Climate Cardinals: AI による翻訳で気候変動情報の格差を解消する
Google Cloud Japan Team
危機が起きていることを知らなければ、危機を食い止めることはできない
※この投稿は米国時間 2023 年 6 月 7 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
編集者注: イランの家族を訪ねる旅で、Sophia Kianni 氏は憂慮すべき実態に直面しました。気候変動による不釣り合いな影響に直面し、中東の気温が世界平均の 2 倍の速さで上昇しているにもかかわらず、彼女の親族は世界の環境問題についてほとんど何も知りませんでした。科学的な文献がペルシア語で容易に入手できないことに気づいた彼女は、重要なドキュメントを自ら翻訳し、親族が気候変動の脅威を理解し、活動の機会を得られるようにしました。このことがきっかけで、彼女は英語を話さない人たちも気候に関する資料を入手しやすくするために、Climate Cardinals を設立しました。このブログ投稿では、Kianni 氏と Climate Cardinals の同僚の Hikaru Hayakawa 氏が、アクセスしやすい気候変動教育の重要性と、気候変動との闘いにおける AI テクノロジーによるエンパワーメントの可能性について話します。
危機が起きていることを知らなければ、危機を食い止めることはできない
気候変動対策には教育が重要ですが、何十億人もの人をこの会話から遠ざけている障壁があります。それは言語です。あまりにも長い間、国際的な気候変動の運動は、英語を話せない人にとってアクセスしにくいものでした。該当する人は世界の人口の 80% にものぼります。
英語を話せる人は 5 人に 1 人しかいないのに、科学出版物の 4 分の 3 以上が英語のみで発表されています。気候変動の影響を軽減する方法の最も包括的な評価を含む「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書でさえ、国連の 6 つの公用語でしか入手できません。これではまだ世界の人口の約半分が除外されたままです。
私たちはこれを変える機会を得ました。Google Cloud チームのサポートを受けながら Translation Hub を使い始めて最初の 3 か月で、運営開始後 2 年間で行ったのと同じ量の翻訳を提供することができました。これには IPCC 報告書の概要の作成と 25 言語以上への翻訳も含まれています。
気候変動は私たちの世代における最大の問題です。ですから、自分たちの地域社会を破壊している災害について理解するために必要なリソースが人々に提供される必要があります。Climate Cardinals では、この重要な情報を気候変動の影響を最も受けているコミュニティに伝える手段として、翻訳に着目しています。
気候変動に立ち向かうために、すべての場所にいるすべての人を動員する
Climate Cardinals はパンデミック中に立ち上げられ、この活動のために初日で直ちに 1,000 人以上のボランティアを獲得しました。発足の段階からまさに若者主導の活動を行っています。当組織のボランティアの平均年齢は 16 歳で、若者の採用や執行役員の拡充をソーシャル メディアで大々的に呼びかけています。
ボランティアの熱意が、当組織の気候変動に対するミッションを前進させているのです。設立後数年間で、気候用語集や国連文書など、重要な気候に関する情報を 50 万ワード以上、40 か国語以上に翻訳できました。また、編集や校正において国連機関および Respond Crisis Translation や国境なき翻訳者団のようなプロの翻訳ネットワークと提携することで、翻訳の正確性と信頼性を確保することができました。
しかし、課題もありました。作業量は学生ボランティアの多忙なスケジュールに左右されるため、請け負える翻訳作業を選別する必要がありました。また、私たち自身も学生であるため、何千人ものボランティアの高い関心とワークフローを管理することは、他の作業をこなしながら組織のアプローチを臨機応変に調整しなければならないことを意味しました。ですから、運営 3 年目の半ばに Google Cloud チームから連絡があったとき、力を合わせることで当組織の取り組みを向上させ、より大きな影響を与えることができる可能性を即座に認識しました。
AI で気候変動対策を加速させる
当初、Google Cloud チームから社会貢献活動の一環として当組織に協力するという申し出がありました。この申し出は、Google Cloud の EMEA マーケティング チームの多言語グループによるもので、GoogleServe プログラムの一環として、ボランティアで協力してくれるというものでした。会話が始まって間もなく、Google Cloud チームは Google Cloud の AI ツールを使った自動化の可能性を感じ、新しくリリースされた Translation Hub プロダクトの内部トライアルを開始しました。
Translation Hub は、Google Cloud の AI 搭載のセルフサービス型翻訳プラットフォームですが、これはまさに大きな変革をもたらしました。
Translation Hub は、AI を使用してドキュメントを自動翻訳し、その結果を人間の翻訳者で補強および編集できます。Translation Hub は、デザイン要素を含む PDF を処理し、同じデザインの翻訳ドキュメントを返すことができます。また、デザイン要素内のテキストを翻訳することも可能です。最初は、Google Cloud のチームと緊密に連携して、このソリューションを当組織のプロセスに統合させました。新しい翻訳の仕事がくると、Google Cloud チームに送信し、Translation Hub で翻訳してもらいました。完成した翻訳は Google Cloud チームだけでなくボランティアにも返され、校正、編集、推敲が行われました。
作業の速度はすぐに変わりました。Translation Hub を利用してから最初の 3 か月間で、入手できる資料に大きく偏りがある英語圏以外の人たちのために、重要な気候情報を 50 万ワード翻訳しました。しかし、これはほんの序章にすぎませんでした。
Translation Hub で気候変動に関する働きかけを増幅させる
現在では、Translation Hub を組織内で使いこなしています。Translation Hub は翻訳パイプラインに欠かせない存在になりました。その結果、これまで以上に生産性が向上しました。作業量の問題から解放され、より大規模で野心的なプロジェクトに挑戦できるようになりました。その中には、以前なら請け負うことが難しかった 200 ページにもおよぶドキュメントも含まれています。
たとえば、Yale Climate Connections による米国内のラテン系コミュニティへの働きかけを強化するために約 10 万ワードにおよぶ気候情報をスペイン語に翻訳しました。また、さまざまなグローバル組織が若者への働きかけを強化できるように、ドキュメントを 20 以上の言語に翻訳しました。これらの組織には、国連持続可能な開発ソリューション ネットワーク、Climate Mental Health Network、国連協会 Climate and Oceans Youth Council、Environmental Justice Foundation、国連子どもの権利委員会が含まれます。
多忙なボランティアが AI に助けられるのは本当にありがたいことですし、提携しているパートナーたちも同じ考えです。Yale Climate Connections 編集長の Sara Peach 氏は次のように語ります。「Climate Cardinals とのパートナーシップにより、重要な気象および気候変動情報をスペイン語圏のオーディエンスに伝える能力が格段に向上しました。」
Translation Hub のおかげで、当組織のチームは翻訳依頼の管理や校正者へのタスクの割り当てが非常に簡単になりました。プロセスがより合理的になり、ボランティアの時間と作業量を意識した効率的な活動ができるようになりました。彼らはボランティアと学校や他の仕事(他の形での気候変動対策活動など)をうまく両立させることができます。

気候情報を公共の利益にする
言葉の壁を取り除き、気候変動に関する重要な情報を広める一方、翻訳自体がゴールではないことを忘れてはいけません。私たちの仕事は、世界中の人たちにエンパワーメントと教育を行える可能性があることに意味があるのです。気候変動は私たち全員に影響を与えますが、会話から取り残されがちなコミュニティには不釣り合いな影響を与えます。だからこそ、気候情報を言語やバックグラウンドに関係なく、誰もがアクセスできる公共の利益とすることが極めて重要なのです。それを実現するために、AI が役立つと考えています。
AI の力があれば、気候変動情報における言葉の壁が過去のものとなるような世界を実現できます。これは、Google Cloud の技術的な専門知識なしにはできないことです。そして Google Cloud は、Climate Cardinals の情熱、コミュニティへの関与、草の根的なつながりなしにはこれを実現できませんでした。それこそが、この共同プロジェクトを本当に独特なものにしています。国際的な、世代を超えた、多言語による、公共セクターと民間セクターのコラボレーションです。
共同で、気候変動に関する知識をグローバルな舞台に提供し、理解を深め、より持続可能な未来に向けた行動を促すことができる技術ソリューションを提供しています。これが気候変動に取り組む革新的な方法を探している他の青年組織のモデルとなることを願っています。
- Climate Cardinals パートナーシップ ディレクター Hikaru Hayakawa 氏