「記録」から「推論」へ: AI ネイティブ データベースの登場

Yasmeen Ahmad
Managing Director, Data Cloud, Google Cloud
AI ネイティブなビジネスの時代に信頼性と統制を確保するには、データベースを能動的な「推論システム」に変換し、自律型エージェントの説明可能な思考プロセスを取り込む必要があります。
編集者注: この記事は、もともと InfoWorld に掲載されたものです。
何十年もの間、データベースは商取引の静かなるパートナーとして、信頼できる受動的な台帳の役割を果たしてきました。データベースは記録システムであり、すべてのアクションに対して監査可能な記録が存在することを保証する不変の保管庫でした。このモデルは世界経済全体を支えてきました。しかし、人間主導で予測可能な取引の時代は終焉を迎えました。
今や、エージェントの時代が到来しています。新しいタイプの自律型エージェント(知覚、推論、行動、学習を行うシステム)がビジネス オペレーションの主要な推進力になりつつあります。このようなシステムは、規定のワークフローを実行するだけではなく、新しいインテリジェントな行動を生み出します。こうした変化は、自律システムによって運営される部分が増加するビジネスにおいて、新しい深刻な課題をリーダーシップに突きつけています。信頼性、統制、監査可能性を確保するにはどうすればよいでしょうか?自律的に思考するシステムでは、どこで承認や合意が行われるのでしょうか?
こうした課題を解決するには、エージェントを制限するのではなく、エージェントが稼働する環境を進化させることにあります。データベースは、もはや受動的な記録保持システムのままではいられません。推論システムへと転換し、アクティブでインテリジェントなプラットフォームとして、エージェントの良心の役割を果たす必要があります。つまり、エージェントが「何」をしたかを記録するだけでなく、「なぜ」そうしたかに関する変更不可能で説明可能な「思考の連鎖」を提供しなければなりません。これは、AI ネイティブ データベース時代の幕開けです。
リーダーシップに求められる 3 つの使命
-
現行のデータベースを、受動的な台帳から能動的な推論エンジンへと進化させる。データ プラットフォームは単なるリポジトリであってはなりません。自律的なアクションの通知、誘導、実現に能動的に関与する必要があります。
-
エンタープライズ ナレッジグラフを使用して永続的な AI の優位性を確立する。持続可能な差別化は、AI モデルだけでは実現できません。包括的な自社所有データを、相互接続されたエンティティのグラフとして構造化し、高度な推論を行えるようにすることで実現されます。
- 高速デプロイのための「AgentOps」フレームワークを確立する。AI による価値提供で主なボトルネックになるのは、人間のワークフローです。コンセプトから本番環境グレードの自律システムに至る道筋で最も優れた生産性と信頼性を提供するプラットフォームが、成功をもたらします。
フェーズ 1: 知覚 - エージェントに「統合知覚レイヤ」を実装する
環境をリアルタイムで明確に知覚できないエージェントはビジネスを停滞させます。The Home Depot は、単純な検索を超えて専門家による 24 時間 365 日のガイダンスを提供する「Magic Apron」を構築しました。このエージェントは、リアルタイムの在庫データとプロジェクト データを参照して、顧客に合ったおすすめ商品を提示します。このレベルのインテリジェントなアクションには、包括的なリアルタイムのビジネスビューを提供する統合知覚レイヤが必要です。その基礎となるステップは、これまでサイロ化していたデータ ワークロードを集約する AI ネイティブ アーキテクチャの設計です。
HTAP+V でリアルタイムの感覚を統合する
従来のアーキテクチャでは、現在起こっていることを記録する運用データベースと、過去に起こったことを示す分析ウェアハウスの間に隔たりがあります。このように分断されたアーキテクチャで動作するエージェントは、常にバックミラーを見ているようなものです。その解決策となるのが、ハイブリッド トランザクション / 分析処理(HTAP)という集約型アーキテクチャです。Google は、この機能を設計する際に、システムを緊密に統合しました。そのため、BigQuery は本番環境のパフォーマンスに影響を与えることなく、Spanner と AlloyDB のライブ トランザクション データを直接クエリできます。
エージェントの時代には、「直感」が必要です。そこで、3 つ目の重要なワークロードであるベクトル処理を追加して、新しいパラダイムである HTAP+V を構築します。この「V」によってセマンティックな理解が可能になり、エージェントが意図と意味を把握できるようになります。このテクノロジーでは、「荷物はどこにある?」と尋ねている顧客と「配達に関する問題」を報告している人が、同じ意図を持っていることが認識されます。これを踏まえて、Google はデータベース ポートフォリオ全体に高性能のベクトル機能を統合しました。これにより、セマンティック検索と従来のビジネスデータを融合した強力なハイブリッド クエリが可能になります。
エージェントが全体像を把握できるように教育する
企業の最も価値が高い分析情報は、契約書、商品写真、サポート通話の文字起こしなどの非構造化データ内に存在することがよくあります。エージェントは、これらの形式すべてに精通している必要があります。そのためには、マルチモーダル データを、ストレージの問題としてではなく中核的な計算要素として扱うプラットフォームが必要です。これはまさに BigQuery が目指した未来であり、非構造化データを構造化テーブルとともにネイティブでクエリできるようにするイノベーションです。DeepMind の AlphaFold 3 は、膨大なマルチモーダル ナレッジベースを基に分子の複雑な相互作用をモデル化するものであり、そうした能力の確固たる実証となっています。このアーキテクチャが生物学の秘密を解き明かせるのならば、あなたのビジネスにおいても新たな価値を解き放つことができるはずです。
知覚のためのコントロール プレーン
知覚が完全であっても、ガバナンスがなければリスクが生じます。従来の手動ガバナンスでは、機械の速度で行われる意思決定に追いつけません。この問題の解決策は、ルールによって統制された環境内で稼働するエージェントを構築することです。そのためには、データカタログを受動的なマップからリアルタイムの AI 対応コントロール プレーンに変革する必要があります。その役割を果たすのは、Dataplex です。Dataplex は、一度定義したセキュリティ ポリシー、リネージ、分類を普遍的に適用します。これにより、エージェントの知覚の鋭さだけでなく、設計段階からの基礎的なコンプライアンスが保証されます。
フェーズ 2: 認知 - 記憶と推論のアーキテクチャを設計する
知覚だけでは十分ではありません。エージェントは理解する必要もあります。そのためには、記憶と推論のための高度な認知アーキテクチャが必要です。ある金融サービス エージェントが、数百万件の取引、アカウント、ユーザー行動を推論して、複雑な詐欺組織を数分で発見するとします。これには、エージェントの思考プロセスのアクティブなコンポーネントとしてのデータ プラットフォームが必要です。
多層記憶の設計
エージェントには次の 2 種類の記憶が必要です。
-
短期記憶: 緊急タスク用の低レイテンシの「スクラッチパッド」。絶対的な整合性が求められます。グローバルな整合性を備えた Spanner は、この役割を果たせるように精密に設計されており、Character.ai などのプラットフォームでエージェント ワークフロー データを管理するために使用されています。
-
長期記憶: エージェントの知識と経験の蓄積。大規模なスケールを持ち、サーバーレス ベクトル検索を備えた BigQuery は、信頼に値する認知ストアとして設計されています。エージェントは、ペタバイト規模のデータの中から必要な情報をピンポイントで検出できます。
モート: ナレッジグラフを使用した結合的推論
記憶があっても、それだけでは推論を行えません。標準の検索拡張生成(RAG)は、いわばエージェントに図書館の利用カードを与えるようなものです。それによって事実を見つけることはできますが、アイデアを結び付けることはできません。GraphRAG は、さらに進化し、エージェントは研究者のようにさまざまな情報源を横断して、アイデアを結び付けることができます。ベクトル検索のコモディティ化に伴い、エンタープライズ ナレッジグラフが真の永続的なモートになりつつあります。Google がデータベースにネイティブのグラフ機能(GQL)を組み込んで実現しようとしているのは、そのような未来です。このビジョンは、DeepMind の Implicit-to-Explicit(I2E)推論に関する研究によって検証されています。この研究は、エージェントがナレッジグラフを構築してクエリできれば、複雑な問題を解決する能力が飛躍的に向上することを示しています。
フェーズ 3: アクション - 信頼のための運用フレームワークを構築する
エージェントの時代に競争上の優位性を生むのは、速度です。それは、アイデアを本番環境グレードの自律プロセスに変換するスピードです。信頼性に欠けるエージェントや大量にデプロイできないエージェントは、実験の域を出ず、ビジネスツールにはなりません。最後のフェーズは、エージェントのアクションを確実かつ安全に統制する高速な「組み立てライン」の構築です。
エージェントの良心: 埋め込みのインテリジェンスと説明可能性
信頼を生むには、透明性の高い推論が必要です。これは、AI をデータに直接組み込むことから始まります。現在、BigQuery ML や AlloyDB AI などのプラットフォームでは、単純な SQL 呼び出しを介して推論機能をデータベースに直接埋め込んでいます。これらのシステムをさらに強化しているのが、データとビジネスのコンテキストに関するインテリジェンスを記録する新機能、ナレッジグラフです。これによって、データベースがエージェントの良心となります。
しかし、推論だけでは十分ではありません。DeepMind は、プラットフォームの一部になりつつある高度な機能を通じて、信頼の次なるフロンティアを開拓しています。その一例が、DeepMind のデータ引用に関する取り組みで発表された新世代の説明可能な AI(XAI)機能です。XAI では、ユーザーは生成された出力をソースまで遡って追跡できます。エージェントが現実世界で行動するには、前もって演習を行うための安全な環境が必要です。SIMA エージェントやロボット工学用の「生成物理モデル」などのモデルを使用した DeepMind の研究では、多様なシミュレーションでエージェントをトレーニングして検証することのミッション クリティカルな重要性が実証されています。この機能は、自律的なオペレーションのリスクを取り除くために統合されます。
MLOps と DevOps から AgentOps へ: エンゲージメントの新しいルール
信頼を確立したら、スピードが最優先事項になります。ここでボトルネックになるのは、人間のワークフローです。自律システムのライフサイクルを管理するには、新たな運用規範である AgentOps が必要です。Gap Inc. などの大手小売業者は、この原則に基づいてテクノロジー ロードマップを構築し、Vertex AI プラットフォームを使用して e コマース戦略を促進しながら、ビジネス全体で AI を活用しています。このプラットフォームの Vertex AI Agent Builder は、コードファーストの Python ツールキット(ADK)からフルマネージド サーバーレス ランタイム(Agent Engine)に至る包括的なエコシステムを提供します。エージェントの行動をモニターしてデバッグするために必要となる大規模なログ分析には、BigQuery を活用します。この統合ツールチェーンによって「ラスト ワンマイル」問題が解決され、開発とデプロイのライフサイクルが短縮されます。
AI ネイティブ時代における成長
エージェントの時代への移行には、アーキテクチャと戦略の変更が必要です。
-
基盤を統合する(知覚): 集約型の HTAP+V ワークロードを基盤とする AI ネイティブ アーキテクチャを構築し、AlloyDB、Spanner、BigQuery などのプラットフォームを単一のガバナンス プレーンの下で統合します。
-
認知のためのアーキテクチャを構築する(推論): 単純な chatbot を超える自律型エージェント用のデータ プラットフォームを設計します。階層化された記憶アーキテクチャの構築を優先し、強力な競争上の優位性をもたらす自社所有のエンタープライズ ナレッジグラフに投資します。
-
ラスト ワンマイルを制覇する(アクション): Vertex AI などの統合プラットフォームを中心に、包括的な AgentOps の演習に投資します。この投資が、実験の失敗で終わるか、革新的なビジネス価値を生み出せるかの分かれ道となります。
この統合スタックは、エージェントの時代に求められるものを提供します。それは、正確な知覚、深い推論、信頼の置ける行動を機械の速度で遂行できるエージェントです。
※この投稿は米国時間 2025 年 12 月 1 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
-Google Cloud、データクラウド担当マネージング ディレクター、Yasmeen Ahmad



