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現場からの FinOps: クラウド変革で実現したビジネス価値の測定に Cloud FinOps を活用する

2023年10月19日
Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2023 年 10 月 11 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

概要

クラウド変革の時代になって約 20 年間、数えきれないほどの企業がクラウドベースのシステムを採用してきました。移行前には通常、徹底的なビジネスケース分析を行い、見込まれる費用削減とその他の効果を明確にします。多くの組織は、クラウドの費用を管理するために FinOps の手法をすべてのチームにわたり確立しようとします。しかし、しばらくすると「予想していた効果は得られたのか?」、「投資したことでどのようなビジネス価値が生まれたのか?」という疑問が生じます。2022 年以来、Google Cloud はクラウド変革で得られる具体的なビジネス価値を正確に割り出せるよう、お客様との連携を強化してきました。こうした調査により、国と業界を超えた多様なお客様企業から定量的なエビデンスが収集されました。このブログ投稿では、データから導出できる主な分析情報に注目し、お客様がクラウド変革を通じて、費用の削減を超えた、測定可能なビジネス価値を生み出していることを紹介します。

ビジネス価値を測定する理由

「クラウドに移行して 12 か月が経った。実現するはずだったビジネス価値はどこにある?」- CTO

「ビジネス価値の観点からワークロードのクラウド移行に優先順位を付けるには?」- クラウド サービス責任者

「クラウド移行後のプロジェクトの TCO 削減率に関するベンチマークを当社は設定しているのだろうか?」- CIO

Cloud 価値測定チームは、Google Cloud のお客様から毎日このような質問をいただきます。重視する分野や技術的な専門知識は異なるものの、こうした質問はすべて、クラウドで生み出される価値を測定するにはどうすればよいかというテーマを中心として展開されます。

Cloud 価値測定チームは発足以来、まさにその答えを導き出すためにお客様とともに取り組んでいます。チームは 1 対 1 のエンゲージメントを通じて、組織がクラウド変革で達成しているビジネス価値を追跡してきました。こうしたデータの蓄積により、お客様は過去と将来の投資を正しく評価し、意思決定に優先順位を付け、ビジネス全体の可視性を高めることができます。データに基づく説得力のあるストーリーテリングにより、お客様は「なぜ成果を得られたのか」を筋道立てて理解し、役員だけでなく広く一般にも向けて成果を一層アピールできます。チームはこのプロセスを通じて、国と業界を超え、さまざまなお客様から膨大な量の定量的エビデンスを収集しました。このデータを分析することで、クラウド変革の具体的な利点を示す共通のテーマと傾向が見えてきます。

このブログ投稿ではそうしたテーマを詳しく説明するとともに、クラウド変革を通じてお客様が単に費用を削減するにとどまらず、重要なビジネス価値を生み出してもいる様子に光を当てていきます。広範な調査やお客様との連携から得られた分析情報を紹介しますので、ご期待ください。

Cloud FinOps が価値測定の前提条件である理由

調査で明らかになったテーマを詳しく説明する前に、次の基礎的な調査結果を理解しておく必要があります。「ビジネス価値を測定するにあたり、Cloud FinOps の手法を確立することが必要不可欠」だということです1。そうすることで、純粋な費用の観点でクラウドの利用を捉えるのではなく、クラウドがもたらすビジネス価値とその背景要因を理解しようとするようになります。

「先月のクラウドの費用は 10,000 ドルで、前月より 10% 増えた」とではなく、「先月は 10,000 ドルかけて x の価値を生み出した。これは前月と比べ 6% の改善だ」と表現するようになります。

Cloud FinOps がうまく機能すると、価値の指標が確立されます。誰が何に費用をかけているのかがはっきりしたら、それを他のデータと組み合わせることで、生み出された価値を計算できます。たとえばオンライン小売企業は、顧客取引 1 件あたりのクラウド費用を最適化しようとするかもしれません。使用しているインフラストラクチャの直接的なオンデマンド費用を測定し、それを取引件数と組み合わせることで、基本的な価値の指標(取引 1 件あたりの費用)を生成できます。定性的なデータを加えることで、戦略的な取り組みや、テクノロジーの採用と強化に関し、十分な情報に基づいて意思決定できるようになります。

Cloud FinOps は本質的に価値測定の道を切り拓く手段であるといえます。この点と、より広範な概念であるユニット エコノミクスについては、ユニット エコノミクスのホワイトペーパーで詳しく説明しています。価値測定に必要な Cloud FinOps の重要な機能に、費用の割り当てがあります。誰が何に費用をかけているのかを把握しないことには、価値の測定はできません。費用の割り当てについて詳しくは、こちらの専用のホワイトペーパーをご覧ください。

方法

誰が何にどれだけの費用をかけているのかを把握したら、そこから生み出される価値について考えられるようになります。Google Cloud では、クラウド変革が生むビジネス価値を以下の 5 つの柱に基づいて捕捉します。このフレームワークは、IT における共通のビジネス価値モデルから構築されました2。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/Figure_1_5_business_value_pillars.max-1800x1800.png

図 1: ビジネス価値の 5 つの柱

クラウドに移行する際、まず費用効率を考えることはよくあります。Cloud FinOps の手法を確立すると、組織はクラウド費用の透明性を確保し、費用を管理できます3。また、単価を介してクラウドの費用をビジネスの成長と関連付けることができます4。クラウドの費用を把握することは、オンプレミスと比べてどれほど費用を削減できたかを計算するための前提条件です。費用効率はビジネス価値において非常に重要な要素ですが、それのみに注目すべきではありません。

クラウド変革がサステナビリティに及ぼす影響に、ますます重点が置かれるようになっています。現在、クラウドでは、温室効果ガス排出量とエネルギー消費量を低く抑えられます。クラウドベースのオペレーションで最適化を行えば、サプライ チェーンにおける無駄の削減につながります。

また、オペレーションの復元性にもプラスの効果があり、サービス品質やセキュリティ リスク エクスポージャーが向上します。

クラウド テクノロジーを利用して、これまでは不可能だった新しいサービスや改善されたサービスを提供することで、顧客満足度と事業収益を向上させることができます。

最後に、クラウド変革はイノベーションを促進します。ビジネス プロセスを高速化し、迅速なテストを可能にします。また、開発者の負担を減らせるので、開発チームが革新的なプロジェクトに取り組む時間が生まれます。

こうした効果すべてを総合したものが、クラウド変革のビジネス価値となります。右にいくほど、真の意味でビジネスへの影響が大きい効果になります。しかし、ビジネス価値はクラウド変革の遅行指標となるため、測定はますます難しくなります(図 2)。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/Figure_2_Impact_chain.max-1800x1800.png

図 2: ビジネス価値はクラウド変革の遅行指標

理想的なシナリオでは、それまでサイロ化していたデータベースをクラウド上の 1 つのデータレイクに移行するなど、クラウド変革の一歩が踏み出されたとき、ビジネス価値はすぐに明らかになります。しかし、その一歩の影響はそれほど直接的ではありません。

次のような例を考えてみましょう。データのアクセシビリティが向上し、クラウドの弾力性しを得られたことで、IT チームのあるバッチ処理が速くなりました。これをビジネス価値の勘定に入れることはまだできません。速くなったからといって、良くなったとは限らないということです。しかし、クエリ処理が速くなったことで、ビジネス関連のレポートの正確性が増し、生成までの時間も短縮されたとします。ここで、真の意味でビジネス価値が生み出されたと考えることができます。ビジネスの意思決定を迅速に自信を持って行えるようになったためです。もう一歩進んで、分析情報を迅速に得られることで、リスク回避や売上向上など、よりビジネスに直接的な影響が見られる可能性さえあります。これは最終的に、企業の損益計算書で費用の削減や収益の増加としても現れます。

Google はこの一連の流れのうち、最後の 3 段階が真のビジネス価値だと考えています。右に進むほどビジネスとの関連性が高まり、測定の及ぼす効果が強力になります。ただし、測定の難易度も大きく上がります。

この分析は、2022 年のグローバル プラクティスの開始以来 Google が収集してきたビジネス価値のエビデンスに基づいています。このデータは 3 つのチャネルを通じて収集されました。

  • お客様との価値実現ワークショップ(価値測定チームが実施)
  • 公開されているユースケース(カンファレンス、ジャーナル、ブログ投稿など)
  • Google のお客様チームへのアンケート調査

これまでのところ、Google のデータベースの対象範囲は以下のとおりです。

  • 2,000 件を超えるビジネス価値の測定結果(「サウンドバイト」)
  • 900 社を超えるお客様
  • 50 か国
  • 15 の業界

これは出発点にすぎませんが、データからはすでに、一般化できる価値創造についての興味深い分析情報が得られています。

Google Cloud で実現するビジネス価値

まず、お客様がどのようなビジネス価値を実現しているのかを見てみましょう。

https://storage.googleapis.com/gweb-cloudblog-publish/images/Figure_3_Value_realised_per_pillar.max-600x600.png

図 3: クラウド変革がもたらすビジネス価値で最も一般的なものはイノベーションであり、次点は復元性。

興味深いのは、一般的な予想に反して、最も頻繁に言及される効果が費用効率ではない点です。挙げられている効果の大部分はイノベーションに関連しており、次いで復元性の向上、その次にようやくクラウドの効率の向上となっています(レコード数 1,655)。

サステナビリティという側面は、これまであまり注目されてきませんでした。お客様がクラウドの導入でサステナビリティの効果を測定するようになったのはごく最近のことであり、特に現在のエネルギー危機が始まってからです。近い将来、さらに多くの効果が明らかになると思われます。

次回の投稿ではさらに掘り下げて、費用効率を始めとする各分野においてビジネス価値を生み出した事例を紹介します。

クラウドに移行した資産の状態が大幅に異なるため、費用削減効果を組織間で比較することは困難です。比較を可能にするために、Google はお客様から報告された費用削減の割合を共有することにしました。

費用効率、温室効果ガス排出量の削減、システムの可用性の向上、顧客体験の改善、クラウドによる継続的なイノベーションの推進について詳しくは、次回の投稿をご覧ください。


1. たとえば、Google Cloud(2023 年)「Cloud FinOps とは」(https://cloud.google.com/learn/what-is-finops、2023 年 7 月 3 日閲覧)を参照。

2. たとえば、Tallon, P.P.、Mooney, J.G.、Duddek, M.(2020 年)「Measuring the Business Value of IT」を参照。Lynn, T.、Mooney, J.、Rosati, P.、Fox, G.(編集)『Measuring the Business Value of Cloud Computing』より。『Palgrave Studies in Digital Business & Enabling Technologies』(Palgrave Macmillan、Cham)に収録。

3. Tanna, K.、Moss, S.(2023 年)「現場からの FinOps: FinOps ロードマップを構築する方法」(Google Cloud ブログ、2023 年 7 月 3 日閲覧)を参照。

4. FinOps Foundation(2023 年)「Measuring unit costs」(2023 年 7 月 3 日閲覧)を参照。

- Google Cloud、ドイツ、Ursula Löbbert-Passing 博士

- Google Cloud、スイス、Daragh Murphy

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