トラストバンク: BigQuery と Looker によるデータドリブン戦略の推進で、「ふるさとチョイス」の運用効率化と各自治体や寄付者へのさらなる価値提供を実現

Google Cloud Japan Team
株式会社トラストバンク(以下、トラストバンク)では、主力事業のふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」の運営により、「自立した持続可能な地域をつくる」というビジョンのもと、地域の課題解決と地域経済の循環を目指しています。同社は、重要な戦略の 1 つとしてデータドリブンな組織運営を推進。BigQuery と BI ツールによるデータ分析基盤を構築していましたが、各自治体や寄付者へのさらなる価値提供とサイト運営の効率化を目的に、BI ツールを Looker に移行しています。このプロジェクトについて、チョイス事業部のキーパーソン 2 名に話を伺いました。
利用しているサービス:
BigQuery, Looker, Gemini
データドリブン戦略で分析基盤を刷新、データ整合性向上と可視化強化が課題
トラストバンクは、2012 年に国内初のふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」をメイン事業として、そのスタートを切りました。ふるさと納税により地域が抱える課題を解決し、地域経済の維持・発展に貢献するという目的のもと、事業を展開。順調に利用者数を拡大し、2024 年 11 月には「お気に入りリスト」のシェア機能を追加するなど、寄付者がより容易にサイトを利用できる取り組みを推進しています。また 2014 年には、ふるさと納税で被災地を応援する仕組み「ふるさとチョイス災害支援」も他社に先がけてスタート。被災地以外の自治体が災害支援寄付の受付業務を代行する「代理寄付」は「2024 年度グッドデザイン賞」を受賞しました。
ふるさと納税事業を高速に成長させるために不可欠なのが、データを活用した迅速かつ正確な意思決定支援です。チョイス事業部 事業戦略統括部 統括部長の長瀬 寛幸氏は、データドリブン戦略について次のように説明します。


「私はこれまで多くの EC 事業を経験してきましたが、EC 事業は、サイトの利用者が、必要なときに、必要なものを、必要なだけ購入できる事業です。一方、ふるさと納税では、寄付者ごとに 1 年間の控除上限額が決まっているため、この枠内でできるだけ『ふるさとチョイス』を選択して、寄付をしていただくようにすることが鍵となります。ここで重要なのがデータ分析です。データを分析すればするほどサイト利用者に詳細なご提案ができますし、全体の傾向がクリアになり、将来の予測もしやすくなります。」
そこで同社は 2020 年にデータ分析基盤を構築。Google アナリティクスのデータや「ふるさとチョイス」の基幹システムのデータなど、データ分析に必要なすべてのデータを 1 日 1 回、夜間バッチ処理で BigQuery に取り込み、BI ツールで可視化できるようにしました。この新たなデータ構築基盤は、マーケティング部門、プロダクト部門、事業戦略部門の担当者が活用。寄付者の動向を把握し、適切なタイミングで必要な施策を実施することを可能にしました。
しかし利用していくうちに、BI ツールにいくつかの課題があることが浮き彫りになります。チョイス事業部 事業戦略統括部 事業戦略部 データマネジメントグループ マネージャーの町田 泰基氏は、その内容を詳しく説明しています。
「課題になったのはデータの整合性です。データマネジメントグループでは、各部門からの依頼に基づいてデータを作成・提供したり、ダッシュボードでの可視化を進めてきましたが、似たようなデータやダッシュボードが社内に散乱する結果となりました。また、ダッシュボードによって数値の定義が統一されていないなど、データ定義に関する問い合わせも絶えませんでした。加えてレポート作成に時間を要することで、意思決定のスピード、次のアクションや施策への紐づきが見えづらいという状況も生じていました。」
Looker 採用でデータ取得のリードタイムを大幅削減、全社的なデータ活用を加速
データマネジメントグループでは、2024 年 1 月からデータ分析基盤の刷新に関する検討を開始し、BI ツールを Looker に移行することを決定。約 3 か月間の PoC(概念実証)を経て、5 月に正式採用に至ります。Looker 採用の決め手となった PoC の内容について町田氏は、次のように振り返ります。
「PoC では BigQuery の実データを使い、Looker によるデータの共有と可視化を実体験しました。他社のツールも試しましたが、データ定義をドキュメント ツールで管理しきれなくなってしまうこともあり、データ ガバナンスを効かせるためのツールとしても Looker が圧倒的に便利だと感じました。利用部門からも好評で、移行コストも含めた費用対効果も期待できました。Looker であれば現在の課題を解決でき、全社的にハッピーになれる絵が想像できたのです。」


Looker を採用したデータ分析基盤は、2025 年 4 月より本格運用を開始しています。データ分析部門を統括する責任者として Looker の検証に携わっている長瀬氏は、現場部署で欲しいデータを迅速に手にすることができる重要性を強調します。
「寄付データ、会員情報、サイト内の遷移情報、寄付までの行動情報など、BigQuery に取り込むためのデータ定義の見直しと統一化を進めていますが、これが整うことにより、分析したい現場のメンバーが自分でレポートを作成しやすくなると考えています。これまでは、データマネジメントグループで依頼を受けた後、データ作成作業に 3~4 日を要することもあり、現場にとっては大きな時間のロスとなっていました。各部門のメンバーが自分たちで容易にレポートを作ることができる環境の整備と教育を考えた時、Looker が、そこにぴったりとはまってきたと感じます。」


本格運用後の展開について、町田氏が続けます。
「当初、私たちが Looker の本格運用に際して期待していた効果は大きく 2 つ。1 つは各部門が同じダッシュボードを参照し、定義がそろったデータで会話ができることでコミュニケーションのムダが省けること。もう 1 つは、各部門の担当者が必要なデータを迅速かつストレスなく手に入れられること。概算ですが、データ取得までのリードタイムを 25% 程度にまで削減できているのではと考えています。さらに、レポートの自動作成やマーケティング オートメーション(MA)ツールへの連携など、マーケティング活動やプロダクト戦略、さらには事業戦略に積極的に踏み込んだ活用についてもすでに検討し始めています。」
このレポート自動作成の検証では、Google Cloud のサポートが有効だったと町田氏は評価します。
「扱うデータの特性上、データソースが数百種類あることから、レポートを自動作成するためのデータ定義や環境整備にはマンパワーが必要でしたが、Google Cloud の担当者からのデータ定義のベストプラクティスの提供は役立ちました。また、Looker のユーザー会を紹介してもらったことで、Looker と BigQuery に関する先進事例に触れることもでき、その後の導入イメージも明確になりました。」
データ分析と生成 AI で、持続可能な地域作りのために
ふるさと納税について、これまで多くの自治体や仲介サイトで採用されてきたポイント付与制度が、 2025 年 10 月に廃止となることが総務省から発表されています。ふるさとチョイスでは、これまでもふるさと納税の本来の趣旨を尊重し、ポイントではなく「お礼の品」を通じて寄付者に地域の魅力を感じてもらうこと、寄付の使い道を伝えて地域のファンになってもらうことを重視してきました。しかし、制度の変更に伴い、今後はすべての自治体、仲介サイトがポイント付与に頼らないサービスの差別化を打ち出してくることになります。長瀬氏は、「データに基づく競争力の強化が改めて重要になる」と語ります。
「今後は、リアルタイムにデータを取り込み、まさに今、サイトを訪問している寄付者が何を求めているかを行動から把握し、適切なアプローチを提供できる仕組みを実現することが必要になってくるでしょう。同時に、そのスピード感を実現するひとつの鍵は、生成 AI の活用にもあると考えています。Looker の中で生成 AI が機能することにより、例えば、自然言語によるレポートの自動生成や、データの分析内容の日本語によるサマリー生成、ネクスト ステップの提案が可能となります。さらには、自動生成されたマーケティング用の文書やクリエイティブ用の画像から自動的に A/B テストを実施、結果の分析までを自動化することができれば、より多くの選択肢を検討し試すことができるのではと期待しています。」
最後に、長瀬氏が、ふるさと納税という特殊なサービスに関わる責任とこの後の期待を言葉にしてくれました。


「ふるさと納税は、納税者が税金の使い道を指定できるという唯一の制度です。寄付者自身が納める税金で、どんなよりよい未来を作っていきたいか、利用者一人ひとりの責任と思いが乗っているサービスでもあります。私たちは、災害支援を目的とした『お礼の品』のないふるさと納税や、『代理寄付』制度など、ふるさと納税を通じて持続可能な地域を作るための仕組みを率先して構築してきました。人口減少が進む中、将来的に、ふるさと納税が頭打ちになった以降も、より地域のための施策にデータを活用できるようにしたい。そしてさらに、広い視座で、自治体、地域のステークホルダーが必要なデータを分析して、地域のための改善活動に活かせるような基盤の一端を担っていきたい。生成 AI の活用可能性を含めた Looker の導入でデータドリブンの施策を加速させ、制度の主旨を強く意識しながらも、柔軟に利用者にとってより魅力的なサービスを提供し続けていきたいと考えています。」


株式会社トラストバンク
2012 年 4 月設立。「自立した持続可能な地域をつくる」というビジョンを掲げ、地域にお金の流れを創出する個人向けおよび企業向けのふるさと納税事業、地域事業者支援、EC 事業、海外寄付サービス事業、および地域内でお金を循環させる地域通貨事業、パブリテック事業を展開。メイン事業の「ふるさとチョイス」は、日本全国で 1,788 ある自治体の約 90% と契約し、76 万点を超える「お礼の品」を品揃えしている国内最大級のふるさと納税サイトである。(2024 年 10 月現在)。
インタビュイー(写真右から)
チョイス事業部 事業戦略統括部
・統括部長 長瀬 寛幸 氏
・事業戦略部 データマネジメントグループ マネージャー 町田 泰基 氏
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