エージェント型エンタープライズを構築する

Will Grannis
VP and CTO, Google Cloud
エージェント型エンタープライズとは、単なる効率化の追求にとどまらず、ビジネス オペレーションを再設計することで、AI エージェントと人間のエキスパートが連携し、規模を拡大し、共に学び続けることができるようにするものです。
現在、AI エージェントに関する議論のほとんどは、サポート チケットの解決や決算の迅速化といった「スピード」に関するものです。確かにスピード面での成果は上がっていますが、それだけでは実際の成果を過小評価していることになります。
より興味深いのは、エージェントがビジネス運営に組み込まれることで何が可能になるかという点です。私はお客様と連携した実際の導入に主に携わっていますが、先行企業に一貫して見られるパターンがあります。それは、エージェントによる発見、推論、行動を前提として、業務とサービスの再設計を行っているということです。
エージェント型エンタープライズとは
エージェント型エンタープライズとは何かと聞かれたら、いくつかのことを意図的に、かつ同時に行う企業だと説明しています。
エージェント型エンタープライズでは、自社の従業員がエージェントを安全かつ迅速に構築、テスト、リリースするために使用するツールが簡素化されます。また、外部のエージェントからプロダクトやサービスを簡単に発見してアクションを起こせるようにします。これは、かつて検索エンジン向けにウェブページを最適化したのと同様です。エージェント型エンタープライズは、自社内だけでなく、規制当局やコンプライアンス チームと協力して、エージェントが取引を行うための法的およびポリシー上のルールを策定します。また、さまざまな企業のエージェントが互いに見つけ合い、ビジネスを行う方法を検討する標準化グループにも参加します。こうした取り組みの根底にあるのは、リーダーが明確な方向性を示し、インセンティブを適切に整えることです。それにより、従業員や市場から、会社の進むべき方向に対して信頼を勝ち取ることができるのです。
効率化にとどまらない価値
現場で得た 2 つのテーマから、従来の企業では不可能だったが、エージェント型エンタープライズでは実現できることが見えてきます。
1 つ目はボリュームです。従来の運用では対応できないレベルのインバウンド需要を処理できます。私が担当しているある銀行は、毎月 1 億 2,000 万人のアクティブなデジタル顧客にサービスを提供しています。現在、こうした関係のほとんどは、ウェブと支店をまたいで人間が手動でキュレートした経路をたどっており、最初の接触から取引完了まで数日から数週間かかることがあります。
そこで別の方法で試算を行いました。銀行がインバウンド エージェントに対応した形式で商品の一部でも提供できれば、成約までの時間を数週間から数分に短縮することが可能になります。エージェントがオーナーの代わりに業界全体をスキャンして最適な取引を探すため、リーチできる市場は現在の顧客をはるかに超えて広がります。顧客獲得コストが下がり、収益拡大の可能性が急速に広がります。また、すべてのやり取りがデータと分析情報のループにフィードされるため、ループが実行されるほど精度が向上していきます。
学習の高速化
エージェント型ビジネスで私が考える 2 つ目のテーマは、プロセスの再発明です。オペレーションをルールベースから意思決定のたびに学習して改善する仕組みに変えることです。ここで、非常に一般的なバックオフィス業務である「請求から支払いまで」のプロセスを例としてご紹介します。その多くは依然として手作業で行われており、これまでの自動化の試みは壁にぶつかってきました。というのも、このプロセスでは、十分に文書化された手順もあるものの、担当者の頭の中にある暗黙知が絡み合っているからです。
あるお客様は、エージェント ジムと呼ばれるアプローチでこの問題を解決しました。エージェントは、円滑に対処可能なプロセスの部分、つまりガードレールが明確で推論が健全な部分を処理します。条件が不明確な場合や判断が必要な場合など、グレーゾーンに達すると、エージェントは処理を一時停止して専門家の判断を仰ぎます。重要なのは、専門家の判断が承認、拒否、変更のいずれであっても、その背後にある推論を文書化し、その説明をシステムにフィードバックして、後続のすべてのトランザクションのために活用することです。エージェントは、いわばジムに通うように、トレーニングを繰り返すたびに少しずつ強くなります。企業は、暗黙知から得られる成果を業務全体に拡大できます。
その結果、現代的な分業が実現します。エージェントは有界推論を行います。会社の既存のポリシーと規制上の責任がガードレールとして機能します。専門家は、真に困難な事例や、組織全体の知見を高めることに注力でき、生産性の低い、反復的な業務から解放されます。1 つのチームがその効果を実感すると、他のチームも導入を希望するようになります。このとき、会社全体の学習が急激に加速し始めます。
導入の開始と手順
CIO の方々から、どこから手を着けるべきかとよく聞かれますが、実際順序は重要です。
最初に重要なのは、導入の目的です。テクノロジーに手を伸ばす前に、具体的な目標を設定します。収益、コスト削減、新しい市場への進出、カスタマー エクスペリエンスの向上など、実際に重要なビジネス ドライバを特定します。最もよくある間違いは、エージェントを導入すること自体が目的になってしまうことです。エージェントの導入が有効な分野は多数ありますが、すべてにエージェントが必要なわけではありません。価値のあるエージェント プロジェクトであっても、進捗が停滞する困難な局面は必ず訪れます。根底にある問題がそれほど重要でない場合は、簡単に諦めてしまうでしょう。
次に、データをよく見てください。エージェントには良質なデータが必要であり、そのデータはアクセス可能でストリーミング形式で提供されている必要があります。現在の多くのシステムは、依然としてサイロ化されたバッチモードで動作しています。これでは対応しきれません。エージェントは常に再帰的に動作するため、これは非常に重要です。
ビジネス プロセスのマッピングや高品質のデータの整備を進めると同時に、いくつかのプロジェクトをサンドボックス化して、実践的なスキルとエージェントの直感を養いましょう。エージェント向けの開発は人間向けの開発とは異なり、その変化は真に大変革をもたらすものです。カンファレンスで話を聞いただけでは、その感覚を身につけることはできません。Google では数年前から社内向けにエージェント型ワークフローを構築してきましたが、ようやく組織としての直感が研ぎ澄まされ始めたところです。
最後に、ほとんどの企業は、人間中心の、エージェント以前のビジネスの組織化方法に合わせて構築されたシステムとソフトウェアで運営されています。数年以内に、エージェントはあらゆる分野で人々が仕事をするための主要な方法になるかもしれません。ユーザーが 1 か所でやりたいことを伝えるだけで、エージェントが背後にあるシステム全体でアクションに変換してくれるのです。Google では Gemini Enterprise を活用してそのような未来の実現に取り組んでおり、チームがデータとシステムを横断してエージェントを作成および管理できる一元的な環境を提供しています。これは、Google が提供するエージェント型エンタープライズへの入り口となるものです。Google は、得られた知見をプラットフォームに組み込み、すべてのお客様に提供しています。
取り組みは今ここから始まります。既存のシステムとデータを、エージェントが発見して活用できるようにしましょう。エージェントにはコンテキスト、ツール、データが必要であり、チームには作成したものを構築、デプロイ、改善するための一貫した場所が必要です。人間もエージェントも、1 つの仕事をこなすために 10 個のシステムを学ぶ必要はありません。ツールに仕事のやり方を規定させるのではなく、あるべき仕事のやり方にツールを従わせる。そうした企業こそが優位に立てるのです。
ユーザーへの影響
人とエージェントのチームを一緒に管理することは、主に設計の仕事であり、リーダーの役割が最も変化する部分です。その設計には、さまざまな役割を果たすエージェントを組み合わせることも含まれます。たとえば、あるエージェントで作業を適切な場所にルーティングし、別のエージェントで各要素を組み立て、さらに別のエージェントで人が活用できる形にまとめるなどです。日々の承認や処理はエージェントに移行します。マネージャーが直面する難しい問題は、境界線をどこに引くかということです。つまり、エージェントが自律的に決定できることと、人が介入する必要があるポイントの判別です。かつてチームは処理した業務の量で評価されていましたが、今後は次に起こることに備えてシステムをどれだけ磨き上げられたかで評価されるようになります。この転換は、当初から計画に織り込んでおく価値があります。
効果を確認する方法
今すぐ始めると、最初の 1 年間は概ね次のようになります。
3 か月後には、野心的な目標の設定、確固たるデータの準備、エージェント設計パターンを使いこなせるチームの構築により、設定した目標に対して早期に測定可能な成果が得られるはずです。
6 か月後には、ほとんどのプロジェクトが壁にぶつかります。データが不完全だったり、前提が間違っていることが判明したり、認識していたよりも手順が脆弱であったりといった問題に直面することになります。これは正常なことであり、ここが正念場です。
最も価値のあるプロジェクトの中には、最初は失敗に見えるものもあります。Google の請求書から支払いまでの取り組みは、当初失敗するかと思われていましたが、そのプロセスが依存していた暗黙知を捉える方法が見つかったことで成功につながりました。現在では、この複雑なビジネス プロセスを、人間だけでは達成できないほど高い品質で、しかも 10 分の 1 の時間で実行できるようになりました。
1 年後には、誰もが引用する生産性の数値を超えた、真の成果が表れます。その能力は相乗効果を生み、組織全体へと広がっていきます。あるプロセスを解決した方法が、次のチームがそれを基に構築するための出発点となり、組織は業務そのものを改善できるようになります。
成功する企業の条件
長年のこの業界での経験から、断定的な予測は控えるようにしています。しかし、Google 社内での経験や、私のチームが世界中で協力している数百ものお客様の状況を踏まえると、変革がもたらす可能性と、それが競争優位性にもたらす価値を確信しています。持続的な優位性を獲得できるのは、最も速く学習する企業です。定型業務をエージェントに任せることで、好奇心旺盛かつ謙虚な行動志向の従業員が、最も重要な課題に時間を費やせるようにする企業です。これらの企業に共通しているのは、お客様にとって具体的な成果、業務の遂行方法における実際のメリット、そしてその過程で構築される能力に焦点を当てていることです。
意味のある目標を選び、データを準備し、小規模なチームで構築、失敗、迅速な学習、進歩のサイクルを繰り返してください。ここで培った直感を全社的に活用することが、エージェント型 AI の時代の成功に不可欠となるでしょう。
テクノロジー、データ、人間の専門知識、市場知識を活かして絶え間なく構築を続ける企業が、学習曲線を最も速く上昇し、他社の追随を許さない存在となるでしょう。
※この投稿は米国時間 2026 年 6 月 18 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
-Google Cloud、バイス プレジデント兼 CTO Will Grannis



