病理のデジタル化とがんとの闘い
Google Cloud Japan Team
※この投稿は米国時間 2022 年 12 月 13 日に、Google Cloud blog に投稿されたものの抄訳です。
大切な人ががんの診断を受けたことのある人は、誰もが最善の治療をできるだけ早期に受けさせてあげることがどれだけ重要かを知っています。がんは死因の上位に入っており、世界で毎年 1,000 万人近くの人が、がんで死亡しています。ただし、早期に発見され、適切な治療を受けた場合は、多くが回復できています。Google はこの分野における長年の取り組みの中で、公共部門や民間部門の大手組織とのパートナーシップを通じて、がんと闘うためのテクノロジーやツールを提供しています。
2018 年に Archives of Pathology & Laboratory Medicine に投稿した論文(審査済み)では、匿名の患者から採取したリンパ節の細胞の、何ギガピクセルもある病理スライドに基づいて、ディープ ラーニングで乳がん診断の精度を向上した取り組みを紹介しました。また、2019 年には、3D の体積測定モデルと人工知能(AI)の先進技術を利用して肺がんの予測を向上した取り組みを Nature Medicine に投稿しました。さらに 2021 年には、AI モデルが乳がんの診断にかかる時間を短縮し、評価のばらつきを少なくして、患者のエクスペリエンスを向上できるかどうかを調査した新しい臨床調査研究を発表しました。
これは、難易度の高い重要な取り組みです。また、がんは複雑で多様なため、正確な AI モデルを構築するには、匿名化された病理スライドの画像などの、大規模で多様性があり、品質の良いデータセットが必要です。デジタル化された病理スライドは、機械学習(ML)モデルと AI モデルの構築において重要な役割を担い、研究者はこのようなスライドを利用することで、さまざまな診断方法の機能のテストや比較を行えるようになり、さらには、多様な患者層を反映した、さまざまな種類のがんを含むモデルを構築できるようになります。
政府の病理データセットに対する Google の取り組み
Google は、Naval Medical Center San Diego(NMCSD)、Marine Corps Base Camp Pendleton、U.S. Navy Medicine Readiness and Training Command Guam(U.S. NMRTC Guam)と連携して、病理スライドを手動でクリーニング、カタログ化、スキャンし、効果的にデジタル化して、がん研究で利用できるようにしました。この取り組みはすべて、政府機関と企業の共同研究の一般的な枠組みである Cooperative Research and Development Agreement(CRADA)を通して行われました。
Google は、これらのスライドのデジタル化、研究への適用の費用を担い、NMCSD(および国防総省のその他の機関)との CRADA からは、共同で行われたあらゆる発明について政府との共同所有権が提供されました。データがデジタル化されると、NMCSD にはクラウド ストレージ料金を Google(またはその他のクラウド プロバイダ)に支払う必要があったのですが、それらの費用をGoogle が担ったので、主に政府と研究コミュニティ全体がこの重要な取り組みのメリットを享受しました(今もそうです)。
NMCSD とのすべての取り組み、および Google のクラウド内のデータが関連するあらゆるプロジェクトは、患者のプライバシーとセキュリティを確保するための厳格な管理下にあることも注目に値します。Google は匿名化された患者データを強力な暗号化を用いて使用します。Google は人のデータはその人自身のものであると考えます。その人によって明示的に同意されていること以外の目的でその人のデータを使用することはできません。また使用することはありません(これらの原則については、Google のプライバシー リソース センターでご確認いただけます)。
Joint Pathology Center のバイオリポジトリに対する Google の取り組み
1862 年に設立された米軍病理学研究所(AFIP)には、人の病理組織標本の世界最大のコレクションが蓄積されています。AFIP の標本は、1918 年のインフルエンザ ウイルスのゲノム解読といった公衆衛生におけるさまざまな課題の解決で重要な役割を果たしました。2005 年、AFIP のバイオリポジトリは、新たに創立された Joint Pathology Center(JPC)に移管されました。移管時に、米国国防総省(DoD)は、U.S. Institute of Medicine(現在の National Academy of Medicine(全米医学アカデミー))に、バイオリポジトリの運営に関する助言を求めました。その結果として行われた調査から、アーカイブを速やかにデジタル化して、リポジトリが退化し続けないようにし、今後長年にわたって研究者がリポジトリを利用できるようにすることが推奨されました。
2020 年 3 月、国防長官の下に組織された業界専門家グループの Defense Innovation Board は、レポートを作成し、JPC に向けて完全にデジタル化されたスライドのリポジトリを作成する緊急性を訴え、この目標を達成するための推奨事項を提言しました。その後、DoD Joint AI Center と Defense Innovation Unit の別の 2 つの組織が、業界の支援を求める要請を出しました。これらの組織は、アルゴリズムの構築とスライドのデジタル化を請け負うことができるベンダーを特定して契約を結ぶために、公開購入プロセスを使用して、全米を調査しました。最終的に Google が選択され、以前 NMCSD と NMRTC Guam とで共同開発した実証済みの技術を使用して、4 種類のがんの検出と大規模なデジタル化を行うアルゴリズムを開発することになりました。
ところが、JPC は独自のプロセスを進めようとし、デジタル化を手助けするベンダーの公募から始めようとしましたが、2020 年 8 月に非競争、非公開の契約を進めることにしました。Google が、このように重要なプロジェクトの契約に対して競い合う機会がもらえなかったことに落胆したのは事実ですが、現在に至るまで、このプロジェクトや他のデジタル化の取り組みを支援し、協力していく姿勢に変わりはありません。
数十億の人々が健康的な生活を送れるように支援
Google は引き続き前向きに、リポジトリがデジタル化され、その可能性を最大限に引き出すことができ、研究者や臨床医が使用できるようになれば、数千もの病気(がんを含め)の診断と治療が進歩して、軍人を初めとする、多くのアメリカ人の生命を救えるだろうと考えています。また、迅速かつ効果的にデジタル化されれば、リポジトリは納税者からの税金の効果的な使途となり、米国の医療システムに膨大な恩恵を還元することになるでしょう。Google にはそれをサポートする準備が整っています。
Google は、人々の健康的な生活を実現することを目的としたプロジェクトを数多くサポートしています。多くの公共組織と民間組織とのパートナーシップを通じてさまざまな取り組みを行い、軍人、その家族、世界中のコミュニティのために早期の診断と治療の実現を民主化してきたことを誇らしく思っています。