飛躍する Google Cloud スタートアップ “卒業” ベンチャー AI 活用で社会問題の解決を目指す
Google Cloud Japan Team
Google Cloud は次世代を担う新興ベンチャー企業の支援を大きなミッションの 1 つと考えています。かねてより提供してきた「Google Cloud スタートアップ プログラム(旧 Google Cloud for Startups)」はその一例。これまでも多くのスタートアップ企業が、このプログラムによって支給されたクラウド クレジットで初期のビジネスを大きくブーストし、成功をつかみ取っています。もちろん、その後も Google との関係性は継続。ビジネスのさらなる飛躍に、Google Cloud のプロダクトを活用していただいています。
ここではかつてこのプログラムに参加し、そして“卒業”していったスタートアップ企業の中から、特に AI で世の中の課題の解決に取り組んでいる 3 社 をピックアップ。各社の AI 活用と、そこに Google Cloud がどのように貢献できているかを紹介します。
株式会社LegalForce:多くの企業担当者を悩ませる「契約書」業務を AI の力でサポート
まず取り上げるのは企業の契約書業務をリーガルテックで支援する株式会社LegalForce(2017 年創業)。同社の主力製品である AI 契約審査プラットフォーム『LegalForce』と AI 契約書管理システム『LegalForceキャビネ』は、その名の通り AI を駆使して契約書の作成から締結後の管理までをサポートすることで、契約リスクの低減と業務品質の向上、効率化を実現してくれるというサービスです。その研究開発部門を統括する CRO(最高研究開発責任者)の舟木類佳さんは、サービスの機械学習基盤に Google Cloud を選んだ理由を次のように説明してくれました。
「LegalForce ではデータ基盤に BigQuery を採用しており、同じクラウドプラットフォーム上で機械学習を利用したいというのが Google Cloud を選んだ最大の動機です。機械学習 API のサービング環境は Google Kubernetes Engine(GKE)上に構築。サービス提供のために使っている OSS の Seldon Core との相性が良いことに加え、フルマネージドであることが気に入っています。また、学習部分のインフラには AI Platform を活用。従来、この部分は、機械学習のプロジェクトを立ち上げるたびに GPU インスタンスを立ち上げて、いろいろインストールして、必要なデータを持ってきて…という環境構築の手間が大きかったのですが、AI Platform ではその辺りを省くことができ、本来やるべきこと、考えるべきことに集中できるようになりました。」
人員の限られるスタートアップにおいてマネージドサービスの恩恵は大きいと語る舟木さん。また、契約書というセンシティブな情報を取り扱うに際しても、Google Cloud の各種プロダクトが役立っているとのことです。
「弊社では今、情報資産にレベル付けをして管理するという取り組みをしているのですが、契約書などを扱う特にセキュリティレベルの高い環境については VPC Service Controls の IP 制限を中心に導入していこうという試みを始めています。また、各種セキュリティ情報を集約できる Security Command Center も運用方法を検討しています。契約書を取り扱う環境ということもあって、他のスタートアップでは積極的に使わないようなプロダクトを使っているのは弊社の特徴かもしれませんね。ほか、まだお話できないレベルでも、Google 社と情報共有しながらさまざまな取り組みを行っています。」(同社 研究開発部門ユニットリーダー 若菜勇気さん)
なお、『LegalForceキャビネ』については、サービス基盤としても Google Cloud を導入。サービスの開発速度を優先し、Firebase、そして Cloud Firestore を駆使してフロントエンドを構築しているとのことです。
「その際、Cloud Firestore から BigQuery に連携するやり方については知見がなかったため、かなり Google Cloud のご担当者に質問をさせていただきました。他にもセキュリティ面も含め、多くの点で相談にのっていただき、非常に助かっています。ちなみに『LegalForceキャビネ』はテキストの抽出など、多くの処理を分散、スケールして行うため、かなり負荷のかかる仕組みになっています。実は Google Cloud スタートアップ プログラムに提供していただいたクラウド クレジットのほとんどはここで使いました(笑)。我々のような小さなベンチャー企業にとってコスト面の負担は大きなネック。それを気にせずどんどん開発を進められたのはありがたかったですね。」(舟木さん)
株式会社アイデミー:日本最大級の AI 学習オンラインサービスを提供
続いて紹介する株式会社アイデミーはエデュテックのベンチャー(2014 年創業)。取り扱う分野はずばり「AI」で、AI を基礎から学べる独自のオンライン学習サービス『Aidemy』を開発・運営しています。本サービスは 2017 年 12 月のリリース時には AI について学びたい個人向けに提供されていましたが、2019 年 5 月に法人向けの新サービス『Aidemy Business』を提供開始。いまではこちらがサービスの中心となっているそうです。なお、現在の登録ユーザー数は約 100,000 人(2021 年 3 月時点)。これはオンライン学習オンラインサービスとしては日本最大級の数字です。
そして、そのシステム基盤に使われているのが Google Cloud。数ある選択肢の中から Google を選んだ理由について、同社のエンジニアリングマネージャー 森山広大さんはこう言います。
「それまで使っていたクラウド プラットフォームから『Aidemy』のシステム基盤を Google Cloud に移転したのは 2018 年初頭。当時、サービスを運用の負担が大きい VM からコンテナベースに移行したいという思いがあり、Kubernetes の導入を検討していました。そして Kubernetes を使うのであれば、フルマネージドで運用できる Google Cloud さんが良いだろう、と。Kubernetes を作ったのは Google ですから新機能の追加も早いですし、なにより GUI がすごく使いやすいことが気に入りました。そこで移行を検討していることを Google さんに相談したところ、Google Cloud スタートアップ プログラムをご紹介いただき、VM から Kubernetes 移行に伴う検証に掛かった費用の全てを支給していただいたクラウドクレジットで賄うことができました。」
そして現在、『Aidemy』では、システム基盤のほとんどの部分を、GKE や Firebase など、Google Cloud のフルマネージドサービス上に構築しています。
「社内 15 名のエンジニアのうち、アイデミーの Web サービスに携わっているエンジニアは 8 名。そのうちインフラの知識を持っているのは私ともう 1 人だけ。その状況下で、インフラ回りに不測の事態が起きると本来やるべき仕事の手が止まってしまいます。そこで、我々が本来やるべきサービスの開発に集中するため、移行できるところは基本的にマネージドサービスに移管しています。『Aidemy』には AI 学習サービスという特性上、ユーザーが自由にコードを実行して学べる RUN サーバーと呼ばれる環境があるのですが、VM 運用時代はユーザーがおかしなコードを走らせると、我々が都度、サーバーを手動で更新する必要がありました。しかしGoogle Cloud 移行後は GKE が自動で新しいコンテナを立ち上げてくれるので手間が大きく削減され、他のお客さまへの影響も最小限に。実は現在、データベース部分だけが旧環境に残されているのですが、今年の夏頃までにはこちらも移管し、Aidemy サービスを全て Google Cloud にまとめる予定です。」(森山さん)
コードでインフラを定義できるため、環境の複製が容易であること、オートスケールによってディープラーニングなど負荷の大きな処理が集中しても自動的にスケーリングしてくれることなど、開発・運用の手間が大きく軽減されることも Google Cloud を導入したメリットだったと言う森山さん。アイデミーの今後の展望についても、熱を込めて次のように語ってくださいました。
「『Aidemy』を皮切りに、将来的には AI をはじめとした先端技術の導入を一気通貫でサポートするのが私たちの目指すところ。2020 年 4 月には AI の実運用をサポートする『Modeloy Cloud (モデロイクラウド)』という新サービスをスタートしました(現在はベータ版提供中)。これは機械学習モデルを開発済みのプロジェクトチームに向けた製品で、運用のためのインフラと、GUI による管理ツールを提供するものとなります。さらに今後は現実の AI プラットフォームを想定した AI 学習や、AI プロジェクトに関わる人々を繋げるコミュニティ構築なども構想中。Google Cloud がその基盤になってくれることを期待しています。」(森山さん)
株式会社Splink:脳科学 × AI というアプローチで、認知症を早期発見
最後に紹介するのは医療業界で活躍する株式会社Splink(2017 年創業)。同社は医療分野の中でも特に「脳」にフォーカスしたヘルステック企業で、脳科学 × AI というアプローチで、認知症の早期発見に注力しています。
「そのために今、我々が利用しているのが MRI で取得できる脳の画像です。これを AI で分析することで脳の健康状態を定量化、再現性のあるものにしていくことで、認知症の早期発見や診断支援に革新をもたらすことが我々の真の目的。中でも特に力を入れているのが認知症の予防や、脳健康の維持で、我々はこれに関わるサービスや新しい産業を『ブレインヘルスケアⓇ』と呼んでいます。」
そう説明してくれたのは、Splink で研究開発グループとエンジニアリンググループを統括する CTO(最高技術責任者)の奥野晃裕さん。脳の健康状態を見える化することは、ドクターの診断のサポートだけでなく、それ以外の医療関係者や患者自身にとっても価値のあることだと奥野さんは言います。
現在、Splink が提供しているサービスは大きく 2 つ。1 つは脳 MRI 画像を AI 解析してレポート化する、脳ドック向けの予防検査サービス『Brain Life ImagingⓇ』。もう 1 つが認知能力を計測する iPad 向けアプリ『CQ testⓇ』です。その双方に Google Cloud のプロダクトがフル活用されています。
「たとえば『Brain Life ImagingⓇ』では、脳ドックを提供している病院・クリニックが MRI 画像をアップロードするための Web サービス部分に Google AppEngine(GAE)を利用しています。病院が営業している限られた時間内に単発的に来るアクセスをさばくのに GAE は最適な選択肢。使っている時だけ課金されますし、立ち上がりも早いので無駄なく使えています。また、もう 1 つの『CQ testⓇ』は Firebase上に構築。認証からデータ送信、最終的にテスト結果を BigQuery に書き込むところまでがっつり使っています。なお、Google Cloud スタートアッププログラムで支給されたクラウドクレジットは、ほとんど研究開発部門で使いました。開発初期に気兼ねせずに GPU をガンガン回したり、Notebooks をどんどん立ち上げて使えたっていうのは非常にありがたかったです。」(奥野さん)。
「Google Cloud の良いところは開発者フレンドリーであること」だと語る奥野さん。研究開発部門の最重要タスクである AI の研究開発においても、他プラットフォームと比べてインスタンスへのリソース割り当てが柔軟だったことなどに助けられたと言います。
「そのほか、ここ 1~2 年で充実してきた AI Platform も、Notebooks の共有など、便利に使わせてもらっています。自分で準備しようとすると面倒なものがあらかじめ準備されているのが良いですね。創業当初の AI の開発をガリガリやっているころにこれがなかったのが残念(笑)。機械学習には、見つけたい特徴(p)に対して、充分なデータ(n)がないと成果を得るのが難しくなる、いわゆる『Large p Small n』問題があるのですが、医療業界はその典型。極めて特殊性の高い分野のため、Google の用意している AI プロダクトをそのまま使えるかはまだ検証中なのですが、便利なものがたくさんあることは認識しているので、今後はさらに上手く活用していきたいですね。」(奥野さん)
Google Cloudのプロダクトはスタートアップと相性抜群
今回取り上げた 3 社に共通するのは、Google Cloudの各種プロダクトを用いて効率的にサービスを開発・運用していること。特にフルマネージドなプロダクト群は人員の限られるスタートアップ企業との相性が抜群です。また、Google Cloud スタートアップ プログラムから提供されるクラウド クレジットやサポートを有効に活用していたこともポイントと言えるでしょう。Googleは今後も次世代を担うスタートアップ企業を積極的に支援していくことをお約束します。