Coop、Google の AI とデータクラウドを使った予測で食品廃棄を削減
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2023 年 3 月 17 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
Coop には 160 年近くにもわたる長い歴史がありますが、最新の運営手法を支える ML チームの歴史はまだ始まったばかりです。Coop の ML チームは、ML による予測を活用してビジネス上の意思決定を支援するという明確なミッションを持って 2018 年に発足しました。これには、サプライ チェーンの季節性や予想される顧客ニーズに基づいた需要計画などが含まれています。最終的な目標は、現在のデータの分析情報だけでなく今後発生しうる事象の分析情報も得ることで、ビジネス運営を最適化して、顧客満足度の維持、費用削減、サステナビリティ目標の達成を実現することです(詳細は後述します)。
Coop の初期の予測環境は、1 台のオンプレミスのワークステーションで、PyTorch や TensorFlow といったオープンソース フレームワークを活用したものでした。多数の CPU や GPU に対応するためにモデルの微調整やスケーリングを行う作業は煩雑でした。つまり、そのインフラストラクチャでは、アイデアを実現していくことが困難でした。
こうした課題を解決し、生み出した成果をローカルマシン以外でも活用していくにはどうすればよいかを考えたとき、Coop は、すでに進んでいた Google Cloud への広範な移行を活かし、長く利用し続けられるソリューションを探すことにしました。
イノベーションの新しい基礎を築く
Google Cloud チームとの 2 日間のワークショップで、Coop は膨大なデータ パイプラインと SAP システムのデータを BigQuery に取り込むことから始めました。同時に、Coop の ML チームは、新たに取り込まれた情報の物理的な累積キューを実装し、情報を種類別に分類しました。チームは、インフラストラクチャと新しいインスタンスの設定について心配する必要がなくなったことに安堵しました。
次に、Coop チームは、データ サイエンス ワークフローをさらに発展させるために Vertex AI Workbench を採用しました。利用の開始は非常に簡単でした。目標は、予測モデルをトレーニングして、正確な数値に基づいて生鮮食品の在庫を最適化できるよう Coop の配送センターをサポートすることでした。
高い精度をすばやく実現して顧客ニーズを満たす
概念実証(POC)フェーズの間、Coop の ML チームは AutoML を活用した Vertex AI Forecast モデルに対して 2 つのカスタムモデルを比較し、最終的には Vertex AI Forecast モデル(単一の Extreme Gradient Boosting モデルと PyTorch の Temporal Fusion Transformer)を Vertex AI 上で運用化することになりました。比較では、カスタムの仮想マシン(VM)上で手動でモデルをトレーニングするよりも Vertex AI Forecast を使用する方が高速で正確であることが立証されました。
POC のテストセットでは、WAPE(加重平均パーセント誤差)が 14.5 となりました。これは、社内のカスタム VM でトレーニングしたモデルと比べて、Vertex AI Forecast によるパフォーマンスが 43% 優れていたことを示しています。
POC といくつかの社内テストがうまくいき、現在 Coop は小規模の試験運用環境を構築しています(1 つの配送センターの本番環境に配置)。最終的に Coop ML チームは、ここから予測に関する分析情報を SAP に戻し、SAP で輸入業者や販売業者への注文といった処理を行います。今後数か月で、この本番環境での小規模試験運用が成功して適切な評価を得たら、スイス全土の配信センターに範囲を広げて本番環境での本格的な運用を開始できるようになります。次のアーキテクチャ図は、2 つの段階に含まれるステップの概要を示しています。展望は、予測と予測後の最適化を含め、Google のデータと AI サービスを活用して、近い将来にスイス国内の Coop の配送センターすべてをサポートすることです。
Google Cloud の活用により、社内チームでトレーニングしたカスタムモデルと比較して予測精度が 43% 高まったことは、Coop のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。この POC を試験運用環境そして本番環境に移行することで、Coop ML チームは、予測モデルをさらに改善し、食品廃棄の削減といった会社のより広範な目標を効果的にサポートしていきたいと考えています。
食品廃棄を削減してサステナビリティを促進する
Coop は、サステナビリティを事業活動の重要な要素であると考えています。廃棄ゼロの会社になるという目的を持って、サステナビリティ戦略を会社のすべての部門で推進しています。これは、オーガニック商品、動物に優しい商品、フェアトレード商品の販売業者の選択から、サプライチェーン内のエネルギー、二酸化炭素排出量、廃棄物、水の使用量の削減までさまざまな面に及びます。
これらの目標の達成は、つまるところ、最適な管理の問題になります。これは、「ベイジアン フレームワーク」として知られています。Coop は配送の規模を決定するために、分位点の推論を行う必要があります。たとえば、特定の日に 35~40 個のトマトを販売することが予測されるか、あるいは信頼区間は 20~400 個であるかといったことです。より具体的かつ正確な数値で不確実性を低減することによって、Coop は配送センターに正確なユニット数を注文できるようになり、顧客は常に必要な商品を見つけられるようになります。同時に、過剰注文を防止して、食品廃棄の削減につなげることができます。
会社全体でさらに高いレベルの達成を目指す
POC で社内モデルと Vertex AI Forecast モデルの比較を終えた Coop は、今後数か月以内に 1 つの配送センターで本番環境を試験的にリリースし、おそらくその後スイス国内のすべての配送センターに展開する予定です。このプロセスで特に有意義だったのが、プロジェクトをサポートしている ML チームが、Google Kubernetes Engine と BigQuery、および Vertex AI といったさまざまな Google Cloud ツールを使用して独自の ML プラットフォームを構築できることに気づいたことです。ML チームは、事前トレーニング済みの Vertex AI モデルを使用できるようになっただけでなく、データ サイエンス ワークフローの自動化と作成を短期間で行えるようになったため、常にインフラストラクチャ チームに頼る必要がなくなりました。
次に、Coop の ML チームは、BigQuery を Vertex AI の前段階として使用することを目指しています。これが実現すれば、データ ストリーム処理全体の流れが効率化され、Vertex AI の任意の部分に必要に応じてデータを提供できるようになります。「2 つのツールがシームレスに連携するので、この組み合わせを予測のユースケースで試すのが楽しみです。別の新しいユースケースに利用することもできるかもしれません。また、TensorFlow モデルに大きく依存している Coop 内の他のデータ サイエンス部門に、自然言語処理ベースのさまざまな種類のソリューションを導入する可能性についても検討しています」と、Coop の AI / ML アナリティクス責任者 Martin Mendelin 氏は語ります。
「Google Cloud 上で当社独自の ML プラットフォームを構築してカスタマイズすることによって、他のチームの模範となるような標準を形成しています。安定した信頼性の高い環境と、オープンソースのプログラムを利用できる柔軟性によって、チームの力を存分に発揮できるようになるはずです」と、Mendelin 氏は続けます。「Google チームは、その専門知識と顧客第一主義をもって予想をはるかに超えた働きを見せ、目標の実現に向けて力を貸してくれました。これが弊社の事業にとって素晴らしい差別化要因となることを確信しています。」
- Coop、データ サイエンティスト Nicolo Lardelli 氏
- Google Cloud、ML スペシャリスト Anant Nawalgaria