Leaf Space、Google Cloud で次世代衛星を実現
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2021 年 4 月 10 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
宇宙業界で革命が起こっています。ロケット打ち上げ費用の低下、構成要素の小型化、デジタル化が進んだことで、この 60 年間に打ち上げられた数を上回る 15,000 基を超える人工衛星が今後の 10 年間で打ち上げられます1。これらの人工衛星は、地球の天候と環境の調査、離れた場所での人とものの通信、重要インフラストラクチャのモニタリング、携帯電話トラフィックの基幹回線、その他の重要作業の実施に活用されます。そして、すべてが計画どおりに進んだ場合、Google Cloud で動作する Leaf Space の「Ground Station as a Service」(サービスとしての地上局)が役に立ちます。
これら新しい衛星の大部分は、低地球軌道(LEO)に打ち上げられます。地表から約 36,000 km 離れた静止(GEO)軌道上で運用される従来のテレビ放送衛星とは異なり、LEO 衛星は通常で高度 500~2,000 km と、より地球に近い位置で運用されます。このため、通信用途では、信号が地上と衛星を往復するのにかかる時間(レイテンシ)を短縮でき、衛星が送信できる 1 平方キロメートルあたりのビット数(容量密度)を高めることができます。地球観測衛星では、衛星が撮影する画像またはその他の観測対象の分解能を高めることができます。LEO 衛星は、従来の衛星より安く早く製造し、打ち上げることができます。
ただし、LEO 衛星の利用にも 1 つ欠点があります。空中に固定されているように見える GEO 衛星と違い、LEO 衛星は地表から見て相対的に移動します。そのため、1 基の地上アンテナが特定の LEO 衛星を常に視野に入れておくことはできません。地上と衛星との常時接続を維持しておくには、世界各地に分散した複数のアンテナが必要です。宇宙と地上の通信の中断が許容される場合はアンテナの数を減らせますが、その場合でも、複数のアンテナを残すことが望まれます。
このことは、新しい衛星運用事業者にとって問題となります。衛星を 1 基打ち上げるだけでも世界各地に設置したアンテナのネットワークを構築する必要がある一方で、衛星が上空にない間、これらのアンテナがほとんどの時間アイドル状態になります。
Ground Station as a Service
そこで、Leaf Space のような企業が登場しました。2014 年の設立以来、Leaf Space は、アンテナ、処理装置、ソフトウェアで構成された世界規模のインフラストラクチャを衛星運用事業者にサービスとして提供することで、衛星の利用を促進してきました。衛星運用事業者は、Leaf Space の地上ネットワークを時間単位で借りて、衛星が視野に入ったときに、衛星と地上間の通信に Leaf Space のアンテナなどの設備を使用できます。また、予約システムを通じて 1 基のアンテナを多くの衛星、さらには衛星運用事業者で(1 日を通して複数チームが 1 つの会議室を予約するように)共有できるため、より効率良くリソースを活用できることで運用費用を削減できます。このモデルは、Ground Station as a Service(GSaaS)と呼ばれています。現在、Leaf Space はヨーロッパとニュージーランドに 8 基の GSaaS 局で構成されるネットワークを運営しており、今後はこれを世界各地に拡大していく予定です。
Google Cloud で動作する Leaf Space のソフトウェア
Leaf Space の GSaaS ソリューションの頭脳となるのが Network Cloud Engine(NCE)です。
NCE は、衛星ミッションに関連する制約条件の取り込み、衛星とアンテナ間の交信スケジュールの自動最適化、地上局の信号処理装置を自動構成することによるネットワーク動作のオーケストレーション、衛星ミッション コントロール センター運用チームによる制御と状況把握の実現によって、複数の衛星ミッションを管理しています。
NCE が地上局のネットワーク運用全体を統括する一方で、ベースバンド処理(RF 信号からビットやバイトを抽出するための処理)にはエッジリソースが活用されます。衛星からそのミッション コントロール センターへのデータの流れ(またはその逆の流れ)については、以下の図をご覧ください。


NCE はすべて Google Cloud で動作します。Google Cloud のスタートアップ プログラムに参加している Leaf Space が Google Cloud を選んだ理由は、サービスの豊富さと成熟度、世界各地にリージョンが存在すること、高速ネットワーク バックボーンがあることです。NCE は、ネットワークの接続、データの転送、処理、ソフトウェアの制御とオーケストレーションに Google Cloud のサービスを利用しています。これらのサービスにより、Leaf Space のエンジニアリング チームは、これらのサービスをゼロから導入する場合に比べて開発期間を数か月短縮し、商業運転を開始して、毎週アップグレードや新機能を継続的に展開できるようになりました。
ソリューション設計時の重要決定事項とパフォーマンス指標
Leaf Space は、NCE の設計にあたり、通常の地上局基幹ネットワークの主要構成要素を仮想化し、あらゆる人間参加型のプロセスを回避することによって安全性、信頼性、スケーラビリティ、保守性、効率性に優れたシステムを確立するため、Google Cloud のサービスを活用しました。
NCE は、複数の要素から構成されています。スケジュール設定、地上局管制、データ転送、ルーティング、API などの主要な構成要素は、Google Kubernetes Engine(GKE)上に構築されています。その他の特定タスクは、Cloud Functions、Cloud Load Balancing、Compute Engine を介して処理されます。
Leaf Space は、Google Cloud に NCE を構築することにより、以下の目的を果たすことができました。
Cloud Build とソース リポジトリ経由での自動継続デプロイの活用
死活監視機能付きのマルチサーバー分散システムの使用によるゼロ ダウンタイムの実現
高負荷発生時の迅速な自動スケーリングによるトラフィックの負荷分散
低負荷サービスに対するコンピューティング リソースの浪費の抑制
オペレーティング システム保守業務の解消による、開発業務へのさらなるリソース投入
Leaf Space は、Google Cloud のサービスを活用し、コード管理のためのあらゆる自動ツールを利用することで、新機能の公開に要する時間を数週間から数日に短縮できました。新しいタグが push されたら、必ずコードが検証され、Docker コンテナが作成されて、本番環境で GKE に設定されます。このアプローチの主な利点として、チームがダウンタイムなしで新機能をデプロイできることがあります。これは、厳しい SLA の下で稼働しなければならないシステムにとって大きなメリットとなります。
Leaf Space のソリューションでは、Pub/Sub や Cloud Storage などの他のサービスと緊密に統合された Google のプロダクトである Cloud Functions と Kubernetes Engine が利用されています。同社のソリューションでは、ログの処理時間が削減され、GSaaS ネットワークをモニタリングするためのアラートを作成でき、衛星から受信したデータの視覚的な分析を行えます。
Leaf Space は、元来スケーラブルなソリューションにより、新しい地上局と新規顧客を本番環境に簡単に追加し、需要の急上昇にも容易に対応できます。


クラウドを基盤とした GSaaS の使い勝手
Leaf Space は、GKE、スケジューラ、Redis Cloud Memory Store、Pub/Sub、CloudSQL などの Google Cloud サービスを利用して GSaaS ソリューションを構築し、お客様から「簡単でわかりやすい」との評価をいただいています。


このシステムには、軌道パラメータ、打ち上げ日、ベースバンド構成など、ロケットの詳細情報を提供いただくだけでアクセスできます。NCE がユーザー アカウントを作成して、ユーザーの周波数帯利用免許など、規制上の該当要件への対応を含め、GSaaS ネットワークを構成します。自動スケジューリング サービスが必要とするミッションの制約条件を API で設定すると、NCE が衛星とアンテナ ネットワーク間の通信に最適なスケジュールを作成します。
衛星と地上間のリンクを確立するとき、NCE は、エッジ ベースバンド処理チェーンを起動し、動作中の地上局とユーザー インターフェース間のデータ ルーティングを有効にします。受信、復調、復号されたパケットはすべて、ユーザーまたは衛星にリアルタイムで直接転送されます。

地上に送信されたデータの利用
データがユーザーに届くと、お客様は、データをさらに処理して、データから有用な情報を抽出できます。たとえば、GPS 掩蔽センサーを利用した気象のモニタリング、SAR(合成間口レーダー)を利用した船舶の検知、光学画像を利用した森林減少傾向分析を行えます。これらの分析はすべて、Google Cloud のデータ分析サービス、人工知能サービス、機械学習サービスを使用して、クラウド環境で直接行えます。その後、最終的なサービスを簡単に保存して、最終顧客に配布できます。
つまり、Google Cloud は、Leaf Space が宇宙エコシステムに GSaaS サービスを効率良く提供し、宇宙経済の発展への扉をより大きく開くための手段を提供しているのです。データの取得段階(GSaaS を経由)からデータの分析と配信まで、処理チェーン全体をクラウド内に置くことで、配信のレイテンシを大幅に低減でき、効率的なデータの配信が可能となります。Leaf Space と Google Cloud は、ともに次世代の LEO 衛星の実現を目指します。
Google Cloud がスタートアップをどのように支援できるかの詳細については、こちらのスタートアップのページをご覧いただくか、Google のスタートアップ プログラムに申請のうえ、Google の月次スタートアップ ニュースレターに登録して、Google のコミュニティ活動、デジタル イベント、スペシャル オファーなどをご確認ください。
このソリューションを開発し、本ブログ投稿にご協力いただいた Leaf Space シニア事業開発者の Jai Dialani 氏と Leaf Space チームの方々に感謝申し上げます。
1. Euroconsult の調査: https://www.euroconsult-ec.com/research/WS319_free_extract_2019.pdf
-Leaf Space 最高戦略責任者 Giovanni Pandolfi Bortoletto
-アナリティクス スペシャリスト兼 Cloud カスタマー エンジニア Vadim Astakhov