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システム

カスタム シリコンの新たな時代に向けたチップレット イノベーション エコシステム

2022年3月14日
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Google Cloud Japan Team

※この投稿は米国時間 2022 年 3 月 3 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。

従来のムーアの法則による進歩が減速するにつれ、パフォーマンスと効率性の継続的な向上を目指して、カスタムチップが注目されるようになりました。Google の Tensor Processing Units(TPU)や Video Coding Units(VCU)などのイノベーションは、機械学習や動画配信サービスに対する需要の高まりに持続的に対応するうえで非常に重要であり、お客様やユーザーの新たなニーズに応えるカスタムチップのさらなる作成に期待が寄せられています。

しかし、カスタムチップの製造は複雑でコストがかかります。とりわけ、半導体産業は重要な課題に直面しています。世代(テクノロジー ノード)が進むごとに、得られるメリットは減少傾向にあり、チップの製造コスト(半導体マスクのコストなど)がメリットを上回ることも多くあります。その一例として、数十年にわたる改良の末、Google の TPU に搭載されている SRAM メモリのビットあたりのコストは、最近の世代から新しいテクノロジー ノードになるにつれて上昇し始めました。こうした課題に対応するため、半導体業界では巨大なモノリシック チップからの移行を始めています。その代わりに、チップの設計者は、複数の小さなチップレットを 1 つのパッケージに編成する別のアプローチを採用しています。

チップレットには、いくつかのメリットがあります。ダイサイズの縮小によって、利益向上とコスト削減を実現しながら、チップレットを接続してパッケージ化することで、大きなモノリシック チップと同じような性能が得られます。異なる「構成要素」であるチップレットをうまく組み合わせることで、さまざまな使用モデルに対してカスタマイズされたソリューションを迅速に開発できます。さらに、それぞれの IP ブロックは、その機能に最適な異なる製造技術によって製造されます。例えば、入力 / 出力(I/O)ブロックは旧式の製造技術で製造し、パフォーマンス重視のコンピューティング ブロックは最新世代の技術で構築できるのです。このような異種技術をマッチさせることで、すべての IP ポートフォリオを最先端テクノロジー ノードに移行する際に生じる長時間の遅延を回避できます。

しかし、チップレットにもいくつかの課題があります。パッケージ化とテストに関連する複雑さやコストの増加、複数のチップレットに分割して設計することによる電源、面積、パフォーマンスのオーバーヘッドの発生の可能性、サプライ チェーンの複雑化などです。さらに、上位レベルのシステム スタック(オペレーティング システムやスケジューリング サブシステムなど)は、追加された異種技術に最適化するために「チップレット対応」になる必要があるかもしれません。

チップレットの可能性を実現し課題に対処するためには、これまで効果が実証されてきたいくつかの基本原則に従った、より広範なチップレット エコシステムが必要だと考えています。

  • エコシステムはオープンである必要があります。チップレット IP は、異なるベンダーや半導体製造工場間で相互運用が可能で、複数のプロセスノード(成熟したものから最先端のものまで)やパッケージ化技術に対応する必要があります。このエコシステムでは、カスタマイズによって生じる摩擦を軽減して、お客様の多様なユースケースに対応し、業界の幅広いエンゲージメントと貢献をサポートする必要があります。

  • エコシステムによって、お客様の積極的なユースケースに対応するため、完全なエンドツーエンド仕様のサポートが求められます。これにはインターフェース、プロトコル、パッケージ化、テスト、製造全体における標準化を含みます。たとえば、アクセラレータのユースケースの場合、物理層(チップレットのダイ間接続インターフェース)では、ナノ秒のレイテンシと 1 ビットあたり 1 pJ 未満のエネルギー効率で Tbps/mm の帯域密度をサポートする必要があります。同様に、3D 統合を含む優れた費用対効果を発揮するパッケージ化オプションにも対応する必要があります。さらに、プロトコル スタックでは、PCIe、CXL、Arm® AMBA®、およびその他の拡張可能なカスタム ソリューションへのサポートが求められています。

  • エコシステムは、物理的なフォーム ファクタだけでなく、セキュリティ、管理性、信頼性など、システムレベルの観点からの対応が求められます。検出、構成、モニタリング、帯域外の管理には、共通のインターフェースが必要です。チップレットでは、ルート オブ トラストとの適切な暗号鍵交換によって、起動するたびに 100% の信頼で確立されなければなりません。品質と信頼性の観点から、その場(システム内)のテストと修理可能性は重要です。システムやパッケージの統合を容易にするために、標準化された物理的なフットプリント(ダイ面積の標準化、共通の命名規則、インターポーザーの選択、互換電源)は、共通の機械的寸法を実現するために重要です。

Google は、オープンかつ標準ベースのエコシステムにおいて長い歴史があり、類似するチップレット向けのオープンなエコシステムの育成に励んでおります。Open High Bandwidth Interface(Open HBI)のダイ間接続インターフェース標準におけるリーダーシップや、相互運用可能なチップレットの階層化アーキテクチャを定義する OpenChiplet 仕様の公開を通じてオープン標準に投資してきました。本日 Google は、他の業界リーダーと協力して、半導体業界のマルチベンダーの相互運用が可能なチップレット市場にサービスを提供する、Universal Chiplet Interconnect Express(UCIe)への参加をお知らせできることをうれしく思います。

半導体産業は重大な転換期を迎えています。これは、1970 年代に構成要素としてマイクロプロセッサが発売されて以来の、大きな影響を与える変化といえます。この過渡期を乗り切るには、半導体製造、組み立て、テストベンダー、IP 開発、シリコン エンジニアリング、クラウドやインフラストラクチャ プロバイダといった、あらゆる分野のリーダーがエンドツーエンドの標準に向けて協力し、活気あふれるチップレット エコシステムを構築することが必要です。Google は、世界で最も困難な問題を解決するための、特化した持続可能なコンピューティングの新時代の基盤を構築するこの取り組みへの協力を求め、コミュニティに参加を呼びかけています。


このブログに情報を提供してくれた Andy He、Rohit Mittal、Mudasir Ahmad、Igor Arsovski、Amber Huffman、Ben Kerr、David Patterson、Ravi Rajwar、Nick Stevens-Yu、Amin Vahdat、Maruthy Vedam に感謝します(敬称略)。

Arm および AMBA は、Arm Limited(またはその子会社)の米国およびその他の国における登録商標です。


- Google バイス プレジデント(テクニカル フェロー)Parthasarathy Ranganathan
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