Google AI で構築: Elemental Cognition が提供する信頼性と透明性に優れた AI
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 10 月 4 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
Elemental Cognition(EC)は、企業や組織向けにスケーラブルで透明性の高い AI ソリューションを開発し、製薬研究や複雑な旅行計画などの業務を支援する AI の大手企業です。EC の長年にわたる研究とイノベーションが、大規模言語モデル(LLM)を活用しつつも正確さと透明性を優先する、AI の大幅な進歩につながっています。同社の AI プラットフォームは、Vertex AI の最新の生成 AI テクノロジーと EC 独自の推論、深い自然言語理解テクノロジーを組み合わせることで、複雑な問題を理解し、ユーザーと協力して問題を解決し、結果を説明できるソリューションを生み出しています。
EC の AI プラットフォームは Google Cloud 上にデプロイされた SaaS ソフトウェアとして提供されています。Google Kubernetes Engine(GKE)や BigQuery などの主要な機能を活用して、ビッグデータや複雑な問題を抱えるお客様をサポートするために必要なスケーリング、スピード、管理のしやすさを実現します。
EC は現在、AI プラットフォームを基盤として、研究と知識発見、複雑な問題解決のためのソリューションを提供しています。研究・知識発見のための製品である Cora は、ミッション クリティカルな発見と根拠に基づく意思決定のための、より迅速で質の高い調査を可能にします。専門的な問題解決のための製品である Cogent は、最も論理的に難解で複雑なスケジューリング、構成、計画、最適化の問題に、証明可能な正確さで迅速に対処します。
どちらの製品も、Vertex AI で利用可能な大規模言語モデルの強みを活用し、EC の構造化された知識と論理的推論テクノロジーを組み合わせて適用することで、根拠に基づく信頼できる結果を生成します。次の図は、EC AI プラットフォームの概要と、そのプラットフォーム上に構築されたソリューションを示しています。製薬研究から複雑な旅行計画に至るまで、さまざまな業界のユースケースをサポートする仕組みをご覧ください。


ユースケース: 課題とソリューション
EC の製品は Google Cloud の AI を活用して、以下に説明するような困難なビジネス ユースケースに対する強力なソリューションを実現します。
専門的な問題解決: 旅行
世界一周旅行は一生に一度の特別な時間になり得ますが、旅行の計画と予約には煩わしさがつきものです。さまざまな航空会社の航空運賃と空席状況を組み合わせ、移動距離や乗り継ぎ時間を最適化し、最安値を見つけるためにさまざまな旅行日程を試す必要があります。これをやったことのある人なら、すべてを正しく行うのがどれほど複雑なことかおわかりでしょう。
EC の顧客である Oneworld は、世界中に多数の目的地を持つ世界一周航空券を競争力のある価格で提供しています。しかし、このような旅程では複雑な運賃規則に従う必要があります。EC のソリューションが登場する以前は、顧客はオンライン予約に苦労することが多く、旅行代理店のサポートを必要とすることがほとんどでした。そのため費用がかさみ、顧客の予約意欲を削いでいました。
他のデジタル オートメーション ソリューションは、こうしたユースケースに苦戦しています。ワークフローベースの chatbot は、この予約の複雑さに対処できません。考えられる旅程は 10 の 34 乗以上もあり、フローチャートを構築して維持することは不可能です。LLM だけでは、複雑な問題を確実かつ正確に解決するために必要な、精度の高い論理的推論のタスクに対応できません。
一方、EC はこの種の問題に対し、柔軟で信頼性の高いソリューションを提供できます。


Elemental Cognition と Oneworld は、オンラインでの複雑な世界一周旅行の計画と予約を支援する AI エージェント、Journey を開発しました。Journey は、顧客の個人的な好みを満たしながら、複雑な運賃規則や刻々と変化するフライトの空席状況をナビゲートし、トレードオフを理解して管理できるようインテリジェントにサポートします。
Journey エージェントは GKE と Vertex AI LLM を使用し、EC の Cogent プラットフォーム上に構築されています(上図を参照)。Cogent はビジネス アナリストと自然言語でやり取りし、Oneworld のルール、制約、ポリシーを読みやすい文書にまとめます。Cogent はこれらのビジネス文書を動的なマルチモーダル アプリケーションに変換し、顧客の効率的な計画、予約、購入を支援します。
Cogent が Journey エージェントを可能にしたのです。Journey によりコンバージョン率が 4 倍になり、Oneworld の顧客は人の助けを借りずに迅速にオンライン予約ができるようになりました。その結果として、顧客満足度の向上、購入増加、コスト削減が実現しました。
研究と発見: バイオ医薬品企業における創薬
バイオ医薬品企業は、最初の発見から市場での使用が承認されるまで、20 億ドル以上を費やすこともあります。このプロセスの初期に優れた創薬標的の候補を見つけることが、最も優れた候補を絞り込んで選定し、可能な限り効率的に開発を進めるために不可欠です。初期段階での包括的かつ迅速な文献レビューは、効率的かつ効果的な標的特定の重要な要素です。
この文献レビューの主な情報源には、特に、PubMed を通じて入手可能な審査済みの研究論文、臨床試験と結果に関する情報、疾患と潜在的な創薬標的に関連する特許、NIH(アメリカ国立衛生研究所)の助成金などが挙げられます。このすべてのコンテンツを効果的に検索して、関連情報を迅速に見つけることが課題となっています。さらに、これを行うには多くの場合、異なる文書や情報源にまたがって記述された複数の情報を結びつける必要があります。


バイオ医薬品企業の前臨床研究と発見の要件を満たすため、EC は Cora for Life Sciences を開発しました。BERT および T5 単語埋め込みモデルによって提供される自然言語理解への幅広い対応、PaLM 2 の生成 AI 機能、EC 独自のセマンティック分析と推論機能を組み合わせることで、Cora はライフ サイエンス分野のコンテンツを自動的に分析して取り込みます。
上の図は、高レベルのアーキテクチャとワークフローを示しています。データは Cora のコンテンツ分析と取り込みプロセスに流れ込み、Cora は単語のエンベディング、セマンティック解析、概念・関係・修飾子の詳細な自動分析を使用して大量の情報構造を自動的に抽出します。Cora は、遺伝子、タンパク質、バイオマーカー、症状などの分野内の主要な概念と、これらの概念が互いにどのように関連しているかを自動的に識別します。概念をクラスタリング、タイプ分け、リンクするための追加処理をした後、分析結果をナレッジ インデックスに読み込みます。
実行時に、Cora セマンティック クエリ エンジンと論理的推論エンジンはナレッジ インデックスとドメインモデルを利用して、フロントエンド API からのクエリ、分析、ダイアログ、根拠の要約リクエストを処理します。Cora は PaLM 2 を使用して、自然言語の質問を解釈し、Cora が発見した特定の根拠に基づいて証明可能で正しい検索結果の概要を生成します。どのような GUI でも Cora API に接続できますが、Cora の SaaS 製品にはデフォルトの UI / UX も含まれています。
基本システムはすでに PubMed のすべてのコンテンツ(自由に商用目的で利用できる部分)を分析して取り込んでおり、すぐに Google Cloud で SaaS として使用できます。また、Cora では、Google Cloud の包括的なデータ マネジメントとセキュリティ サポートを活用することで、顧客独自のコンテンツを簡単に取り込み、顧客のセキュリティとプライバシーの要件をすべて満たすことが可能です。
システム全体が、前臨床段階の創薬文献研究を行う研究者にとって、強力な研究および発見プラットフォームとなります。ある評価では、Cora は薬物再利用の研究タスクに必要な時間を 2 週間から 2 時間未満まで短縮しました。ただ、Cora の有用性は前臨床試験の文献研究にとどまらず、創薬ライフサイクル全体のコンテンツ分析に応用できます。
考慮事項とトレードオフ
生成 AI の利用で最初に考慮すべきことは、正確性の要件を理解することです。創造性を必要とする用途や、結果の二次的な検証が期待される、あるいは必要とされる用途の場合、生成 AI の適用は比較的簡単です。しかし、EC が主に焦点を当てているのは、確実性、透明性、証明可能な正確さが不可欠な用途です。EC は、LLM を利用して信頼に足る正確な結果を提供するために、結果が信頼できる証拠と論理的に正しい説明に基づいていることを保証する、制約とガードレールを適用しています。EC ソリューションでは、人間が承認したドメインモデルや信頼できる証拠に基づいている場合に限って LLM に回答の生成を要求するため、ハルシネーションが生成されることはありません。
もう 1 つの考慮事項は、LLM を呼び出すコストと速度です。この点では Vertex AI ソリューションが優秀で、競合他社よりも低コストで優れた応答時間を実現しています。しかし、何千億ものパラメータを含む完全な LLM を呼び出すのはコストがかかりすぎる、あるいは効率が悪いといった状況も依然としてあり得ます。このような場合、EC は完全な LLM を使用してタスクのトレーニング データを生成し、基盤モデルとトレーニング データから、より小さい、ファインチューニングされた LLM をトレーニングします。これによって、ユースケースの精度要件、コスト要件、さらにはレイテンシ要件を満たす高度に最適化された効率的なモデルを作成できます。
連携のメリット
Google Cloud は、膨大な自然言語データセットと大規模なソリューションを備えた業界のリーダーです。Google Cloud と連携することで、EC は LLM やクラウドベースのソリューションに関する Google の専門知識を活用しながら、深いコンテンツ理解と高度な論理的推論をサポートするために開発した、独自の差別化された AI テクノロジーに注力できています。
Google Cloud には、大規模で正確な基盤モデルを構築し、それを大規模かつ確実にホストして迅速に提供できる力があります。
最後に、Google には研究とイノベーションにおける EC のコアバリューと合致する、確固とした研究の伝統があります。これにより、EC と Google が技術の限界に挑戦し、顧客にとって有意義なソリューションを共にテストし、学び、推進するというユニークなパートナーシップが実現しました。
Google Cloud のオープンで革新的な生成 AI のパートナー エコシステムについて、詳細をご覧ください。Elemental Cognition と Google Cloud のパートナーシップに関する詳細はこちら、デモのリクエストについてはこちらをご覧ください。
- Google Cloud、AI / ML パートナー エンジニアリング担当ディレクター、Dr. Ali Arsanjani
- Elemental Cognition、プロダクト マネージャー兼 VP、Eric Brown 氏