである Parag Govil 氏は、AI などのイノベーションによる戦略的な費用削減に重きを置いています。Google Cloud の Document AI とその Invoice Parser に関する知識を得ると、Parag 氏は AP チームと連携してこのサービスを試験運用することにしました。しかし、FibroGen は Google Cloud を利用したことがなかったため、このソリューションの実装に必要な専用の技術リソースが不足していました。
ギャップを埋めるために、Parag 氏は FibroGen の SAP パートナーである Deloitte と、さらには Google Cloud に、ソリューションの設計と実装を支援するよう協力を求めました。
AI を使用したビジネス成果の推進には困難が伴う場合があります。重要なのは、とにかく始めてみて ROI を優先することです。Document AI で請求書の処理を自動化するにあたり、私たちはg限界がある効率性のギャップであって、その解消が有意味であるものをターゲットにしました。さらに重要なのは、AI を使用したビジネス変革への道が開かれたことです。
FibroGen、IT 担当バイス プレジデント Parag Govil 氏
FibroGen に最適なソリューションの構築
FibroGen チームの規模が必要最小限であることと、重要なビジネス部門で AI を利用するという新規性を考慮すると、そのソリューションはいくつかの重要な要件を満たす必要がありました。
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シンプルさ: FibroGen がソリューションをデプロイし、最終的に管理できるようにするには、可動部分をできるだけ少なくし、理解しやすく適応しやすいアプローチにする必要がありました。
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モニタリング: 避けられないエッジケースに対処できるかなど、モニタリングを通じてソリューションに対する信頼を築くことが非常に重要でした。時間をかけてこれを達成するうえで、ソリューションには人間の参加を支援しつつ、最終的には最小限に抑えることが求められました。
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費用: 実装に先行投資する正当性の根拠を示すために、優れた ROI を実現できるソリューションである必要がありました。
さらに、既存のシステムであるメール(Outlook)や SAP にソリューションを統合する必要がありました。
以上の要件を踏まえ、チームは Document AI を中心としながら以下の仕組みを利用するソリューションを設計しました。
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AP チームの手で請求書をメールから Google Cloud Storage バケットにダウンロードする(自動化に向けたフェーズ 2 計画あり)
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Cloud Functions の関数をトリガーして Document AI を呼び出し、その出力を処理する
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SAP Cloud Integration により、出力の取得、主要なビジネスルールの適用、SAP R/4 へのアップロードを行う
さらに、FibroGen は人間によるレビュー手順を組み込み、構成可能なしきい値を満たしていない請求書を AP チームに送り、承認を求めることにしました。
ソリューション コンポーネント
下の図は、次のような主要なソリューション コンポーネントを表したものです。
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入力 GCS バケット。AP チームがここに請求書をアップロードします。
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「起動元」となる Cloud Functions の関数。請求書のアップロードによってトリガーされ、Document AI API を呼び出して請求書を処理します。
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Invoice Parser に基づく Document AI プロセッサ(別のオプションとして、生成 AI を利用した Document AI カスタム エクストラクタも考えられます)。
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「ハンドラ」となる Cloud Functions の関数。JSON 形式のプロセッサ出力によってトリガーされ、出力を SAP Cloud Integration に転送します。
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SAP Cloud Integration フロー。出力をリッスンし、検証や他のビジネスルールを適用して、SAP R/4 にアップロードします。


成果と今後の展望
設計から本番環境へのデプロイまでのプロセスは全体として 3 か月以内に完了しました。初めこそ AP チームのモニタリングが必要ですが、時間の経過とともに、パーサーが FibroGen のベンダーのサンプルでアップトレーニングされ、最終的には人間の関与の必要性が(なくなりこそしませんが)減少します。
このソリューションの総実行費用は、Google Cloud のサポート料金を含めて月額 150 ドルと見積もられています。AP チームの処理能力の 25% を解放できる可能性があるため、このソリューションは推定 40 倍という驚異的な投資収益率(ROI)を実現します。さらに、AP チームは、この時間をより価値が高く、より興味深い活動に振り向けることができます。
請求書に関する試験運用の成功を受けて、FibroGen は Document AI の利用を他の調達事例にも拡大することを計画しています。
Document AI とそれがビジネスにどのように役立つかについて詳しくは、まずこちらをご覧ください。
-Google、Cloud カスタマー エンジニア Chris Pooley
-FibroGen、シニア IT ビジネス システム アナリスト Viviana Gomes 氏