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Google Maps Platform

空間選びの後悔をゼロに。スタイルポートが切り拓く、3D データ活用の可能性

2025年9月8日
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Google Maps Platform Team

技術革新と新たなサービスの開発が急速に進む不動産業界。なかでも目覚ましい発展を遂げ、大きな注目を集めているのが株式会社スタイルポートです。同社はマンション購入検討者と不動産事業者の双方に、高精細なデジタルツインを活用した臨場感にあふれる新しい体験を提供。その基盤に Google Maps Platform を活用しています。今回は同社の 2 名のキーパーソンに、サービスのコンセプトと開発秘話、今後の構想について伺いました。

情報の非対称性を解消し、「空間の選択に伴う後悔をゼロにする」ために

株式会社スタイルポートは 2017 年 10 月に設立。先進的な 3Dコミュニケーション・プラットフォーム「ROOV(ルーブ)」を提供し、急成長を遂げてきました。2019 年 4 月には竣工前のマンションをデジタルツインで再現し、ウェブブラウザ上の VR(仮想現実)画面で室内を内覧できる「ROOV walk(ルーブ ウォーク)」、翌 2020 年には住宅販売支援プラットフォームの「ROOV compass(ルーブ コンパス)」をリリース。2024 年 4 月には、デジタルツインを建物の周辺や都市空間にまで拡大した「ROOV.space(ルーブ ドットスペース)」の提供を開始しています。同社設立以来、プロダクトマネージャーとして ROOV の開発を指揮してきた吉田 巧氏は、その背景を次のように説明します。 

「弊社が追求してきたのは『空間の選択に伴う後悔をゼロにする。』というミッションです。これは私自身も経験したのですが、新築のマンションを購入する際には、多くの場合、現物を見ないまま、パンフレットや図面、CG で作られたパースなどを頼りに、何千万円や何億円といった高価な買い物をすることになります。たしかにモデルルームは用意されていますが、見栄えのするごく限られた部屋だけが採用されるので、さほど参考にはなりません。この問題を解消するのが、まだ存在しない建物を高精度な 3D CG で再現する ROOV walk です。ROOV walk では壁紙を変えたり、眺望を確認したりしながらリアルに内覧できますが、高価な VR ゴーグルや特殊なソフトウェアを一切使わないのも特徴です。ご自宅のパソコンやタブレット、スマートフォンで簡単・気軽に内覧しながら、その部屋や建物にどこまで愛着を持てるかという本質的な検討まで、じっくりと行っていただけます。」

 

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マンション購入者だけでなく、事業者側の DX と納得感も飛躍的に向上

ROOV walk は、マンション購入検討者にかつてない利便性や安心感を提供することに成功。新型コロナウイルス感染症への対策として、VR 内覧のニーズが高まったことも追い風になり、急速に普及しました。一方、経営管理グループ Chief Strategy Officer(CSO)を務める栃内 慶彦氏は、マンション販売事業者にも大きなメリットをもたらしたと語ります。

「新築マンションは、今日の日本では約 4 兆円の市場規模があり、パンフレットやモデルルーム制作のために、毎年、数千億円が投じられています。これらのマーケティング費用は、物件の価値を直接向上させるわけではありませんし、逆に収益を圧迫する要因となります。ましてや不動産業界は建築費や建材費、人件費が高騰していますので、コスト削減が喫緊の課題になってきました。その点、ROOV walk でモデルルームのデジタル化を推進していけば、こうしたコストを劇的に縮小しながら、より満足感の高いマーケティングやプレゼンテーションを提供できるようになります。」

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ROOV walk が発表された翌 2020 年、スタイルポートは住宅販売支援プラットフォームの ROOV compass をリリースしました。栃内氏は ROOV compass が、不動産業界における営業活動の DX を推進する基盤になったと捉えています。 

「ROOV compass は ROOV walk の 3D データはもちろん、基本図面、ルームプラン、フロアマップ、オプション、周辺地図などの関連情報から、ローン シミュレーションや商談予約まであらゆるデータを集約し、体系的に活用できます。また、お客様のアクセスログを分析し、最も重要なデータを最適な形で共有することも可能です。お客様の要望を聞いて資料をお渡しする方法は以前も採られていましたが、紙の資料に頼ったアナログな接客は、ともすれば個々の担当者の勘と経験、度胸に頼りがちでした。しかし ROOV compass を使うと、お客様が実際にどんな間取りを見ているか、どこに注目しているかというニーズを科学的に分析し、最適な営業や提案ができるようになっています。」

このような技術・サービス開発には、スタイルポートの組織力が反映されています。同社は、技術開発を担うエンジニア、ビジネスを担当するスタッフ、不動産や建築・建設に精通したドメインエキスパートが、ほぼ同じ割合で在籍。その上で、ドメインエキスパートが問題や課題を洗い出し、技術開発チームとビジネスチームがソリューションを検討していきます。さらに、ニーズの把握から技術・ビジネス開発、フィードバック反映までを内製化することで、迅速に PDCA サイクルを回すことが可能になっています。

室内から全棟、そして都市空間へと拡大していく、高精細な VR 空間

ROOV は新築分譲マンション向け 3D CG 内覧サービスとして圧倒的な支持を獲得し、130 社以上、900 以上のプロジェクトで採用されています(2025 年 7 月時点)。同社の意欲的な試みは、これだけに留まりません。2024 年 4 月には、3D で再現できるデジタルツインを、マンションの周辺地域や都市スケールにまで拡大した ROOV.space を発表。その 1 か月後には、国家戦略特別区域計画の特定事業である大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」で初採用され、大きな話題を集めました。これは『空間の選択に伴う後悔をゼロにする。』という同社のミッションを、一層追求する試みとも言えるもので、吉田氏は自然な流れだったと振り返ります。 

「弊社のサービスは ROOV walk と ROOV compass を両軸に進化してきました。最初はマンション内の一室をデジタル上で内覧できるようにしましたが、すぐに全棟、全ルームタイプを 3D CG で再現し、共用スペースまで手掛けるようになり、その延長線上で周辺情報や地域情報にまでデジタルツインを拡大しました。物件を探す際にストリートビューを見たり、周辺情報を地図で確認したりする人は多いと思いますが、まだ存在しない建物はやはり把握できません。しかし ROOV.space ならば、これから竣工される建物を含めた外観や周辺エリア景観までを、リアルに把握できます。また、交通アクセスや生活環境、将来的な地域開発計画といった多様なデータをウェブ上 3D モデルに紐付けており、目的に応じてオーバーレイ表示できるようにもなっています。」 

Photorealistic 3D Tiles 導入で確信した Google Maps Platform の安心感

ROOV walk、ROOV compass、そして ROOV.space を軸とする ROOV の製品群には Google Maps Platform の API が活用されています。Maps JavaScript API は地図の表示、Places API は場所に関する詳細情報の取得、Geocoding API は入力された住所を緯度経度情報に変換するために、それぞれ用いられてきました。特に ROOV.space では「Photorealistic 3D Tiles(フォトリアリスティック 3D タイルズ)」が活用されています。Photorealistic 3D Tiles は、地図データで利用できる 3D メッシュの画像データで、写真のようにリアルで高精細な景観を、緯度や経度、高度に基づいて再現。しかも方位や高度、ズームなどの視点移動も自由なだけでなく、ストリーミングで必要なデータのみを読み込むため、操作性も極めて軽です。このような特徴は、吉田氏が目指していた機能拡張を可能にするものでした。

「従来の ROOV では、マンションの内部は ROOV walk で間取りを再現し、周辺地図は Google マップで表示する方法を採っていました。しかし 2023 年中頃から、建物全体の外観も 3D CG で再現してほしいという依頼を受けるケースが増えてきました。これを実現するには、高精細で 3D に対応し、読み込みも速いデータが不可欠になります。ちょうどその頃、Google マップのロードマップで発表されたのが Photorealistic 3D Tiles のプレビューでした。もともと Google マップはウェブブラウザでもスマートフォンでも、地図の表示を 3D インタラクティブにシームレスに切り替え、実際に移動しているような体験をすでに提供していました。こういう表示方法も取り入れられないだろうかと考えていたので、Photorealistic 3D Tiles が発表されたときは、かなり興奮したのを覚えています。」 吉田氏は Photorealistic 3D Tiles の採用の際に、Google Maps Platform が持つ優位性を再認識したと語ります。

「Photorealistic 3D Tiles を選んだ第一の要因は、ビジュアル的な品質の高さですが、技術力や共同作業のしやすさにも改めて感心しました。ROOV の開発では、重いデータの読み込みと軽い操作性を両立させながら、機能を最適化することが重要になります。Google Maps Platform の API は非常に優れているので、特別な開発作業は一切不要でした。唯一、工夫したのは、Google マップで表示される街並みと ROOV が再現する建築物をきれいに融合するためのマップをクリッピングすること、景観や遠景をよりリアルに見せるために、空気遠近法に基づいた描画エフェクトを施したことぐらいです。たしかに Photorealistic 3D Tiles は新しいソリューションで、データの転送量も大きいため、当初は API のリクエスト上限が低めに設定されていました。この上限の緩和にはサポートへのリクエストが必要でしたが問い合わせをすると、毎回、30 分から 1 時間ほどで Google のエンジニアから回答が届き、スムーズに課題解決できました。そのスピード感やサポートのきめ細かさには、本当に驚きましたし、開発者体験という意味でも、かつてない経験ができました。」

水平・垂直方向に事業を拡大し、不動産業界全体の DX と技術開拓を牽引

今や日本の不動産業界では、ROOV の各種サービスを導入するのが新たなスタンダードになりつつあります。関連して特筆できるのは、マンション業界全体で注目されるような大型プロジェクトや、高級マンションの建築プロジェクトにおける採用です。これは 3D CG を利用して内覧できるようにする方法自体が、マンション販売の新たな常識となりつつあることを物語ります。ROOV はフィリピンやマレーシアでの開発事業でも採用されるなど、海外市場でも高い評価を獲得し始めています。栃内氏は、このような水平方向の業務拡大だけでなく垂直方向、すなわちバリューチェーン全体で存在感を高めていくことにも強い意欲を示しました。

 「以前は建物全体の仕様が固まった段階で、3D モデルの構築をご依頼いただくことが多かったのですが、最近では建設計画の上流工程で発生する作業、CG パースや動画の制作もご用命いただくようになりました。これに伴い、弊社の 3D データを基準に、さまざまな制作物のチェックバック(確認・修正)を行う『ROOV check(ルーブ チェック)』というサービスも、ご利用いただく機会が増えてきています。不動産業界では、新築のマンションや住宅市場以外に、物流施設、商業施設、オフィス、アリーナなどのよりスケールの大きな施設開発の市場が膨大に存在します。これらの建設プロジェクトでも情報の可視化や共有、検討作業の効率化などに貢献できますので、少しでも多くの方にご利用いただき、お役に立てればと考えています。」

吉田氏は ROOV が秘めた技術的な可能性を総括しつつ、Google Maps Platform とのさらなるコラボレーション、そして今後の事業展開について締めくくりました。

 「ROOV の開発では、3D 自体の民主化や利用普及に貢献できたのではないかと考えています。現在はこれまで蓄積されたデータを踏まえたマーケティング施策や商品の開発、生成 AI を活用するプロジェクトも進めていますが、これらもやはり、最終的にはエンドユーザーの利便性を高めるものにしていければと考えています。その点で Google という企業のアプローチには、非常に共感を覚えます。Google Cloud は BtoB のサービス開発でも、グローバルな展開と BtoC を常に意識している。しかも社内の業務でテストし、そこで得られたノウハウもソリューションに反映されています。だからこそ提供されるサービスは痒いところに手が届くものになり、技術的なベンチマークにもなってきたのだと思います。Google マップも同様です。例えば私たちが日本の都市圏を中心に事業を始めときには、すでに詳細な地図データが用意されていました。しかも、マップがカバーするエリアや提供されるソリューションは、将来的にスケールアップしていくことはあっても、縮小することは絶対にない。この安心感と将来性は、何よりの魅力です。Google には、これからもぜひ、時代の先頭を走り続けてほしいですね。弊社も Google マップや Google Maps Platform を活用しながら、ROOV の魅力をより一層高め、不動産事業の新たな価値と可能性を広げていきます。」

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会社概要

株式会社スタイルポート

2017 年 10 月設立。「空間の選択に伴う後悔をゼロにする。」をミッションに掲げ、不動産事業に特化した 3Dコミュニケーション・プラットフォーム「ROOV」を展開。Google Maps Platform を活用した高精細なデジタルツインの構築・提供を通じて、住宅購入における情報の非対称性を解消し、モデルルーム建設費などのコスト削減に貢献。不動産事業者のマーケティングや営業活動の DX も推進することで、納得感の高い住宅購入体験、販売体験の実現を追求している。

インタビューイ(左から)

吉田 巧 氏 株式会社スタイルポート プロダクトマネージャー

栃内 慶彦 氏 株式会社スタイルポート 経営管理グループ Chief Strategy Officer(CSO)

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