パート 2: ハッカソンはもはやプログラマーだけのものではない
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2021 年 4 月 23 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
最近の公開記事でご紹介したとおり、ノーコード ハッカソンは基幹業務を担当する従業員のスキルアップおよびイノベーションの推進を実現するための素晴らしい方法です。しかし、そのために必要となる計画のステップは、プログラマーを対象とした従来のハッカソンとは異なります。本記事では、イベントの目標をブラッシュ アップするために検討すべき 3 つの質問、そして Google Cloud のノーコード アプリケーション開発プラットフォームである AppSheet ユーザーによって取り入れられている 4 ステップの計画フレームワークとベスト プラクティスをご紹介します。
ノーコードのカスタム ビジネスアプリと同じように、ハッカソンの良さも、その 1 つひとつがお客様独自の目標を基にカスタマイズした取り組みであることが挙げられます。目標のブラッシュ アップが済んだら、フレームワークを使用して独自のハッカソンを組み立てましょう。そして、ハッカソン イベントの管理が成功したら、その経験を次回のハッカソン イベントの発信に活かせます。
ハッカソンの目標をブラッシュ アップするための 3 つの質問
ハッカソンは、多くの従業員にとってノーコード プログラムのコンセプトと可能性に触れる初めての機会です。そのため、企業はイベントの計画を行う前に、プログラムで実現すること、およびプログラムが既存事業にどのように適合するかをしっかりと把握しておく必要があります。
1. 組織にとってのイノベーションはどんなものか?
イノベーションが意味するものは、手動プロセスの廃止や現場の効率改善、ワークフローのデジタル化など、多岐にわたります。ノーコード プラットフォームとその可能性を従業員に紹介するうえでは、どのようなイノベーションを促進するかを特定することが重要です。とはいえ、過度に目標を定めないことも大切です。なぜなら、以前は気づかなかった課題が従業員によって見出され、解決することが多い点が、イノベーションのツールを民主化するメリットの一つだからです。
2. ノーコード プログラムをサポートする組織構造およびガバナンス構造の種類は?
アプリ構築を行う従業員数を拡大することは確かに効果的です。しかし企業は、ノーコードの取り組みが IT プロジェクトと重複しないようにする必要があります。同様に、IT 部門がノーコード プロジェクトの可視性を失わないようにするため、シャドー IT の問題を避けなければなりません。また、ノーコード アプリで活用する企業のデジタル資産に、セキュリティ保護を適用する必要もあります。これらはすべて、ノーコードのロールアウトを成功させるために、ガバナンス モデルおよび組織モデルが重要であることを意味しています。
IT 部門が中心のモデルでは、IT チームがほぼすべてのアプリケーションを作成して、組織のニーズに対処しています。IT 部門が中心ではないプログラムでは、IT 部門が指定するガバナンス フレームワークに沿って、組織内のより広い部門がアプリケーションを開発します。どちらも、技術者以外の従業員がノーコードのシチズン デベロッパーになることを促しますが、その方法は異なります。
たとえば、IT 部門が中心のモデルでは、ビジネス ユーザーがノーコード プラットフォームを使ってプロトタイプを作成し、IT 部門がその最終バージョンを構築することが考えられます。IT 部門が中心ではないモデルでは、IT 部門が設定するガバナンスに関するガードレールに沿って、組織全体の技術者以外の従業員が独自のソリューションを構築するケースがあります。
3. ハッカソン以外に、どのような方法でシチズンによる開発を促すか?
ハッカソンは、エンゲージメントを向上させ、実践的な学習の場を提供する素晴らしい手段ですが、従業員にインスピレーションを与える方法はこれだけではありません。さらに組織には、ハッカソンが成功した後も、その勢いを維持するためのトレーニング リソースおよびコミュニティ形成リソースが必要です。AppSheet のクリエイター コミュニティなど、多数のリソースがあります。会社の外部にすでにリソースがないか探すことは重要です。しかし、成功したノーコード プログラムの多くは、専門家から教わる機会を繰り返し設けたり、会社の目標に合わせたオンボーディング プログラムを組んだり、社内リソースにも投資を行っています。
成功するノーコード ハッカソンを計画するための 4 つの重要なステップ
上の質問は、ノーコード プログラムの目的を特定するための出発点であり、ハッカソンの計画と開催には他に必要なステップがいくつかあります。4 つのパートから形成されるこのフレームワークでは、組織固有のニーズを基にイベントを準備するためのベスト プラクティスをご紹介します。
1. 目標を設定する
当然のことのように思われるかもしれませんが、明確な目標や目的もなく、イベントを開催するためだけにハッカソンを開催しても、組織が成功することはまずないでしょう。デジタル疲れが蔓延する中、従業員にいつでも新しいテクニカル ソリューションを受け入れる準備が整っているとは限りません。そこで、無駄を省き、従業員に刺激を与えるために、イベントで達成する目標を決めることが重要です。
シチズン デベロッパー個人またはシチズン デベロッパーのチームが行うアクションを設定した目標を、組織の目標に合わせて決めることもできます。たとえば、自動化できる手作業のタスクや潜在的なロングテール ソリューションの特定などがあります。アプローチは 1 つではありませんが、成功したノーコード ハッカソンの中には、機能かユースケースのいずれかに焦点を絞っているものが多数あります。機能を重点的に取り上げるハッカソンには自由に討論できるものが多く、斬新なアイデアが生まれることや、基幹業務の担当者にとっては旧知でもリーダーが把握していない問題が注意喚起される傾向があります。特定のユースケースまたは課題を中心に据えたハッカソンは、狙いをもっと絞ることができますが、ノーコード プログラムでどのように機能を強化できるか学習中のシチズン デベロッパーにとって取り組みにくい場合もあります。
たとえば、会社のビジネス プロセスから書類をなくすことが目的であるとします。ここで重要なポイントは、ハッカソンの参加者に構築するアプリの種類を伝えないことです。なぜなら、現場でどのような問題が起きる可能性があるか、主催者側は知らないからです。しかし、すべてのアプリは現在手で行われているなんらかの作業をデジタル化する必要があります。どんなハッカソン アプリでも、これが主な基準となります。もちろん、目標が達成できたことを確認するための質問リストを作成しなければなりません。またこれらの質問は、新しいシチズン デベロッパーがアプリの構築計画を作成するうえでも役立ち、たいていの場合、中心となる分野は次のとおりです。
問題。デジタル化する手作業のプロセスやプロセスから廃止する書類、および定めた目標にどのように当てはまるかを説明します。
スコープ。その問題がビジネスのどの部分に影響を与えているか(1 つのスコープ、部門、あるいは複数の部門など)を説明します。
データ。キャプチャしてデジタル化する必要がある基盤データが現在ある場所(ファイル キャビネット、文書ファイルやスプレッドシート)および電子的に配置する場所を説明します。
ソリューション。どのように問題を解決しようと考えているか(構築を提案するアプリがどのようにその問題に対処するか)を説明します。アプリにはどのような機能が必要ですか?アプリ構築プラットフォームのどの機能を使用しますか?
成功の指標。どのように成功を測定しますか?必要時間がどのくらい短縮できたかで、生産性の向上を測定しますか?デジタル化した量で書類の削減を測定しますか?
推奨されるベスト プラクティス: ハッカソン プロセスの序盤で収集する情報にしては多いと思われるかもしれませんが、これにより、現在発生している問題を確認し、解決するための構造化された手段が手に入ります。シチズン デベロッパーの大多数はアプリ構築の経験がなく、このような手法を取ることで、アプリ構築プロジェクトにアプローチする方法が理解できるようになります。また、この種のアプローチによって、1 つひとつは小さくてもまとめると複雑な大型アプリケーションを超える可能性があるロングテール アプリケーションなど、プロセスに潜む既知または未知の問題を部門が特定することもできます。最後に、ノーコード プラットフォームでアプリを構築して、この情報を収集することを検討します。これは、デジタル化への取り組み全体、およびデジタル化の手段としてのプラットフォームへの取り組みという 2 つのことを表します。
2. エグゼクティブの了承を得る
通常、企業の上層部の賛同を得ることができると、ハッカソン成功の可能性が上がります。新しい技術プラットフォームとツールの目的とメリットがはっきりと伝わらなければ、従業員はこれらのリソースに不安を感じるでしょう。同様に、新しいプロセスを導入する動機や目的を知らされていなければ、既存のプロセスに慣れ親しんだ従業員は新しいものを取り入れないかもしれません。これらの取り組みには、エグゼクティブのリーダーシップが必要です。テクノロジーの大きな変化を成功に導いた企業の多くは、CTO や CEO までもが取り組みに参加していました。
推奨されるベスト プラクティス: ハッカソンの成功は、IT 部門および基幹業務管理部門だけでなく、経営陣の参加とサポートに左右されます。経営陣が参加することで、シチズンによる開発が企業文化の一部であり、全社的にサポートされていることを示すことができます。そのうちの 1 人を責任者に指名することも、複数人に役割を与えることも可能です。積極的にサポートすればするほど、従業員が参加する可能性が高まります。ハッカソンの側面すべてを促進するために、経営陣の積極的な関与が欠かせません。
参加を促す。メール、社内会議および部門会議、社内報、コラボレーション アプリ(Google Chat、Slack、Microsoft Teams など)を含むあらゆるコミュニケーション手段で、会社全体にハッカソンを促進します。
マイルストーンを知らせる。参加しているチーム数、部門数、構築されているアプリ数、最初にテストに進んだアプリなど、ハッカソンの進捗に合わせて状況を提供します。通常のコミュニケーション手段の他に、ハッカソン コミュニティ ページを設定して、積極的に投稿することも検討してください。
取り組みを正式化する。全社規模のイベントを開催して、参加者を評価し、報奨を与えます。ハッカソンは成功の指標を競う場であり、賞が授与されるのは優勝者と次点入賞者のみかもしれません。それでも、必ず参加者全員の価値ある貢献を評価するようにします。
3. ハッカソン参加者のニーズを予想する。
プロのデベロッパーであっても、シチズン デベロッパーであっても、アプリケーション開発の原則は同じです。ノーコード アプリケーション開発に必要な技術知識は、従来のアプリケーション開発と比べてはるかに少なくて済みますが、ハッカソン中とその外部の両方でトレーニングが必要となります。必要なトレーニングを予想して施せば、その分ハッカソンが成功する可能性も高くなります。
推奨されるベスト プラクティス: これまでにうまくいったプログラムには、技術者でない従業員を指導するために外部の専門家を呼んだもの、社内の専門家を任命したもの、自習型のモジュールを中心としたもの、これらをすべて組み合わせたものがありました。通常、これらのアプローチと同時に、コミュニティを形成する取り組みを行うと生産性が一層上がります。
たとえば、2020 年を通して Google のクリエイター コミュニティは、優れたアプリを作成してコミュニティ メンバー向けに提供しています。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)コミュニティ サポートアプリはその好例で、世界中のクリエイターによって 100 を超える言語に翻訳されています。同じように、多数のシチズン デベロッパーが世界規模のハッカソンに結集し、自己ガイド型のリソースとコミュニティのサポートを活用して、COVID-19 サポートアプリを構築しました。また、Globe Telecom などの企業も、ハッカソンに投資するほかに、毎週、オフィスアワーに専門家を招いています。多くの組織が、質問をなげかけ議論できる空間を作り出すことで、シチズン デベロッパーのエコシステム構築に成功しています。通常、プログラムにノーコード アプリの具体例が含まれていると、さらに効果的です。
トレーニング プログラムの設計では、ハッカソン参加者に間違えても良いという安心感が必要な点が簡単に見落とされがちであり、ここでもガバナンスの重要性が補強されます。また、データ管理トレーニングも軽視される傾向にありますが、このトレーニングを行うことで、シチズン デベロッパーがノーコード プラットフォームをもっと簡単に取り入れられるようになります。
成功の測定も、重要なトレーニング要素の一つです。ノーコード アプリは組織全体にデプロイするためのものですか、一部のチームのみが使用しますか、それとも今後の提案の基盤として機能するものでしょうか?ノーコード アプリの成功は、プロセスに費やす時間の短縮、特定のアプリのユーザー数、または他の指標で数値化しますか?
4. 最後の要素を忘れない
見落とされてしまいがちですが、ハッカソンの全体的な成功を決定づける 3 つの要素があります。
楽しむ。 ゲーミフィケーションは、意欲を引き出すための素晴らしい方法です。認定や表彰でシチズン デベロッパーの育成にインセンティブを与えると、多くの場合、ノーコード プログラムに対する関心が飛躍的に伸びます。
認知度を向上させる。どんなハッカソンも、従業員が認知していなければ、成功しません。そのため、主催者と経営陣はイベントをマーケティングして、期待を高める必要があります。
参加を促す。ハッカソンには個人として、それともチームのメンバーとして参加しますか?より多くの従業員に参加してもらうには、会社固有の数々の要因を考慮してこの点を決定しなければならない可能性が高いでしょう。
推奨されるベスト プラクティス: ハッカソンのゲーミフィケーションによって意欲を引き出すだけでなく、より多くの参加者の興味を引くことができます。ただし、優勝者および次点入賞者の表彰だけを重視しないでください。すべての参加者にとって楽しいイベントとなるような方法を考えましょう。たとえば、全員にハッカソンの T シャツ、トロフィー、飾りの額を用意します。もしくは、ベスト アプリアイデア賞や最初にデプロイされたアプリ賞など、面白みのある表彰カテゴリを作ります。
賞品の有無にかかわらず、どんなハッカソンも従業員が認知していなければ成功しません。そのため、主催者と経営陣はイベントのマーケティングを通して認知度を向上させ、期待を高める必要があります。社内報での宣伝から社内サイトでの広告、全社規模の会議での案内などのプロモーションが考えられます。どんな場であれ、ノーコードがもたらす力、そしてイベントでのコンペまたは報奨についてアナウンスできるチャンスです。
また、ハッカソン参加者が個人として作業するのか、それともチームで作業するのかを決定しなければ、ゲーミフィケーション戦略の組み立てもイベントの宣伝も行えません。どちらのアプローチが最適かは、IT 部門を中心とするモデルまたは IT 部門を中心としないモデルを使用しているかどうかなど、幅広い要因によって異なります。しかし一般的には、個人の参加者は具体的な目標に焦点を当てることが多く、一方でチームでの作業の場合はより広い見解が集まるため、コミュニティの生成や探索が促されます。チームでの作業にする場合、ハッカソンで促進されるソリューションと会話の多様化を図るため、複数の部門間のチームを集うことをおすすめします。
最後に、閉会式を忘れてはいけません。その場に審査チームがいる場合も、単に表彰だけを行う場合も、参加者全員をねぎらう方法を見つけてください。こうすることで、プログラムの支持を集めるのに非常に効果があります。
勢いをそのまま維持する
下の質問とフレームワーク、ベスト プラクティスを確認したら、ノーコード ハッカソンの開催まであと一歩です。では、次は何をすればよいでしょうか。勢いを維持し続ける 4 つの方法をご紹介します。
チームでイベント後の振り返りを行う。このイベントで主に学んだポイントは何ですか?今後、またイベントを開催しますか?今後のイベントに向けて検討する必要がある目標は他にありますか?次回のイベントでは、どんな点を変更しますか?
成果を測る。目標は達成しましたか?参加状況は期待どおりでしたか?イベントの待機リストが必要でしたか?組織全体がトレーニングを受けることができましたか?次回のハッカソンでは、どの分野を中心に取り上げますか?
組織全体のシチズンによる開発を強化する。初めてのハッカソン イベントを開催した後は、達成できたあらゆることについての話が広がります。初回に参加できなかった人は、次のイベントへの参加を希望するでしょう。次回の開催予定をまだ決めていなければ、最適な日程を決めてください。
サポートのチャネルを用意する。ノーコード ハッカソンの特に面白い部分は、シチズン デベロッパーが新たに発生した大きな問題に取り組むことができると感じられる点です。そのためには、シチズン デベロッパーにサポートが必要です。シチズン デベロッパーのチャットルームなど社内の会話チャネルの作成や、シチズン デベロッパーのコミュニティへ案内することを強くおすすめします。
ぜひこのフレームワークを、組織独自のニーズに合わせるだけでなく、もっと革新的な未来に向かって進むための何かに作り変えてください。これが組織のシチズンによる開発の始まりにすぎなくても、継続的なデジタル トランスフォーメーションの次のステップでも、可能性は無限に広がっています。お客様が構築したものを見るのを楽しみにしています。AppSheet について詳しくは、こちらをクリックしてください。Google のサンプルアプリのライブラリで、ノーコードでの開発を早速始めましょう。
- プロダクト マーケティング マネージャー Jennifer Cadence