エンタープライズ品質の AI アプリケーションを構築するには、モデルだけでは不十分
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2024 年 1 月 30 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
「お客様のビジネス上の課題を AI で解決する方法」についてのやり取りが、ますます一般的になりつつあります。
最近の例では、金融サービス業界で Google Cloud をご利用のお客様から、主に電話で業務をしている営業担当者の顧客エンゲージメントの見直しと再設計の支援を依頼されました。この営業プロセスの現状は、必要以上に複雑になっています。データはさまざまなソースに保存されているため、営業担当者は複数のアプリを同時に操作しながらお客様と話さなければなりません。この問題を解決することは、成約に要する時間を短縮するだけでなく、営業プロセスを標準化し、より一貫性のある体験を生み出すことにもつながります。当然ですが、可能性のある支援方法を探る際にまず考えたのが AI ソリューションでした。
この例の場合、ドキュメントの処理時間を短縮し、内容を素早く識別して要約することで、カスタマー サービス エクスペリエンスを改善できる AI モデルを利用できます。ただし、AI を活用したプロダクトを構築するには、単なるモデル以上のものが要求されます。最初に、企業は綿密な調査、要件、機能を通じてユーザーの課題やチャンスに対応し、ビジネス目標とユーザー中心の固有のニーズに対処する必要があります。ところが、その意図を最も理解しているはずのお客様でさえ、ここを間違えてしまいます。AI によって高められた多大な期待のためか、最終的には時間と費用の節約につながるいくつかの重要な手順を、あまりにも簡単に飛ばしてしまうのです。
企業はまず、AI を活用したプロダクトを作ることが自社のビジネスに適しているかどうかを検証する必要があります。ユーザーと一緒にプロトタイプを構築してテストすることが、まさにそれに当てはまります。完全にプロダクト化された AI ソリューションに投資する前に、アイデアを検証します。プロトタイプを作成してテストするというマインドセットを採用した企業は、迅速に行動し、新たなことに挑戦して、アイデアが追求に値するかどうかテストするためには失敗することも厭わないようになります。このアプローチでは、AI モデルだけに焦点を当てるのではなく、アイデアが持つ力を拡大して多面的な問題を解決します。これにより、私たちが利益、ユーザー、魅力という形で捉えているビジネスニーズが満たされます。質の高い AI アプリケーションを実現するには、この 3 つすべてが必須です。
このことを念頭に置いて、ビジネスのアイディエーションからユースケースの特定、データ要件、モデルのトレーニング、そしてユーザー中心の AI プロダクトを成功に導く設計とプロトタイピングまで、AI への取り組み全体を見ていきましょう。
AI プロダクトの構築を適切に開始
アイデアからエンドツーエンドの AI ドリブンなプロダクトを設計、構築する方法の主な要素をまとめると、以下のようになります。
- お客様のビジネスニーズとテクノロジー戦略に合わせた、ユーザー中心のプロダクト戦略を策定する。
- ユーザーのニーズに応える適切な機能を備えたプロダクトを構築するために、ユーザーを理解する。
- カスタマー ユーザー ジャーニー(CUJ)、ユーザー エクスペリエンス(UX)、デザインに焦点を当てたデザイン スプリントを計画して実行する。
- デザイン スプリントから、AI で解決できるビジネス ユースケースのアイデアを出して定義する。
- クリック可能なソフトウェア プロトタイプを設計、構築して、ユーザー インターフェースを視覚的に表現し、ビジネスに対するプロダクトの価値を確立する。
- AI モデル プロトタイプの設計、反復処理、構築を行い、ユースケース、重要なビジネス上の問いに答える実証済みの方法、データドリブンな設計、データの確認と理解と探索、AI のベースライン パフォーマンスを示す。
- AI モデル プロトタイプをビジネス ユースケースおよび UX デザインと統合し、AI ドリブンな MVP とする。
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チームの取り組みを継続可能にする重要な成果物
- 戦略的仮説: ビジネス上の課題の定義、ユーザー機会、AI ソリューションが適切である理由の根拠
- UX デザイン ドキュメント: デザイン スプリントに関連するドキュメントのコレクション。図式、アイデアのコレクション、スケッチ、プロトタイプ、検証で得られた結果のリスト
- クリック可能なプロトタイプ: ビジネスに対するプロダクトの価値の確立を支援
- AI モデル プロトタイプ: AI のユースケースのプロトタイプ、具体的な結果を出すためにファインチューニングされたパラメータ、AI を活用したプロダクトの作成が自社ビジネスに適しているかどうかの検証
- 技術設計書: Google Cloud の構成、決定事項、推奨事項のリストを含む、AI に焦点を当てた技術的なアーキテクチャと、エピック、機能、ユーザー ストーリーの出力などの MVP 設計
どのようなチームが必要か?
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全体として望ましいのは、UX デザイナー、プログラム マネージャー、エンジニアリング、AI コンサルタントから成るチームで、アプリケーション開発プロセスに以下のような多くのメリットをもたらすことができます。
- ビジネスの専門知識: プロダクト マネージャーは、ビジネス ニーズが満たされるように、戦略的、運用的、財務的なガイダンスを提供します。MVP をビジネス目標として固定することにより、期待されるレベルの商業的価値をアプリケーションで提供できる可能性が高くなります。
- ユーザー エクスペリエンスの向上: UX デザイナーは、ユーザーのニーズや行動を理解するエキスパートです。アプリケーションを直感的でユーザー フレンドリーな、楽しく使えるものにします。彼らの専門知識は、ユーザー エクスペリエンス全体を大幅に向上させ、ユーザーの満足度、エンゲージメント、維持率を高めます。
- 効果的なプロジェクト管理: プログラム マネージャーは、開発プロセス全体を構成、組織化、監督し、目標の設定、タイムラインの定義、リソースの管理、進捗状況の追跡の責任を負います。彼らの専門知識は、プロジェクトを予算内で順調に進め、目指す目標の達成に貢献します。
- 技術的な専門知識: エンジニアは、設計コンセプトを機能的でスケーラブルなアプリケーションに変換する技術的なスキルと知識を持っています。アプリケーションのインフラストラクチャの構築、コードの記述とテスト、さまざまなコンポーネントの統合を担います。彼らの専門知識は、アプリケーションが技術的に健全で、信頼性が高く、効率的なものであることを約束します。
- AI の統合と最適化: AI コンサルタントは、AI と ML の専門知識を提供して、アプリケーションへの AI 機能の統合を可能にします。また、AI を活用してアプリケーションの機能を強化し、パフォーマンスを向上させ、ユーザー エクスペリエンスをパーソナライズする機会を特定できます。
- 協力的な問題解決: 異なる分野の専門知識を持つ、多様性に富んだチームは、協力して問題を解決する環境を育むことができます。異なる視点やスキルセットがまとまることで、チームはより効果的に問題に取り組み、革新的な解決策を見出すことができます。
- リスクの軽減と成果の向上: 専門知識を補い合えるチームを編成することで、プロジェクトが失敗するリスクを大幅に軽減できます。チームは、早期に潜在的な問題を特定し、十分な情報に基づいた意思決定を行い、変化する要件に適応することができるため、成功の可能性が高まります。
その他の考慮事項
AI アプリケーションを構築する際の、その他の一般的な考慮事項をいくつかご紹介します。
- ユーザー インターフェース: ユーザーが AI アプリケーションと対話するための手段が、ユーザー インターフェースです。使いやすくて理解しやすいものでなければならないうえ、アプリケーションを最大限に活用するために必要な情報をユーザーに提供する必要があります。
- モデル: モデルは、AI アプリケーションの一部の機能の中核です。入力データに基づいて出力を生成する役割を果たします。使用できるモデルにはさまざまな種類があり、それぞれに長所と短所があります。
- データ: モデルのチューニングに使用するデータは、アプリケーションの成功にとって非常に重要です。データは、解決しようとしている課題に関連する、質の高いものでなければなりません。また、スケーラブルで費用対効果の高いデータ ストレージと、求める回答の根拠となる高い専門知識も必要です。
- インフラストラクチャ: AI アプリケーションをホストするために使用するインフラストラクチャも重要です。スケーラブルで信頼性の高い、アプリケーションの負荷に対応できるインフラストラクチャにする必要があります。
- セキュリティ: セキュリティは、すべてのアプリケーションにとって重要な考慮事項です。アプリケーションを不正アクセスから確実に保護し、ユーザーのデータのプライバシーを守る必要があります。
- 運用: コラボレーション ツール、堅牢なロギング、モニタリング、サポートが必要です。
まとめ
この投稿では、アイデアを元にエンドツーエンドの AI ドリブンなプロダクトを設計、構築し、ビジネスに対するプロダクトの最初の価値を確立する方法の主な要素についてご説明しました。また、チームの取り組みを継続可能にする重要な成果物や、AI アプリケーションを構築する際に考える必要があるその他の一般的な考慮事項もご紹介しました。
AI アプリケーションの構築プロセスは複雑ですが、とてもやりがいがあります。この投稿でご説明した手順を踏むことで、成功の可能性を高めることができます。Google は、ユーザーがプロダクト戦略の策定に着手し、AI サービスでトレンドを検出できるようサポートします。
- クラウド エンジニア Carolina Hernandez
- イノベーション プログラム リード Matt Castille