データドリブンによる、ルフトハンザ グループのサステナブルな運航の未来
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2022 年 10 月 12 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
過去数年にわたり、航空業界は、今後の 30 年間で二酸化炭素排出量の実質ゼロを実現する取り組みを表明してきました。この目標の達成は、サステナブルな燃料の利用、二酸化炭素排出量が少ない最新の航空機テクノロジーの確保、空中と地上で効率的な業務を実現する最適化戦略の策定に向け、同業界がどのような能力を持っているかに大きくかかっています。この複雑さに輪をかけるように、この業界が日常的に直面している課題があります。それは、乗客の期待に添う努力を続けながら、予測が困難なリソースの可用性、変わりやすい気象条件、不安定な財務環境などに対処しなければならないことです。
ルフトハンザ グループは、複雑になる一方のこの環境では、データ管理に新たな手法が必要であることを認識していました。同グループは Google Cloud と提携して、日常の航空便運航のより適切なプランニングと進行を促進するプラットフォームを開発しています。Google Cloud のデプロイを通じて得られた効率の向上は、より効率的な機体の導入による二酸化炭素排出量の削減を数値化できる効果につながっています。気象パターン、航路の選択、機体の燃料効率と飛行距離に関するシナリオ プランニングの AI による実現と可視性の改善により、同グループの航空路線業績に大きな成果が得られています。
乗り継ぎの遅れ: データアクセスの集中管理に対するニーズの増大
ルフトハンザ グループの日常業務ではサステナビリティの優先順位が日増しに高くなっています。同グループは、Google Cloud を利用して Operations Decision Support Suite(OPSD)を稼働しています。OPSD は、数々のコアシステムにあるデータを統合するクラウドベースの業務プランニング ツールです。コアシステムでは、機体のローテーション、乗客管理、乗務員管理、技術的な機体群管理を実行します。当初は、ルフトハンザ グループの子会社であるスイス インターナショナル エアラインズ(SWISS)に OPSD が導入されましたが、現在はグループ全体に展開されています。
アナリティクスとモデル化に Google の BigQuery と Vertex AI を活用することで、OPSD によってデータから予測的なインテリジェンスが導かれ、航空便運行管理センターチームのスタッフに推奨のシナリオが提示されます。これにより、スタッフはいつでも最適な意思決定を下すことができ、二酸化炭素排出量目標などのサステナビリティ目標の達成に向けて同グループが歩を進めることができます。
ルフトハンザ グループで OPSD プロジェクトのリーダーを務める Christian Most 氏は次のように述べています。「Google Cloud との共同作業を開始してから、ハブ管理を改善して乗り継ぎの遅れを防止することにより、乗客のエクスペリエンスを高い水準に引き上げています。これに伴い、運用効率の向上によって当社のサステナビリティにも好ましい効果が得られています。これは、対象とする多数の機能を 1 つに整え、状況に基づいてさまざまな入力要素に優先順位を設定したうえで、最良の対応策を見出すことができるテクノロジーです。」
ルフトハンザ グループは、この最適化プロジェクトでいくつかのテクノロジー パートナーを検討しましたが、最終的には Google Cloud を選択しています。その理由は、多数の業務部門にわたって機能できるソリューションを同グループの OPSD チームが必要としていたことにあります。Google Cloud は、単なるサービス プロバイダとしてではなく、戦略パートナーとしてプロジェクトに参加することを提案しています。Most 氏によれば、このような Google Cloud の姿勢によって、部門横断のニーズに対応できるプラットフォームをルフトハンザ グループが構築できるようになります。
燃費向上につながるスマートな機体割り当て
ルフトハンザ グループは、その意欲的な二酸化炭素削減目標の達成を促進するツールをデプロイし、使用しています。Google Cloud は、2021 年 10 月にサステナビリティ パートナーシップ プログラムを開始して、サステナビリティでの立場をすでに確立しています。このプログラムでは、サステナビリティのイニシアティブを加速するためにお客様が必要とする、大規模なデータセットとクラウドネイティブなソリューションを提供可能な新しいテクノロジーを開発することを目的としています。
2021 年 2 月、OPSD チームと Google Cloud チームは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックによって 1 年遅延していたいくつかのパイロット プロジェクトに着手しました。チームは、燃料効率の改善で重点を置くべき主要な領域の一つとして、フライト ローテーション管理を選定しました。
フライト ローテーションでは、機体の乗客定員、機体重量、保守スケジュール、機体の燃費などのさまざまな要因に基づいて、それぞれのフライトで優れた効率が得られる機体を選択します。フライトでの燃料消費量は機体ごとに異なりますが、その主な要因は航路とエンジンの種類です。どの機体が使用可能であるかを明確に把握することが重要な理由はこの点にあります。同類の機体であっても燃料効率の違いが 10% に及ぶこともあるからです。機体の洗浄と保守のスケジュールも重要な考慮事項です。機体に汚れがないことによって、燃料効率がさらに 1% 向上することもあります。また、フライト システムのキャリブレーションが他の機体と異なると抗力が増加することもあります。抗力とは、飛行中の機体に作用する空気抵抗の量です。
OPSD では、機体の保守、乗客の予約、航路、貨物の各データを相互に関連付け、フライトごとに最も効率的な機体をチームが割り当てられるようにします。これは、同グループが絶対排出量を削減するうえで効果的です。
たとえば、カナリア諸島へ向かう 4 時間の飛行では、スタンダードのエアバス A321 よりも A321neo(「new engin option」の略)のほうが 15~20% 高い燃料効率を実現できます。この事実をチームが知るにはどうすればよいでしょうか。Google Cloud で使用できるシナリオ プランニング機能では、利用できるあらゆるライブデータを考慮しながら、各航路に最適な機体を管理担当者が判断できます。このような判断から得られる効率向上は、1 件ごとはわずかな値であっても、積み重なると顕著な節減効果となって現れます。
先ほどの Most 氏は次のように述べています。「サステナビリティ向上の余地が見つかると、そこで奇跡のようなことが起こります。相互に重要度を比較する要因が複数あると、最後には業務、お客様、コストに対する利点が見えてきます。サステナビリティが向上すると、必ずそれ以外の要因にも多くの利点が得られます。」
正確な気象レポートを提供する Vertex AI
ほとんどの人は、天候が旅行に及ぼす影響を肌で感じています。たとえば、悪天候で便が欠航になって空港に足止めされたり、悪天候による遅延で乗り継ぎ便に乗れなかったりすることです。ルフトハンザ グループとそのフロントランナーである SWISS は、可能な限り最も効率的な手法で旅客のエクスペリエンスを向上させることを目指しています。この手法では、データと Vertex AI を使用して個々の乗り継ぎ時間を予測し、悪天候に対処するより効果的な計画を立案します。
たとえば、SWISS は、スイス国内の各気象台の履歴データを統合して、寒風と呼ばれる気象現象の継続時間を予測できます。寒風とは、スイスのミッテルラント地方に吹く冷たい北東の風です。チューリヒでは、強い寒風が航空便の遅延や欠航の原因となることがあります。航空交通管制が到着便を最大で 30% 削減する必要があるからです。さらに悪いことに、出発便も大幅な削減を強いられます。到着便と出発便の航路が交差しているからです。SWISS では、Vertex AI を使用することで、気象データに基づいてシナリオをモデル化し、それに従って遅延とプランニングの正確な視点を得ることができます。
「今では、寒風の継続時間、その風力、その時間帯で空港の収容能力に予想される制限を予測できるようになりました。これにより、当社の航空便運航に対する影響を正確に予測できます。これは、これまで不可能なことでした。」と Most 氏は語っています。
欠航があった場合、このシステムでは、ルフトハンザ グループとそのパートナー航空会社の関連ハブを通じ、効率的な予約変更オプションも幅広く提示します。同社では、今後の方策として、Google Cloud の機能を空港や航空交通管制などの他の関係者に拡張し、さらなる効率化を促進することを計画しています。
Most 氏は次のように説明しています。「これは、自身のみを最適化してシステムのボトルネックを生み出すのではなく、関係者間で連携してシステムを最適化するために、関係者が共同で作業し情報を共有する業界クラウドと呼ばれるシステムです。これは当社が追求している究極的な展望です。」
サステナビリティへの継続的な道程
このようなイニシアチブについて Google Cloud で作業してきた 18 か月の間に、SWISS は以下の成果を上げています。
年間の二酸化炭素排出量を 7,400 トン削減(予測値)。これは、ボーイング 777 によるチューリヒとニューヨーク間の往復便数 18 便、またはロンドンとチューリヒ間のローテーション 370 回で排出される量に相当します。
SWISS の航空網が擁する航空便の半分以上を最適化。
今年の経費を 520 万スイスフラン削減。これは、4 つの主要分野である、機体のローテーション、乗客管理、乗務員管理、技術的な機体群管理の合理化による効果です。
シナリオ プランニング機能によって、想定外の出来事に対応するアジリティと柔軟性が向上。
実際、この成果はめざましいもので、これによってルフトハンザ グループは最近 Google Cloud Sustainability Customer Award を受賞しています。また、継続的な共同作業に大きな効果が期待できることから、SWISS とルフトハンザ グループは、サステナビリティの一層の進歩に向けて新たな可能性を追求できます。Most 氏は次のように語っています。「Google Cloud との作業はたいへん容易です。Google Cloud は実直だからです。テクノロジーを使用してほかにできることは何かについて、多くの発想を提供してくれます。実に興味深いです。」