株式会社三菱UFJ銀行:お客様向けコールセンター業務のチャットボット化に Dialogflow を導入
Google Cloud Japan Team
昨今の厳しい経済情勢を踏まえ、大がかりな構造改革を実施中の三菱UFJ銀行。その「中期経営計画( 2018 年度~2020 年度)」で掲げられている「11 の構造改革の柱」の中で最も重視されているのが、柱の 1 つでありながら、全ての柱に関連する「デジタライゼーション戦略」です。今回お話をお伺いした同社デジタル企画部は、その戦略を推進するために設立された新部門。その中で、Google Cloud がどのように活用されているのかを聞いてきました。
利用している Google Cloud サービス:Dialogflow
数ある選択肢の中で、Dialogflow が高精度に動作してくれた
「三菱UFJ銀行では、Google Cloud をコールセンター業務へのチャットボット導入に利用しています」と教えてくれたのは、同行デジタル企画部の島野さん。三菱UFJ銀行は、その規模・事業領域の広さゆえにお客さまからの問い合わせも多く、コールセンター宛に毎月大量の問い合わせ電話がかかってきているのだそうです。
「デジタル企画部ではデジタライゼーション戦略の一環として、ここに発生しているコストをデジタル技術を駆使することで削減できないかというプロジェクトを 2018 年に立ち上げました。お客さまからのお問い合わせを Web から受けて、まずはチャットボットが対応、回答できない場合はオペレーターに繋ぐというかたちで電話の件数を減らしていこうという取り組みです。まずは手始めに、個人情報を取り扱わず定型対応しやすいインターネット バンキング「三菱UFJダイレクト」に関するコールセンター業務に導入し、2020 年 1 月時点で約 2 万 7,000 件/月のお問い合わせにチャットボットが対応しています。」(デジタル企画部 島野さん)
そして、このチャットボットで活用されているのが Google Cloud のチャットボット向け AI ソリューション「Dialogflow」。数ある選択肢の中から Dialogflow を選んだ理由を、本プロジェクトにおいて、主にチャットボットのチューニングを担当したシステム企画部 多川さんは次のように語ります。
「プロジェクトの正式スタートに先駆け、2018 年春ごろから、Dialogflow も含めて、およそ 10 社くらいのチャットボット製品を比較しています。その際重視したのはやはり精度。特にチューニング後の精度と、それにかかった時間を重要な評価対象としています。Dialogflow はその点で最も優秀でしたね。最終的には、そこに GUI のみで開発・メンテナンスができる運用のしやすさ、個人情報を扱わない上でのセキュリティも加味して、Dialogflow を選びました。」(多川さん)
なお、三菱UFJ銀行が Google Cloud を導入するのはこれがはじめて。それまで実績のないクラウド プラットフォームを使うことに対し、反対意見はなかったのでしょうか?
「まったくありませんでした。社内ではそれまで利用していた大手クラウド プラットフォームへの評価も高かったのですが、Google Cloud への期待も高く、特に AI といえば Google Cloud だろうという意識が上層部にまで浸透していましたから。テスト結果と合わせて Google Cloud の導入を上奏した時も反論はなく、むしろ納得してもらえたようです。」(デジタル企画部 池内さん)
そして 2018 年 10 月、Dialogflow を中心としたチャットボット開発プロジェクトがスタートします。
「公開が 2019 年 2 月と決まっていたため、短期間での開発を実現すべく、既存のクラウドサービスを組み合わせて構築するということを決めていました。ですので、それらの通信のインターフェイスについては、後で問題にならないよう設計の段階で入念に確認を取りつつ進めています。また、将来的にはコールセンター業務に留まらず、グループ全体でさまざまな用途で使えるようにしたかったので、横展開のしやすさも重視し、コードによるインフラの運用管理などにもチャレンジしています。」(池内さん)
「Dialogflow の良いところは開発の多くの部分を UI 上で行えること。また、Zip 形式でチャットシナリオ設定ファイルのインポート・エクスポートが可能なため、テスト用のエージェントから本番用エージェントへの移行がとてもスムーズでした。ログをアップロードすれば言い回しの作成や学習を画面上で実施することもできます。」(多川さん)
利用数、解決率で想定を大きく上回る成果を実現。今後の利用拡大も視野に
こうして 2019 年 2 月、予定通りチャットボットを運用開始。三菱UFJ銀行公式 Web サイトに、個人向けインターネット バンキング(三菱UFJダイレクト)限定で「チャットで問い合わせる」ボタンが新設されました。そのサービスイン当初から今日に至るまでの歩みを多川さんにふり返ってもらいました。
「チャットボットをインターネット バンキングという領域でリリースするのが初めてだったこともあり、当初はどういう問い合わせがあるのかも分かりませんでした。そこで、まずはコールセンターにいただくお問い合わせの中から、とりわけ件数の多いものにだけ対応する、スモール スタートという形で始めています。その後は、実際のお問い合わせ内容を分析して、新しいシナリオをリリースしたり、上手く機能しなかったシナリオについてはチューニングをかけていくということを毎週のようにやっていきました。」(多川さん)
その結果、リリース当初は約 30 件だったシナリオ数が、2019 年末の時点で約 150 件にまで増強。問い合わせの約 50 ~ 60% に回答できるようになっていると言います。
「中でも断トツで多いのはログインができない、(複数存在する)パスワードのどれを使えばいいのか分からないといった質問ですね。また、これはリリースした後に分かったのですが、海外にお住まいのお客さまのチャット利用率が想像以上に多かったんです。チャットには電話代や時差の問題がありませんから。また、金融業界ならではの、季節性・突発性のある問い合わせにチャットボットで対応できる点も評価しています。例えば年末年始の休業日にいただいたたくさんのお問い合わせに対し、チャットボットでの解決率は 9 割越えを達成しています。近年、社会問題となっている詐欺メールに関する照会やキャンペーンへのお問い合わせ対応などにも活躍しているんですよ。」(多川さん)
「とは言え AI のシナリオを増やしてチューニングしていくためには有識者の参加が不可欠ですし、質問内容や正解率のモニタリング体制もしっかり作り込んでいかねばなりません。このプロジェクトの目的はコストの削減ですから、月に 10 件あるかないかという照会原因に対して AI のシナリオ を作り込んでいくのは明らかに効果的ではありません。作るべきシナリオと、オペレーターに任せるシナリオの見極めをしていく必要があります。」(島野さん)
また、本来の目的であるコスト削減についても、効果の見極めが難しいことも悩みどころだと言います。
「当初から分かっていたことではあるのですが、お問い合わせの電話件数はその時々の社会情勢にも大きく左右されるため、1 年前の件数と今の件数を比較しても、それがチャットボットの成果なのかが分かりにくいんです。そこで現在はそれとは別の KPI、具体的にはチャットの利用件数、チャットボットの解決率、そしてチャットボットで解決できない質問を担当するオペレーターの対応単価の 3 つで効果を測定するということを始めています。結果、利用件数と解決率についてはそれぞれ当初の目標値を大きくクリアし、想定以上の効果が出ていることがわかりました。残念ながらオペレーターの対応単価については目標を達成できていないのですが、これはチャットボットの解決率が想定よりも高かったことで、予想よりもオペレーターに繋ぐ人が少なかったためだと考えています。オペレーターの配置人数については、今後は適正化されていくでしょう。」(池内さん)
「Dialogflow って、大げさに言うとログインするたびに新しい機能が追加されていくんですよ。せっかくなのでそうした機能は β 版であっても積極的に触っていくようにしています。たとえば最近だとエージェントの学習内容を検証するバリデーション機能を実際の運用で使い始めました。良くない言い回しや類義語をサジェストしてくれるので精度向上にとても役立っています。今後はこうした機能も駆使して、より効率的にチューニングを施していきたいですね。」(多川さん)
「さらに将来的には新しいシナリオを効率的に作成していくために、既存シナリオをベースにした自動化が図れないものか検討中です。具体的には、Google Cloud が 2018 年に発表した自然言語処理モデル『BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)』の論文実装を目指しています。これによって、現在はインターネット バンキングに限定されているチャットボット対応を他のコールセンターにも拡げていきたいですね。」(島野さん)
(写真右から)
・デジタル企画部 上席調査役 島野 浩平 氏
・システム本部 システム企画部 IT戦略グループ 調査役 多川 勇介 氏
・デジタル企画部 調査役 池内 和訓 氏
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