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スタートアップ & SMB

フロント オフィス版「マネーボール」

2022年12月13日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2022 年 12 月 6 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

2002 年、オークランド・アスレチックスは、統計学とデータ サイエンスを野球の戦法に取り入れる「セイバーメトリクス」という手法を用いて、プロ野球界に革命を起こしました。映画『マネーボール』で広く知られるようになったこの手法は、後に他の多くのスポーツにも導入されています。それ以来、スポーツ界で分析といえば、選手のデータおよび試合の結果について調べることを主に指していました。現在では、同じような応用統計学がチケットや商品の販売、企業向けパッケージ、そして新しい形のファン エンゲージメントを促進するためにフロント オフィスでも活用されるようになってきています。

2020 年、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響によって、スポーツ シーズンが打ち切られ、スタジアムから観客が消えたことで、世界中のスポーツチームが被害を受けました。加えて広告費用の増大や、ミレニアル世代および Z 世代のファンが求めるエンゲージメント チャネルの変化といった要因により、直接参加型のイベントはさらに激減する事態となりました。こうした状況を受け、スポーツ業界の分析担当チームは、顧客データを駆使してパーソナライズされたキャンペーンを展開することで、あらゆるチャネルを通じてファンをひきつけ、逆境に打ち勝とうとしています。

では、どこから手をつければよいでしょうか。ボストン・レッドソックスの SVP 兼 CTO である Brian Shield 氏は、分析担当チームの強化に重点を置き、ファンの獲得およびエンゲージメントを促進するような強力なスポーツ ビジネスの仕組みを作り出したいと考えました。

クラウド分析への投資

Shield 氏は当初、顧客データ プラットフォーム(CDP)の使用を検討していました。しかし、会社のクラウド データ ウェアハウスとしてすでに BigQuery に投資していたため、別のデータサイロを作り出すのは合理的でないと考えました。それだけでなく、顧客データ プラットフォームを新しく導入してキャンペーンを展開できるところまでもっていくには、エンジニアリングの面で多大な労力を要し、価値が得られるようになるまで時間がかかりすぎるという問題もあります。同氏が望んでいたのは、BigQuery にあるデータを活用し、効果の高いマーケティングおよび販促キャンペーンを迅速に展開することでした。

「CDP に関して言えば、自分たちで行く末をコントロールでき、会社の成長とともにスケールアップできるようなプラットフォームを望んでいます。CDP は確かに便利なツールですが、Google Cloud 上に構築した、自社が所有する最新のファーストパーティー データ スタックの代わりにはなりません。私の考えでは、それは一つのものにすべての希望を託すという間違いを犯しているようなものです。将来的に、サードパーティのベンダーから移行したくなったら、どうすればいいのでしょう?それはまるで、自分で抽出を一からやり直すようなものです。アーキテクチャを自社で所有することで、ベンダー ロックインを防ぐことができます。そうした理由から、Flywheel で構築したアーキテクチャを非常に気に入っています」と、Shield 氏は述べています。

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BigQuery と Flywheel Software によって、成長を加速

Flywheel Software が提供する革新的アーキテクチャは、チケットデータや、商品販売データ、ファンのエンゲージメントを示す指標や、その他の重要なビジネス データ ソースで BigQuery のデータセットを拡充できるのが特徴です。このアーキテクチャのおかげで、営業チームやマーケティング チームが BigQuery に格納されているレッドソックスの顧客データに直接アクセスし、ETL パイプラインによる鈍化やデータモデルの固定といった制約を受けることなく、B2B や B2C のデータを直ちに活用することができます。

レッドソックスのマーケティング チームは、Flywheel のコード不要のビルダーを使ってオーディエンス セグメントを作成し、それまで数週間を要していたキャンペーンの立ち上げを数時間で終わらせることに初めて成功しました。一方、データ担当チームは、SQL クエリの発行およびオーディエンス リストの取得の繰り返し処理から解放され、高度な予測モデルの構築に注力できるようになりました。

「これまで、データ リクエストへの対応にほぼすべての時間を費やしていましたが、Flywheel によってスケーラブルなデータの民主化を実現し、セルフサービス型モデルへと転換できました。これによって、事後対応ではなく、プロアクティブな行動をとれるようになりました」と、ボストン・レッドソックスのデータ / インテリジェンス / 分析部門の VP を務める Jon Hay 氏はコメントしています。

Flywheel Software と BigQuery の連係の仕組み

  • カスタマー 360: Flywheel を使用して、BigQuery の顧客統合ビューに全データソースを統合し、Flywheel プラットフォームを使って、さらにすべてのマーケティング チャネルおよび販売チャネルと連係させます。

  • 予測モデル: BigQuery データをトレーニングすることによって作成した「ファンの熱心度スコア」予測モデルを使って、営業チームがアウトリーチの対象を効率的に絞り込みます。

  • BigQuery のアクセスおよびデータ共有: BigQuery のデータ共有機能を使って、レッドソックスのデータをメジャーリーグ ベースボールのデータとシームレスに組み合わせることができます。

  • データを広範に可視化: Flywheel から全オーディエンス データが BigQuery に書き戻される仕組みになっているため、レッドソックスの分析担当チームは独自にパフォーマンス分析を行えます。

「Fenway Sports Group(FSG)が拡大し続けるなか、当社のデータを駆使する能力および Flywheel Software によって築き上げた拡張可能なアーキテクチャは、FSG Media & Entertainment の新しいプロパティの成長、進化を促進する資産となるでしょう」と、Shield 氏はコメントしています。

Flywheel のオーディエンス セグメンテーション

Flywheel では、分析および有効化を同じ画面で行えるため、オーディエンスのプランをわずか 5 分で作成できます。そのため、マーケティング チームは、ターゲット オーディエンス、チャネル、メッセージの組み合わせを次々と試し、最適な組み合わせを見つけることができます。

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効果の測定 - 新たな「マネーボール」

レッドソックスのマーケティング チームは、新しいオーディエンスを立ち上げるたびに、オーディエンス メンバーをアプリケーション内でトリートメント グループとコントロール グループに分ける A/B テストを自動的に適用しています。

このテストは、BigQuery のさまざまな指標がどのように変化するかを視覚的にすばやく把握できるような仕組みになっています。具体的には、チケットの販売数や、チケット スキャン数、支払い総額、ストリーミング サービスで視聴したゲーム数、メールを開いた回数、Salesforce の案件成立数、アプリへのログイン数などへの影響を確認できます。

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Brian Shield 氏は、レッドソックスのデータの取り込み、変換、有効化に、以下の Google Cloud サービスを活用しています。

  1. データソースの取り込み:Google Kubernetes Engine(GKE)および Cloud Storage で実行されているインポート用の Service を介してデータソースを取り込みます(Matillion などのセルフサービス型 ETL ツールを使用することも可能です)。

  2. データの変換: Cloud Composer のデータ ビルド ツール(dbt)を使ってデータを変換し、透明性かつ信頼性の高いデータ パイプライン モデルを作成します。

  3. データの有効化: Google Cloud にデプロイされている Flywheel によってデータを有効化し、GKE、Pub/Sub やその他のサービスを使って、オーディエンスおよびパーソナライズ フィールドを Salesforce、Facebook、Zeta、Iterable に送信します(Flywheel Software は、API 統合を幅広くサポートしているため、任意の宛先に送信できます)。

「Flywheel は、レッドソックスをデータドリブン型組織へと生まれ変わらせてくれただけでなく、その過程を大幅に短縮してくれました」と、Hay 氏はコメントしています。

見込みの高いセグメント

では、レッドソックスがこれまで成功を収めてきたマーケティング セグメントのうち、応用できそうなものはあるでしょうか。以下に例をいくつかご紹介します。

購入のタイミングやパターンを把握する

ホーム スタジアムでの試合に、アウェイのチームのファンを集客することは、意に反しているように思えますが、収益の面では大きなチャンスとなります。たとえば、レッドソックスがオークランド・アスレチックスを迎え撃つときは、ボストン近郊に住むオークランド・アスレチックス ファンに Google 広告やメールでチケットを売り込むと効果的です。

セグメントを細分化し、パーソナライズを徹底する

BigQuery テーブルのデータポイントに基づき、オーディエンス セグメントをさらに細分化することによって、コンバージョン率を上げることができます。最も効果が高い顧客セグメントの一つは、シーズン チケットの購入傾向が高い、試合ごとにチケットを購入する人たちです。レッドソックスでは、この購入傾向に基づきファンをスコア化する AI モデルを採用しています。このスコアが高いファンが本拠地での試合チケットを購入したら、Salesforce から営業担当者に直ちに連絡が入ります。連絡を受けた営業担当者は、そのファンに電話を入れ、試合前の VIP ツアーに案内し、シーズン チケット パッケージのアップセルの機会を設ける、という流れになっています。

質の高い見込み顧客情報を営業チームに提供する

キャンペーンを成功させるには、BigQuery のデータを活用してターゲットを的確に絞り込むことと、タイミングが重要になってきます。たとえば、お得な割引パッケージがまだ含まれていない商品スイートを購入しており、最近ウェブサイトにアクセスした既存顧客を有望な見込み顧客として CRM に登録し、営業チームに通知すると効果的です。

「当社の営業チームは、オーディエンス作成ツールのことを『Flywheel の見込み顧客生成マシン』と呼んでいます」 - ボストン・レッドソックス、データ / インテリジェンス / 分析部門 VP、Jon Hay 氏

ボストン・レッドソックスに倣って「フロント オフィス」を変革する 3 つの簡単なステップ

現在、メジャーリーグ ベースボールの他の 8 球団のほか、NBA、NHL、NASCAR のチームも Flywheel Software をマーケティングおよび販売促進に活用しています。Google Cloud の BigQuery と Flywheel Software を連係させたリアルタイム分析により持続可能な成長を促進する動きは広がりを見せており、小売業や、金融サービス、旅行、ソフトウェアなど業界を問わず導入することができます。その方法をご紹介します。

BigQuery に顧客データがある場合

  1. ユースケースに合わせてカスタマイズされた Flywheel Software + BigQuery デモを予約します。

  2. BigQuery テーブルおよびマーケティングおよび販促活動のチャネルを Flywheel Software プラットフォームにリンクします。

  3. Flywheel Software で最初のオーディエンスを 1 週間未満で立ち上げます。

BigQuery を初めて使用する場合

  1. Flywheel ソリューション アーキテクトが提供するデータ戦略セッション(無料)を受けます。

  2. Google Cloud が提供するクイック スタート プログラムを通じて、4~8 週間で BigQuery の使用を開始します。

  3. その後、Flywheel Software で最初のオーディエンスを 1 週間未満で立ち上げます。


- Google Cloud コンテンツおよび編集担当チーム
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