フォーミュラ E、Google Cloud Storage と Google Workspace で業務を加速

Dan Cherowbrier
CTO, Formula E
※この投稿は米国時間 2025 年 7 月 9 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
世界のモータースポーツのスピード感あふれる世界では、運用の効率とテクノロジーの革新が、トラックの中でも外でも重要になっています。モビリティの未来とサステナビリティに重点を置くフォーミュラ E は、この分野のイノベーションにおいて常に業界をリードしています。
フォーミュラ E は、世界中の都市で超電駆動の車によるスリリングなレースを演出しています。そのエクスペリエンスの核心は、膨大な量のメディア コンテンツの管理と配信にあります。10 年にわたる激しいレーシング活動のなかで、フォーミュラ E は数十億のファイルとペタバイト級のデータからなる膨大なメディア アーカイブを蓄積してきました。
従来 AWS S3 ストレージに格納されていたこの貴重なコンテンツ コレクションは、リモート制作とコンテンツ配信の可能性を最大限に活用するため、より堅牢で高性能、かつグローバルにアクセス可能なソリューションを必要としていました。AI によってアーカイブや過去のデータを活用する機会が増える状況に伴い、こうしたニーズは特に切実なものとなりました。
同時に、フォーミュラ E は、システムが分断されてコラボレーションが制限されるという一般的な問題や、複数のソフトウェア サブスクリプションによるコストの増加など、内部のオペレーション上の課題に直面していました。フォーミュラ E は、統合を促進し、将来の働き方に備えるための統合ソリューションを求めていました。
こうした状況を受け、大規模なデータ ストレージのニーズと、社内のコラボレーションおよび生産性ワークフローの両方に対応するため、Google Workspace を含む Google Cloud のエコシステムが広く採用されるようになりました。
10 年分のデータと分断されたオペレーション
フォーミュラ E のメディア アーカイブは、その膨大な分量から大きな課題となっていました。10 年分のレースの歴史が記録されたアーカイブには、数十億のファイルとペタバイトのデータが含まれており、移行が困難な状況に陥っていました。
世界中の過酷なレース会場にプロダクションを移すなど、世界規模でのオペレーションの需要を満たすには、シームレスな接続性と高いスループットが必要になります。フォーミュラ E は以前、遠隔地からの S3 ストレージへの接続に困難を抱えていました。こうした経験から、Google Cloud を使用したテストを行った結果うまく行き、インターネット インフラストラクチャの信頼性が低い地域でも安定したパフォーマンスを実現できるクラウド ソリューションの必要性が浮き彫りになりました。
社内では Office 365 や複数のコミュニケーション ツールなど、さまざまなシステムを使用していたため、ワークフローが分断され、コラボレーションの機能が制限されていました。コミュニケーションとコラボレーションのために複数のソフトウェア サブスクリプションに依存していたことも、運用コストを押し上げる要因になっていました。チームはプロセスを効率化し、より協調的な文化を育み、職場のテクノロジーの将来的な進歩の基盤となり得る、より統合された費用対効果の高い環境を必要としていました。
クラウドでのピットストップでパフォーマンスが向上
こうした多面的な課題に対処するため、フォーミュラ E は戦略的な 2 段階移行を開始しました。これには、膨大なメディア アーカイブを Google Cloud Storage に移し、全従業員を Google Workspace に移行させることが含まれていました。
ペタバイト規模のアーカイブを移行するという大きな取り組みを遂行するため、フォーミュラ E は Google Cloud と、メディア管理システム プロバイダである Mimir と緊密に連携しました。Mimir と構築した綿密な計画と、Google Cloud の技術サポートに従い、チームは Google Cloud Storage Transfer Service(STS)を選択しました。
STS は、迅速なデータ転送のために構築されたフルマネージド サービスで、移行にフォーミュラ E のチームの労力は一切必要ありませんでした。スムーズな移行を可能にした重要な要素には、Cloud Storage による S3 API の包括的なサポートがありました。この互換性により、フォーミュラ E はビジネスを中断することなくクラウド プロバイダを切り替えることができ、重要なメディア オペレーションの継続性を保証することができました。
社内業務に革命を起こすため、フォーミュラ E は Google Workspace の移行スペシャリストである Cobry と提携し、2 段階移行プロセスを実施しました。最初のフェーズでは Google ドライブのコンテンツの移行に重点を置き、その後すぐに Workspace への完全な移行を行いました。Cobry は技術的な移行を支援し、同時に変更管理とトレーニングのサポートも行いました。
スムーズな移行とユーザーによる積極的な採用を促すため、事業全体から選ばれた「Google チャンピオン」が Google のオフィスで対面トレーニングを受けました。このプロジェクトでは、220 人のスタッフと 900 万件のメールおよびカレンダーの招待を無事移行することができました。
スピード、コラボレーション、費用削減の必要性
メディア アーカイブの Google Cloud への移行は、サーキットでの巧みなヘアピン カーブの切り返しのように、見事に成功を収めました。
Storage Transfer Service は期待を上回るパフォーマンスを発揮し、S3 からのデータ移行を 1 秒あたり 240 ギガビットという驚異的な速度で実行しました。1 時間あたり約 100 テラバイトに相当する数値です。膨大なアーカイブ全体の転送が 1 日かからずに行われました。このスループットのレベルには Google Cloud の社内チームでさえ感銘を受けたほどで、STS が大規模な結果をもたらすことができることの証明となりました。こうした効率性により、フォーミュラ E はビジネスを中断させることなく、貴重なメディアアセットへの継続的なアクセスを保つことができました。
フォーミュラ E が Google Cloud のグローバル ネットワークから得た大きなメリットは、迅速な移行にとどまりません。このインフラストラクチャを活用することで、組織はレイテンシの短縮とスループットの向上を実現できています。これらは、世界中で運用するリモート制作スタジオにとって非常に重要な要素です。
このパフォーマンス向上を支える中核的なテクノロジーは、Google Cloud の「コールド ポテト ルーティング」です。この戦略は、可能な限り長い間、データを Google のプライベートな内部バックボーン ネットワーク上に保持し、公共のインターネットは移行の最後の短い区間でのみ使用するというものです。このアプローチのおかげでスループットとレイテンシが向上し、フォーミュラ E がこれまで遠隔地のレース会場で直面していた接続の問題が見事に解決されるようになりました。
Google Cloud が S3 API を完全にサポートしていることからも明らかなように、オープンなクラウド エコシステムへの取り組みが、ベンダー ロックインのないスムーズな移行を促進するうえで重要な役割を果たしました。
一方、Google Workspace への移行により、フォーミュラ E の社内業務は変革され、より統合されたコラボレーション環境が醸成されました。Google Workspace では、コラボレーションを中核に据えて Gemini がシームレスに統合され、チームのワークフローに組み込まれました。当初はオフィス勤務のチームが反復作業の自動化、データの書式設定、要約の作成のために導入したものでしたが、現在では全社で利用できるようになり、従業員がよりスマートに業務を遂行できるようになりました。
フォーミュラ E の最高人事責任者、Hayley Mann 氏は次のように述べています。「Office 365 から Google Workspace に移行したことは、チームの生産性にとって大きな一歩となりました。強化されたコラボレーション機能は本当に便利なものでした。Google の統合 AI 機能を通じて、従業員は日々よりスマートに、より効率的に仕事ができるようになるでしょう。」
また、Slack と Zoom の使用を Google Workspace の Chat と Meet に置き換えることもでき、財務上のメリットも得られました。既存の他のソフトウェア契約が満了していけば、さらに費用が削減されることになります。
オープンなエコシステムに向けて
フォーミュラ E は今後さらに、アクセス パターンに基づきストレージ クラスをインテリジェントに管理して費用を最適化する、Cloud Storage の Autoclass 機能を使用することで、大幅な費用削減を実現できると見込んでいます。
ペタバイト規模のメディア アーカイブが Google Cloud に移行したことで、メディア管理のイノベーションを継続するのに絶好の体制が整いました。コンテンツのパフォーマンス、費用対効果、グローバルなアクセス性を今後数年にわたって確保できるからです。そしてこれには、Google エコシステム全体で新たに登場する AI 機能を活用することも含まれます。
Gemini を通じて統合 AI を導入し、Google Workspace で真のコラボレーション環境を育むことで、フォーミュラ E は、レーストラックで生まれたイノベーションを反映し、業務効率の最大化に向けた取り組みを加速させています。
-フォーミュラ E、CTO、Dan Cherowbrier 氏