DORA レポート第 10 版のハイライト
Nathen Harvey
DORA Lead
Derek DeBellis
DORA Research Lead
※この投稿は米国時間 2024 年 10 月 23 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
DORA の研究プログラムは、パフォーマンスの高い技術主導型チームおよび組織の能力、慣習、手法について 10 年以上にわたって調査を行ってきました。DORA はこれまで、ソフトウェア デベロッパー、マネージャー、上級管理職など、技術職に従事するプロフェッショナルを対象とした年次調査により収集されたデータに基づき、報告書を発表してきました。
そしてこのたび、2024 Accelerate State of DevOps Report を発表いたします。今年は、パフォーマンスの高い技術主導型チームおよび組織について、DORA が調査を始めて 10 年の節目となります。2013 年に発表された DORA の 4 つの主要指標は、ソフトウェア デリバリー パフォーマンスを測定するための業界標準となりました。
Google では毎年、標準的な DORA のパフォーマンス指標を包括的に理解し、それらが個人、ワークフロー、チーム、プロダクトのパフォーマンスとどのように関わっているかを把握するよう努めています。現在は、AI の導入がソフトウェア開発の複数のレベルにおいて、どのような影響を与えるかという観点も取り入れています。
また、毎年基準点を設定することで、チームが同業他社と比較して自らのパフォーマンスを評価できるようにし、あらゆる業界で卓越したパフォーマンスの実現が可能であると知ることで、インスピレーションを得てもらいたいと考えています。DORA の過去 10 年にわたる調査は、チームが継続的に取り組みを改善し、毎年向上していけるよう支援することを目的としてきました。
今年の報告書の概要については、DORA レポートのエグゼクティブ サマリーをご一読ください。注目すべき AI の導入傾向とその影響、プラットフォーム エンジニアリングの出現、デベロッパー エクスペリエンスの変わらぬ重要性をご確認いただけます。
あらゆる業界の組織が、自社のアプリケーションやサービスへの AI の統合を推進しています。デベロッパーは、自身の生産性を上げ、主要な職務を遂行するために、ますます AI を活用するようになっています。今年の調査では、AI 導入がもたらすメリットとトレードオフが複雑に絡み合う状況が明らかになりました。
このレポートでは、プラットフォーム エンジニアリングに周到にアプローチする必要性と、高いパフォーマンスを実現するうえでデベロッパー エクスペリエンスが果たす重要な役割についてご紹介します。
AI: メリット、課題、信頼の構築
AI の普及により、ソフトウェア開発プラクティスが再構築されつつあります。本調査の回答者の 75% 以上が、少なくとも一つの日常業務で AI を活用していると答えています。最も一般的な使用例としては、コードの記述、情報の要約、コードの説明などがあります。
レポートでは、AI が多くのデベロッパーの生産性向上に寄与していることが明らかになっています。回答者の 3 分の 1 以上が、AI により生産性が「中程度」から「非常に大きく」向上したと答えています。
また、AI の導入率が 25% 増加すると、以下の重要な分野において改善が見られることがわかりました。
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ドキュメントの質が 7.5% 向上
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コードの質が 3.4% 向上
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コードレビューのスピードが 3.1% 向上
しかし、AI には多くの潜在的なメリットがある一方で、今回の調査では、重大な事実も明らかになりました。AI の導入がソフトウェア デリバリー パフォーマンスに悪影響を与える可能性があるのです。AI の導入が進むにつれて、推定で、デリバリーのスループットが 1.5% 低下し、デリバリーの安定性が 7.2% 低下しました。このデータは、開発プロセスを改善しても、ソフトウェア デリバリーが自動的に改善されるわけではないことを示唆しています。少なくとも、小さいバッチサイズや堅牢なテスト メカニズムなど、ソフトウェア デリバリーを成功させるための基本を確実に守らない限り、改善されることはありません。AI は、ソフトウェア デリバリーの高いパフォーマンスを実現するための土台となる、多くの重要な個人的および組織的要因にプラスの影響を与えます。しかし、AI は万能薬というわけではないようです。
また、調査によると、生産性は向上したものの、回答者の 39% が AI が生成したコードをほとんどあるいはまったく信用していないと回答しています。この信頼度の低さは予想外であり、AI の統合をより慎重に進める必要があることを示しています。チームにおいて、デメリットを軽減するために、開発ワークフローにおける AI の役割を慎重に評価する必要があります。
これらの調査結果に基づき、3 つの主要な推奨事項が挙げられます。
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従業員へのサポートと不要な業務の負担の軽減に重点を置くように AI 導入戦略を策定することで、従業員を支援し、トイルを軽減する。
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AI の使用に関する明確なガイドラインを設定して、AI を活用する手順上の懸念に対処するとともに、その影響についてオープンなコミュニケーションを促進する。
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AI ツールの試用を奨励し、検証のための時間を設けることで、実体験を通して AI に対する信頼を深めていく機会を提供する。
プラットフォーム エンジニアリング: パラダイム シフト
今年の調査で注目したもう一つの新たな分野は、プラットフォーム エンジニアリングです。プラットフォーム エンジニアリングでは、社内の開発プラットフォームを構築、運用し、プロセスを合理化して、効率性を高めることに重点を置いています。
今回、プラットフォーム エンジニアリングに関して、4 つの重要な調査結果が得られました。
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デベロッパーの生産性の向上: 社内の開発プラットフォームは、デベロッパーの生産性を効果的に向上させます。
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大規模な組織における普及: これらのプラットフォームは大規模な組織でより一般的に利用されており、複雑な開発環境を管理するために適していることが示唆されています。
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一時的なパフォーマンス低下の可能性: プラットフォーム エンジニアリングの導入後、プラットフォームが成熟し、パフォーマンスの向上を実感できるようになるまでに、一時的にパフォーマンスが低下する可能性があります。
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ユーザーセンタード デザインとデベロッパーの自立性の必要性: 最適な成果を得るためには、プラットフォーム エンジニアリングの取り組みにおいて、ユーザーセンタード デザイン、デベロッパーの自立性、そしてプロダクト志向のアプローチを優先する必要があります。
ユーザーのニーズを優先し、デベロッパーを支援して、潜在的な課題を予測するという慎重なアプローチが、プラットフォーム エンジニアリングの取り組みから最大の効果を引き出す鍵となります。
デベロッパー エクスペリエンス: 成功の基盤
昨年のレポートにおける重要な知見の一つは、健全な組織文化が燃え尽き症候群を減らし、生産性を高め、仕事の満足度を高めるというものでした。これについては、今年も同様です。デベロッパーが能力を発揮できるよう支援する安定した環境を整えているチームからは、良い成果が生み出されます。
迅速に動き、絶えず方向転換するというマインドセットは、デベロッパーのウェルビーイングに悪影響を及ぼし、結果として全体のパフォーマンスにも影響を与えます。 優れたリーダーシップ、包括的なドキュメント、ユーザー中心のアプローチといった有益な要素が揃っていたとしても、優先事項が定まっていなければ、業務の進捗が大きく妨げられる可能性があります。
チームメンバーがサポートされ、評価され、自分の能力を発揮できると感じられる職場環境を作ることが、高いパフォーマンスを実現するための基礎となります。
これらの調査結果を DevOps チームの支援に活かす方法
10 年にわたる調査の結果、ソフトウェア開発成功の鍵は、単に技術力だけでなく、チームを支援する環境を整え、ユーザーのニーズを優先し、デベロッパー エクスペリエンスに重点を置くことにあるとわかりました。ご自身のチームの状況に合わせ、これらの調査結果をぜひ活用してみてください。
実験や継続的改善の取り組みを行う際の仮説として活用することもできます。また、その取り組みが Google のともに学び合う環境においても役立てられるよう、ぜひGoogle や DORA コミュニティと共有してください。
Google は、慣習を改善し、イノベーション、コラボレーション、ビジネスの成功を促進する環境を整備しようとするチームや組織にロードマップを提供することを目的として、この調査を行っています。次の 10 年も、プラットフォームに依存しない、テクノロジーの人間的側面に焦点を当てた調査を続けていきます。
詳細:
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DORA コミュニティに参加して、体験を共有し、他者から学び、ヒントを得る。
- DORA の DevOps クイック チェックを利用して、チームのソフトウェア デリバリーのパフォーマンスを 1 分以内で測定する。
ー DORA リーダー Nathen Harvey
ー DORA リサーチ担当リーダー Derek DeBellis