資生堂: Google Cloud Skills Boost を駆使し、部門の垣根を越えてデジタル人材を育成

Google Cloud Japan Team
DX 推進などの盛り上がりを受けてデジタル人材獲得競争が激化する中、自社メンバーをデジタル人材へと育成する動きが加速しています。日本トップシェアの化粧品メーカーとして知られる資生堂ジャパン株式会社(以下、資生堂)も、ビジネスモデルの転換に伴いデジタル人材の社内育成に力を入れ始めた企業の 1 つ。ここでは Google Cloud との協働のもとで 2023 年から取り組み始めたトレーニング施策について伺いました。
利用しているサービス:
Google Cloud Skills Boost, Google Cloud 認定資格
過去 2 回の実施で 11 名の Google Cloud 認定資格取得者を輩出
スキンケア、メイクアップ分野で強い競争力を誇る資生堂ですが、2020 年初頭から本格化した新型コロナによる市場の激変を受けてビジネスモデルを転換。2020 年 7 月に新設されたカスタマーストラテジー&プランニング部(以下、CS&P 部)は、そのための戦略構築から事業計画の立案、流通や販売現場への展開までを担う部門です。同部門ではデータ アナリティクスを起点に事業変革をドライブ。直近では Google Cloud の BigQuery を用いたデータ分析基盤を立ち上げ、劇的なコスト削減も含めたデータ活用の活性化に成功しています(※)。
※【参考記事】BigQuery を用いたデータ分析基盤でコスト 8 割減、処理時間 9 割減を達成、AI / MLを含めたデータ活用を活性化
そんな資生堂が今後さらに DX を推進していく中で大きな課題の 1 つとなっていたのが、専門スキルを持つ人材の確保でした。同社ではそれまでデータやデジタルの領域を外部の業務委託先企業にほぼ全面委託していたため、社内に必要なスキルを持つ人材は外部調達以外は非常に少ない状況でした。
「外部人材の獲得が難しい中、社内メンバーにどのようにしてデジタルをインプットしていくかを考える必要がありました」と当時を振り返るのは、CS&P 部データ アナリティクスグループ所属の永盛達也氏。もちろん資生堂では、これまでもさまざまな形で DX 人材育成に取り組んできました。その上で永盛氏は、全社的な取り組みではどうしても学んだことと実際の業務にギャップが生まれてしまうため、より現場レベルに寄り添った実務に近いトレーニングが重要だと言います。


「そうした中、かねてお付き合いのあった Google Cloud の営業担当者にデジタル人材育成の課題を相談したところ、 Google Cloud スキル チャレンジ プログラムをご紹介いただきました。ちょうどこの頃(2022 年後半)にデータ分析基盤など、Google Cloud を実務に用い始めていたこともあり、これなら実務に近い学びが期待できると考え、まずはデータ アナリティクスグループ内で小規模なトライアルを行うことにしました。」(永盛氏)
Google Cloud スキル チャレンジ プログラムは、オンライン学習プラットフォームである Google Cloud Skills Boost での自習・ラボ体験をベースに、Google Cloud エンジニアからのセッションなどを交え、Google Cloud 認定資格取得を目指すプログラムです。
トライアルは 2023 年 1 月から 3 月にかけて、グループ所属のうち 5 名で開始。実際の業務に最も近く、上級レベルに位置する Professional Data Engineer 認定資格取得を目標に設定しました。具体的な学びの内容については、永盛氏の部下としてプログラム全般を運営し、実際にトレーニングにも参加した岡村かれん氏が次のように説明してくれました。
「基本的には Coursera や Google Cloud Skills Boost といった既存のトレーニング プログラムでオンライン独習するスタイルでしたが、週に 1 度固定の時間枠で、不明点を Google Cloud の担当者に直接聞ける場を設けていただきました。なお、このとき受講したメンバーはそれぞれデジタル リテラシーが大きく異なっていました。私は新卒から 2 年半営業を経験し、2023 年 1 月にデータ アナリティクスグループに参画しました。Google Cloud どころかクラウドに関する基礎的な知識もない状態からのスタートだったため、正直何度も挫折しそうになりました。しかし不明点を弊社の使用事例に置き換えるなど、参加者の理解度に合わせてわかりやすく解説していただき、トレーニングを安心して進めることができました。市販テキストでは得られない学びがあったと感じています。」
結果、第 1 回の取り組みでは参加者 5 名のうち 3 名が Professional Data Engineer 認定資格に合格。残念ながら岡村氏は資格取得に至らなかったものの、トレーニングで得た学びは大きく、すでに業務の中で役立ち始めていると言います。また、その後も実務を通して「点と点がつながっていくように学びが深まり、(デジタル学習に関して)自分の足で歩んでいけるようになった感覚が得られた」(岡村氏)とも語ってくれました。
「これらの成果を部門長に報告し、第 2 回の実施も決定。今度は CS&P 部全体を巻き込み、第 1 回の成功をアピールする形で 36 名の参加者を集め、 6 月から 8 月までトレーニングを実施しました。この際、初回の難易度が高すぎたのではないかという反省を踏まえ、挑戦する資格の種類を拡大しました。私のようなデジタル初心者でもとっつきやすく、実務に直結するクラウド知識を身につけられる、初級レベルの Cloud Digital Leader と中級レベルの Associate Cloud Engineer のプログラムも用意しました。さらに学習時間を十分に確保できなかったという第 1 回参加者の声を反映し、週に 1 度の固定枠を不明点の解消だけでなく自習時間としても使ってもらう『もくもく会』に変更。結果、多くがビジネス部門のメンバーであったにも関わらず、約 7 割の 25 名が資格取得試験を受験し、うち 8 名が合格することができました。」(岡村氏)
「参加後のアンケートでは『デジタルへの苦手意識が減った』『DX を自分ごととして捉えられるようになった』『今やっている業務を見つめ直すきっかけになった』という声が多く上がりました。また、事業計画の分析に BigQuery を取り入れたいといった、データ活用の逆提案も参加者から出てきており、トレーニングによって得られた学びがプログラムの枠を超えて実務で応用され始めています。合否にかかわらずデジタルに対する参加者の意識を変革できたことは、大きな手応えを感じたポイントです。」(永盛氏)
さらなる規模拡大でデジタル イノベーションを社内外に仕掛けていきたい
そして現在(取材時点)、資生堂グループの IT 領域を担う資生堂インタラクティブビューティー株式会社(以下、SIB)も巻き込み、より規模を増した計 51 名で第 3 回を実施中。現時点で既に 27 名が資格取得試験を受験し、うち 18 名が合格。第 2 回を大幅に上回る合格率を出しているそうです。
「別会社からも参加を募ったのは、グループ企業間の壁を壊したいという思いが強かったから。学びの場を共有することを通して交流を活性化させ、コラボレーションを加速させていきます。」(永盛氏)


「レベルアップしたのは規模だけではありません。参加者の実務関連性やレベル感に合わせて自由に選択できるよう、プログラムの対象をプロフェッショナル認定資格を含む全 10 種に拡大させました。さらに顔も名前も知らない別会社からの参加者とも気軽に交流ができるように、それまでオンラインのみだったもくもく会をオンサイトも混ぜて実施しています。一緒に模擬試験を解いたり、すでに合格している参加者に体験談やアドバイスを共有してもらう、といったコンテンツを通して参加者間のコミュニケーション活性化を図っています。私も引き続きトレーニングに参加していますが、やはり直接顔を合わせて学ぶことの一体感は大きいですし、学習するモチベーションも高まります。また、 IT のスペシャリストである SIB の参加者から得られる学びや刺激は多く、今後も積極的にコラボレーションを図っていきたいと思っています。」(岡村氏)
もちろん今後もこの取り組みを強化し拡大していきたいと語る両氏。第 3 回までの参加者たちが自分の部署に戻り、仲間たちにこの取り組みをエヴァンジェリスト的に広めてもらうことで、全社的な DX が自然と加速されていくことを期待していると言います。
「今回のような取り組みを自分たちだけで実現しようと思ったら、どれほどの手間がかかっていたのか想像もつきません。既存のプログラムを、デジタル リテラシーが高くない弊社メンバー向けにカスタマイズして提供いただけたことは本当に感謝しています。今後はビジネス部門の社員向けに BigQuery、Looker などの実務と紐づいたハンズオン トレーニングも予定しており、現在 Google Cloud と調整を進めているところです。また、いち早く提供されている生成 AI などのトレーニング プログラムにも興味があり、ぜひ私たちのプログラムにも取り入れていきたいです。そして中長期的には、この取り組みを通して、資生堂内部にバーチャル組織を作っていきたいとも考えています。トレーニングを受けた人たちは『デジタル』タグの付いた人材となり、それを束ねることで何か新しい価値を創り出そうというアイディアです。これまで実施してきた計 3 回のプログラム参加者は 63 名になります。所属する会社や部署はもちろん業務内容もさまざまですが、同じ志を持ってこのプログラムに参加しているメンバーです。この繋がりを利用し社内にバーチャル組織を確立させ、多種多様な人材から生み出されるデジタル イノベーションを社内へ波及していけるよう、またそれを拡張して社外ともコラボレーションしていく仕掛けを実施していきたいと考えています。」(永盛氏)


資生堂ジャパン株式会社
資生堂グループの日本地域本社として、国内マーケティングおよび販売を統括。デパートや化粧品専門店、ドラッグストアや量販店、EC など多様なチャネルを通じてスキンケア、メイクアップ、フレグランスなど、幅広い領域のブランドを展開している。従業員数は 11,667 名(2023 年 1 月 1 日現在)。
インタビュイー(写真左から)
プレミアムブランド事業本部 カスタマーストラテジー&プランニング部
・ストラテジー プランニング室 データ アナリティクスグループ グループマネージャー
永盛 達也 氏
・ストラテジー プランニング室 データ アナリティクスグループ
岡村 かれん 氏
(本記事の情報は 2023 年 12 月取材時点のものです)
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