Woodstock: 株式投資アプリ「Woodstock」に Gemini を活用した AI エージェントを実装し、次世代の投資体験を実現

Google Cloud Japan Team
「貯蓄から投資へ」の流れが加速するなか、投資の初心者や若年層を中心に注目されているのが、Woodstock株式会社(以下、Woodstock)が運営する米国株投資アプリ「Woodstock」です。スマートフォンの優れた UI / UX で簡単に口座開設から取引まで一貫してできる利便性と、大手証券でも導入されていない時間外取引へのいち早い対応などで、店舗を持たないアプリのみのサービスながら高い評価を獲得。2025 年には Gemini を活用した新しい AI エージェントを搭載し、ユーザー体験を大きく向上させています。その開発の裏側を、2 名のキーパーソンに伺いました。
利用しているサービス:
Gemini, Cloud Run, Google Kubernetes Engine(GKE), Vertex AI, Vector Search など
心理的なハードルを下げ、投資の世界を広く開放するために
専門的なリテラシーを求められる金融投資は、多くの人々にとって依然としてハードルが高い世界です。Woodstock は、このような状況を変えるべく 2021 年に設立。「豊かな未来を、みんなで。」というミッションのもと、2023 年に米国株投資アプリ「Woodstock」をリリースし、200 円からの少額取引やポートフォリオを共有できる機能を実現し、初心者や若年層を中心に支持を集めてきました。同社の Co-founder & CEO であるブライアン ユン氏は、こう振り返ります。


「投資を学ぶには実際にやってみるのが一番の近道ですが、初心者の多くは『そもそも何を買えばいいのか』『今は買い時なのか、売り時なのか』が判断できないため、最初に挫折してしまうケースが多いのです。そこで金融知識や資産の有無にかかわらず、他の人のポートフォリオや取引をリアルタイムで見ながら、楽しく投資ができる世界を作りたいと思ったのがきっかけでした。」
当初、ユン氏は SNS で情報を共有できる機能をアプリに実装することで、これを実現しようとしました。しかしサービスの運営を続けるなか、初心者に特有の心理的なハードルが見えてきました。
「タイムライン上で質問するのを躊躇するユーザーが少なからずいたのです。つまり初心者が抱える恥ずかしさや不安を解消するには、もう一歩踏み込んだサポートを提供することが必要でした。そこで着想したのが、『ユーザー専属の投資コンパニオン』になれる AI エージェントの開発です。情報の収集やポートフォリオの分析、ときにはアプリの使い方まで、プライベートな空間で、いつでも相談できる。そんな相手がいれば心理的ハードルが下がり、多くの人が投資に親しめるようになるだろうと考えました。」
Gemini の採用が可能にした正確性と高速性、安全性の確保
こうして Woodstock では 2025 年 1 月に AI エージェントの開発がスタート。テックリードの笠井 貴史氏は、全体のアーキテクチャを考えながら複数の LLM(大規模言語モデル)を比較検討し、Google Cloud と Gemini を選定します。


「最初に重視した要素は安定性です。以前に使った AI は出力が安定せず、コンテキスト(入力できる情報量)にも制限がありました。このため、膨大なデータから必要な情報だけを抽出する『Retriever』の処理を挟む形になり、情報の網羅性や出力時間の短縮などで問題が生じていました。一方、Gemini は動作が極めて安定しています。また、非常に長いコンテキストを低コストで扱えますので、多くの情報を入力してもらって一気に処理できます。このようなシンプルな方式は回答の精度だけでなく、処理スピードの劇的な向上にも貢献します。出力のレイテンシー(遅延)が低下した結果、以前なら 10 秒以上かかっていた出力を、ほぼ即時に完了できるようになりました。」
次の要素は総合的な開発・運用コストです。Woodstock では AI エージェントを Google Cloud のエコシステム内で開発することにより、バックエンドの Vertex AI(Vector Search、Gemini など)や Cloud Run などともシームレスに連携。認証管理やネットワーク構築などの工数を激減させつつ、マネージド サービスも活用したため、Gemini を導入した初日からロジック開発に集中することができました。
3 つ目の要素は安全性です。金融サービスにおける情報提供には高い信頼性が求められます。AI を活用する場合は、断定的な投資助言や不正確な情報を生成しないよう、さらに万全を期す必要がありますが、Gemini には情報の安全性を担保する実用的な『ガードレール機能』(制御メカニズム)が最初からビルトインされていました。
「我々のようなスタートアップにとっては、スピード感が命です。自分たちでガードレールをゼロから開発しようとすれば、それだけで数か月はかかりますので非常に助かりました。企画からサービスのリリースまで、わずか約 3 か月で実装できたのは、Gemini と Google Cloud のマネージド サービスのおかげです。弊社では証券システムの内製化を見据えており、2025 年 5 月には AI エージェントの開発に並行して、Google の技術支援プログラム『Technical Acceleration Program(TAP)』を集中的に受けることができました。その際、証券システムの運用システムを Google Kubernetes Engine(GKE)で構築する目処が立ったことも、技術開発の大きな自信と後押しになりました。」(笠井氏)


開発された AI エージェントは、単一の AI ではなく、役割の異なる複数の AI が協調して働く「ハブ・アンド・スポーク型」のアーキテクチャを採用しています。笠井氏はこれを「複数の専門部署が連携して動く会社組織のようなもの」と表現します。
「ユーザーからの質問はまずルーターが受け取り、単純な市場データ照会なら即時回答ツールへ、複雑な投資相談なら司令塔である『Delegator』へ振り分けます。Delegator は『市場分析』『ポートフォリオ分析』『教育』といった専門エージェントを指揮して回答を作成させます。各エージェントは Cloud Run 上で稼働しており、それぞれが Gemini の推論能力を利用しています。そして最終的に『Final Answer Agent』が、回答の安全性やトーンを確認してユーザーに届けます。」
独特な構造は、金融サービスに求められる「専門性」と、コンシューマー アプリに求められる「応答速度」を両立させるものですが、ハルシネーションを防ぐ仕組みとしても特筆すべきものとなっています。Woodstock では、RAG(検索拡張生成)アーキテクチャを採用して、マーケット ニュースなどの膨大なデータを Embeddings API でベクトル化し、Vector Search でユーザーの質問に関する事実情報だけを瞬時に抽出。それを AI エージェントに渡すことで、ハルシネーションを防いでいます。また Vertex AI Search を採用し、一般的なウェブ検索ではなく、信頼できる特定の情報源のみを検索対象とする工夫もなされています。


笠井氏は、独自の構造がもたらすメリットを違う観点からも解説しています。
「機能ごとにエージェント(担当者)が分かれているため、なんらかの修正が必要になった場合には、その影響を限定できます。これも強みだと考えていますし、ユーザー体験(UX)の向上にも役立ちました。いかに情報が正確でも、表示されるスピードが遅いとやはりユーザーは離脱してしまいます。その意味でも、初速の速い Flash と思考の深い Pro などが揃っている Gemini は最適でした。UX に関連して述べれば、システム側に待たされているという印象を与えないようにするために、処理の進捗状況もアプリ上で表示できるようにしています。」
生成 AI の進化が切り拓く、新たな UX と金融サービスの可能性
AI エージェントの導入効果は、2025 年 5 月以降、利用者の月間取引総額、サービスの新規登録者数とも、右肩上がりで推移していることからもうかがえます。ユン氏は、実際的なユーザーの行動変容にも着目していました。
「もともと弊社のユーザーは投資のパフォーマンスがよく定着率も高いのですが、AI エージェント導入後はさらに向上しています。これはおそらく情報をしっかり収集・理解し、冷静な判断ができるようになってきたからだと思います。最近では、AI エージェントに対するユーザーの信頼が高まり、投資コミュニティの仲間のように捉える雰囲気も生まれ始めています。」
現在、Woodstock で取引できるのは米国株と ETF のみですが、今後は日本株やその他の金融商品も取り扱うようにしながら、24 時間取引も可能にする予定です。機能面では、ユーザーのリスク許容度や好みを伝えるだけで、AI が最適なポートフォリオを提案してくれる、本格的なリサーチ アシスタントの開発も計画されています。
生成 AI を活用し、投資をもっと気軽でわかりやすいものにしていく。Woodstock の挑戦は、これからも続いていきます。最後にユン氏は、その基盤となる Gemini に改めて全幅の信頼を寄せました。
「弊社の AI エージェントには Gemini の特長が生かされていますが、その Gemini 自体がどんどん進化している。これはまさに生成 AI ならではの魅力だと思います。今後も Gemini を活用して、よりパーソナライズされた使い勝手のいいサービスを追求し、多くのユーザーに提供していきたいと考えています。」


Woodstock株式会社
2021 年設立の金融スタートアップ。2023 年に米国株投資アプリ「Woodstock」をリリース。初心者から投資上級者までストレスなく、米国株や ETF がスマートフォンで簡単に取引ができるさまざまな機能を提供し、人気を博している。さらに、2025 年には新たな AI エージェント機能を追加。高度な情報収集や分析を AI がサポートすることで、誰でも戸惑うことなく安心して資産形成を楽しめる「次世代の投資体験」を提供している。
インタビュイー(写真左から)
・Co-founder & CEO ブライアン ユン 氏
・テックリード 笠井 貴史 氏
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