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金融サービス

資本市場で AI を活用して未来に備える方法

2021年5月13日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2021 年 4 月 28 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

編集者注: 本投稿は、最初に Forbes BrandVoice で公開されたものです。

資本市場において、市場参加者による価値の確立、ロイヤリティの獲得、顧客内シェアの拡大の重要性が高まっています。組織のデータ分析能力を人工知能および機械学習と組み合わせることで、これらの領域において新しい機会を創出できます。多くの組織ではいまだに昔ながらのデータ戦略を用いていますが、このことはデータを最大限に活用してビジネスの意思決定を正しく行う組織の能力を制限しています。AI を駆使してビジネス成果を正確に予測する能力がなければ、マーケット メーカーは未知を予測する際に直感と経験に基づく意思決定に頼らざるを得なくなってしまいます。

テクノロジーのメリットを認識する企業が増加しており、そのメリットを実現するためには最新技術のプロバイダと提携することが重要です。しかし、企業が大規模な ML を導入するには依然としていくつかの課題があります。以下ではそれらの課題の一例を、資本市場の企業が AI および ML 戦略を採用してメリットを享受する際に役立つ、ツールおよびベスト プラクティスと合わせてご紹介します。

データを ML に取り込むステップにおける課題

大まかには、資本市場で AI を利用する際に直面する課題は他の業界と変わりません。第一の課題としては、データそれ自体に関する課題があります。企業データの 90% は構造化されていないデータが占めており、多くの企業は、より新しいクラウドベースのツールと相性の悪いオンプレミスおよび既存アプリケーションによる制限に直面しています。また、資本市場では、買収を通じた成長が原因で数多くのデータサイロが散在している状況が一般的です。この状況は、効率性や意思決定を制限し、時間を無駄にする混乱のもとになっています。データ サイエンスはメッセージの速度や量によってではなく、膨大な数の異なるデータソースによって効果を失います。

その他の課題としては、企業内のさまざまなステークホルダーによるデータの価値に関する見解の違いや異なるレベルの抵抗、規制による環境上の制約、企業の IT チームが保有するクラウドスキルが限定されていることなどがあります。また、企業がこの新しい技術領域に取り組む際には ML オペレーションも課題となります。

AI および ML 戦略を採用してそのメリットを享受する: ツールおよびベスト プラクティス

1. AI を完成させる前にアナリティクスを使いこなす

効果的な AI と ML は強力で柔軟なデータ分析プラットフォームに依存しており、最初にインフラストラクチャの再構築が必要な場合があります。強力なコア データ インフラストラクチャがなければ、本番環境でデータ サイエンスを実行することは困難です。ローカル サーバー上で稼働する従来のデータ分析プラットフォームを導入している企業の場合、直面する課題は数多く、また、ブルーダラーのコスト(社内で相殺されるコスト)はソフトウェアのライセンスを大きく超えます。そのような企業は、モニタリング、パフォーマンス調整、アップグレード、リソース プロビジョニング、スケーラビリティに関してコストおよびリソースを費やす必要があります。ビジネス クリティカルなデータソースはデータ サイエンティストが簡単に利用できない場合があり、ビジネス クリティカルな意思決定の妨げとなることがあります。これらの障害のすべてが、データから分析と知見を得るための時間とゆとりを奪います。

サーバーレスかつクラウドベースのデータ分析モデルを利用すると、インフラストラクチャのメンテナンスおよびパッチ適用の大部分はクラウド プロバイダによって処理されます。この処理によって、データチームは分析および知見の取得により多くの時間とリソースを充てることができます。高性能かつ統合されたクラウド技術は、企業におけるデータサイロの解消、単一のコードベースの確立、およびより協力しあう職場文化への貢献に活用できます。また、これらの技術はよりリアルタイムな知見を提供できるよう設計されています。この知見は ML および AI において非常に重要な構成要素となります。つまり、効果的なコア データ インフラストラクチャは、サイロとサーバーによって行き詰っている他の組織に対する競争上の優位性を得られるようにします。

2. ビジネス目標に優先順位をつける

ここ数年だけでも、資本市場の分野で AI の一般的なユースケースが数多く生まれています。ユースケースの具体例と AI の活用方法は次のとおりです。

  • アルゴリズムを実行することで複数の場所から発注を行う最適な方法を動的に学習する。

  • 予測データ分析を利用してスケジュール化されていないイベントの潜在的トリガーを認識し、イベントを予測する。

  • リアルタイムのリスク分析によって、多次元リスクおよびエクスポージャー データ分析を生成する。

  • アセット選定のアルゴリズムを通じた選定プロセスへの知見を得るために ML を活用する。

  • ソーシャル メディアの感情分析を使用して、クライアントのニーズもしくは機会を確認する。

  • 音声入力と自然言語処理を通じてクライアントの問い合わせに回答できるシステムを構築する。

  • 自然言語ドキュメント分析サービスを使用して、非構造化ドキュメントまたは半構造化ドキュメントから主要なデータを抽出する。

  • ドキュメント書込みの自然言語生成を使用して、パフォーマンスおよび財務データの解説レポートを生成する。

  • 市場阻害行為および金融犯罪の監視に関する大規模なデータセットの複雑な取引パターンを特定する。

テクノロジーがデータ分析にもたらすメリットばかりに注目してしまいがちですが、企業が AI のメリットを十分に享受する機会を得られるかどうかは、人間と AI がどのように協働できるかにかかっています。ML ベースのデータ分析は、人間の判断および直感とあわせて利用することでより強力になります。最近のテクノロジーの進歩により、コンピュータはより速く、データ ストレージはより低コストに、アルゴリズムはより多くの人がアクセスできるようになっています。

しかし、人間の経験と判断は、医療市場であれ金融市場であれ、正確で洞察に満ちたデータ分析に貢献し、それを発展させることができます。モデルの説明可能性と公平性は、AI を成功させるために人間の経験が重要となる具体的な例です(詳しくは後述します)。前述したようなユースケースを想定して AI システムを設計する場合、人間の知恵のメリットと切り離してはいけません。

3. データに基づくより良い意思決定を行うチームを構成する

データの検索、取得、前処理は、ML モデルの構築において特に時間のかかる部分です。モデル構築における労力の 80% 以上はこの部分に費やされます。この課題は金融サービスに限ったことではありませんが、この課題に取り組むことは、ML に必須となる前提条件であり、競争上の優位性をもたらすものです。この課題に取り組むための組織や社内チームを構成すると成功の確率を高めることになりますが、それにはいくつかの計画と慎重な検討が必要です。

データ サイエンス チームの目的を簡単に言うと、データを使用したより良い意思決定を促すことです。データ サイエンス チームや AI / ML チームの最適な構成を決定する際には、このことを念頭に置き、誰に直属するかを決定してください。また、組織がデータと AI の取り組みにおいて現在どの位置にいるのかを検討することも重要です。文化、規模、会社の成長方法などを検討します(企業が採用しているのは集中型なのか、それとも分散型なのか。連携しているのか。コンサルタントを雇用しているのか)。

チームの役割を定義する際には、データの流れがどのように構成されているか、どこでその役割を果たすのが最も効率的であるかを検討します。また、役割が違うからといって、必ずしも違う従業員が必要なわけではありません。役割が明確に定義されていれば、人はさまざまな役割を果たせます。

4. 説明可能性と公平性のコンセプトを理解する

データ分析や AI に適した組織を構成する際には、2 つの重要な考慮事項があります。1 つ目は説明可能性です。AI システムに望むことは、期待どおりの結果を、意思決定に関する透明性のある説明および理由とあわせて提供することです。このことは説明可能性として知られており、Google でも優先順位が高く、企業が AI システムを設計する際に関心が高まっている分野です。説明可能性は AI システムの判断に対する信頼性を高めるもので、その信頼性を確保するために多くのベスト プラクティスが生まれています。具体的には、作業内容やデータ サイエンスのプロセスに関する詳細な監査、「モデルドリフト」と呼ばれるもの(「コンセプト ドリフト」とも呼ばれる)のモニタリング、精度指標の組み込み、機能の再現性の確保などが挙げられます。

公平性は AI において重要なもう一つの項目です。アルゴリズムは、その結果が特定の変数(特に機密性が高いと考えられる変数)に依存しない場合、公平性を示すと言われています。これには、民族、性別、性的指向、障害など、結果と相関しないはずの個人の特性が含まれます。正確なモデルは、それらの特徴に基づいて、データに存在する問題のある既存のバイアスを学習、あるいは増幅する場合があります。システムに対する適切な公平性の基準を特定するには、UX、文化、社会、歴史、政治、法律、倫理面を考慮する必要があり、そのうちのいくつかはトレードオフの関係を持つ可能性があります。

公平性に関するベスト プラクティスには次のものがあります。

  • 具体的な目標を立ててモデルを設計する。

  • 時間軸で目標をモニタリングし、想定されるユースケース(たとえば、複数の異なる言語、複数の異なる年齢層など)において、システムが公平に動作することを確認する。

  • 代表的なデータセットを使用してモデルのトレーニングおよびテストを行う。

  • さまざまなテスターを使用する。

  • 異なるサブグループを対象にモデルのパフォーマンスを検討する。

AI / ML を活用する未来に向けたロードマップの策定

最先端のテクノロジーを活用してきた資本市場の長い歴史の中に AI が加わりました。AI はこの分野に新たな可能性をもたらします。先見の明と計画があれば、ML や AI から最高の結果を得られますが、それは後付けで得られるものではありません。まずデータ分析のための強力なコア インフラストラクチャを構築し、データや AI を活用する社内チームの構造を計画した後、柔軟なクラウドベースのツールを使用して結果を最適化します。

新しい AI / ML 戦略を採用する際には、IT リーダーは、それが追加的な後付け要素ではなく、既存のモダナイゼーションの取り組みと統合し、適合するようにする必要があります。これは、AI / ML とビジネスの真の統合の実現につながります。

-CTO オフィス テクニカル ディレクター James Tromans
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